第7章余談「たぬきにっき・激闘!999タヌキ委員会!!⑪終」
「な、なんという事だぁああああああああああああああああああ!?カツテナキ帝王!数千年の時を、時代を、歴史を刻んできた絶対勝利者の敗北ッ!!こ、これは時代を揺るがす一大事ですっ!!少なくとも、神は動揺して揺るぎまくってますッ!!」
ヤジリの声はどこまでも、静まり返った闘技石段の上に響く。
あまりの衝撃的な出来事を見て固まってしまっている将軍たちは、何をしたらいいのか分からず、ひたすらに闘技石段の上に立つ皇へと瞳を向けた。
数万の視線が交差する中で、絶句していない者が9匹。
8匹のタヌキ帝王と、アルカディア。
この一団は絶句はしていない。
だがそれでも唖然とし、口々に思いのままを呟いている。
「う“ぃ……?う”ぎるあ?ソドム様……?え?残ったのはおじさま?え?え?」
「ソドムが負けた……だと……?強すぎるアイツが、負けた……?」
「美しく無い光景ですわ。本当に……」
「ふしゃー!」
「ヴィーギルルン!」
「マジかいな……。ソドムの奴……いや、おっさんが強すぎるんやな」
「そどむっちを倒すって、ヤバすぎでしょ……。うわーエゼキエルも木端微塵だし!」
6匹とオマケな強者の軍団は、誰しもがソドムの敗北を認めがたいと苦々しい表情をしている。
アルカディアを除き、この一団はソドムとは数百年、または数千年以上の付き合いだ。
だからこそ、ソドムの強さを深い所まで理解している。
絶対強者だと理解していた仲間の敗北。
敵対者が皇たる那由他の武器を持っているとはいえ、それは信じられない暴挙なのだ。
だが、たった2匹のタヌキ帝王だけは違う。
ゲヘナとエデン。
この二匹は、それが起こる可能性を考慮していたかのように、そして、それがとても愉快な事だとでも言うように、静かに……笑っていた。
「……。」
「どこへ行くのです?ゲヘナくん」
「少々興味が湧きましたので、試しをしに行こうかと。グラムの力をあそこまで引き出せた人間が出現したのは、記憶の限りでは三千年以上も遡りますので」
「抜け駆けはダメですよ、ゲヘナくん。それに那由他様はお許しにならないでしょう。あぁ、とても残念です。王蟲兵以外に、私達と遊べそうな相手を見つけたというのに」
**********
「ユルド、すっごいじゃん!?まさかソドムに勝てるとは思って無かったよ!マジでさ!」
「蟲量大数を狙ってるんだ。配下タヌキになんか負けてらんねぇだろ!」
「配下って言っても、数千年の間、世界に君臨してきた絶対強者なんだけどね!さてさて、これは流石に予想外なんじゃないかな?那由他?」
闘技石段に降りてきたヤジリはユルドルードに近づくと、気安く声をかけた。
その気の抜けた声に、高まっていた戦意と闘気を削がれたユルドルードは、平常時のノリの良い冒険者スタイルを取り戻しグラムの覚醒を解く。
そしてそこに、空から那由他が降り立った。
世界を統べる強き者共の『会談』が始まるのだ。
「ふむ、よくぞソドムを倒したの、ユルド、流石は儂が欲する男。今夜は寝かさんじゃの!!」
「いや寝るぞ!!そんな事になったら、俺の男としての矜持が永眠するからなッ!!」
一瞬でその未来を予想して、ユルドルードが纏っていた戦意の欠片や闘気の残滓が、急激にしぼんでいく。
心が無になったユルドルードは少しだけ呆け、タイミングを失った。
その横では、ヤジリと那由他が緩すぎる空気で恋話に花を咲かせている。
「ふふふ。那由他がここまでユルドルードにこだわる理由が分かったよ!確かにこんなのキュンキュンきちゃうね!」
「じゃの!儂ですら勝てぬ蟲に勝つとほざくばかりか、それを成し遂げようと想像を超えた手段と方法を取りおったじゃの。まさか、新しい種族を作り仮初の皇となるなど、底抜けのアホじゃの!」
「底抜けのアホかー。でも気に入ってるんでしょ?マジなんでしょ?」
