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第7章余談「たぬきにっき・激闘!999タヌキ委員会!!③」

「「「「「ヴギロア~!」」」」」」



 安らかな笑顔で天に昇ってゆくタヌキ将軍。

 その凄惨な光景を見たヤジリは、実況者魂を高ぶらせて熱い口調で語り出した。



「タ・ヌ・キ!大絶滅ぅぅぅぅ!!これは凄まじい光景です!!レベル上限に達したタヌキ将軍たちが、安らかな顔で天に昇っていきます!なんだこれ!?ボクが見たこと無いとか、黙示録か何かか!?」

「ふむ。89匹、失格じゃの!」


「……あれ?悪喰はどっちを応援してるの?」

「どっちもじゃの。儂の可愛い子分が強くなるのも良し。将来の旦那が子分に力を見せつけるのも良し。じゃの!」


「は?旦那って、誰の?」

「もちろん儂のじゃの。ユルドは儂の伴侶となる事が決まっておるじゃの!!」


「な、な、なんだってーー!!それ、マジで言ってたのかよ!?」

「マジマジ。大マジじゃの!」


「……おう。マジで冗談じゃねえ!」



 いつの間にかヤジリの横に陣取った那由他は、ゆったりと試合を観戦している。

 そして闘技石段を見降ろしながら、好き放題、ヤジを飛ばしているのだ。


 この世界でもとびきりに面倒な性格が揃った天空が、盛り上がっている。

 それをチラリと横目で見たユルドルードは苛立ちを隠しもせず、タヌキ将軍へ向けた。



「おい。そこに隠れてんのは分かってんだよ。出て来いッ!!」

「ヴィギロア”!?」



 ユルドルードは何も存在しない空間を箸で指し示し、覇気を飛ばす。

 そして、追い出されたように5匹のタヌキ将軍が飛び出してきた。


 この5匹は、タヌキ将軍・暗殺部隊に在籍するタヌキ将軍であり、斥候部隊が作った隙をついて強襲を仕掛ける予定だったタヌキ達だ。

 タヌキ将軍たちは、皇たる那由他と謁見を果たした事により、己が歩んできたタヌキ生を省みた。

そして、「ヴィギロア!自分はなんて愚かな子タヌキだったのか……」と心を改めたのだ。


 その心境の変化は顕著に表れ、心ばかりか肉体にも変化を与えた。

 那由他がタヌキ将軍達に与えたバッファ『極限なる覚醒者サウザンド・ハンドレッド』は、擬似的に超越者と同じ能力を得る事が出来る魔法だ。

 そして、超越者となった者は文字どおりに神が定めし理を超え、生物として運命づけられている限界値を取り払われる。


 すなわち、生物ごとに神が決めている『成長限界値』『新陳代謝の上限値』といった寿命が撤廃され、『食事』『睡眠』などを行わなくても、生命維持に影響を与えなくなる。

 一言で言うならば『無限に成長する不老者』となるのだ。


 だからこそ、その力を一時的に那由他から与えられたタヌキ将軍たちは、己が肉体を鍛え上げ抜いた。

 唯でさえ鍛えていた肉体を、ドラゴンの聖地を強襲するというスパルタ教育によって進化させたのだ。


 やがて岩の様な身体を得たタヌキ将軍たちは、己が得意とする戦術を磨き抜き、おのずと複数のグループへと別れて行く。


 ・豊富な知識を生かした情報収拾が得意な『タヌキ斥候部隊』。

 ・隠密行動と的確な判断が売りの『タヌキ暗殺部隊』。

 ・どんな悪路でも移動を可能とし、高速戦闘で敵を翻弄する『タヌキ機動部隊』。

 ・必殺の一撃を繰り出す、迸る筋肉『タヌキ重歩兵部隊』。

 ・離れた位置からの援護をする『タヌキ魔導部隊』。


 合計800匹のタヌキ将軍達は、この五つの部隊に分かれ、それぞれが持つ技と技能を磨きあげてきた。

 強き人間の代名詞たる『英雄・ユルドルード』を打ち倒す為に。



「「「「「ヴィギロアアッ!」」」」」

「お前ら5匹は根性があると認めてやるよ」



 バレてしまっては仕方が無い。

 タヌキ暗殺部隊に在籍する5匹のタヌキは、絶死の突撃を決行した。


 本来ならば、この役割は斥候部隊が果たすはずだった。

 だが、瞬殺されてしまったのだから、役割が前倒しになるのも必然なのだ。

 自分達はここで死ぬと分かっていながらも、後ろに続く同胞のために、叫ぶ。



「ヴィィギロア”ア”ーー!」

「素直に出てきたし、楽に成仏させてやる。おら。」



 眉間に一発ずつ。

 ユルドルードが放ったそれは、五発のデコピンだった。


 なんだこれは。

