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ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第7章「仇敵の無敵殲滅」

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第93話「セフィナリンサベル④ヤンデリリン、再臨」

 「《魔王の降臨(サモン・デーモン)魔王の右腕(デモン・ライト)魔王の左腕(デモン・レフト)魔王の心臓核(デモン・センターコア)》」

「お、おねーちゃん……?」



 ゆらりと立ち上がったリリンは、笑っていた。

 声は発してはいない。

 だが、屈託のない笑みは、こんなシュチュエ―ションで見たくなかったと思う程に、可愛らしいものだ。


 ……だが、一つだけ難点を上げるのならば、その笑顔は黒かった。

 そう、リリンのこの笑顔は、大変にものすごく、悲しいくらいに真っ黒かった。

 どこまでも漆黒な魔王を三つも従えているのにもかかわらず、リリンの笑顔が一番黒いとは、まさに世紀末に魔王様が降臨した情景そのままだ。


 底無き地獄の、大魔王様の暗黒微笑。

 しかも、魔王の眷属たる三つの魔道具から放たれる恐怖オーラが、それの品格を高めている。憎い演出だ。


 そんな、沸き立つ恐怖に必死になって抗おうと試みるも、どうにか心が折れないようにするだけで一杯一杯。

 そして俺は、この先訪れるであろう未来に恐怖していると、大魔王様から残酷な真実が告げられた。


 非常に悲しいことに、どうやらこれが、最上位では無いらしい。



「《……そして混じり合い、目覚めよ。共鳴覚醒・死を抱く魔王の上位体デモン・エクストラボディ》」



 リリンの両手に握られた、魔王の右腕()と魔王の左腕()

 そして、胸に飾られた魔王の心臓(アクセサリ)

