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第6話「大惨事悪魔会談・白い敵①」

 

「ということで、メナフは僕たち(・・・)を裏切ってませーん。分かったかな?この食べキャラ共め!」

「もふふっふ!」

「おふ。……おう。もちろん分かったぜ!」



 あぁ、本当に良かった。

 どうやら、リリン達の絆は俺が思っている以上に堅く、清らかな人間関係を築いているらしい。

 仲間を信じる清廉無垢な心を持つとは、まさに大陸中から信奉されている伝説のパーティ『聖なる天秤』なだけはある。


 これでメナファスの件は一件落着だ。

 だから、つい気持ち的にゆとりができて、クッキーに手が伸びてしまう。

 リリンの気持ちの良い食いっぷりを見ていると、つられて食べたくなるのだ。


 そんな風に休憩していると、ワルトナが思い出したように警告を発してきた。

 内容は、リリンからメナファスへ連絡してはいけないというものだ。



「いいかい、リリン。メナフは敵の信用を得ようとしている。そんな時にキミから連絡が来てしまうと面倒な事になるのは分かるよね?」

「うん。確かにそうだと思う」


「だから僕を含めて、メナフに電話は禁止だ。まぁ、何らかの手段で僕はメナファスと接触するけど、それなりに時間を必要とするだろう。ここは慎重に行くべきだしね」

「分かった、電話はダメ。うなぎと梅干しとスイカの食べ合わせくらいダメ!」


「キミはどんなもん食っても問題ないだろ。強靭だねぇ、無敵ねぇ」



 メナファスが敵じゃないと知った今、俺の心の中に湧いてくるのは罪悪感だ。

 敵だと疑ってしまったのもそうだが、交戦した時に腕に傷を負わせてしまっている。


 致命傷にならないように気を付けたものの、女性を傷ものにしてしまったというのは罪深い。

 もし、全ての事態が納まったときには、しっかりと責任を取るべく……大量の酒をワルトの伝手を使って購入し、土下座謝罪をしようと思う。



「さて。それじゃ本題と行きますかね。白い敵についての話をするよ。ここからが本題だ、気を引き締めたまえ」

「あぁ、分かった」

「もふふっふ!さくさくさく……もふふふふ!」


「……一名分かっていない奴がいるねぇ。ユニ、クッキー缶を取り上げろ!」



 声に深みを持たせて話を仕切り直したワルト。

 だが、食い意地が張ってる大悪魔さんは、何を思ったのか食べるスピードを加速しやがった。


 そっとクッキー缶の蓋を閉め、グラムの惑星重力制御を使って手繰り寄せる。

 普通に手で奪った場合は取り返される可能性が高いからな。最初っから、グラムの力で拘束させて貰うぜ!


 名残惜しそうにクッキー缶を眺めていたリリンも、流石に話の本筋に入るという事は分かっていたらしく大人しくしている。

 この第三次悪魔会談の要の話だし、俺も気を引き締めていこう。



「白い敵について、今回新たな情報が随分と出てきた。だから考察と僕の意見の二段構えで話を進めるよ」

「うん。理解した。あの白い敵は色んなものが異常すぎる。だから絶対、変態だと思う!!」


「……おい。どこをどうしてそうなった?えぇ?言ってみなよ」

「だって、レベル99999になる様な人間は大体変態。私の師匠もそうだし、英雄ユルドルードも世間的には変態扱いされているのも事実!」



 ぐふっ!リリンが親父の変態性に気が付いていただとッ!?


 そんな……だとすると、俺はリリンに『英雄全裸親父』の息子として認識されてるってことか?

 タヌキパジャマの件も随分と誤解されていたし、なんと恐ろしい弊害だろうか。


 なお、恋人同士となった今でも、リリンにはタヌキパジャマを着て貰うつもりだ。

 うっかり露出度の高いパジャマで求められでもしたら、絶対に俺の何かが奮い立つ。

 あんだけカッコつけて断っておきながら、速攻で誘惑に負けましたなんてダメすぎるだろ。


 だがしかし、タヌキに求愛されても、鼻で笑ってスル―する事が出来る。

 まだしばらくは一緒に寝てやるぜ、タヌキリリン!



