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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第7章「仇敵の無敵殲滅」

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第7章余談「たぬきにっき・激闘!999タヌキ委員会!!⑧」※挿絵あり

 

「……は?」



 高らかに宣言した那由他の言葉を聞いたユルドルードは、疑問の声を上げるので精いっぱいだった。

「確か、雑魚タヌキと戦えばいいだけの簡単な仕事だったはずだが?」と思考が固まっているのだ。



「いや待ておかしい。何でタヌキ帝王なんぞと戦わなくちゃならねんだよ?」

「何度も言っておるがの、これは試験じゃの」


「おう」

「で、試験というからには、どうやれば超越者を倒せたかのデモンストレーションを行う必要があるというのは、言うまでも無い事じゃの?」


「……おう」

「ということで、帝王試験が不合格に終わった場合、現存のタヌキ帝王がその超越者と戦い、正しい攻略方法を示すのじゃ!」


「……つまり、お前は平和に暮らしてた皇種を無理やり連れて着た挙げ句、タヌキ帝王と殺し合いさせてるって事か?」

「そういう事になるの!」


「すんげぇ迷惑極まりないッッ!!!つーか皇種が可哀そうだろッ!!」



 なんだこの害獣はッ!!

 皇種ってのは、文字通り、一族を統べる王様でもあるんだぞッ!!

 そんな王様を拉致してきて、タヌキデスマッチだとッッ!?


 どおりで最近、皇種が大人しいと思ったよッ!!

 出会った皇種がお前の顔見て一目散に逃げていく理由も、完全に理解したぜッ!!!



「ナユ、まず戦うとか以前に、言っておく事がある」

「愛の告白かの?」


「違うッ!!俺が言いたいのは、そんなにホイホイ皇種を殺すんじゃねえってことだよッ!!」

「一応、理由を聞こうかの」


「知ってるくせにそれ言う!?まぁいいぜ。いくらでも言ってやるよ!!……あのな、俺と一騎打ちをして服従させてる皇種共が死んだら、すぐに次代の皇種が生まれて暴れ出すだろうがッ!!」

