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第3話「大惨事悪魔会談・セフィナ②」

「心の中に存在する、もう一人のキミか……。リリン、その存在はきっと大切なものだ。乱雑に扱ってはいけないよ」

「大丈夫。何となくだけど、理解している!」



 リリンの不思議な夢の話を聞いて、俺と同じ感想をワルトやリリン本人も抱いたらしい。

 心の中の自分と語り合うか……。

 非常に神秘的で、ちょっとだけ羨ましい。


 だけどまぁ、言ってしまえば所詮、夢だ。

 意味があるのかも疑わしいと思う。


 これは決して、俺の夢の中に出てくるのがクソタヌキだからと、嫉妬しているのではない。

 ……なにせ、夢の中ではタヌキが漆黒の魔導巨人を召喚あそばされる。

 もはやタヌキが魔獣とかそういった次元にない超展開。

 凄まじい炎が噴き出す右手と、ギュンギュン唸る左手が繰り出す絶望を前に、俺はいろんなもんを流しながらの逃亡しか出来なかった。


 目が覚めた後、こっそり確認してセーフだったのが唯一の救いだ。



「それにしても、神魔杖罰メルクリウスか……。神殺しが出てくる可能性は僕も考慮していた。だけど、敵の従者のセフィナが、しかも覚醒状態で使って来るとは誤算もいいとこだ」

「ん、そういえばワルトナはメルクリウスの能力を知っていた。それはどうして……?」


「あぁ、敵はユニクの過去に関係ある人物だし、英雄クラスの装備を持っていると思ったからさ。グラムやメルクリウスは『神殺し』と呼ばれる世界最強の武器シリーズでさ、簡単に言うと、世界で最も強い武器なんだ」

「そうなの!?でも、よく調べられたね」


「僕の大書院の禁書指定区域に封印されている書物の中に、英雄ホーライが書いたと言われる図鑑があってね。それには色んな武器や道具の説明が乗ってるんだ」

「……え!?」


「あぁ、すまないねぇ。禁書指定されているからキミには見せられないよ。それに状態も良くないんだ。この本は写本で紙自体がだいぶ痛んでいる。オリジナルを見る機会があれば、僕が書きなおすんだけど」

「……それ、見たことある……かも?」


「は?」



 ここでリリンが妙な事を言い出した。

 ワルトが厳重に管理している禁書をリリンは見たこと有ると言いだしたのだ。


 思い出してみても心当たりがない。

 俺と出会う前の話だろうと興味が湧いた所で、リリンは予想外な事を口走った。



「どうして忘れていたのか分からないけど……私は英雄ホーライの直売店に行ったことがある。そこで、英雄ローレライに出会って、その本らしきものを見せて貰った!」

「ちょっと待てリリン!どうしてそんな重要な事を忘れていたんだい!?」


「ん。どうしてだろう?」

「まさか、セフィナの『流れ落ちる水銀』を受けたから、掛けられていた認識錯誤の魔法の効果が切れたと……?なんだこのミラクル、奇跡かなにかか?」


「確かに不思議。カミナにはユニクに貰ったブローチと指輪を自慢したのに、ワルトナにはしてないし」

「えっ!?指輪って何の事だいっ!?!?」


「……ふ。私はユニクから親愛の形として指輪を授かっている。これはもう、決定的!」

「え!?え!?いつの間にそんな事にっ!?……あーもー!リリンじゃ意味が伝わらない!!ユニ、話しておくれよっ!」



 安心しろワルト。

 あの指輪は確かに綺麗だが、そんなにいいもんじゃない。

 魔道具として効果が不明な粗悪品であり、実質4万5千エドロで買い叩いた安物だ。

 ちなみに、ペアリングだが二つともリリンが持っている。


 そんな感じの説明をして、ワルトには渋々納得して貰った。

 ちょっと小声で、「いいなぁ。僕も欲しい……」と聞こえたので、ワルトも英雄ホーライの道具に興味があったらしい。

 まぁ、例え効果が不明な指輪でも、それが英雄ホーライの所縁の品となったらファンなら欲しくなるよな。


 ん?

 だったら、今度会った時に、『切れないナイフ(アンカットレス)』でもくれてやるか?