「敵のレベルは99999どころか10万だった。これはどう見ても異常な事。きっと、趣味も異常だと思う!」

「キミ程のキワモノに言われたくないねぇ……。と敵も思っていると思うよ。確実に」


「私は正常!おかしいのは敵だけ!!」

「まず、朝ごはんにフルコースを頼むような奴はキワモノだと理解しな」


「今日はフルコースじゃない!ちゃんと個別に頼んでいる!デザート多めで!」

「食べる量の話をしてるんだよ、このお馬鹿!」



 それにしても、敵は変態か。

 リリンの言う事は置いておくとして、色んなものが異常なのは間違いない事だ。


 ちゃんと考察しておくべきだな。

 ここは話を円滑に進めるために、リリンに同調して……と。



「まぁ、リリンの言う事も一理あると思うぞ」

「えっ。ユニも白い敵は変態だと思ってるの……?」


「いやいや、性癖の話をしてるんじゃなくてだな、白い敵の戦闘能力とかレベルとか、色々異常な事があるだろ?」

「あ、そういうこと……。うん、確かに異常だけど、白い敵の事を変態みたいに言うのは禁止で!」

「なんで?変態は変態と呼ぶべきだと思う!」


「あ、おい、リリン!?」

「いちいち変態呼ばわりするんじゃないよ!なんでって、お前ら二人とも、その変態に負けてるんだからね?白い敵の事を変態と呼ぶと、二人セットで変態以下って事になるんだからね?」



 うん。確かにそれは嫌だな……。

 世間的に『変態』は『英雄』の代名詞になりつつあるとはいえ、まだまだそのままの意味合いで使用する事の方が多い。

 リリンに「私達は変態に狙われている!妹のセフィナも誘拐された!」とか言いふらされたらあらぬ誤解を生みそうだし、なにより、敵がブチ切れて襲いかかって来ると思う。



「いいかい、白い敵は変態じゃない。何度も言うよ。白・い・敵・は・変・態・じゃ・な・い!!セフィナやメナファスにも迷惑が掛るから、絶対に変態呼ばわりするんじゃないよ!!」

「むぅ。分かった」


「それでよろしい。さて、白い敵の考察だが……あーもー。やる気が大いに削がれたなぁ」



 そして、電話口からお茶を淹れる音と、菓子を出す音が聞こえてきた。

 白い敵を変態呼ばわりしたのが随分と効いたらしい。


 白い敵は強大だ。

 リリンと俺とホロビノの三者が居て余裕で逃げられたし、戦闘能力は俺達を凌駕しているのは間違いない。

 当然ワルトよりも上だろうし、そもそも、同じグループの指導聖母が変態呼ばわりされるのに思う事があるんだろう。



「白い敵はレベル10万であり、超越者と呼ばれる存在だと言った。そうだね?」

「そう。そして、超越者とは英雄の別名であるとも言っていた。白い敵は自分の事も英雄見習いを名乗っていたし」


「英雄見習い、ね。敵はレベル錯誤の魔法が使えるから確定ではないが、おそらく、レベル10万の状態が英雄見習いなんだろう」

「どういうこと?」


「白い敵のレベルは10万ピッタリって事だよ。いいかい、これは仮説だが……」

「仮説?」


「通常のレベルの限界値99999に達した生物は、レベル以外の何らかの要因を獲得することで『レベル10万』という特殊状態になる」

「レベル99999と何が違うの?」


「それを僕が知っているとでも思っているのかい?ただ、敵の言動や態度からある程度の考察は出来る」

「敵の言動や態度?……ぴかぴか光るのが好きな変態という事しか分からない!」


「ユニ。僕の話を全く聞いていないアホの子の口に、クッキーを詰め込んでくれるかい?あぁ、缶ごと頼むよ」



 流石に缶ごとはヤバそうなので、5枚重ねで行ってみた。

 その結果、俺の指に歯形が付いたぜ!



「白い敵の偉そうな態度を聞く限り、何らかの特殊な力に目覚めているのは確実だろうね。レジェやカミナが持つ神の因子(アーティファクト)的な奴だ」

「なぁ、たまに聞くその『神の因子(アーティファクト)』って、なんなんだ?」


「あぁ、ユニは知らないのか。そうだね、説明しておこうか」



 神の因子という聞き慣れないキーワード。

 直接的に俺達の謎に関係していなくても、知識が広がるのは良い事だし聞いておくに越した事はない。



「簡単に言うと、神の因子ってのは特殊な才能の事だよ」

「特殊な才能っていっても色々あるだろ?」


「そうさ。それこそ、数え切れないくらい才能という物はある。例えば……高ランクの魔法や剣を使うのだって、最後は才能がモノを言うよね?」

「あぁ。痛いほど良く分かるぞ……。実際、俺には攻撃魔法の才能が無いしな!」


「んで、神の因子ってのは、珍しかったり強力すぎたりする才能の事を、神の全知全能に例えてそう呼んでいるんだ。ちなみに定義とかはないし、言ったもん勝ちな所があるよ」

「なんだそれ……?」


「例えばカミナは『超高速読解』という才能があって一冊の本を読むのに10分も掛らないし、レジェは『支配声域』という声で他者を誘導できる力がある。あぁ、テトラフィーア姫なんかも『絶対音階』という声から感情を読み取る才能を持ってるよ」