「そしたらまた倒せばよかろう?誕生して間もない雑魚皇種では、お前さんの敵ではあるまい?」


「俺の敵じゃなくても、人類の天敵なんだよッ!!つーかお前が「人類は弱いからすぐ死ぬのー!ふはははは!!」って笑いやがったの、俺、覚えてるからな!?」

「なんじゃ、そんな他愛も無い会話を覚えておるのか。くくく、お主の心は儂で満ちておるの!」


「そうだよッ!!一瞬たりとも目が離せねぇ!!俺の丈夫な心臓も、心労で止まりそうだぜッ!!」



 ユルドルードは現在、蟲量大数を攻略するべく、世界を旅しながら己を磨いている。


 8年前、ユルドルード達は用意できる最高クラスの戦力で蟲量大数に挑み、惨敗した。

 その4人は、無量大数の権能『無限へ至る”力”』の前に成す術がなく、ただ遊ばれただけ。

 そして、世界最強たる蟲量大数と戦闘を行えた(遊べた)という事に対しての恩賞として、全員の命は奪われる事が無かったのだ。


 だが、ユルドルード達の戦いは終わっていない。

 とある条件のもとに再び戦う事を運命づけられており、ユルドルードは強者を求め、ひたすら世界を巡った。

 己が技量を磨くための、害敵を追い求めたのだ。


 その最たる害敵こそ、『皇種』。

 人類の敵たる皇種を放置しておく事は出来ず、戦闘を行う事で得られる経験も膨大であり、だからこそ、ユルドルードは皇種と戦い続けている。


 しかし、戦いの決着が付いても、トドメを差さない事も多い。

 理由は簡単なことだ。『死にたく無ければ、人を襲わないように配下を統率しろ』。

 簡単に言えば、相手の命を賭け金にした和平交渉をしているのである。


 当然、断れば命は無く、皇であるというプライドが嘘をつく事を許さない。

 和平が結ばれた後は、両者とも無言でその場から立ち去る事が殆どだが、約束が破られる事は不思議と少ない。


 時々たまに、服従の眼差しで後を付いてくる皇種も居るが、ソレは些細なことだ。



「それにしても、そこの脅威度中タヌキ共は20回も試験に落ちているとか言ってたよな?だとすると20匹の皇種がタヌキ帝王の餌食にされたってことか?」

「安心するじゃの。餌食にはしたが、殺してはおらん。予め、この闘技場のシステムを複製した魔法を掛けるから、死んでも元通りじゃ!」


「いや、安心していいのかそれ?死んで元通りつっても、死ぬ経験をする訳だしな。戦闘力の向上は間違いないだろ」

「確かにの。お前さんのペットの『ラグナガルム』など、頻繁に呼び出しているせいで戦闘力爆上げじゃのー!今なら、上の方の帝王とも戦えるようになってきておるしの!!」


「すげぇ爆弾落しやがったッ!?!?ラグナ、生きてるのかよッ!?」



 ユルドルードが那由他に出会う前に一緒に旅をしていた相棒がいる。

 その相棒こそ、狼の皇種『ラグナガルム』だ。


 深い森の中で数百人の冒険者が、未知の害獣の討伐に出て戻らないという事件が起こった。

 最初は数人程度の失踪だったのが、その捜索隊数十人、そのまた捜索隊が数百人、と増えてゆき、最後には近隣の町全ての冒険者を動員するという非常事態に発展。


 最後の捜索の時は熟練の冒険者も多く、タイタンヘッドなども参加している。

 そんな熟練の冒険者が見たものは……死屍累々が積みあげられた山と、子育てをする狼の群れ。


 そして、その中心に居たのが……若き狼の皇だったのだ。

 冒険者たちは恐れながらも、狼の皇に語り掛けた。



「俺達が悪かった。何もしないから見逃してくれ」



 だが、ラグナガルムの答えは『否』だった。



「《――人間よ。お主らを見逃すことはできぬ。お主らはここへ、我らを殺しに来たのであろう?》」

「すまない。だが、知らなかったんだ」


「《自分よりも強者がいると知らなかったから許せと?お主ら人間が攻め入って来たというのに、なんと愚かで傲慢であろうか。我が同胞たちに蹂躙されて死ぬがよい》」



 そうして冒険者たちは決死の戦いに挑む事になり、……九死に一生を得た。

 ユルドルードを中心とした若き冒険者パーティーが到着し、ラグナガルムを倒して降伏させたのである。


 やがて時が経ち、ユルドルードと再会を果たしたラグナガルムは、速攻で腹を見せて服従のポーズを取った。

 狼には強き者に従う本能があり、ユルドルードが発した威嚇で心が折れたのである。


 ユルドルードはその狼の皇種に『ラグナ』という愛称をつけて、暫くの間、一人と一匹で仲良く旅をしていた。

 そして、いつの間にか姿が見えなくなってしまい、もしかして蟲にやられてしまったのかと、心を痛めていたのである。



「おいナユ!!ラグナは元気なのか!?おいッ!!」

「元気じゃの。たまたま偶然に出会い、暇つぶしにボコってやったら降伏してきての。帝王試験で皇種を捕まえるのが面倒な時は、大抵、ラグナガルムを呼ぶじゃの!」


「……。つまりアイツは、俺からお前に主人を乗り変えたってことか?」

「うむ。お前さんの所に顔を出しづらいと言っておったし、間違い無かろう」


「……今度会ったら、シメてやる!」



 それなりに愛でていたペットの生存を喜ぶ気持ちと、タヌキが狼を飼っているという頭の痛い展開に挟まれたユルドルードは、事態をブン投げた。

 さっさとやる事やって帰って寝ようと、那由他に向き直る。



「で、タヌキ帝王と戦う理由は分かったが、俺に何かメリットはあるのか?」

「もちろんあるじゃの。招いた超越者がタヌキ帝王に勝てた場合、儂の加護を与えておるじゃの」


「俺にはもう加護は付いてるよな?重複すると良い事でもあるのか?」

「無いじゃの」


「そうか。じゃ、帰るか」

「じゃから、もしタヌキ帝王に勝てた場合、そいつの持っている悪喰=イーターをくれてやろう。無論、そのタヌキ帝王が拒否できない様にした上での」


「乗ったぜ。話が分かるじゃねえか、ナユ」



 ユルドルードにとって、これほど都合の良い展開は無い。

 当然、態度を一変し、覚醒グラムを構え直す。



 随分と聞き訳が良いが、何か企んでいるのか?