 こんな指で弾かれただけで、我らは死するというのか……。


 あまりにも圧倒的な力の前に、この五匹のタヌキは目を見開いたまま天に昇っていく。



「で、……俺は全部出てこいっつったんだよ。なぁ、隅っこで様子を窺ってるタヌキ共」

「ヴィ!?」


「仲間を売ったお前らにはお仕置きだ。これはちっとばかし……痛ぇぞ。《英雄の戦技・傲慢な駿馬を走り抜く(アンダースレイプニル)》」



 閃光と蹴撃音。

 光魔法の応用で不可視化の状態に有ったタヌキ暗殺部隊が153匹が連鎖的に吹き飛び、天に召されてゆく。


 それは無抵抗なる蹂躙であり、タヌキ暗殺部隊が経験した事のない暴虐だった。

 同じタヌキ将軍でも格の低い5匹を囮に使い、観察に徹し、勝機を得る。

 タヌキ暗殺部隊が狙った『仲間の命を対価に希望を得よう』という策は、決して間違ったものではない。


 ただ、それは悪手だっと言わざるを得ないのも事実だ。

 人類の守護者たる英雄ユルドルードは、『守るべき命を消費する策』が大嫌いだ。

 人間には人間の、タヌキにはタヌキの論理感があると理解しているが、それでも、弱き存在を守るはずの『将軍』がしていい行いじゃないと怒りを露わしたのだ。


 そして……放たれたのは、強烈な蹴り。

 それもただの蹴りではない。4対8本の足を持つ馬の皇種『スレイプニル・ヴァーナ』と徒競争をし、勝利した際に使用したバッファで強化された蹴りだった。


 蹴られたタヌキが隣のタヌキに激突し、さらに隣のタヌキへと激突していく。

 それはまるで、玉突き事故だ。

 3秒の間にユルドルードに直接蹴られたタヌキは20匹ほどだったが、そのタヌキがもたらした二次被害により、密集してたタヌキ暗殺部隊は壊滅。

 あっけない幕引きとなった。



「部隊を率いるものが下位者を見限るんじゃねぇ。覚えとけ」



 その言葉は、闘技石段の外で控えていたタヌキの心を揺らした。

 ユルドルードが持つカリスマ性に、タヌキがときめいているのだ。


 それは、タヌキ将軍だけではない。

 那由他の不興を買い、お仕置きされたタヌキ帝王・アヴァロン。

 ボロ雑巾のような姿で座席に放置されていたアヴァロンは急に元気になり、「そうだそうだ!」と野次を飛ばしている。

 そして、ソドムの不興を買い、ねじ伏せられて口にバナナの皮を詰め込まれた。


 そんな微笑ましいタヌキ漫才を横眼で見たユルドルードは「ユニクがお前の事をクソタヌキと呼んでいたのは、正しい見てえだな」と呟いた。



「さて、これで倒したタヌキの数は243匹か。約3分の1だな」

「ヴィギロアッ!!ギギロギィーア!」


「で、やっと主力部隊のお出ましか」



 ドスンッ!という重低音が闘技石段に響く。

 それは、まるで天を突く巨岩。

 バッファを使用し、二足歩行でズシリと歩く姿は、まさに武臣たる立ち振る舞い。

 見事に隆起した筋肉を唸らせ、203匹の『タヌキ重歩兵部隊』が出陣したのだ。


 そして共に歩くのは、248匹のスタイリッシュなタヌキ。

 川で磨きあげられた岩のような流線型のボディを持ち、硬質化した毛皮が空気抵抗を極限まで減らしている『タヌキ機動部隊』だ。


 最後に、後ろに控えながらも、それぞれが木の棒を構え鋭い視線と敵意を向けているのが、『タヌキ魔導部隊』。

 魔法の深淵を知る那由他の眷属たるタヌキ達は、本質的な意味で魔法の仕組みを理解している。

 だからこそ、何かのきっかけさえあれば、人間よりも速いスピードで魔法を覚える事が出来たのだ。

 それでも、たったの数週間で覚える事が出来た魔法は、一匹当たり、大体5つ程。

 しかし、それが101匹も集まった『タヌキ魔導部隊』の扱える魔法の種類は100種類を超え、威力も普通の魔導師100人分となる。


 闘技石段の上に集結したタヌキ将軍たちの合計戦力は……。

 重歩兵部隊『203匹』。

 機動部隊『248匹』。

 魔導部隊『103匹』。


 人間の世界で言えば、この大軍勢に対応できる国など、大国たる『ブルファム王国』か『レジェンダリア国』ぐらいなものだろうか。

 これは間違い様が無い、人類を絶望に叩き落とす大軍隊なのだから。


 そして、英雄たるユルドルードは、その大軍勢を見て頷く。



「よし!人類代表として、全部駆除しておくか!」

「……。ヴィィィィ!ギギロ”ギアアアアッッッ!!」



 突撃ィィィ!

