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第5話「大惨事悪魔会談・メナファス」

「次の考察はメナフについてだよ。いいね?」

「もふふ!」

「あぁ、いいぞ。……さくさくさく」


「キミまでお菓子を食ってるんじゃないよ、ユニ……」



 結局、セフィナについては分からない事が多いという結論だ。

 ワルトは直接会ってもいないし、一番情報を持っているリリンでさえ6年前の幼い姿しか分からない。

 ましてや、様々な可能性を生み出す成長期を知らないのであれば、憶測で語るしかなかった。


 だが、メナファスは違う。

 リリンもワルトもメナファスの事を熟知している。

 俺だって闘技大会で半日くらいは話をした訳だし、有意義な情報の一つも提供できる……だろうが、餅は餅屋というし、本職の大悪魔さんに任せるのが良いと思う。


 ……だから、気の緩みからリリンにつられてクッキーを食べてしまっても仕方がないんだ。



「ワルトナ、さっそくだけどメナフの話をしよう」

「そうだね、まずはリリンの見解を聞こうか。キミはどう思っているんだい?」


「……裏切られたなんて今でも信じられない。メナフはとても仲間想い。だから……裏切りじゃないと思う」

「攻めるようで悪いけど、リリンが追い詰めたセフィナに加勢し、ユニに銃を向けたのは事実だよね?それでもメナフを信用するのかい?」


「それは……それでも、私はメナフを信じたい。きっと全部、白い敵のせい。アイツが洗脳とかしたんだと思う!!」



 洗脳か。俺は、それは無いと思っている。

 メナファスと戦ったから言えることだが、とてもじゃないが操られている雰囲気じゃ無かった。

 言動も一貫性があったと思うし、なにより、瞳の中に揺らいでいる感情があった。


 リリンにはリリンの意見があるように、俺には俺が感じた見解がある。

『メナファスは自発的に俺達を裏切っている。少なくとも、自分の意思で敵側についたのは間違いない』

 そんな感じの事をリリンとワルトに話すと、リリンは少しだけ頬を膨らませ「メナフ……」と呟いた。


 その表情は、リリンとメナファスの間にある信頼と絆を浮き彫りしたもの。

 大悪魔だとか言われていようとも、メナファスは大切な仲間なのだ。



「確かにリリンの言うとおりでさ、メナフは僕達をとても大切にしてくれていた。一番年上だけあって、頼りになるお姉さんみたいだったね」

「頼りになるお姉さんか。俺の身近にもそんな存在がいたしイメージしやすいぜ。って、ワルトって姉妹がいるのか?」


「僕は一人っ子だしいないよ。だけど、尊敬している姉のような存在がいたんだ。っと、話が脱線してるね。ともかく、メナフは簡単に人を裏切るような奴じゃない。これは揺るぎない事実だ」



 リリンもワルトも、メナファスは裏切っていないという。

 だが、俺やリリンに銃口を向け、セフィナに加勢したのはどう説明するんだ?


 まさか、信頼しているから敵じゃないなんて、そんな感情論じゃないよな?



「ワルト、メナファスが敵じゃないという、ちゃんとした理由があるんだろ?話してくれ」

「もちろんだよ。そして僕は、ユニの見解も間違ってるとは思っていない」

「……え?」



 俺の見解も間違っていない?

 それじゃ、メナファスは裏切っていないが、敵ってことか?



「どういう事だ?」

「つまりね、メナフは僕達、心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)を裏切っておらず、自由意思でセフィナと一緒にいる。これが真相だよ」


「それは矛盾しているんじゃないのか?」

「いいや、矛盾しないんだ。いいかい、リリンの依頼を受けてメナフは敵を探しに行った。そして、想定外のイレギュラーが発生してしまったんだ」


「イレギュラー?」

「そう。メナフはセフィナに出会い、そして、死んだはずのリリンの妹だと気が付いてしまった。もともと僕らはリリンから事情を聞いているしセフィナの名前も知っている。……ユニに聞きたいんだけど、セフィナを見てリリンに似ていると思わなかったかい?」


「思ったぞ。ふてぶてしい目やクッキーで膨らんだ頬とかそっくりだしな」

「むうう!!」

「なるほど、想像しやすいね。となると、さらに信憑性が増してくるわけだ」



 メナファスはセフィナに出会ってしまった。

 そして、敵を倒せばいいという簡単な話から、リリンの過去に関わる複雑な話になってしまい、困ってしまったと。


 ……でもさ、それってセフィナを連れて俺達の所にくればいいだけの話だよな?

 それが出来ない理由があったのか?