 だが、これは俺にとってもチャンスだ。

 悪喰=イーターの力があれば、神殺しシリーズを含む伝説の武器が一気に手に入る。

 こういった装備面の充実は、確実に俺を強くしてくれるし願ったりだぜ!



「では、お主が戦いたいタヌキ帝王を一匹選ぶじゃの!」

「そうだな。おい、そど――いや、待て」



 上機嫌となったユルドル―ドは那由他に促されるまま、ソドムの名を呼ぼうとした。

 だがソレを中断し、視線を闘技場の観客席へと向ける。


 そこには9匹のタヌキ帝王達が、それぞれ何かを喰いながらダベっていた。

 食い意地張ってんなぁ、タヌキ!!と悪態をついて、ユルドルードは再び視線を那由他に戻す。



「ふむ?ソドムを選ぶと思っておったがの?」

「まぁ待て。選ぶ前にタヌキ帝王の紹介をしてくれよ。じゃねぇと、選びようがねえだろ?」


「確かの一理あるの。タヌキ帝王達よ、ここに集結するのじゃの!!」

「「「「「「「「ヴィギルオンッ!!」」」」」」」」



 那由他が指を鳴らした瞬間、タヌキ帝王達は一斉に動き出し、それぞれが得意とする方法で闘技石段へと登る。


 空を翔ける者。

 転移魔法でワープする者。

 脚力に任せて跳躍する者。

 魔法で浮遊する者。

 普通に歩いて来る者。


 様々な方法で行われた移動だが、全て結果は同じだ。

 1秒に満たない僅かな時間で那由他の前に到着し、一同は平伏した。



「顔を上げてよいの。さすがは儂の側近たちよ。意図を理解し、席次順に並んでおるとは気がきくじゃの!」

「席次順?席次ってことは、強さの階級順ってことか。へぇ、ソドム、お前……4番目なんだな」



 目の前に並んだタヌキ帝王を見たユルドルードは、右から4番目に立っているソドムへ話しかけた。

 それは、何かと因縁のあるソドムへの牽制でもあったが、もう一つ大きな理由がある。



 ……なんだコイツら、個性が強すぎるッッ!!



 ユルドルードは目の前のタヌキ帝王達を見て、どこにツッコミを入れていいか分からず、困惑。

 とりあえず一応、顔見知りなソドムに話しかけたのだ。

 なお、ソドムは無視をしている。




 **********





「さて、では、第9席次から順に紹介を――」

「はいはーい!それ、ボクがやるよ!!」


「任せていいじゃの?」

「もちろんさ!というか、実況したくてウズウズしてるよ!!」



 なんだよ、実況したくてうずうずしているって!?

 名前からして、野次を飛ばす気満々だろ!!


 突然話に割り込んできたヤジリは、ナユから話の主導権を奪うと、マイクを片手に早速移動した。

 一番左側のタヌキへ歩み寄り、声高らかに紹介を始めている。


 タヌキ帝王の紹介ができるとか、マジで人間じゃ無さそうだ。



「それじゃ、さくさく行くよ!!コイツは、タヌキ帝王第9席次『アヴァロン』!小さな島国を領地に持つ、比較的新しいタヌキ帝王だね!」

「おい、お前……」


「ちなみにソドムの弟子だったけど、あんまり仲良くないみたいで、タヌキ帝王の中じゃ、最弱――」

「おいそこのお前。我らが皇たる那由他様の出番を奪うなど、不届き千万である!処刑してくれるわッ!!」


「お―怖ーい!……那由他どうする?」

「踏んでいいの」


「おっけーい!ぎゅむ!」

「ヴィギルオッ!」



 おう、アヴァロンって言うのか、あの足ふきマット。

 身体もでかいし結構強そうなのに、さっきから踏まれまくりとか力関係が明白すぎる。

 予想するに、冥王竜と同じくらいだな。あいつも白天竜にボコられてたし。



「じゃ、次行くよ!タヌキ帝王第8席次!その名は……『エーリュシオン』!世界一美しい毛並みを持つタヌキと言われ、自他共に認めるタヌキ界のスーパーアイドルであります!!」