 グラムを覚醒させられるようになった今、完全に無用の長物と化し、リリンが朝食のパンを切る時にたまに使う程度。

 切れ味が良いからどんなパンでも一直線に両断出来るが、別になくても困らない。



「で、その英雄ローレライなんだけどさ……どんな人物なのかな?」

「ん。よく分からない。あの人も認識阻害を掛けていたから。あ、でも、おねーさんぽい感じ!」


「おねーさん。……おねぇーさんで、ホーライの弟子ねぇ。へぇー」



 話が進んでいくにつれて、段々と俺も思い出してきた。

 英雄ホーライの店にいたのは、ハツラツとした雰囲気の女性。

 なんとなく親しみすら感じるその雰囲気の中に、絶対的な力を隠していると思わせる立ち振る舞いをしていて、俺も惹き付けられた。


 それなのに、ずっと一緒にいたかのような安心感がある。

 なるほど、ローレライさんこそ真の英雄って奴なんだな?

 どこぞの『全裸英雄・ユルユルおパンツおじさま』とは大違いだ。



「ま、その話は後で詳しく聞くとして、話を戻そう。僕は神殺しの能力についてそれなりには把握している。そして……メルクリウスの能力については、かなり詳しいと言ってもいい」

「どういうこと?」


「メルクリウスは代々、不安定機構・深淵(アンバランス・アビス)が所持してきた由緒正しき魔導杖だからさ。だからこそ、その能力については様々な記録が残っている」

「ワルトナ、知っている事を全部、教えて欲しい。私はメルクリウスを攻略しなければならない」


「いいとも。メルクリウスの能力は『魔導支配』。指定した空間内にある魔法を支配下に置き、『無効化』『破壊』『改変』『融合』『威力変動』『完全再現』などが行える」

「え?それって……」


「ご明察さ。僕ら心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)が全力戦闘時に使う『慈悲なき絶死圏域スクウェア・オブ・ハードデヴィル』は、メルクリウスの文献を参考に作ったものなんだ」



 ワルトの説明では、覚醒したメルクリウスは魔法に関するあらゆる事象に干渉が出来るという、世界最高の魔導杖なのだとか。


 当然、魔導師としての高みを目指しているワルトはメルクリウスを欲した。が、手に入れる事は出来なかった。

 だからこそ、その能力が書かれた文献を読み漁り、似たような事が出来る魔法を開発したらしい。

 そして、それを聞いたリリンは大変にご立腹になった。



「むぅ!パパの杖が凄い杖なら、もっと早く教えて欲しかったと思う!」

「いやー。ごめんごめん。僕はメルクリウスがどうしても欲しくてさ。キミに教えたら取り合いになっちゃうだろう?」


「むぅう!もともとパパのなんだから、実質的に私のだと思う!!」

キミの(・・・)じゃないさ。だから僕は、メルクリウスを手に入れたかったんだ」



 なるほど、ワルトはリリンに負けず英雄ファンって事だな?