 これら三つから闇のエネルギーが噴き出し、それぞれ、接触していたリリンの体の部位を覆い始めた。


 冷たい光が点滅し空間が軋む。

 そしてどこからか湧いた黒い霧が立ち込め、やがてリリンは、俺の良く知るリリンでは無くなった。



「リリン、なんだ……それは……?」

「あはは。お仕置き道具だよ。ユニク。」



 黒い霧越しに見えたシルエットは、人ではない、何か。

 左右の腕は異常に長く、先端が地面に接触している程だ。


 やがて、霧を掻き分けるように、巨大な腕と言うべき漆黒の右腕が現れ、俺は戦慄を覚える事となった。

 それはリリンの右腕を支柱として創られた、巨大な魔王の腕そのものだった。


 その腕は、指先から肘に至るまでであり、長さは約1m。

 形状は太く、何枚もの漆黒の金属が折り重なり腕を模し、五本の指は全て、切っ先の鋭利な刃物で出来ている。

 一掴みで、魂までも切り刻めるような恐ろしき腕。


 それがリリンの肘から先を取り込んでいる。

 まるでそれは、大きさの合わないガントレットを無理やり装備しているかのようだった。


 そして、ゆっくりと感触を確かめるようにリリンが指を開いて閉じる、たったのそれだけの所作をしただけで、黒い稲妻が空気中に激しく散った。



「お、おねーちゃん……そっちの杖は、なに……?なにするの……?」

「……。あなたをブチ転がす為のお仕置き道具 。」



 出現したのは、右腕だけではない。

 リリンが左手に持つ、杖。

 いままで、杖の意匠として腕の形を模していたそれが、名実ともに腕そのものへと変化してるのだ。


 全長2mを超えるその物体は、まるで、巨人の腕をもぎ取って来たかのようで。

 手に持つための取っ手が付けられた腕でしかないそれは、杖と呼ぶにはあまりにも異質で異端なものだ。


 そして、それらを繋ぐ、真紅の鎧。

 心臓の位置に核を輝かせた、魔王の上半身であるかのようなそれが、リリンの体を覆い隠している。


 あぁ、俺は理解した。

 そう、これこそ、この姿こそ、リリンの最大最強。

 その名も――。



「ちょ……、超魔王、ヤンデ・リリン……!」



 つい口に出してしまった呟きを肯定するように、ヤンデリリンは動きだした。

 ゆっくりと、だが、確実に俺達を目指しながら歩き始め、鋭い眼光をセフィナに向ける。


 ……睨まれたのが俺じゃなくて良かった。

 今のヤンデリリンに睨まれたら、色んなもんが飛び出ること間違い無しだ。



「そこの敵。キツイお仕置きを受ける心の準備は出来た?」

「出来てないよ!?全然できてないよ!?」


「出来てなくても関係ない。猶予とかない。ありえない。」



 おう……。「準備は出来たか?」と聞いといて、出来てなくても関係ないとか言い出したぞ。

 無慈悲だ。

 あぁ、ひたすらに無慈悲で、まさに心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)だ。


 ヤンデリリンは長すぎる右腕でセフィナを指差し、再び、ギロリとひと睨み。

 指自体が刃物で出来ている為、槍を突きつけられているのと変わらない怖さがある。


 これにはアホの子のセフィナも仰天。

 オドオドと挙動不審に動きまくりながら、必死に大魔王様に懇願している。



「おねーちゃん!?それはダメだよ!可愛い妹に向けちゃダメな奴だよっ!?」

「そう。それは分かっている。これは決して可愛い妹に向けてはいけない代物。」


「だよね!?だから、腕を下ろして欲しいな……!怖いから下ろして欲しいな……!」

「……でも、その唯一の対象者だったセフィナは死んだ。もういない」


「いるよ!?ここにいるよ!?死んでないよ!!」

「セフィナは死んだ。私の可愛いセフィナは、こんな事をしない。……だから死んだし、お前はセフィナの亡霊でしかない」


「オバケじゃないよ!?ちゃんと足もあるよ!?」

「うるさい。喚くな。《異常心裏(ハートブレイク)》」



 おいちょっと待てリリンッ!

 何で俺に向かって左手を突き出しているんだ!?


 俺は味方――。


 抗議の声を発する前に、それはやって来た。

 ヤンデリリンの左腕から放たれた赤い波動。

 それは、津波に似た動きで俺とセフィナに迫り、一瞬で体を透過して過ぎ去って行った。


 そして……俺の思考は恐怖で塗りつぶされた。



「怖、恐、壊、強……こわこわくぁわくわこわこわくぅわこわこわこわこいいいいいいいいいい!!」

「怖いの!怖いの!怖いの!怖いの!怖いの!!」



 統一された思考は、すべて、この状態から抜け出す為だけに使われる。

 そんな俺の脳細胞は、とある結論を出した。


 やべえ!これは耐えきれない!!

 こうなったら……今朝貰ったシールを張るしかない!


 俺は腰に付けていたポシェットから、素早く恐怖抑制シールを取り出して額に張った。

 そして、ブルブルと震えながら涙目でへたり込んでいるセフィナにもに張る。

 魔王の波動のせいだろうが、同じ体験をしているセフィナが不憫になり、つい張ってしまったのだ。


 ふぅ、これでこの恐怖感から抜け出せ……ってねぇ!?

 マシにはなったけど、まだ十分に怖いッ!?



「リリン!なんだこれは!!シールだけじゃ頼りないんだが!!」

「それはそう。魔王の恐怖機能を、魔法という増幅装置を使って叩きつけたんだし。」


「何でそんなもんを、俺にもぶつけた!?」

「これはコントロールがあんまり効かない。近くに居たから、ついやってしまった。」



 そんな出来心で、俺はこんな怖い目に遭ってんのかよ!?

 ダメだこれ!!何時にも増してリリンが暴走してやがる!!


 というか、そもそも、魔王シリーズを使うとリリンは凶暴になる。

 それこそ、男にとって大切な魂を消し炭にしてしまう程に。


 ……あれ?なんか、別の方向にヤバくないか?

 ニセタヌキと戦っていた以上に、ヤバい気配がするんだけど!

 どうにかしてヤンデリリンを元に戻さねぇと、俺も巻き添えを食らうことになる!!



「それでリリン、何が狙いでさっきの魔法を使ったんだ?」

「あの魔法を受けると、思考は統一され、新たな発想での打開策を行えなくなる。」


「新たな打開策を行えない?どういう事だ?」

「新しい試みをして失敗する可能性に、多大な恐怖を抱くようになる。その子で例えるなら、新しい武器を使う事や、錬度の低い魔法を使う事が出来なくなり、現在の目的である襲撃の続行しか考えられなくなる」



 なんだとッ!?

 破滅の未来しか残されてねえじゃねえか!!