「いえいえ、世界一美しいのは那由他様です。私は二番目です。二番目!あの子娘には負けませんわ!!」



 うわぁ。毛並みがサラッサラ。

 しかも長い。長くてサラッサラ。高級室内犬なんてレベルじゃねぇ。

 間違い無く伝説の珍獣だな。


 第一、戦闘力がさっきのアヴァロンとは比べ物にならないはずだ。

 見えるだけで10種類以上のバッファが掛ってやがる……。


 で、ここまでは良い。

 一応タヌキの枠組みから出ていないし。

 ……問題は次だ。



「ほい、次!タヌキ帝王第7席次!『アトランティス』!伝説の港に住んでいたタヌキ帝王で、性格はのんびり屋さん!のんびり過ぎて、気が付いたら自分の領地が海の中に沈んでいたぞ!!」

「……。」


「でも、一度戦いを始めたら苛烈の一言!どんな敵でも打ち倒す!!どうかな?アトランティス。何か言いたいこと有るかな?コメントをどうぞ!」

「……にゃーん!!」


「おい、ちょっと待て。」

「何かな?ユルドルード」


「分かってると思うがあえて言ってやるよ。……明らかに、タヌキじゃねぇもんが紛れ込んでるんだがッ!?」



 ちくしょうめ。ダメだった!!絶対にツッコんでやらんと身構えてたのに、我慢しきれなかった!

 くっ!!あのタイミングで鳴くのは卑怯だろッ!!



「どう見ても猫だろソイツ。何でタヌキの中に紛れてやがる?」

「いや、コイツはしっかりタヌキだよ。化けてるだけさ」


「どこから見ても普通の三毛猫じゃねえか!だが、100歩譲ってタヌキだという事にしてやる。で、タヌキが何で猫に化けてる?」

「1000年くらい前かなー?アトランティスは港にいた猫に恋をしてね。でもタヌキだからフラレれたんだ」


「当たり前だろ」

「それがショックだったらしくてね。イメチェンしたらしいよ?猫を被ってるって奴さ!」


「それは比喩的な意味だよな?本物の猫の皮じゃねえよな?」

「そこん事どうなの?アトランティス?」


「にゃーん!」

「失礼な!この毛は自前だ!!だって」



 自前だとッ!?どこをどうカットしたらあんな綺麗な三毛になるんだよ!?

 そもそも、タヌキはイヌ科だろうがッ!!



「さて次はっと……。あ、エルドラドだね」

「ワイはオッサンとは顔見知りなんで、紹介とか不要ですなー」


「うんでも一応これだけは言っておくよ。エルドラドはタヌキ将軍です!帝王じゃありません!!」



 何?帝王じゃないだと?

 ヴァジュラを持ってて、希望を戴く白天竜を落とせるような奴がか?

 これは確認しておくべきだな。

 ユニクと何やらしてたみたいだし。



「エル。お前はタヌキ将軍だというが、その強さから言っておかしいだろ?何か理由があるのか?」

「あぁ、理由らしい理由はあらへん。が、しいて言うなら、この立場が好きなんや」


「何?」

「タヌキ帝王になってまうと、周りのタヌキ達から敬われるやん?ワイはどっちかっていうと仲良くワイワイしたいんや。だからワザとタヌキ将軍に落ちてるんやで」



 なるほど。ワザと落ちてるって事は、タヌキ帝王だった時代もあるって事か。

 そりゃそうだろ。神殺しを覚醒させられるんなら、超越者の資格は当然持ってるだろうしな。


 さて、次は……。

 コイツに関しては直接、聞きたい事がある。



「続いて、第5席次、『ゴモラ』!!このゴモラは、完全魔導師タイプであり、ランク0もよゆーで使いこなす恐ろしき使い手だ!」

「すまん、ちょっと俺からコイツに話しかけていいか?」


「いいけど?」

「じゃ、単刀直入に行くぜ……。お前、生きてやがったのかッ!!」



 ソドムが平然と出てきているから可能性は考慮していたが……当たり前のようにいるんじゃねえよ!!

