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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第7章「仇敵の無敵殲滅」

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第99話「英雄見習いVSリリンサ②」

「《大規模個人魔導パーソナルソーサリィ絶対魔皇空間レインワールド!》」



 涙の跡が残る頬を大きく動かして、リリンサは叫ぶ。

 泣き、喚き、絶望の果ての雄叫びは、自分が欲した未来を手に入れる為に必要な儀式だ。



「ま、普通にやったんじゃ勝てないってのは流石に分かるよねぇ。だからこそキミは、その力に頼り続けている。……幼い時から、ずっとね」



 リリンサの大規模個人魔導は、純粋なバッファの魔法などではない。


大規模個人魔導パーソナルソーサリィ絶対魔皇空間レインワールド

 あらゆる事態に対応するべく使用されるこの力は、本来のリリンサが持っていないはず魔法や知識を呼び覚ますものであり、バッファの魔法に近しいというだけの未知なる現象だ。

 リリンサは、何故こんな事が出来るのかを理解しておらず、心の奥に従って、高ぶる感情のままに解き放っているだけに過ぎない。

 そして、この瞬間に使用されようとしているのは、魔王の心臓核が束ねる『死を抱く魔王の上位体デモン・エクストラボディ』と同調し、その能力をリリンサの身体に取り込むという禁断の力だ。


 結合し『死を抱く魔王の上位体デモン・エクストラボディ』となっている魔王の両腕と心臓核は、それぞれの能力を共鳴し合い、全ての能力を統合した状態となっている。

『自律行動』『可変』の能力を持つ魔王の右腕と、『解析』『保持』の能力を持つ魔王の左腕。

 さらに、『循環支配』『増幅』の力を持つ魔王の心臓核。

 これら6つの能力は重なり合い空前絶後の魔道具として、リリンサを包み込んでいるのだ。


 そして、それらの能力を持つ『死を抱く魔王の上位体デモン・エクストラボディ』はリリンサが唱えた『絶対魔皇空間レインワールド』により、体の一部となった。

 その強すぎる能力は、リリンサの体に直接的な影響を及ぼし始めてゆく。



「《私が私に命じる。悪鬼羅刹となりて、敵を討て》」



 遥か高みにいる害敵を倒す為に、リリンサは人間としての常識を捨てた。


 魔王の右腕の能力『自律行動』と『可変』と同調した事により、生物として備わっている体の機能の全てを自由自在にコントロールできるようになったリリンサは、脈拍、心拍数、体内分泌液をコントロールし、最も思考力を高めた状態へ最適化。

 筋肉の電気信号伝達や筋繊維の動きも活性化させ、新陳代謝や魔力回復を推進し、心身ともに最も優れた状態を作ったのだ。


 さらに、魔王の左腕が持つ『解析』と『保持』と同調した事により、131冊の魔導書を脳内に構築。

 体内に魔法陣を保持した事により、ランク9の魔法であっても即座に使用可能とする。


 この姿こそ、リリンサが自分自身の力だけで行える最強の状態だ。

 リリンサは溢れる魔力を統制しつつも、その強すぎる力に酔いしれて、敵を見据えた。



「こうなった私は手加減とかできない。文句があるなら今の内に言っ……」

「文句かい?あぁ、もちろんあるとも。その程度の装備でシェキナを持つ僕の前に立つなんて、身の程を知れと言いたいもんだねぇ」


「……ほざけ。粋がっていられるのも今のうち」

「はいはい。そういうのは、デメリットを克服してから言って欲しいもんだよ」



 全てを見通しているかのような白い敵の強い眼差しを受けて、リリンサは平均的な苦い顔をした。


 空前絶後の魔道具と同調するという強力すぎるこの力には、代償があった。


 魔王シリーズに備わっている魔法陣を体内に取り込む為に、魔王シリーズそのものがリリンサの肉体として脳が認識している。

 すなわち、魔王シリーズが負ったダメージは、リリンサの肉体が負ったダメージとして扱われ痛覚神経が働くのだ。

 もし仮に、魔王の右腕が破壊されるような事態になれば、脳はリリンサの右腕が欠損したと認識し、激痛が走ることになる。


 その痛みすらもコントロールできるものの、完全には取り除く事が出来ない。

 そして、そんな事を繰り返せば、リリンサ自身の神経が消耗し、生命維持に支障をきたす。


 リリンサは、それを知りながらも一切の躊躇なく『死を抱く魔王の上位体デモン・エクストラボディ』と自分を完全に同調した。

 望んだ未来を手に入れる為に、己が命すらも賭け札としたのだ。



「まったく、おもちゃをいっぱい持ってはしゃぐなんて、まさに子供そのものだ。児戯だねぇ、自棄だねぇ」

「これが玩具かどうか、あなたの体で体験しろ。いくぞ!」



 リリンサは魔王の左腕の魔力を高めた。


 その内部には先ほど放った『超高層雷放電』が10発ほど保持されており、それらを可変させて指先から放出。

 鋭き雷光のカギ爪を作り出し、それを水平に構えながら、リリンサは空へ踏み出した。



「《魔導書の使用(ディススペルマジック)天空の足跡(ヘルメスタラリア)!》」



 さらに上位バッファも起動したリリンサは、悠然と含み笑いを続けている白い敵に向かって魔王の爪を振り下ろし……耳をつんざく激しい雷鳴と共に、真っ白い女の体が二つに裂けた。