「当然じゃの!色恋沙汰なんぞに興味は無かったが、思えば、儂が経験しておらん事象など、もう数えるほどになってしまっておる。ここらで一つ……と思っておった所で、ユルドの登場じゃ」
「婚活を始めようとした瞬間に、良い男を見つけたってこと?あれあれ?キミにあげた能力はラッキーだったっけ?」
「くくく、きっとこれも、神の思し召しって奴じゃの!」
「ボク、何もしてないけど!!」
いつツッコミを入れてやろうかと待ち構えていたユルドルードは、話の流れが変わって来た事を察し瞬時に行動に移した。
このタイミングなら聞きそびれたことを聞けると、会話に割って入る。
「なぁ、もう殆どそうじゃないかって思ってるんだが、俺が正体を言い当てちまうのも無粋だろ?だから名乗ってくれないか?」
「おお!そうだね!!『約束は、守る気がある内は守る』がボクの信条!そんでもって今は気分が良いから、もちろん守るとも!!」
「あぁ。頼む」
それはただの、神の啓示。
愚かな人間へ示す、神の言葉だ。
「ボクは……この世界を作りし、『神』。世界の創造神であり、傍観者であり、解説役であり、観客だ」
「不安定機構が崇拝している神様か。本当にいたんだな」
「いるさ。具体的にいうと、この闘技場でグータラしながら解説者したり、指導聖母として周囲にちょっかい出したりしてるよ!」
「不敬だとは分ってるが言わせてくれ。……神、俗物すぎるだろッ!?」
「言うに事欠いて俗物だとぉ!?いいぞ!職業柄、罵倒されるのは慣れてるんだ!!口での喧嘩と行こうじゃないか!!」
「神が働くんじゃねぇよ!?神っぽい神殿とかで、ふんぞり返ってるのが普通だろ!?」
「そんなの面白く無いじゃん。そういう事してみた事もあったけど、結局、ボクの話相手は迷い込んだ小動物になっちゃうわけだし。あ、でも、ネズミが話してくれたトウモロコシ畑の決闘の話とか、結構おもしろかったかな……?」
「面白いのかそれ!?」
「そこそこ迫力あったんだよ。最終的にドラゴン倒すし」
「ネズミに負けてんじゃねえよッ!!ドラゴォォォォン!!」
神の語った壮絶なネズミの話。
主人公は体長15cmの、普通の『ハツカ・デス・ネズミ』。
特殊能力のないタダのネズミが、ドラゴン界最弱の黒土竜とはいえ、その王を名乗るドラゴンに勝つ。
そんな信じられない話をユルドルードは話の結末までしっかり聞いた後で真顔に戻り、話も戻した。
「で、神さんが当たり前に降臨しているんだが、それって知られざる禁忌だったりしないのか?知った者は神罰で殺すとか無いよな?」
「ないない。それに、不安定機構の超状安定化に属している人間は半分くらいボクの正体を知ってるし。当然、ノウィンも知ってるよ」
「……は?俺、超状安定化に属しているが初耳なんだが?英雄なのに知らなかったんだが?」
「超状安定化にはね、頭を使って世界を安定化させている文官枠と、頭突きで皇種を倒して世界を安定化させている脳筋枠があってね」
「……。」
「自分はどっちだと思う?ユルドルード?」
「ふ。そんなの当然……脳筋枠だッ!!」
神から直接暴言を吐かれる。
いくら心臓が屈強であり、しかも、皇種であるが故に二個あるユルドルードでも屈する他なかった。
くっ!正体を知っちまった瞬間、全て理解出来たぜ。
目の前にいるのは、俺がどうこう出来る存在じゃねぇ。
俺がアリを踏みつぶすのと同じように、神は、俺を容易に踏みつぶせるだろう。
これが、神殺しを10本も作って、倒しきれなかった存在。
そうか。
それで、いつも配下を大切にするナユが、暴走し掛けたアヴァロンを踏んだのか。
その見事な踏みっぷりに、アヴァロンにとってはあれがご褒美なのかと思ったくらいだが、神の不興を買うのを阻止していたってことだな。
ナユが配慮をするなんておかしいと思ったぜ。
ははは。笑えねぇ。
これはマジで笑えない事態だ。
「神さん、さっき『ノウィンは正体を知っている』と言ったよな?それは間違いない事なのか?」