 お前を斬った剣、グラムだぞッ!?

 しっかり覚醒もさせてたぞ!?死んどけよ!!



「ヴィギル~ン!」

「……は?今なんて?分かったか、ヤジリ?」

「通訳すると、『お前程度に殺されるわけがないだろう、若造が。身の程をわきまえて風呂に入り、飯を食ってベッドで寝て、老衰で死んで転生してから出直してこい』だって」


「文章の比率がおかしい!!明らかに付けくわえているだろ!?」

「って、那由他がカンペを出してるよ!」


「お前ら結託してボケを挟んでくるんじゃねえ!!」



 あーもー!タヌキ相手にどうやってシリアスムードを出せばいいのか分からねぇ!!

 というか、そんなこと出来るのか!?


 少なくとも、俺には出来ないッ!!



「ほいほい次は~。タヌキ帝王第4席次、『ソドム』!……もはや、説明は不要でしょう! 不安定機構の歴史書にも数多く名前が登場し、どの書物でも、最終的に『クソタヌキである』と締めくくられている。まさに、キング・オブ・クソタヌキだッ!!」

「俺が悪いんじゃねぇ。人類が弱いのが悪いんだ。あとバナナ寄越せ」


「この悪びれなさ!まったくブレない!!ちなみに、魔導枢機霊王国ソドムゴモラを陥落させた際、厳重な警備を潜り抜けて侵入し、大規模タヌキ召喚魔法でタヌキ兵を送り込むという重要な任務をしたがコイツ!そんでもって、魔導王の『魔導機』と一騎打ちして見事に勝利をしています!」

「懐かしい思い出だ。それにしても、あの頃に比べて人類は弱くなったなぁ。まず、装備品の質が違う。鎧の一つも出してこねぇ!」


「そうだねー。あの鎧はまだ大事にしてるの?」

「当然だ。アレは俺の宝だからな」



 ……なんだ鎧って?

 タヌキが鎧を着るのか?無理だろ。


 いや、人化すれば着れるだろうが……本気の戦闘はアルカみたいに人間形態でやるのか?

 エルも人型だし、ありえなくはねぇな。


 ……で。次は、謎のタヌキ再び。



「さらに次は~、タヌキ帝王第3席次『ムー』!」

「《ウィィ―ン!》《ウィィ―ン!》《ガシャン!》どうも、僕がムーだよ《プシュゥゥゥ!》」


「おい、さらに待て。なんだそのカッコいい台座は?タヌキのくせに八本足のメカに乗ってんじゃねえよ。自分で歩け!!」

「えー。歩くのとかダルイじゃん。そんな暇あったら設計図を描くし」


「……設計図?」

「そうそう。僕はメカニックだからね。神殺しと言えど魔道具なんだから手入れは必要でしょ?そういうのは僕がやってるんだよね。で、新しい魔導を作るのも僕の仕事ってわけ」


「一応聞くが、グラムや黒煌に何かしてねぇだろうな?」

「黒煌は神様が作った芸術品だから磨くだけー。神殺しは何度かバラしてるけど、グラムは絶対破壊不可があるから無茶は出来なーい。精々、覚醒させてメンテナンスするのでやっとだねー」


「さらっとグラムを覚醒させるとか、怖い事を言いやがったな……」



 ……コイツは、ヤバかもしれない。

 口調も柔らかいし、体も小さめだ。


 だが、視線の動かし方や、リラックスしているように見えて一欠片の隙も無い体運びがタダものじゃねぇ。

 流石はソドムよりも上にいるだけの事はある。



「さて、そろそろクライマックスだ!タヌキ帝王第2席次、コイツは……この世界に君臨せし絶望の代名詞。もし那由他がいなければ、次の皇種はコイツになるんじゃないだろうか?」

