第4話「大惨事悪魔会談・セフィナ③、まとめ」
「え?え?悪喰イーター……?なにそれ!?なにっそれっっ!?」
「セフィナが使ってきた凄い魔法!」
「……ま、魔法?いやいや、僕、知らないんだけど!」
「それはそう。私も見た事のない凄い奴だった!」
「えっ、ら、ランクは!?魔法のランクはどのくらいなんだい!?」
「うーん。凄すぎて良く分からない。けど、ランク9よりも凄いっぽい感じ!」
「なんなんだよそれは!?つーか、さっきから『凄い』しか情報が出てないんだけどッ!!」
リリンの抽象的すぎる説明を聞いたワルトが錯乱している。
……なんだこれ。
俺の横にいるリリンは大変に興奮しまくって、「凄い!」を連発しているのは、まぁ、いつもの事だしな。
だが、何故かワルトまで暴走してるらしい。
とりあえず、リリンだけでは説明不足だし俺も会話に混ざった方が良さそうだ。
あれは無視して良い代物じゃない。
「ワルト、その悪喰=イーターについては俺からも説明するぞ。実際に戦ったのは俺だしな」
「悪喰=イーターはグパァってなってパクッってなる! その後で魔法がドドドーンと来た!」
「うん、頼むよ。可能な限り細かく説明してくれるかい?……あ、そこの脳味噌が空腹な子は、お茶菓子でも食ってろ」
「そうだな……セフィナが防御魔法無しのリリンに雷光槍を撃ち込みそうになり、俺が慌てて乱入した。ここから話せばいいか?」
「うわぁー。大前提から大問題だらけだぁ。まぁ、良いよ。そこからで」
「ニセタヌキの安否を確認したセフィナは俺を睨んできた。あからさまに敵意が剥き出しだったし、始めから俺を狙っていたらしい」
「安否を確認される暇もなく絶滅しろ、ニセタヌキィ。続けて」
「セフィナは自分の方が有利だと思ったらしく、特攻を仕掛けてきた。まぁ星の対消滅がある以上、魔法を一人だけ使えるんだから優勢だよな」
「グラムの力を知らなったんだねぇ。これは敵のボスの失策だ」
「で、俺は星の対消滅の破壊を狙った訳だが、二回も認識錯誤が掛っていたせいで失敗に終わった」
「おっと。敵のボスも中々やるね」
「そして、セフィナは悪喰=イーターを召喚し、星の対消滅を食わせて融合させたんだ」
「……なんだって?」
あの光景を一言で表現するならば、『魔法同士の融合』だ。
覚醒させたメルクリウスならばそういう事もできるとワルトは言っていたし、実際に、星の対消滅を取り込んだ悪喰=イーターは魔法阻害の効果を発揮していた。
だからワルトもすんなり受け入れてくれると思ったんだが……。
俺の説明を聞いたワルトの疑問の声が、次第に大きくなっていく。
「なんだよそれ……?魔法を取り込んで効果を奪うなんて、聞いた事がないんだけど……?」
「そうなのか?メルクリウスがあれば出来るんじゃないのか?」
「いや、難しいだろうね。メルクリウスは発動した魔法を材料にして新しい魔法を作る事は出来る。が、一つの魔法に他の魔法を吸収させることは出来ないはずだ」
「でも、確かに悪喰=イーターは星の対消滅を喰らって効果を受け継いだんだ。これは間違いない」
「だとすると、十中八九、その悪喰=イーターとやらの能力だね……。あーもー!何でこんな面倒な事にッ!!ちくしょうめっ!」
……なんか、ワルトの口調が妙に引っ掛かるな。
いくらワルトが知らない魔法だからって、敵のセフィナが第二の切り札を出してきたというだけだ。
言ってしまえば、能力未知数の敵が、未知の攻撃方法を使ってきただけ。
そこまで取り乱す必要はないと思うんだが?
「なぁ、ワルト。何でそんなに慌ててるんだ?悪喰=イーターに何かあるのか?」
「……。」
「ワルト?」
「……は!これが騒がずにいられるかって話だよ!」
「どういうことだ?」
「あのねぇ、実は……僕と同じ指導聖母に、『悪喰』と書いて『プアフード』って読む奴がいてねぇー」
「「あ。」」
なんか、真っ黒な容疑者が出てきたんだが?