 それは、タヌキ将軍の中でも歴戦の経歴を持つ、3匹のタヌキが放った怒声だ。


 そのタヌキ達こそ、限りなくタヌキ帝王に近い上位タヌキ将軍。

 天龍嶽襲撃前で既にレベル99999に達していたこのタヌキ達は、ソドムがパシリに使うタヌキ将軍。


 その三匹は、タヌキ将軍を統べる者……『タヌキ大将軍』。

 全長3mを超える巨体『ニライカナイ』。

 黒銀の毛並みを持つ体躯『ニブルヘイム』。

 輝く宝珠を首から下げた『ヴァルハラ』。


 この三匹こそが、この軍の総指揮官であり、最高戦力。

 タヌキ大将軍の雄々しき叫びを聞いた機動部隊がまず先陣を切り、それに残りの二部隊が続く。



「お?意外と速いじぇねえか。だが、速いだけじゃ俺には勝てねえぞ。こんな風に足場を壊されたら、バランスを崩して即、敗北だ」



 そんな些細な忠告を無視して走るタヌキ機動部隊へ、地面がうねって出来た津波が襲いかかった。


 ユルドルードが取った次なる一手。

 それは右手に持つ箸で闘技石段の表面を引っぺがし、捲り上げて足場を破壊することだった。


 踏んだ事のない妙な足場に困惑し、無抵抗で巻き上げられたタヌキ機動部隊。

 だが、どんな悪路でも踏みしめ開拓するという矜持を持つこのタヌキ達は、諦めなかった。



「「「「「ヴィ!ギロア!」」」」」」



 己が足にバッファを纏わせ、空を翔ける248匹のタヌキの群れ。

 地面が不確定ならば、空を踏めばいいのだ!という安直な考えは、以外にも有効的な一手だった。



「これくらいは平気ってか。だがよ、そんなもん想定しないわけがねえだろ」



 空を掛けていたタヌキに向かい、ユルドルードは中ジョッキを持つ腕を横に振り抜いた。

 そして、その余波によって、空中に散乱していた石礫に指向性が与えられ、約半分のタヌキ機動部隊が流れに飲み込まれてしまったのだ。


 鋭く尖った岩石が擦り合う空間。

 そこに巻き込まれたタヌキ機動部隊は、いかに強靭な毛皮を持つと言えど耐えきれず、150匹ほどが天に召されてゆく。

 だが、仲間の死を乗り越えて、ユルドルードに迫る一団があった。


 それは、タヌキ重歩兵部隊。

 一振りで岩を切削する事が出来る拳を唸らせ、ユルドルードに殴りかかった。



「男は拳で語るってか?その提案、乗ってやるよ」



 持っていた中ジョッキと箸を天に投げて、ユルドルードは走り出す。

 そして、すれ違いざまに囁かれた声を、先陣を切っていたタヌキ重歩兵部隊40匹は聞き取れなかった。

 振り抜いたはずの自分の腕が無い。

 肩から先が、いや、その意識までもがいつの間にか消滅し、天に召されたからだ。



「ボケっとしてるとは、余裕だな。タヌキ!」