「間違う訳ないじゃん。不安定機構の大聖母ってのは、いわば神との対談役だ。その人物がボクの正体を知らなくてどうするのさ?」
「そうだよな。じゃあもう一つ聞かせてくれ。いつからノウィンさんはあなたの正体を知っていた?」
「もうずっとだよ。ノウィンは産まれついてのエリートで、血筋の後押しもあって学生の時には既に大聖母の席に座ることが決まっていた。たぶん、キミらと知り合うよりも前からじゃないかな?」
「だったら……なんでだよ……」
「ん?」
「なんで、神に最も近い所にいながら、あの子を助けなかったッ!!最愛の子を、自分の子を見殺しなんかにしたんだッッ!!」
その咆哮は、エゼキエルリミット=ソドムを葬った一撃を超えるほどの怒りを含んでいた。
空気が目に見えて揺らぐほどの絶叫に、再び観客席のタヌキが黙る。
「あー。そういうことね。そっか……」
「何か知ってるのか?言えよ、神」
「たぶんだけどさ、ノウィンはボクに近すぎた。だからこそ、触れられなかったんだろうね」
「どういうことだ?」
「大聖母になるというのは、失言一つで世界を壊しかねない存在になるという事だ。事実、ボクの不興を買って世界は何度か滅びかけている」
「……。」
「そんな重圧を幼少期からノウィンは背負ってきた。『リィンスウィル家』……いや、ノワルがカーラレスを欺くためにシアンに名乗らせた『リンサベル家』は正真正銘の『人類の支配者の血統』。いろんな要因が重なってその激流に身を置く事になった彼女の葛藤は想像を絶するものだろう」
「不安定機構の始まりの血統だと……。」
「だからこそノウィンは、ボクに対して何も要求できなった。自分の子が死にかけても『助けて欲しい』と言えなかったんだ」
「何も行動をしなかったってのか?そのせいで結果は……」
「いいや。ノウィンは出来るだけの精一杯をしているよ」
「なに……?」
「当時は意味が分からなかったけど、今ならどういう事だったのかハッキリ分かる。ノウィンはボクに聞いたんだ。『存在を喪失させる毒を、打ち消す方法を知りませんか?』とね」
「それは!」
「そう、ボクは『どんな毒でも、世界最強の毒を持つ蟲量大数なら無効化できる』と答えた。それを聞いたノウィンはたったの一言「ありがとうございます」と言って、直ぐに出て行ったよ。まるで神から希望を与えられたみたいにね」
ユルドルードは、ノウィンが情報を持って来た事に対し、疑問に思うことさえなかった。
我が子を助けるために情報を探し求めた母が、その解決策を提示してきた所で誰が疑問に思うというのか。
それでも、アプリコットなら気が付いていたかもしれないと、ユルドルードは思った。
知っていながらもそれを黙っていたであろう友人へ、ユルドルードは悪態をつく。
「……はっ。ずるいぜ。アプリ……」
「そんな訳で、キミらの蟲量大数との戦いは正真正銘、神の神託によって定められたものだったわけだ。いやー!知られざる新事実だね!!なにせ、ボクも知らなかったくらいだし!!」
「ホントにな。なぁ、せっかくだから聞かせてくれ。もし、ノウィンが直接、あの子を助けてくれるように神さんに助力を願い出たとして、それをしてくれたのか?」
「しないね」
「理由を聞いてもいいか?」
「今も昔も、ボクは人間からの一方的な願いなんか叶えちゃいない。全部ボクがやりたいからやったことだ。そして、『死にそうな人間を生き返らす』そんなありふれた願いなんて数万回は聞いたよ。で、その答えは全て拒否だ。……理由?理由なんて無いんだよ。でも、しいて言うなら『おもしろくない』からだね」
「……そうか。神って奴は食えねぇ奴だな」
「そうさ。食の権化である那由他ですら、ボクを喰おうだなんて思わないくらいだしね!」
気が付くと、ユルドルードは笑っていた。
汗で濡れた額に手を当てて、くくくと乾いた笑いを振りまくその姿はまるで壊れた人形のようだ。
くくく!