「リリンの妹だと気が付いたんなら、俺達の所に連れてくればいいよな?こう言っちゃアレだが、飯を食わせておけば簡単に連れて来れそうだったぞ?」

「さすが姉妹だねぇ。でも、それは出来ない事だよ。いや、してしまった後のデメリットにメナフは気が付いてしまったという方が正しい」


「デメリット?」

「セフィナを捕獲してしまった場合、白い敵とやらが何をするか分からないってことさ」



 なるほど、そういうことか。

 セフィナの事情を知らないでリリンに再会させてしまうと、様々な問題が起きそうだ。

 一番危険なのは、白い敵がセフィナに何らかの魔法を掛けていた場合だ。


 居場所の探知くらいで済めばいいが、非人道的な手段をとる場合もあるしな。

 それに気が付いたリリンも怒りを露わにして、強くテーブルを叩いた。



「セフィナに何かするって事?……許せない」

「そうなる可能性もある。考えればキリが無く、事実関係が分からない以上、手の出しようが無いんだ。白い敵が本当に敵なのか。それとも、なにか複雑な事情があるのか。それを判断するためにメナフは裏切りという行動を起こしたんだろう」


「全部セフィナを救うため?」

「そうだよ。確か、白い敵は言っていたんだろう?『予定外だ』と」


「うん。確実に言っていた」

「だとすると、セフィナとリリンの接触はまだ先のはずだったんだろう。恐らく、セフィナは一人で食事でもしていた。白い敵が指導聖母の仕事をしている以上、付きっきりという訳にはいかないからね」


「放っておくなら、私に返して欲しいと思う!!」

「……そして二人は、奇跡的に接触してしまった。だからメナフは、言葉巧みにセフィナを誘導しリリンと再会させたんだ。『気が付けよリリン、全ての前提が間違っているぜ』という想いを込めてね」



 ワルトの話を聞けば聞く程、メナファスが良い人に思えてくる。

 疑ってすまなかった、メナファス。

 無事にこの事態が収められたら、是非、酒でも奢らせてくれ。



「事情は分かった。でも、正直に言って欲しかったと思う!」

「だーかーらー、これが最適解なんだっての!……いいかいリリン、メナフはセフィナを安全に手に入れる為に最善の一手を打ったんだよ」


「最善の一手?」

「セフィナの生存をリリンに教えた以上、僕やレジェが動き出すのは確定だ。そうすれば、一国の軍が動くわけだね」


「うん。どんな手段を使ってでもセフィナを取り返して白い敵をブチ転がす。いや。ぶちのめす!!」

「一方で、白い敵はセフィナを使う優位性を失いつつあるわけだ。死んでいるはずの人間との再会。こんな事態に直面したら誰だって戦闘不能に陥るわけで、この瞬間のためにセフィナを隠していたと言ってもいい」


「確かに、私は驚きのあまり星の対消滅を受けてしまった。致命的だと思う」

「でもたった一回のチャンスは失われた。だからこそ、敵はセフィナを手放す可能性が僅かにある。指導聖母の狡猾さを考慮すると、セフィナを監禁しつつリリンの前に再び現れて「セフィナは使えないから処分したよ」くらいは平気で言って来るかもしれない」


「セフィナを監禁?アイツ……ぶち殺してやる……」

「仮定の話だし落ち着きな。それに、その可能性はメナフの働きにより阻止された。メナフは万が一の時にセフィナを逃がす算段をしているんだ。仲間になったフリをしながら、最も効果的な瞬間に、後ろから敵を撃つためにね」



 ここで、今まで「むう!」っとしていたリリンの顔が平均的納得顔に変わった。

 メナファスがセフィナを一番に考えて行動していた事を理解できたようだ。


 そういえば、メナファスは元々「セフィナ一人分、こっちの方が優勢だ」とか言っていた。

 リリンを裏切るつもりが無いのなら、この言い分も意味が通る。



「そうなんだ……。メナフは裏切って無かった……。よかった……」

「まぁ、いきなり出て来て戦闘になれば誤解も生まれるさ。そう言えばさ、メナフに関する別件の話なんだけど、キミら、何か聞いてないかい?」



 メナファスの容疑が晴れた所で、ワルトが違う話題を振ってきた。

 うーん。思い出してみれば、敵側に裏切る前から、どことなく落ち着きが無かった気もする。


 闘技場での説明も適当な所があったし、どこか上の空だったような?



