第8話「大惨事悪魔会談・白い敵③」
「リリンとユニの二人ならシェキナを攻略できる可能性はある……と思うよ。頑張って強くなって、白い敵の完全撃破を目指しておくれ」
「分かった!魔法でブチ転がした後で裸に剥いて、冷たい水をぶっかけつつ写真を撮って脅して、全財産を奪い取ってからもう一度念入りにブチ転がして、完全に心をへし折った後でレジェに売る!!十等級奴隷として強制労働を強いる!鳥以下の人生を送らせる!!」
「……。誰がそこまでやれって言ったんだい?このお馬鹿!」
平均的な興奮顔のリリンは、ちょっと荒々しく鼻を鳴らしながら「容赦とかしない!セフィナを誘拐した罪は重い。レジェにお願いして、一番ひどい処刑方法を受けさせてやる!」とか言い出した。
もはや、取り返しのつかない事になりそうな気しかしない。
これには流石にワルトも苦言をこぼし、「ははは、ホロビノルーレットとかマジで勘弁だねぇ」と苦笑している。
……いや、待て。今の何かがおかしかったぞ?
一番酷い処刑方法がペットのお仕置きって、どういう事だよッ!?
ちょっと気になったので聞いてみたら、まともに処刑方法を考えるのすら面倒だとレジェリクエ女王が思った時に適応されるらしい。
なお、『お薬治験』とか『D・S・Dフルコース』とか『メナファスとボディラン』とかが含まれている全20種類だとか?
これは間違いなく、最上位の処刑方法だ!
「さて、いよいよ白い敵本人についての考察に入ってゆく。いいかな?」
「もちろんいい。むしろ、その話をするために電話をしているくらい」
「おう。前の考察ではワルトと同じ指導聖母の誰かが白い敵だって話だったよな?怪しい人物は搾り込めたのか?」
「もちろんだよ。僕と考察した後にキミらは三人組の襲撃を受けた、そして三人の身柄は僕が預かっている。で、しっかり拷も……調査をしてみた所、気になる事がいくつか出てきた訳だ」
「拷問したんだな。聖母成分どこ行った?」
「いやいや、僕が出来る奴なんて所詮真似ごとで二級品さ。レジェやカミナに比べればねぇー」
「優しくスポイトに、ぐるぐるげっげ―の刑……。……で、結論はどうなったんだ?」
どうやらワルトは、一人でしっかり調査を進めてくれていたらしい。
そしてしっかり情報を手に入れているっぽい。
現状、俺とリリンは、白い敵についての情報をまったく持っていない。
しいて言えば、『過去の俺を知っている』事と、『ゆにクラブカード(黒)』を所持しているのが確定した事くらいか?
白い敵の認識阻害は完璧で、油断したら眼つぶしを喰らうくらいに厳重だった。
さすが聖母、眩しすぎるぜ!
「もともと怪しんでいた所に、セフィナが使用したという悪喰=イーターなる謎過ぎる魔法のせいで、悪喰の関与が確定的となった。それが決定打となり、疑わしい人物が浮かび上がっている」
「え?」
「ということは、敵の正体が判明したのか?」
「……おそらくね。キミらを狙う『白い敵』、その正体は……」
「そ、その正体は……?」
「ごくり。」
「準指導聖母・悪逆。……闘技場の管理人を務める口の悪い司会者、ヤジリだ!」
な、なんだってぇえええええええええ!?
犯人、ヤジリさんかよッ!?!?
俺もリリンも闘技大会に参加していた訳で、ヤジリさんとはしっかり顔を合わせているし、会話もしている。
つーか、かなり切れのある暴言を吐かれた気もするが……なるほど、妙に俺に絡んできたのは犯人だったからか。
これにはリリンも驚いているようで、平均的な表情が崩れかかっている。
それにしても、ヤジリさんが俺の過去を知る重要人物。
つまり、幼馴染という可能性すら出てくるわけだ。
……美人でラッキーとちょっとだけ思ったのは、リリンに内緒にしておこう。
「一応確認しておくけどさ、ヤジリさんで間違いないんだな?」
「確定ではないねぇ。でも、状況証拠的には一致する項目が多いんだ」
「状況証拠?」
「まず、『敵として確定している悪喰と仲が良い』という点。……指導聖母の会議でも、ノウィン様の話を聞かずに二人で雑談している事が多いんだよ。はは!」
「仕事しろよ、指導聖母・悪逆!」
「二つ目に、『ヤジリは英雄ユルドルードを探していた』。実は、ヤジリが大聖母ノウィン様に、ユルドルードの行方について質問をしているのを見た事があるんだ。だから英雄に興味があるのは確定さ」
「親父を探していた?なるほど、昔の俺を知っているのなら親父とも顔見知りのはずだしな」
「三つ目に、『キミらの襲撃がこの街で行われたという事』。預かった三人の冒険者を尋問した結果、闘技場があるこの街にキミらを誘導したんだってさ。ここが敵の本拠地だとするのならば納得だね」
「俺達は知らない内に敵の本拠地に入り込み、しかも、敵の前で手の内を披露していたと。流石はワルトと同じ指導聖母。策謀が凄すぎる!!」
なんてこった!