 歴史上の名だたる英雄が使用してきた伝説の杖。

 同じ階級のグラムを持つ俺には、それを手に入れたいという気持ちは痛いほど良く分かるぜ。


 それにしても、そんな凄い魔導杖が『パパの杖』か。

 これはひと波乱ありそうだ。



「……それにしても、凄い事になったと思う」

「あぁ、キミの言いたい事は分かるよ。キミは不安定機構の至宝とも呼ぶべきメルクリウスを、どうしてお父さんが持ていたのか。それが気になっているんだね?」



 リリンの話では、セフィナが所持していたメルクリウスは父親が使っていた杖なのだそうだ。


 リリンの父親はランク6の魔導師であり、世界を旅しては危険生物を狩るという仕事をしていた。

 だからこそ長期で家を空けることも多く、帰ってくるとリリン達を溺愛していたらしい。


 だが、所詮はランク6の魔導師。

 人類の領域から外れつつあるとはいえ、ランク7のリリンに及ぶとも思えない。

 ……リリンの話を聞く限りは。


 そう。この世界にはレベルを偽る魔法がある。

 そして、その魔法を得ることが、英雄になる為の資格なのだと敵は言った。


 これから察し、さらに、英雄ホーライ伝説の最終巻では確信に触れている。

 ホーライ伝説のクライマックス、強大な皇種『ギン』と対峙したアプリコット達は真なる力に目覚め、人外の領域に踏み込んだのだ。



「そう。お父さんは自分の事を『普通の魔導師』だと言っていた。でも、思い出してみれば普通とは程遠いと思う。今の私でも出来ない様な事も平然と行っていたから」

「ちなみに、なにをしたんだい?」


「街に雪が降った時に、私達とお父さんは雪遊びをした。その時にお父さんは降っている雪を操作して氷で出来たお城をつくった。100mくらいの大きい奴!」

「娘の前だからって、カッコつけ過ぎだろ」


「そしてそのお城は変形して、空高く飛んで行った!さらに4体の猛獣、虎と亀と鳥とドラゴンに分かれて空中大決戦!」

「うわー。常識がまったく見当たらない」


「最後に、お母さんに怒られて猛獣は砕け散った!最強はお母さんだと思う!」

「母は強しってことなのかな?……尻に敷かれてるねぇ、知りたくも無かったねぇ」



 ……なぁ、リリン。普通ってなんだろうな……。


 リリンの話を聞く限り、どう考えても普通じゃない。

 全長100mの氷の城を作るまでは出来たとしても、それが変形して空で戦うとか意味がわからん。

 なにその、タヌキがロボを召喚するのに匹敵するファンタジー。

 確実に、ランク6じゃねえだろ。



「それを普通と思って育ったんだねぇ。あーあ。可哀そうに」

「……なんで可哀そうなの?」


「ま、これで、リリンのお父さんが正体を隠していたのは確定的だね」

「うん。英雄ホーライ伝説にユルドの親友として出てくるアプリこそ、お父さんのアプリコットなのではないかと思っている。これはすごい事!!」


「うんうん。これだけ要素が出てきてるんだ。まず間違いなくそうだと思うよ。真実が一つ見つかったじゃないか、リリン。おめでとう」

「ありがとう!とても嬉しい!!」



 リリンの家族の謎、その一つが明らかになった。

 リリンの父親の名前は、『アプリコット』。

 ランク6の魔導師として多忙を過ごす魔導師でありながらも、子育てに奔走する良いお父さん。


 だが実際は、不安定機構の至宝、神魔杖罰・メルクリウスを所持する最高位魔導師。

 英雄ホーライ伝説を読む限り、レベルは99999に達しており、恐らく……超越者。親父と同じ『英雄』なのだろう。


 この事に気が付いたリリンは、大変にご機嫌ではしゃぎまくっている。

 英雄ホーライ伝説を取り出してはページをめくり、アプリの描写を探しては、平均的なニヤケ顔で微笑んでいる。

 でも、瞳の奥に憂いを隠している。

 亡くなってしまった父の事を思い出しているんだろう。


 ……少し、放っておこう。



「なぁ、ワルト。ちょっと聞きたいんだが、リリンのお父さんについて何か記録が残ってないのか?」

「それは……たぶん、残ってるだろうね」


「じゃあ、それを調べたりしないのか?」

「調べられないんだ」


「なに?」

「英雄として表立って行動しているユルドルードの経歴ですら、一切消えて無くなっているんだよ?それなのに、裏方にいたアプリコット様の経歴なんて簡単に追える物じゃないよね?」


「んー。言われてみればそうか」

「僕は指導聖母になってまだ日が浅い。こればっかりはどうしようもなくてさ。他の指導聖母の仕事を奪って内心点稼ぎに精を出している所だよ。大聖母ノウィン様に認められれば、新しい情報も手に入りやすくなるしね!」



 んん?

 他の指導聖母の仕事を奪ってる……?

 仕事って少ない方が良いんじゃないのか?

 もし俺だったら、仕事を肩代わりしてくれるなら喜んで差し出すけどな。


 だが、悪辣なワルトが仕事を押し付けられてるなんて事はないだろうし、考え過ぎだな。



「それにしても、セフィナが使ってきたメルクリウスはそんなに厄介な武器だったのか。困ったな」

「ホントにねぇ。なんというか、最初っから切り札を使うなんてアホの子感がすごいけど、それでも面倒な事になったと思うねぇ」

「いや、警戒するべきなのは、メルクリウスだけじゃない」



 自分の世界に浸っていたリリンが帰還した。

 どうやらセフィナの話題になったのを感じ取ったらしく、真剣な表情を机の上の携帯電魔に向けている。


 その雰囲気が伝わったのか、ワルトは疑うような声で問い返してきた。



「いやいや、メルクリウスよりも凄い切り札なんて、あるわけないだろう?」

「ううん。アレは間違いなく危険な代物。私の感がメルクリウスよりも危険だと言っている!」

「確かにな。アレを一目見た瞬間、魂が警笛を鳴らした。セフィナが不慣れだったから付け入る隙があったが、完全に使いこなされたら勝ち目があるかも疑わしいぜ」


「……覚醒グラムでも勝てるか疑わしい?何を馬鹿な事を」

「セフィナの『悪喰=イーター』は絶対の脅威!」

「あぁ、間違いなく世界をぶっ壊せる魔法だった。悪喰=イーターが正常に動き出したら、成す術がないだろうぜ!!」


「え?え?……。なにそれぇええええ!?僕、知らないんだけどッッッ!!」

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