「それ、才能というか超能力だろ……」


「そういった確実に神の因子な奴から、んー。微妙だけどたぶんそうだよね!な奴まで幅広いって事。だから、リリンもそうかもしれないねぇ」

「なんだって!?」

「もふふ?」


「リリンは『食い意地張ってる神の因子』だ。ほら、そんな感じするだろう?」

「うわー。すげえしっくりくる。だとすると……『クッキー早食い』の因子も持ってるだろうな……。おう、神の因子の価値が一気に下がったぜ!」

「もふふふふ!《もふふぃてっとまじっく・雷光もふう!》」



 何やら殺気を感じたので、クッキーを発射口に詰め込んでおく。

 なるほど、魔法無効化って案外簡単にできるもんだな。覚えておこう。



「話を戻すけど、その白い敵は何らかの特殊な才能に目覚めている可能性が高い。それが英雄見習いになるって事だ」

「特殊な才能か……。敵はすごい奴なんだな」


「そうそう。白い敵はすごい奴なんだ。今度会ったら褒めてあげると良いよ。案外、デレてくれるかもねぇ」

「敵なんだから褒めちゃだめだろ……。ん?だけどさ、確か敵は俺の事も英雄見習いだって言ってたんだろ?なんか話がおかしくないか?」


「それはね……僕にも分かんないや!」

「は?」


「キミの記憶が無い事と関係あるだろうけど、僕にも分からない。今のキミがどんな状態にあるのか、なぜ、急速に戦闘能力が向上しているのか。それはキミの根底にある大きな謎の一つだ」

「と言うことは……俺の中に、秘められし力が……?」



 なにその、ワクワクする展開!

 そう言えば確かに、強大な敵と戦って新しい力に目覚め……。なんか、タヌキと戦ってる時に目覚める事が多い気がするのは、気のせいだろうか?


 いや、気のせいじゃねぇ。ほぼ間違いなく回想シーンでクソタヌキが出てくるしな。

 おのれ、クソタヌキ。

 お前は俺の過去に何をしやがったんだ?



「さて、白い敵についてはもう一つ大きな事案がある。何か分かるかい?」

「……ん。シェキナと呼ばれる弓を持っていた」


「流石、食い意地の因子を持つリリンだねぇ。……って、合ってるや。どうしたんだい?」

「私だっていつも食べてるわけじゃない。1日の半分くらいは何も口に入っていない!」


「12時間口の中に何も入っていないって、決して胸を張って良い事じゃないよ。覚えておきな」



 ボケ倒しているせいで中々進まなかったが、ようやく、白い敵の装備品についての話に辿り着いた。


 これは俺が一番気になっている事だ。

 あの弓はグラムと同等の武器、『神栄虚空・シェキナ』

 セフィナの持つメルクリウス同様、これからの戦局に直結している重要な要因であり、なんとしてでも情報が欲しい。


 ここはワルトの話を真剣に聞いて対策を――。



「ちなみに、シェキナについて、僕がキミらに語れる事はなんにもないよ。ごめんねー」

「はい?」


「メルクリウスと違って、シェキナは不安定機構が管理している訳じゃないんだ。歴史書にたまに名前が出てくる程度で、その能力についても不確定な事が多い。だから僕は語れない。間違った情報をキミらに教えてしまうとそれが致命症になるからだ」

「いや、そこを何とか……。噂でも何でもいい。あの弓を攻略するためのヒントが欲しいんだ」


「攻略か。高い目標だと思うけどねぇ。特に記憶の無いキミじゃ無謀すぎるんじゃないかい?」

「そんな事は分かってる。だけど、俺はあの弓に勝たなくちゃいけないんだ」



 今度こそ、敵は全兵力を動員し俺達へ襲撃を掛けてくるはずだ。

 そして、リリンの相手はセフィナだ。

 これは理屈とかを抜きにして、そうしなくちゃいけない事だしな。


 だとすると、残りの敵は俺が引きうける事になる訳だが……メナファスが俺達を裏切っていない以上、残るのは白い敵と指導聖母・悪喰ということになる。

 メナファスをその場で寝返らせれば2対2になるが、それをしてしまって逃げられた場合、セフィナに対する保険が消えてしまう。


 結局、俺が二人を相手しなくちゃいけないわけだが……未熟な俺では勝利は困難なはずだ。

 だから俺は、噂でも憶測でも、使えるもんは使い倒して勝利を目指すしかない。



「『俺はあの弓に勝たなくちゃいけない』か……。今の、すごくカッコイイよ、ユニ!そんな風に言われたら、隠し事でも言うしかないじゃないか」

「何か知ってるんだな?教えてくれ、頼む!」


「しょうがないなぁ。いいよ、シェキナはね――」

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