まさか、懐かしい子に晩酌されてたらタヌキに地獄へ呼び出され、岩みてえな謎タヌキ軍団と戦ってたと思ったら、ごっついロボが登場。
その結果、神との謁見を果たし、知られざる事実を知る……か。
なんだこれッッ!?!?
まったく意味が分からな過ぎるだろッ!?
だが、色んなもんが進展した。
ノウィンが取った行動も、全てが間違っている訳じゃない。結果だけで言えば最善だったかもしれないと思うほどだ。
昔の事はどうにもならねぇ。
だからこそ、俺はこの瞬間を笑い飛ばし、前に進む。
英雄なんだぞ、俺は。
これしきの事でへこたれていられるかッ!!
「さて、ユルドルード。今夜は楽しませてくれたね。ぜひ、ボクからもプレゼントしたいものがある」
「なに……?何かをくれるのか?」
「そうだ。キミは新しい種族となり皇となった。それは恐らく、ボクの力の残滓『神の情報端末』にそういう願いをしたんだろう?」
「流石にバレるか。あぁ、そうだぜ」
「だが、ボクの見る限り、実に不安定な状態となっている。正規の生物進化じゃない方法な訳だし当然だね」
「そうなのか?力が増した感じがするから成功してると思ってたんだが?」
「ボクがキミの送る恩賞はこれだ。受け取るがいい!人外の皇・ユルドルード!!《神力下賜・ほら、遊んで来い!》」
神は手に治まらない程のクリスタルを作ると、それをユルドルードの胸に突きつけながら神撃を唱えた。
それはかつて、始原の皇種を作り出した時と同じ神撃。
そんな、理解の外側にある力を注ぎこまれたユルドルードは、伸張された意識の中で、神からの問いに答えた。
『お前の願いを求めよ』
そしてそれにユルドル―ドは答え、神から授けられし、権能を得る。
「……。軽いノリでくれたもんにしちゃぁ、凄すぎるもんを貰っちまったらしい」
「そうだね。まだ体に馴染んでなくて使い方が分からないと思うけど、その内に使いこなせるようになるよ。その『希望』の権能をね」
「ありがとよ。神さん。これで蟲量大数の攻略に希望が見えるというもんだ」
「それにしてもなんで希望なの?能力被りはダメだけど、もっとこうあったでしょ?例えば『殺虫の能力』とかさ」
「そんなもん選んだら、『人類を照らす蚊取り線香・ユルドルード!』とか言われそうだから却下で!」
「蚊取り線香ねー。それじゃ蟲量大数は倒せないでしょ?アイツの種族は『神斬蟲』だしね!」
「全然、名前負けしてない所が恐ろしいんだが?……ともかく、俺が欲したのは『希望』だ」
ユルドル―ドが希望を欲した理由。
それは、蟲量大数と戦い、二度目の敗北を喫した時に感じた絶望を、どうにかして拭いたかったからだ。
カツテナイ機神なんかとは比べ物にならない絶望を知っているユルドルードは、世界を旅しながらも、それを脱する事が出来ていない。
どれだけの皇種を負かしても、自分の技能に満足できず、蟲量大数に届く未来が見えなかったのだ。
だが、それは、神の力によって光明を得た。
後は磨きあげるだけだと、ユルドルードは拳を握る。
「のう?すっかりそんな空気じゃなくなってしまったがの、悪喰=イーターはいらんのかの?」
「それはそれ。これはこれ。貰えるもんは貰うに決まってんだろ。ナユ」
「そうじゃの!来るのじゃ、ソドム!!」
若干控えめに聞いてきた那由他の声は、ユルドルードの声に反応し、直ぐにいつものトーンに戻った。
そして、闘技石段の上に散らばった残骸を拾い集めていたソドムが、のそのそと歩いてくる。
見るからにやる気のない歩き。
その動きを見てたエデンは、「ふて腐れてますね。ゲヘナくん、バナナフルコースの用意をしておきなさい」と命令を出した。
「よう、クソタヌキィ。ちょっと見ないうちに縮んだか?さっきより一回り小さく見えるぜ。この負けタヌキめ!」