「うわー。体が真っ二つになってしまったぁ!」

「ち!外した!!」


「いやいや、僕があらかじめ作って置いたダミーはちゃんと真っ二つさ。ま、そんなもんシェキナがあればいくらでも作り出せるんだけどね」

「そこだ!」


「今度は真っ二つ……になるわけないよねぇ。なんでって?そりゃあ、もう爪が無くっちゃ切れないだろう?」



 リリンサは引き裂いた物体がダミーだと気が付いた段階で、『解析』の能力を発動させた。

 そして、僅かに歪んでいる空間の綻びを見つけ、魔王の左腕を突き刺したのだ。


 だが、貫いたはずの敵は変わらぬ顔色で、身動き一つしていない。

 リリンサの左腕は白い敵に届いていないのだ。

 先ほどまであったはずの爪は消え去り、代わりに5本の矢が魔王の左腕に突き刺さっている。



「ひっ!ぐぅっ!!《痛みよ消えて!》」



 咄嗟にその矢を引き抜いたリリンサは、直ぐに痛覚遮断を行い、新陳代謝を活性化。

 傷ついた自律神経を正常に戻し、代わりに白い敵を睨みつける。



「そんなに見つめないでくれよー照れるなぁー」

「いつの間に……いや、どうやって魔王の右腕の防御を掻い潜った?どんな攻撃であれ、魔王の右腕が反応しないなんて事はないはず」



 リリンサは魔王の右腕に『自動で敵の攻撃を防御せよ』と命令を下している。

 だからこそ、対応が間に合わなかったという事はあっても、まったく反応を示さないというのはあり得ないことだった。


 しかし、魔王の右腕は敵が放った矢に反応せず、5本の矢はリリンサの腕を撃ち抜いた。

 理解が出来ない事象を経験したことに対する焦りが痛みに打ち勝ち、回復する時間を得る事が出来たのは不幸中の幸い。


 そして白い敵は、教壇に立つ教師の様にリリンサへ答えの説明を始めた。



「この弓は『神栄虚空・シェキナ』という特別な弓で、世界に10個しかない神殺しの一つさ。それで、肝心の能力は……『想像と創造』という、なんともチートなものでね」

「想像と創造?」


「そうさ。神の創造能力を模して造られたこの弓は、僕が『想像』した結果を『創造』する。僕は『絶対隠蔽』を願いながら弓を引いた。だからこそ、キミの強化された認識でさえ放たれた矢を認識できず、無抵抗で撃たれたという訳さ」



 リリンサはその言葉の意味を理解し、ただただ驚いた。



 それでは、どれだけ感覚を鋭敏化させようとも、反応できないということ?

 なんて厄介な能力。

 だけど、対応策が無いわけじゃない。



 リリンサは腕の痛覚を元に戻し、さらに感覚を極限まで研ぎ澄ましてゆく。

 そして、痛みを感じた瞬間に、その部位を自動で排除するようにしたのだ。


 この命令により、矢が穿たれ穴が開いていた魔王の右腕の表面が剥がれ落ち、新しい表面が生まれた。

 まるで傷ついた皮膚がカサブタとなって治癒を行ったかのような、道具にあるまじき回復手段だ。


 元通りになったかどうかを感覚だけで確かめて問題ないと理解したリリンサは、今度は心の中で詠唱を始めた。



「おや?空気中の魔力が揺らいでいるねぇ。強めの魔法を使うつもりだね?」

「分かっているのなら、全て受け切って見せろっ!!《 魔王の調律(デモン・チューン)》……《八の伏魔殿(イザナミ) 》」



 リリンサは太く長大な魔王の左腕を変形させ、禍々しい姿へと作り変えた。

 やせ細り枯れた腕とも呼ぶべき、悪魔の杖。

 それを白い敵へと向けながら、リリンサは二つの能力『解析』と『循環支配』を起動させる。



 白い敵の死角は……右足側の斜め下方向か。

 そのから直接こじ開けて、一気に全力を叩きこむ。


 私とセフィナの人生を弄んだ敵に、容赦などしない!