「何ッ……!?」


「その名も……『タヌキ帝王・ゲヘナ』!」

「お褒めにあずかり光栄でございます。世界の君主様」



 コイツはヤバいなんてもんじゃねぇ。

 勝てない……かもしれねぇ。


 一目で理解した。今の俺じゃ、コイツと戦ったら確実に勝てるという保証は無い。

 お互いに実力を出し切った先で、時の運が勝敗を分けるはずだ。


 黒い毛並みを纏う、漆黒のタヌキ。

 立ちあがった姿は1mにも満たない並みサイズなタヌキ。


 だが俺には分かる。

 あの毛並みの色。アレはグラムの影響を受けた色だ。

 体中が黒く染まるなんて、アイツは一体どれだけ長い間、グラムを所持してやがったんだ?


 ちぃ。まいったぜ。

 なにせ、まだ一匹残ってるんだからな……!



「そして、最後!……絶対にして、孤高。至高にして、極地。暴虐無尽に振る舞うタヌキ帝王を支配する、真なる王!『タヌキ真帝王エンペラー・エデン!!』」

「……。あの……。」


「ん?どうしたの?エデン」

「いや、そんな偉そうに語らなくていいというか……。私は別に、みんなを支配していないって言うか……」


「いやいや、実際、キミが一番強いよね?」

「そ、そんなことないです!ゲヘナくんの方が足は速いです!!」


「それ以外は?」

「え、えっと……。私より、体が大きい、とか?」


「はい。という事で、このエデンはタヌキ帝王の中で一番ヤべー奴です!どんくらいヤベーかというと、魔法に精通し過ぎて神が作ったシステムに介入して、自由に世界の理を弄れます。コイツがその気になったら、人間の平均寿命を『1分』とかに出来る訳だね」

「それは流石に無理です……。セミの成虫くらいが限界ですよ」



 ……は?

 セミくらいが限界って、人間の平均寿命を1週間に出来るってことか?

 なにその、終末の七日間ッ!?

 どんな生物でも1週間で絶滅させるとか、神愛聖剣いらねえじゃねえかッ!?


 というかそもそも、コイツはタヌキ……なのか?

 毛並みは白一色。

 何かの突然変異、たしか、アルビノとか言ったっけか?

 とにかく、コイツが意味不明な力を持っているのは分かった。


 で、気になる事が出来た訳だが……聞いておいた方がいいな。



「なぁ、さっきのゲヘナと比べても、このエデンの方が強いんだろ?で、借りにナユが死んだ場合、皇種になるのがゲヘナっておかしくねえか?」

「あぁ、それはね……。もしそんな事になった場合、神のシステムを弄って皇種の資格をゲヘナに押し付けるからさ。そうだろ?エデン」

「だって、私が那由他様の代わりなんて無理ですよ!ストレスで毛が白くなっちゃいます!!」



 白い毛って、ストレスでそうなったのかよ!?

 いやいや騙されるな!相手はタヌキ。息をするように平然と嘘を吐くぞ!!



「で、紹介が終わったわけだけど、どのタヌキを選ぶの?やっぱり一番強いエデン?それとも、絶対に勝てるであろうアヴァロン(コイツ)?」

「そろそろ足をどけてやれよ。ちなみにソイツじゃねえけどな」


「へー。じゃ、一体どのタヌキなのかな?ボクに教えておくれよ!!」

「あぁ、それはな……」


「それは……?」

「お前だよ、ソドム」



 せっかくだし、格好つけて宣言してやるぜ。


 俺は一列に並ぶタヌキの真ん中らへん、それなりに小ぶりなタヌキ帝王ソドムを指名した。

 そして、ソドムは俺が指名する事を分かっていたらしく、楽しげな表情で立ちあがり歩み出る。


 視線を交差させ、感じる敵意。

 リベンジマッチと行こうじゃねえか。ソドム!!