敵の目の前でご丁寧に技を披露するとか、馬鹿すぎるにも程があるだろッ!!
俺はグラムを解放させちゃったし、リリンだって魔王の右腕を披露してしまっている。
そして、白い敵は情報さえあれば、どんなものにも対応できる神殺し、神栄虚空・シェキナを持っている。
なるほど、そりゃあ、勝てねぇはずだな!
これは憶測だが、メナファスは俺とリリンを勝たせようとしていたはずだ。
登場のタイミング的にも、それが一番しっくりくる。
なにせ、メナファスが登場したのは、白い敵が出現するほんの少し前。
恐らく白い敵の接近に気が付いたメナファスは、作戦を変更。
敵の懐に潜り込むために、一時的に俺達を裏切ったんだろう。
「参ったな。俺もリリンも闘技場で本気で戦っちゃたんだよな。グラムも覚醒させたしさ」
「グラムの覚醒か。そういえばそんな事を言っていたねぇ。ちょっと詳しく聞いても良いかい?」
「あぁ、そん時に戦っていたのは『エル』っていう青年でな。神殺しを持っていたんだよ。で、何故か戦っている内にグラムの覚醒の仕方を思い出したんだ」
「一番大事な所がふわっとしてるんだけど。まぁいい、続けて」
「結局、戦いは引き分け……あ!」
「どうしたんだい?」
「いや、その時にエルが呟いた言葉を思い出してな……。言ってなかったが、覚醒グラムと覚醒ヴァジュラが激突した瞬間に、謎の球体が割り込んできたんだ」
「はぁ?……謎の球体だって?」
「俺の目にはその球体が、グラムとヴァジュラの攻撃を吸収したように見えた。そして……」
「なんだその放っておけない大問題。覚醒神殺しの攻撃を防ぐとかヤバすぎるんだけど」
「それを見たエルが驚いた顔で言ったんだよ。「悪喰=イーターやと……」ってな」
「……。ふぇぇ?」
俺が思い出した新事実を聞いて、ワルトが妙な声を上げた。
なんというか、首を絞められたゲロ鳥みたいな、力の抜ける声だ。
「……え。なにそれ。悪喰=イーターってそんななの?神殺しを食い止めるとか聞いてないんだけど」
「一瞬しか見えなかったが、思い出してみればセフィナの出した奴と似ている気もする……。ただ、闘技場で見た奴はセフィナのより複雑な模様だったけどな」
「なんだよそれ?悪喰=イーターには何種類もあるって事?え。え?」
「混乱させるような事を言ってすまん。だが、これでヤジリさんが白い敵という可能性が強くなったわけだ」
「えっと、何でそう思うんだい?」
「だってそうだろ?セフィナは悪喰=イーターは覚えたばかりだと言っていた。戦った時に錬度不足を感じたしそれは間違いない。で、おそらく闘技場に悪喰も潜んでいたんだろう。もしくは、闘技場を壊されるのを嫌がったヤジリさんが、完全版の悪喰=イーターで止めに入った。どうだ!良い答えだろ!?」
「え。えぇー。ま、まぁ、悪くない答えだね。うん、確かにそう言われてみれば、そうとしか思えない。……奇跡だねぇ、悲劇だねぇ」
奇跡的かはともかく、悲劇である事は間違いない。
そういえば、エルはどうなるんだろうか?
あの時は敵じゃないと判断したが、神殺しを持ってるってだけで、だいぶ不自然だよな?
だとすると、俺の実力を引き出す為にヤジリさんが用意した試験官だったってことか?