「……。ちっ、負けたのは事実だ。言い訳はしねぇよ」
「なんだ?案外素直じゃねえか。タヌキのくせによ!」
「……あとで吠え面かかせてやるからな。覚えておけよ。人間もどき」
先ほどの戦いをした者同士とは思えない低次元での戦いに、ヤジリは爆笑。
腹を抱えて笑いだし、その隙をついて那由他が主導権を握った。
「では早速、契約の履行と行くかの!ユルド、儂に続いて詠唱を行い、悪喰=イーターを出現させるじゃの!」
「そこら辺は普通の魔法と変わらないのか」
「ではいくぞ!《我が偉大にして究極なる全知の皇――》」
「《我が偉大にして究極なる全知の皇――》」
「《崇高なる才を持つ那由他の腹に、我の全てを捧げるものなり!》」
「……。《崇高なる才を持つ那由他に、我の全てを捧げるものなり》」
「《いくのだ我が分身!生きの良い白子を那由他なる腹…》」
「《面倒くせぇからさっさと出て来いッッ!!悪喰=イーターッッ!!》」
「なんじゃのー!?!?」
ギュゴォオオ!っと空間が捻じれ、バチバチと軋みを上げる。
ユルドルードは那由他の用意した詠唱を絶対に言いたくなかった。
それを一度でも口にしてしまったら全てが終わると、自分の才能をフルに使用し、奇跡を起こして見せたのだ。
空間の渦巻きが治まった場所には、正球なる物体が出現していた。
それは紛れもない、那由他なる権能。『悪喰=イーター』。
それを見たユルドルードは、自分の気持ちに従って、思った事を口に出した。
「なぁ……。ナユ」
「なんじゃの」
「この悪喰=イーター……何か黄色いんだけど」
ユルドルードの目の前には、真っ黄色の悪喰=イーターが出現。
それは紛れもなくユルドルードが出したものだが、ちょっとどうかと思うカラーリングに困惑している。
「何で黄色?さっきソドムが出した奴は普通の赤黒い色してただろ?」
「あぁ、確かにさっきのとは違うぜ。人間もどき」
「あん?じゃあこれは何なんだよ?クソタヌキ」
「それはな……」
「それは……?」
「俺の悪喰=イーター、バナナスペシャルだッッ!!」
「バナナッ!?」
「その悪喰イーターには、俺が数千年の間に食してきた古今東西あらゆるバナナの情報が詰まっている。どんなバナナであろうと、食った瞬間に産地が分かるぜ!」
「いらねええええ!!バナナの情報が蟲量大数との戦いで何の役に立つってんだよッ!?」
「世界最強たる蟲量大数にバナナを自慢して来い。蟲なんだし好きだろ……たぶん」
「ぶっ殺されるだろッ!!確実に、かつ、念入りにぶっ殺されるだろッ!!」
期待していた能力が、あまりにも酷い。
神から恩賞を貰うという幸福の後には、タヌキに馬鹿にされまくるという不幸がユルドルードを襲った。
それを見ていた神は、悶絶。
笑いすぎて息も絶え絶えとなり、プルプルと震えている。
「おい、さっきの使わせろよ、ソドム。こんなスペアの悪喰=イーターじゃなくってだ」
「何を言ってるんだ?こっちが第一の悪喰=イーターだが?」
「バナナなんだが?」
「バナナだからだ。あっちは戦闘用にカスタマイズした第二の悪喰=イーター。真理究明の他に万物破壊やら物質創造なんかも混ぜたもんだが、いかんせんエネルギーを喰いすぎる。だから俺がいつも使う悪喰=イーターはこのバナナスペシャルだぜ!」
「……。おいナユ」
「他のを出したければ、正しく詠唱をする事じゃの。というか、そうしないと使えんようにロックを掛けたから使えんの!」
「ちくしょうめ!!」
それでもユルドルードは、可能性に掛けた。
出現した悪喰=イーターに願い、神壊戦刃グラムの反芻を願う。
そして、その命令を受けた悪喰=イーターはギュルギュルと回転を始め光を発し、胴が割れ――。