「くくく、お前は俺を選ぶと思っていたぞ、人間もどき」

「俺が人間を辞めてるって理解してて、そんだけデカイ態度を取れるとは大したもんだな。昔戦った時とは桁が違うんだぜ」


「見りゃわかるさ」

「そうか。確かお前は『真理究明』の悪喰=イーターを持ってるんだったよな?貰ってやるよ、その力」


「大した自身だな。だが、俺はタヌキ帝王(勝つ手段が無いタヌキ)だ。ましてや戦闘を行う為の準備時間もいっぱいあったというオマケ付きと来た」

「バッファを練り上げてるようには見えねえがな。グラムで一刀両断できるだろ?」


「グラム。神をも壊す破壊の刃か。……だが俺が持つのは『神をも下す、勝利の剣』だ。《サモンウエポン=神敗途絶しんはいとぜつ・エクスカリバー!》」

「なんだとッ!?」



 その名を聞いた瞬間、俺はソドムから距離を取った。

 離れた距離はおおよそ15mほど。

 これくらいが神殺しを相手にするにはやりやすい距離だからだ。


 意識を集中しつつグラムを構えれば、周囲の変化に気が付いた。


 自己主張の激しすぎるタヌキ帝王どもが、全員、観客席に戻ってやがる。

 ソドムに意識を向けていたとはいえ、俺の索敵を潜り抜けるとはやるじゃねえか。


 さて、目の前のコイツに集中するか。

 ソドムは光で出来た剣を出現させ、ソレを頭上に称えている。

 それはまるで、戦いを示す軍旗の様だ。



「戦う前に一つ聞くぞ、ユルドルード。お前は、鎧を着てるよな?」

「あぁ、着てるぞ。むしろ着込んでいる。もう二度と全裸英雄と呼ばれない為にな」


「だったらよ、俺が鎧を着ても構わないよな?」

「鎧ぐらい好きなだけ着ろよ。そんなもん、グラムの前じゃ役に立たん」


「そうか。それじゃあ、遠慮無く召喚させて貰うとするぜ」

「な……に……?」


「《来い=俺の帝王機カイゼルヴァーズ!》」



 俺の目に映ったもの、それは7重の巨大な魔法陣だった。


 それらは神敗途絶・エクスカリバーを中心に、まるで人の形を模すように並び、虹色の光を発している。

 虹は危険だ。

 虹色は世界を示す光で、神殺しを覚醒させた際に発する光だからだ。


 だが俺は、その光景を見続ける事しかできなかった。


 圧倒的力の召喚。

 黒く輝く鋼鉄の巨腕。

 目視では理解できない程の重量を持つであろう鋼鉄の足。

 漆黒が輝く胴も、腕も、足も、全ては理解の外側にある。


 これはまさか……。

 伝説上に存在したとされる、魔導巨人ってやつなのか……?



「は、はは……。やべぇ。完全に見誤った」



 そして、タヌキ帝王ソドムは鎧を召喚した。


 天空に聳え立つ直系10mの召喚陣から降下してきたのは、漆黒の魔導巨人。

 全ての装甲が宝石と見間違える程の純黒の輝きを発し、その硬度は想像を絶するものだろう。

 なにせ、使われている金属が、グラムに使用されているものと酷似しているのだ。

 神の力によって生み出されたと言われても不思議ではなく、実際、途方もないエネルギーが空間を歪め、バチバチと音を立てている。


 ドズンと音を立てて、帝王機は闘技石段に降り立った。

 高さ5m。幅5mの神製金属の塊。

 その重量は想像することすら不可能。たとえグラムの能力で重さを軽減したとしても、誤差だと笑われてしまうだろう。



「見よ、これが俺の『帝王機カイゼルヴァーズ・エゼキエルリミット=ソドム』だ」


「……参ったぜ。マジで、勝利する手段が見当たらねぇッッ!!」


挿絵(By みてみん)

ついに、ソドムが、帝王機を召喚しやがりましたッ!!

感無量です!タヌキが巨大ロボを召喚する小説はきっと、この小説だけです!!


ちなみにですが、イラストは『青色の鮫』さんに描いていただきました。

……。

…………はい。自分で描きました。


何故にメカ描いたし!?とか、

他のメインキャラを描けよ!!とか思う方もいらっしゃるかもしれません。


……ですが、伝説級クソタヌキムーブを繰り出すソドムの、圧倒的な力を表現する為には、挿絵が必要不可欠だったのです!

(本音、折角書いたロボを公開したかった)



評判が良かったら、今後も挿絵を描いて行こうと思います!!

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