 ユルドルードは振り返りざまに、さらに60匹のタヌキ重歩兵部隊を成仏させた。


 タヌキ大軍勢が闘技石段の上にあがってから、この瞬間に至るまで、おおよそ10秒。

 800匹いたタヌキの数はもう、300匹。

 それぞれの陣営の残りはおおよそ100匹づつであり、「これなら、あと30秒もかからねえな」とユルドルードは認識をし――。

 100発の魔法がユルドルードへ降り注いだ。



「ん?大体がランク5の魔法だが、時々痛ぇのが混じってるな。ランク8か?」

「ヴィギルア!「ヴィィーギルルア!」「ヴィギロ!」「ヴィギルルラ!」「ギ―ギルギル!」……。


「だが、俺を倒したいんなら、ランク(オーバード)を持って来い。《英雄の戦技・力技で獅子皇を泣かす(ティア・マンティゴア)》」



 連動する筋肉を唸らせながら、魔法が吹き荒れるな中を、ユルドルードは真っ直ぐに突き進む。

 狙っているのは、魔法の発生源たるタヌキ魔導部隊だ。


 ユルドルードは、「そろそろ面倒になってきたな」と思いながら、特に工夫もなく殴った。

 そして、放り投げたグラスと箸とすれ違うように、タヌキ魔導部隊は一匹残らず天に召されていったのだ。


 パシッ!っと気持ちの良い音をさせて中ジョッキをキャッチしたユルドルードは、「残り200匹か」。と視線で残党を眺める。

 そして、その目に映ったものは――。先ほどよりも大きい、100体のシルエットだった。



「……は?」



 2列に整列して並んでいるのは、タヌキonタヌキ。

 それは、タヌキがタヌキに騎乗するという、未知なる暴挙だった。

 神ですら見た事が無く、腹を抱えて爆笑しているこの形態こそ、タヌキ将軍の最大の策なのだ。


 どんな悪路をも突き進む機動力を持つ『タヌキ機動部隊』の上に、 どんな障害をも打ち倒すパワーの『タヌキ重歩兵部隊』が乗る。

 それは、お互いの欠点を補い、能力を200%以上に向上させる素晴らしき知恵。


 さらに、騎乗しているタヌキ重歩兵の手には、タヌキ魔導部隊が魔法で作った武器が握られていた。


 タヌキ魔導部隊はユルドルードに魔法を放つ前に、こっそり下準備をしていた。

 魔法で出現させた棍棒や斧や打撃杖。

 もはや野生のタヌキの矜持すら捨て去り、武装を装備したこの『タヌキ騎獣部隊』こそ、最後の希望。


 そんなタヌキ知恵を見たユルドルードは、素直な感想を叫ぶ。

 おそらく、この光景を見た人類の99%が叫ぶであろう、その言葉を。



「タヌキがタヌキに乗ってんじゃねぇよッッ!!」

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