そこには、バナナが無数に生えていた。
「……。もぐもぐ。おう、バナナだ」
「美味いだろ?」
「あぁ、美味すぎて、涙が出そうだぜ!!」
***********
「今宵の999タヌキ委員会はこれにて閉幕とするじゃの!我が配下よ、真なる美食を求め生きるのだ!」
「「「「「「「ヴィギルア!」」」」」」」
あぁ、やっと終わった。とユルドルードは肩の力を抜いた。
どうしてこんな事になったんだと本気で思うが、それでも、決して無駄ではなかったと拳を見つめる。
あぁ、俺はまだまだ成長の余地があるみたいだな。
よく考えりゃ、飄々としてるくせに絶対に勝たせてくれない『じじぃ』もいる。
この力を使いこなせたら、戦いを挑みに行ってみるとするか。
……だがまずは、癒しだ。
身体じゃねぇ。疲れた心を癒さないと色んな意味で死ぬ。
そうだな……温泉が良いなぁ。
最近、ギンが住みついている山の近くに良い温泉街が出来たって聞くし、行ってみるのも悪くない。
目の保養にはギンはぴったりだ。なにせデカイ。
その一点だけは、ナユなんか追い付けもしない。
砂山と天龍嶽ほど差があるぜ!!
緊張が解けた事による思考の緩み。
英雄としてはあり得ない油断だが、ユルドルードは現実から目を背けたかったのだ。
那由他が終幕の挨拶をした瞬間、タヌキ真帝王・エデンが動いた。
空に複数の魔法陣を浮かび上がらせ、全てのタヌキをそれぞれの群れへ送り返し始めたのだ。
それは、人類では不可能な魔法。
指定した対象を強制的に呼び出すのは簡単だ。
だがその逆、指定した対象をそれぞれの願った場所へ送り返すなど不可能だと、ユルドルードは思っていたのだ。
しかし、それが目の前で起こっている。
しかも、それをやっているタヌキ真帝王エデンは、周りのタヌキ帝王と楽しく談笑をしている始末。
今の所、あれには勝てそうもないなと、ユルドルードはしみじみ思った。
「なぁ、ムー。俺のエゼキエル、直るか……?」
「直すに決まってんじゃん!そもそも、そどむっちのエゼキエルは旧型なんだよ!だからバージョンアップもして、丁度いいから、構想中の新型機へと進化させるよー!」
そして、この追い打ちを聞いたユルドルードは、しっかり訓練に励もうと決めた。
そのうち来るであろう、カツテナイ新型機に打ち勝つために。
やがて、エデンの魔法も終わりを迎え、闘技石段にはユルドルードだけが残った。
気が付けば那由他も神も居ない。
召喚の途中でアヴァロンを抱えた神が那由他に何かを言っているのを見たのを最後に、両者とも見失ってしまった。
チラリと空に視線を向けてみれば、希望を戴く白天竜の後ろ姿が見える。
無事に脱出できたらしく、隔離されていた空間は元に戻され、傷ついた闘技場も修復済みだ。
今度こそ全て終わったと、ユルドルードは深い溜め息を吐いて、歩き出す。
「あぁ、まったく。タヌキって奴は本当に害獣だ!」
皆さま、こんにちわ(こんばんわ!)青色の鮫です!!
『999タヌキ委員会編』の完結を祝うと共に、本日はお知らせがあって来ました。
それは……。
番外編、『悪辣聖女見習いと行く、リリンサの冒険 ~世界に対して、私は強い!~』の連載スタートですッ!!
これは言わずもがな、リリンサがユニクルフィンに出会う前の、前日譚。
今の所は天使なリリンサと、もう既に真っ黒なワルトナがユニクルフィンを探して旅をし、仲間を得て、そして立派な大悪魔へと成長していく、ハートフル(ボッコ)ストーリーです。
そんな訳で、こちらの方も応援していただけたら嬉しく思います。
どうぞ、よろしくお願いします!
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