 どうみても正気じゃないヤンデリリンな今、戦闘の継続は非常にまずい。

 なにせ、敵であるセフィナは、どうも、リリンの妹らしいのだ。


 姉妹喧嘩程度なら黙認もするが、流石に大魔王はやり過ぎだろ。

 鋭すぎる大魔王なオーラに当てつけられたセフィナも、すっかり縮みこんで大人しくなっているしな。


 そして、俺は凄く重要な事に気が付いた。


 ……おい、ニセタヌキ。

 お前、こうなる事が分かって、逃げ出しやがったな?

 飼い主を見捨てるとは、例えペットになっても、タヌキはタヌキって事か。


 逃げた先で足を滑らせて崖から落ちて、滅びろ。

 そんな夢物語を考えていると、とうとう超魔王ヤンデリリンが動き出してしまった。



「そろそろお仕置きを開始する。覚悟は良い?」

「出来てないって言ってるもん!怖いんだもん!おねーちゃんはあっちいって!」


「ダメ。《五十重奏魔法連クィンクァゲテット・マジック巻き上がる稲妻(サンダ―ストーム)》」

「ひゃああん!!ダメなのおおお!!」



 セフィナは恐怖のあまり、持っていた杖を振りまわしながら逃げ回っている。

 そして、それを追う50本の雷を纏う竜巻。

 バリバリと地面を抉り飛ばしながら進む様は、まさに、超魔王が放つ技に相応しい程に派手だ。


 ヤンデリリンは不敵な笑みを浮かべながら、楽しげに指を振って、竜巻の進路を操作している。

 一応、直撃させないようにコントロールしているっぽい。



「ほら、早く逃げないと当たってしまう。痛いよ。凄く痛い。皮が剥けてしまうかも。」



 いや、そんな雷がバリバリ言ってる竜巻に当たったら、皮どころか、皮膚ごと持ってかれるだろ。

 だが、幸いにして、痛いと感じる事はないと思われる。


 速攻で天国に直行するからな。



「やなの!怖いの!!消えて消えてっ!!《流れ落ちる水銀(ロスト・マーキュリィ)!》」



 今まであった余裕が消えたセフィナは、意を決したように反転し、杖を雷の竜巻に叩きつけた。

 そして、竜巻は霧散し、あっけなく掻き消えた。


 ん?どうやら、さっきの星以外にも魔法無効化手段を持っているみたいだな。

 俺が観察に徹していると、セフィナは次々に竜巻を破壊して行く。

 数が数だけに少し時間が掛ったが、ランクが高いであろう魔法を一発で掻き消して行く様は流石にレベル7万の魔導師だと感心させられる。


 ……だからきっと、いつの間にか空に移動し魔導書を召喚し終えたヤンデリリンが、楽しげに作りまくっているあの魔法陣の群れも裁いてくれるに違いない。



「《魔王の調律(デモン・チューン)……》」

「ふえ!?」


「《凝結せし古代魔魚(デーモンオステウス)》《水害の魔王クラーケン・オブ・ゲルニカ》《永久の魔呼アスモデウス・ゼピュロス》《栄光を殺す魔剣キング・デス・カリバー》」

「ふにゃああああ!?《流れ落ちる水銀っ(ロスト・マーキュリィ)!》《流れ落ちる水銀っ(ロスト・マーキュリィ)!》《流れ落ちる水銀っ(ロスト・マーキュリィ)!》《流れ落ちる水銀っ(ロスト・マーキュリィ)!》



 おーう。

 無数の怪魚とクラゲが、真っ黒い風の波に乗りながら、鋭い剣と一緒に乱舞してるんだけど。

 何これ。ちょっと特盛過ぎて、ついて行けない。


 流石に危なっかしいのでグラムを構えて介入できるように準備しておく。

 だが、俺の気遣いは無用だったらしく、セフィナは泣きながらも杖一本で防ぎ切った。


 うっすらと気が付いていたが、セフィナの地力がすげえぇぇぇ。

 リリンの妹という事は、最早、確認しなくてもよさそうだ。


 そして、砂や泥、汗にまみれたセフィナは、いよいよ本格的に涙目になりつつ、俺に視線を向けた。

 今の姿だけ見るなら、魔王に襲われた被害者にしか見えない。


 そんな、タヌキにすら見捨てられた可哀そうな少女が、俺に擦り寄って来た。



「ゆ、ユニクルフィンさん助けて!おねーちゃんが怒ってるの!激オコなの!!怖いの!助けて欲しいの!」

「あぁー。うん。そうだな…………。無理だッ!!」


「無理でもやって!!怖いの!!脇をくすぐられて死にそうになるのっ!!」

「ううーん。確かにそれは……。でも、…………無理だッ!!というか、さっき俺の事をお仕置きするって言ってたよな?つまり、敵だよな?」



 不敵な笑顔のヤンデリリンが俺達の前に降りてくるまで、後30秒って所か?