だけど、悪喰=イーターを見て驚いていたのが引っ掛かるんだよな。
うーん。少なくとも悪喰=イーターについては知っているって事になるし、重要参考人としておこう。
「そんな訳で、エルも容疑者になるかもしれない。覚えておいてくれ」
「あぁ、分かった。分かったんだが……覚醒神殺しが3つもある上に、神殺しの攻撃を止められる魔法が一つとか、ちょ~と僕の戦略が破綻し掛けてるねぇ」
「……愚痴なら聞いてやるぞ」
「そうかい。じゃ、遠慮なく。……あーもー!悪喰の奴ぅうううう!!この!!この!!」
再び机の脚を蹴る音と、暴言罵倒が聞こえてきた。
今度は本気で蹴りを入れているらしく、ガズッ!ガズッ!っと大変に大悪魔な音がしている。
しばらく掛りそうなので、聞いてるふりをしつつ、リリンと情報の確認をしておこう。
「リリン、白い敵の正体はヤジリさんだって話だぞ?」
「うーん、これはちょと予想外。私は、ヤジリはワルトナの同僚だと知っていた。というか、二人はそこそこ仲が良いはずなので、敵の可能性は低いと思っていた」
「へぇー、ヤジリさんってワルトと仲が良いのか」
「うん。でも、一応警戒はしておくべきだと思って確認している。そして、敵意をまったく感じなかった。だから直ぐにヤジリは違うって思ったのに……」
リリンの鋭い感すらも欺くとは、ヤジリさんの隠蔽能力が凄すぎるんだけど。
俺だってまったく警戒していなかった訳じゃない。
ヤジリさんも含め、周囲にいた全ての人物を疑惑の目で見て確認をしている。
だが、俺もヤジリさんの事を敵だと思わなかった。
暴言は吐かれたし、腹が立ったけどな!
「ワルトナ、ヤジリが本当に敵だというのなら、こちらから襲撃を仕掛けたい。いいよね!」
「ダメに決まってるだろ、このお馬鹿!僕の戦略を破綻させようとするんじゃないよ!!」
「ダメなの?」
「あのね、僕は言ったはずだよ。リリン達から敵に仕掛けるなってね。今まで隠れていた敵が、どうしてこの街で仕掛けて来たのか?そんなの決まってる。絶対に負けないからさ」
「絶対に負けない?でも、さっきは勝ち目があるって」
「それはシェキナだけの話だよ。第一、キミらは白い敵に圧倒されたじゃないか。メナファスが用意してくれた白い敵にとっても予定外すぎるイレギュラー、つまり同じ条件での戦いでね」
「むぅ!!」
「それなのに、万全に準備されている敵の本拠地に乗り込んで行って何ができるって言うんだい?良くて敗北。悪けりゃ瞬殺だ」
確かにその通りだと思う。
白い敵は事あるごとに「予定外だ!」とか言っていたし、あの一戦が最大のチャンスだったのは間違いない。
そして、白い敵は俺達の技を知りつくし、シェキナを使って万全な状態で待ち構えていると。
ヤジリさんに会う事は簡単だ。闘技場に行けばいい。
だが、闘技場に隠された罠が、俺達に決定的な敗北をもたらすだろう。
しかし、うちの頭の中がセフィナとクッキーでいっぱいな大悪魔さんは引き下がろうとしない。
おねだりする様な甘えた声で、ワルトのご機嫌伺いを始めた。
「ワルトナ、ちょっとだけでもダメ?魔法千発くらいにする」
「その千発ってのは、どうせランク9だろ?ダメ」
「深夜でもダメ?あ、闘技大会中に観客席から狙う。これなら当たると思う!」
「うーん確かに当たるねぇ。……観客に」
「こうなったら、もう一回試合に出て事故を装って、背後からブスリ!」
「殺しに行くんじゃないよ!このお馬鹿ッ!!」
「むぅ……だってセフィナがすぐそこにいるのに。……会いたい、会いたいよ……」
リリンは最後に弱々しい声で、本音をこぼした。
そして、それこそが俺達の願い。
どんな結果になったとしても、リリンとセフィナが一緒にいられるようになれば、それでいい。
もし余裕があったのなら、そこに俺も居たい。
さらに、難しいとは思っているが、白い敵とも和解できたら最高だ。
その為なら、俺は……たとえ白い大悪魔にでも魂を売ってやるぜ!!
口には出さない、俺の決意。
これを言ってしまうと、きっとリリンは無理をする。
本当はセフィナを取り戻したくて仕方が無いのに、俺の為にと我慢してしまうのがリリンなのだ。
「白い敵の正体は分かったぜ。それでだ、ワルト。俺達は何をすればいい?」
「まったく、せっかちだねぇ。一度話を整理した後、いよいよユニについての考察と、これから何をするべきなのかの指示を出す。……戦略破綻が作り上げた最高のシナリオをキミ達に伝授しよう」
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「…………。ボク、容疑者にされたんだけど!!」
神は驚きのあまり、つい足に力を入れた。
そして、いい感じのフットチェアーに足がめり込む。
「ヴィッギルオォォォォォォォォォッ!!」