「そう言えば、保育士を辞めたと言っていた。メナフが保育士を辞めるなんて、あり得ないと思う!」

「あぁ、俺と戦った時も、なんか自信喪失してるような雰囲気だったぞ?『オレには信念が無い』とか、『生きる意味を感じたい』とか訳の分からない事も言ってたしな。何か知ってるのか?ワルト」

「僕も後から知った事だが、メナフが勤めていた保育園が廃園になっている。そしてそれは、言ってしまえば『メナファスのせい』って奴なんだ」


「メナフのせい?」



 なにやら俺達とは関係ない所で、メナファスは悩んでいたらしい。

 ワルトは一度だけ咳払いをして仕切り直すと、重みのある声で語りだした。



「ブルファム王国の闇。人身販売や暗殺を仕事としている組織があってね。そこを脱退し、あろう事か対立しているレジェンダリア国に属したメナフは『赤髪の魔弾(バレッタ)』と呼ばれて忌み嫌われているんだ」

赤髪の魔弾(バレッタ)?」

「メナフの肩書きの一つ。主に悪事を働く時に使う」


「メナフが脱退する時に、僕とレジェは念入りに組織を潰している。だから報復などあり得ないはずだったんだが、どうやら、伝説の暗殺者として名前だけが独り歩きをしたらしい」



 噂だけがひとりでに流れ、どんどんと大きくなってゆく。

 最初は『英雄全裸親父』だったのが、『全裸英雄・ユルユルおパンツおじさま』に進化するのと同じく、話が膨らんでしまったんだろう。

 そして、それを聞きつけた別の組織が、メナファスを利用しようと動きだしたと。



「新教組織として新たに結成された闇の組織は、赤髪の魔弾を欲した。おそらく、レジェのとこの『魔弾のセブン』に対抗するためだろう」

「聞き覚えのある名前が混じったんだが、気のせいか……?」


「メナフは当然断った。だから闇の組織は言う事を聞かせる為に人質として、勤め先の園児を誘拐したんだ」

「ちぃ。考えただけで腹が立ってくるな」


「そうさ。当然、激怒したメナフは徹底的に組織を潰した。ワザと一人で4000人を叩き潰し全員残らず捕えて、対立組織(レジェンダリア)に売り飛ばして示したんだ。『二度とオレに関わるな』と警告する意味を込めてね」

「4000人を一人で……。無敵殲滅さん、マジ、無敵殲滅」


「だけど、それは敵のプライドを大きく傷つけた。裏の組織なんてものはプライドが高い連中ばっかりでさ。メナフに勝てないと分かっていても、やり返さなければ気が済まない。そうして、メナフの園児36人が誘拐されるという事件が起こってしまったんだ」



 そこから語られた話は、非常に胸糞悪くなる話だった。

 自分の都合で人の命を使い潰す、最低の行為。


 もしその場に俺が居たのならば、怒りにまかせてグラムを振るっただろう。



「一つの組織が起こした犯行だったのなら、問題にはならなかったんだ。メナフだって馬鹿じゃない。誘拐される可能性を考慮し対策を講じていた。でもね、考え方も行動理念も違う5つもの組織が同時に決行した誘拐には対応しきれなかった。4つ目の組織を潰した段階で、残り4人の園児は既に……という状態になっていた。間に合わなかったんだ」

「そうか……。殺されてしまったのか?」


「生きているよ。敵の目的は嫌がらせで、子供達を傷つけるのが狙いだったんだからね」

「っち。本当に気分が悪い話だ」


「そして、メナフは悩んでしまった。『オレが保育士なんてしなければ』とずっと後悔し続けて、夢だった保育士もやめてしまったんだ。そんな事件が起こった以上、保育園も廃園になってしまったしね」

「その後はどうなったんだ?敵は潰したのか?」


「当たり前だろ。カミナから連絡を受けた僕とレジェによって、ブルファム王国の闇の組織は塵一つ残っちゃいない。特に本気で怒ったレジェは、跡形も無く消し去るためにレジェンダリア国の最高戦力を結集し、レジェ本人やテトラフィーアすらも参戦しての撃滅戦をした。そのせいでフィートフィルシア攻略がちょっと遅れ気味だってさ」



 おい聞いたか、ロイ。

 お前んとこ、後回しにされてたってよ。

 20万の兵を喰い止めていると聞いた時には、なんとかなるかもと思ったが最高戦力抜きでの侵攻だったってよ。


 というか、ちょっと気になったんだが、テトラフィーア姫も参戦してるんだな。

 どんな姫だよ。最高戦力に名を連ねるとか武闘派過ぎるだろ!


 聞くところによると、レベル6万のツンだけメイドの主人でもあるらしいし、レジェンダリア国の大臣でもあるとか?

 うん、是非、関わり合いになりたくない。



「ユニク。決めた。セフィナを無事に取り戻した後、私はブルファム王国を滅ぼしに行く。これは決定事項!!」



 んで、話の前半部分しか聞いてなかった大悪魔さんはやる気に満ちていると。


 ロイ、セフィナを捕まえたらそっちに行くから覚悟しておいてくれ。

 今なら、大悪魔姉妹と大悪魔聖女、大魔王陛下に武闘派姫大臣。ついでに魔弾のセブンとナインアリアさんも連れて行くぜ!


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