ワルトに見せて貰った不安定機構の組織図。
確かそこには『準指導聖母・悪喰』と書かれていた……気がする。
それはリリンも覚えていたようで、俺達は顔を見合わせて、しっかりと頷いた。
「準指導聖母・悪喰……か。確かにそんな人物がいるって見た気がするぜ」
「いるんだよねぇー。しかもこれが食えない奴でさ。仕事はしないわ、食い意地が張ってるわ、余計なちょっかいを出してくるわで、凄く面倒な奴なんだよ」
「そんな奴がいるのか。で、ワルトの声から察するに、敵の可能性は高いのか?」
「あえて断言してやるよ。……間違いなく真っ黒だねぇ!!奴は褐色肌だしね!ははっ!!」
声高らかにヤサグレたワルトは、恐らく、電話の向こうで怒り狂っている。
さっきからガンガンと妙に雑音が混じっているし、たぶん、机の脚を思いっきり蹴飛ばしてるはずだ。
「なんだよ悪喰=イーターって!そんな、あからさまな名前の魔法を教えてんじゃないよ!この!この!」
「ちょっと落ち着けってワルト。リリンなんか落ち着きすぎて、クッキー缶を完食しそうだぞ?」
「リリンはどんな時でもそんなだろ。……じゃなくってさ。その悪喰=イーターだっけ?もうちょい詳しい説明をしておくれよ」
「ん?まぁいいが……悪喰=イーターは恐らく、様々な魔法を蓄えておける貯蔵庫みたいなもんだと思う。アレを出した後のセフィナは大技を連発してきたしな」
「大技?……それは魔法だよね?属性は?ランクは?」
「え?それは……」
「ちっ。キミはキミで脳味噌が筋肉だったね。ほら出番だぞ、リリン!」
「もふっふ!」
ぐぅ。
いくら直接対応したと言えど、魔法に詳しくない俺じゃ説明は難しい。
ぶっちゃけた話、グラムの絶対破壊の力で、ごり押しで勝ったわけだし、属性がどうとか言われても困る。
だが、俺の隣にいる大魔王ハムスターを見る限り、問題なく説明できそう。
頑張れリリン、詳しく頼むぞ!
「セフィナが出してきた魔法は、間違いなくランク8か9の星魔法。威力的にはそれほどでも無いけど、厄介な特殊効果が付与されてるタイプだと思う」
「特殊支援系?どんな奴だい?」
「空気を可燃性ガスに置き換えてから爆破するとか、地面を隆起させて閉じ込めるとか。たぶん、ガスでの窒息や岩での拘束を狙ったんだと思う」
「なるほど、僕と同じタイプなんだね。星魔法のランク9も厄介だが、それよりも、高位魔法を連発させられるという悪喰=イーターが厄介すぎるね」
「うん。セフィナは魔法を唱える前に、『魔法の反芻』と唱えていた。たぶん、悪喰=イーターから魔法を呼び出す鍵なんだと思う」
観察に徹していたリリンが言うには、セフィナが使用してきた魔法は全てランク8か9。
グラムの絶対破壊の力があったから何とかなったものの、普通だったら余裕で天に召される威力だ。
ふむ。カエルの子はカエル。
大魔王の妹も、大魔王だな。
「とまぁ、セフィナに妙なのが付いている事は分かったよ。まったく、捕まえたら絶対に文句を言ってやる!!」
「文句って、そんな程度で済まさないで欲しい!!白い敵は滅多打ちにするべき!」
「あぁ、言っとくけど、悪喰は白い敵じゃないよ」
「えっ!?」
「敵は『白』『黒』『黒』の3人だろう。セフィナが黒。出てきた敵のボスが白。ということで、悪喰は黒ということになる訳だ」
「でも、敵は敵。慈悲はない」
「悪喰は主体的に行動する様な奴じゃないんだよ。どっちかって言うと、他人の計画にちょっかいを出して面倒にするタイプでさ」
「なにそれ……。これ以上複雑にしないで欲しいと思う」
「僕も心の底からそう思うよ。だが、主犯じゃないから罪もそれなりに軽くなる。……ということで、今度アイツに会ったら、D・S・Dを喰らわせてやる」
……D・S・D?
なんか名前からして致死性の何かが出てきたんだが?
あまりにも気になったのでリリンに聞いてみたら、「D・S・Dは、私達が旅をしていた時に出会った香辛料。だけど、辛すぎて食べられない。アレは兵器だと思う!」とか言い出しやがった……。
リリンが食えないってどんだけだよ。
ちなみに、ホロビノルーレットの最上級お仕置きとして設定されているらしい。
それを喰らったホロビノは、三日間、川のほとりから動かず、ずっと水を飲んでいたらしい。可哀そうに。
「さて、予定外の考察が入ったが、セフィナについてのまとめに入るよ」
「おう!」
「分かった!」
「まず、『セフィナの死は偽造されていた』。これはまず間違いない事だろう。そうだね?」
「あぁ、セフィナの態度は嘘を言っているように見えなかったしな」
「私がセフィナを見間違えるなんてあり得ない。絶対にあの子はセフィナ」
「だとすると、セフィナとキミのお母さんの死は敵によって計画されたものだという事になる。ならばこそ、リリンの母の生存も見えてくるわけだ」
「お母さんだけ亡くなってるのは、明らかに不自然だしな」
「私もすぐにその点は思いついた。そして、敵に探りを入れてみたけど、誤魔化されてしまった」
「いいや。誤魔化されたというのなら、確実に生きてるだろう」
リリンは白い敵と直接対決をしている時に、お母さんの安否も聞いたという。
敵に上手く誤魔化されてしまったが、ワルトが言うには、確実に生きているらしい。
敵はリリンの心理的動揺を誘い、武器としている。
なら、「お母さんは死んだよ」と言いきった方が、リリンの動揺が誘えて都合が良いはずだ。
だが、それをしなかった。
あの場にはセフィナが隠れて見ており、あからさまな嘘をつく事が出来なかったのだ。
「お母さんも生きてる……そうなんだ……よかった……。」
「リリン、素直に喜んでおきな。で、ユニ、こういう時は胸を貸すもんだよ。あ、童貞には無理かな?」
「ふっ。それはもう昨日やったぜ!」
「うん。ぎゅって抱きしめられた!」
「……えっっ。」
残念だったな、ワルト。
俺はもう、お前の知る『童貞英雄・ユニクルフィン』じゃない。
『童貞卒業確約済み・ユニクルフィン』だッ!!