 そして、空間に転送陣を作ったリリンサは、白い敵の死角めがけて闇の雷を放った。

 ピリリ。とした感覚は、離れた位置にいるリリンサが感じたもの。

 それは、空間を埋め尽くすほどの雷が360度全方向に走り抜けた事により起きた余波であり、その雷がどれほどの威力を秘めていたかは語るまでも無いほどだ。


 だが、リリンサはこれで満足しなかった。

 リリンサの直感は”足りていない”と判断し、更なる追撃を叩きこんだのだ。



「《五十重奏多層魔法連クィンクァゲテット・マジカライズ凝結せし古代魔魚(デーモンオステウス)破壊の牢獄(アポルオン・アバドン)―死が迫る旋律ゲーテ!》」



 走り抜けた雷の熱が冷め止まぬうちに、合計150発のランク9の魔法が放たれた。


 自然に存在する万物の分子運動を阻害し、確実に崩壊させる『凝結せし古代魔魚』。

 あらゆる物体を歪めながら、押し潰す『破壊の牢獄』。

 物質の固有振動数と同じ波形の音波を照射し、分子を原子へと変える『死が迫る旋律』。


 これらの魔法は『死を抱く魔王の上位体デモン・エクストラボディ』により強化されたものであり、特に破壊力が高い。

 まして、リリンサの体内魔力のみならず、空気中に漂っている微量な魔力すらも掻き集めてエネルギーとした連撃は、それこそ、皇種に対して使用されるような絶対的な暴力。


 だからこそ、一連の攻撃をやり遂げたリリンサは一瞬だけ油断し、瞬きをした。



「……《行け、開闢の魔矢(ハローアロー)》」



 そして、意識を点滅させるほどの一撃が、真正面からリリンサへ叩きつけ返された。

 その攻撃に対し、自動で魔王の右腕が反応し、複数の防御魔法を展開しての防御。


 だが、万全の防御越しの衝撃だったにもかかわらず、リリンサの体は吹き飛ばされ、地面に背中を打ち付けた。



「かっ、はぁっ……!」

「あ、ごめんごめん。ちょっと強すぎたみたいだね」



 地面から見上げるリリンサの目に映ったのは、五つの魔法陣。

 赤、青、緑、茶、白。

 それらの魔法陣が魔法の基本五属性を表している事を察したリリンサは、ひび割れた魔王の右腕に刺さっている矢を見て事態を把握した。



「五属性の魔法を纏わせた矢の威力が、これほどだなんて……」

「その矢に僕が込めた願いは『調和』だ。そして、五つの魔法陣を撃ち抜いた事により、それらの魔法効果を矢に付与。さらに、撃ち抜かれた魔王のシリーズとも調和し威力を内部へ伝達させたんだよ。どうだい?力の差を感じてくれたかな?」


「くやしい……まさか本当に、全く歯が立たないなんて……」

「いやいや、キミの強靭な歯はダイヤモンドだって噛み砕くだろ。冗談はさておき……そろそろ、ユニクルフィンを僕に差し出す気になったかい?」


「それだけは絶対にあり得ない。それこそ、私が死ぬ時」

「はぁー。強情だなぁ。別にいいじゃんか。今ならセフィナと交換してもいいよ?それならキミも損ばかりじゃないだろう?」


「……。例えどれだけのものと交換だとしても、ユニクは渡さない!」

「うーん。あ、そうだ!今なら出血大サービスとして、クソタヌキセカンドも付けるよ!」


「いらないっ!!」



 ち。タヌキじゃダメか。

 まったく、ホント使い道のないクソタヌキだ。

 あれで数千年の時を生きる絶対強者だというのだから、まさに世も末。破滅だねぇ、黙示録だねぇ。


 白い敵は心の中でソドムとゴモラを罵倒しまくると、必死に立ち上がろうとしているリリンサへ視線を向けた。

「やれやれ。恋する乙女は強いねぇ」っと自虐風に笑い飛ばし、そろそろ落とし所を探り始めようとして――。



「きゅあららら~!!!」



 天空から、白き竜がいななきを上げて地上に降り立った。



「助けてっ!!ホロビノっ!!」

「げえええ!?ヤバいのが来たんだけど!!」


「きゅあ……。《源竜意識の覚醒キュアラ・アイデンティー》」



 主人たるリリンサのボロボロな姿を見て、ホロビノは冷静に周囲を見渡し――。

 世界を統べる強き者(眷皇種)希望を戴く天王竜(ウィルホープウラヌス)として慣れ親しんだ暴力を認識し、一気に警戒レベルを最大へと引き上げる。


 ホロビノは理解したのだ。

 リリンサの敵は、自分と同じ領域(覚醒者)に辿りつこうとしている人間であり、生態系の頂点に立つということを。


 さらに、ホロビノは理解し、本気を出した。

 ホロビノ自身が最も嫌悪し忌み嫌う『神栄虚空・シェキナ』を敵が所持していた事により、温存していた実力を全て解き放ち、最も強大な力を発揮できる姿へと変貌してゆく。


 そして、起死回生のチャンスを得たリリンサは、尽かさずホロビノの背中に飛び乗った。



「ホロビノ、愛してる。後でいっぱいご褒美をあげる!」

「きゅあー!」


「まったく。僕って奴は、なんて不幸な女の子なんだ。……ちょっと本気だす」


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