だが、このネタを引っ張ると痛い目を見そうなので、速攻で話題を切り替えておく。
「なんだよ、なんだよ……指輪に続き、ハグまでしてるなんて……」
「なぁ、話は変わるけどさ、リリンのお父さんの方は生きてるって事はないのか?」
これは素直に気になっていた疑問だ。
リリンのお父さんが英雄だとするのなら、簡単に殺されるのはおかしい。
何となくだが、俺の親父は凄くタフだった気がするしな。
「それは無いよ、ユニク」
「リリン?」
「お父さんは危険生物に敗北し、胸に大きな穴をあけて亡くなった。だから顔は確認出来たし、絶対にない」
リリンは少しだけ寂しそうに首を横に振って、間違いなく亡くなっていると言った。
その時には家族全員で確認もしたし、葬式もしっかり行ったそうだ。
流石に俺の考え過ぎ……かと思ったが、ここでワルトが話に乗ってきた。
「メルクリウスがセフィナに受け継がれている以上、キミのお父さんが亡くなってるのは確定的だろう。だが、それについては調べるべきだろうね」
「どういう事だ?」
「死因がおかしいからさ。腹に大きな穴をあけて死んだ?野生動物でそんな芸当ができるのは蟲くらいなもんだよ……あ、タヌキもできそうだね」
「出てくんな、クソタヌキ!」
「ということで、セフィナとはまた違う問題が発覚する可能性がある。僕も調べるけど、キミ達も頭の片隅に置いておいておくれ」
これから俺達はリリンやセフィナの素性を調べるだろう。
その時にでも、ついでに調べた方が良さそうだな。
しかし、アルカディアさんを寄越すんじゃなくて直接来いよ、親父。
そうすれば全部の謎が一気に解けただろうに。
なお、謎が解けた後は用済みなので、愛する息子の鉄拳を叩き込んでやる予定だ。
「次に、セフィナはユニクと会っているという疑惑だが……セフィナは嘘を言っていないと思うねぇ」
まとめ第二弾は、セフィナが俺の事を「ゆーにぃ」と呼ぶ件についてだ。
ワルトなりに考察してみたが、正直な所、今は判断が付けられないらしい。
「セフィナは心の底からリリンを尊敬しているようだし、嘘をつくとは思えない。だが、敵により、認識阻害を受けている可能性あるね」
「認識阻害?」
「リリンに家族は死んだと思わせたように、セフィナの思い出の人物をユニだと錯覚させてるかもしれない。だから、慎重に要検証だ」
なるほど、セフィナが勘違いしてるパターンもあるのか。
これならリリンが俺の事を知らないのも納得できるし、可能性も低くないように思える。
リリンには内緒だが、あくまでも敵の言った狂言だと疑って、俺は行動するべきだな。
「最期に、セフィナの戦闘力だが……リリンとほぼ同じだと思うねぇ。戦闘経験はリリンの方が上だろう。ただ、装備品はセフィナの方が上であり、勝敗は分からない」
「うん。戦ってみた感じ、所々に付け入る隙があった。最初の奇襲のように一発で勝敗を決されない限り、取れる手段はあるように思える」
「おや?案外、弱気だね?」
「セフィナは本当にビックリするくらいの凄い魔導師に育っていた。同じ魔導師として尊敬してしまうくらい!」
「そうかいそうかい。敵の育て方が上手かったんだねぇ。狡猾だねぇ。効果的だねぇ」
絶賛育てられている中の俺から見ても、アレだけ魔法を自由自在に使えるというのは羨ましい。
俺が立てた最初の目標は、『雷人王のような、煌びやかな空を手に入れたい!』だった。
いつの間にかグラム一本で大抵の事が出来るようになったものの、未だ攻撃魔法はロクに使えない。
……こうなったら、グラムから出る絶対破壊ビームで誤魔化してやるぜ!
「と、セフィナについてはこんな所かな。本当に忌々しい事に、悪喰=イーターとかいう謎すぎる不安要素もあるが、これも調べてみないと何とも言えないしねぇ」
「それでワルトナ、私はどうすればいいの?」
「いや、キミらのこれからの予定については、考察が終わった後でまとめて指示するよ。……さっきみたいに、予定外な事実が出てくると困るからねぇ!」