 それまでにどうにか打開策を閃きたいセフィナは、俺に擦り寄って懇願して来た。


 ん?ヤンデリリンの放った恐怖の波動の効果で、新しい試みは出来ないんじゃ無かったか?

 恐怖抑制シールを張ったせいで、出来るようになったのか……?

 まぁ、それでも、恐ろしきヤンデリリンに立ち向かう勇気はないらしく、必死に俺に媚を売るセフィナ。

 まるで駄々をこねる子供そのもの。いや、実際に子供なのか。


 だが、ここで甘やかすわけにはいかない。

 リリンと「無傷でセフィナを捕まえてくる」と約束しているし、俺は完全勝利を目指しに行く。


 セフィナは冷たい俺の態度を受けて、段々と涙を目に溜めつつも、それでも必死に懇願している。

 さて、そろそろ油断もしてきただろうと判断した所で、セフィナに視線を向け……。


 セフィナが放った言葉に、俺は貫かれた。



「いつもは助けてくれるのに!!ゆーにぃは……おねーちゃんと私が喧嘩すると、いつも助けてくれたのに!!」

「……は?」



 なんだって……?


 恐らく、その『ゆーにぃ』というのは俺の事だ。

 そうでないと、言葉の意味が伝わらない。


 だが、それはあり得ない事だ。

 だって、その言葉通りだとすると、俺とセフィナ……いや、俺とリリンは出会っているという事になる。


 記憶の無い俺はともかく、リリンは――。


 ここで、心の奥に眠る後悔の記憶が呼び起こされた。

 それは、不甲斐無い俺が、天命根樹の攻撃を防げなかった後の光景。


 俺を守り、血塗られた少女の姿は未だに思い出せない。

 だが、俺と同じく守られた少女の髪の色は……………リリンと同じ、青だった。



「セフィナ、聞きたいことがある。俺は昔、お前とリリンに出会っているのか!?」

「助けてくれない人には教えないもん……。優しくないゆーにぃには教えてあげないもん……」



 あぁもう!大事な所で面倒だな!!

 俺はセフィナの頭を撫でつけ、「助けてやるから、話せ!」と叫ぶ。


 そして、その叫びは、セフィナどころか、ヤンデリリンにまで届いてしまった。



「ユニク……なにそれ。わ、私を捨てて、せ、セフィナを選ぶの……?」

「は?いや、そういう訳じゃ……」

「もう約束したもん!約束を破るのはダメだもん!」



 おい!!絶妙なタイミングで抱きつくんじゃねえよ!この、お馬鹿!!


 奇しくも、俺は美少女二人に挟まれた。

 ははは、これはハーレムエンドってやつか?


 いや……。ハーデスエンドの間違いだな。



「ユニクぅ……」

「落ち着けリリン!俺が裏切るなんてありえないから!」


「むぅぅぅ……。私からユニクまで奪うなんて……。もう、許してあげない……。《示せ、我が左腕よ。敵の急所はどこ?》」



 持っている左腕を俺とセフィナに突きつけて、ヤンデリリンは静かに憤った。


 その怒りに答えるように左腕は怪しい光を発し、空中に魔法陣が出現。

 そしてヤンデリリンは、瞬く間に魔法陣を数十回書き換えたのだ。

 ……まるで、願いを実行する為に、新しい魔法陣を一から作り上げたかのように。



「《魔王の質疑(デモンコール)》」



 そして、世界に示された真理に従い、魔法は効果を表した。


 俺に抱きついているセフィナが、突如、光輝き始めた。

 それが何を意味するのかは分からない。

 普通、急所を示せと言ったら、頭とか心臓とかが光りそうなもんなんだが、セフィナは体全体が光っている。


 なるほど、全身を吹き飛ばせば勝てるよってことか。

 って、そりゃそうだろ!!

 魔王の左腕、効果範囲が雑なんだがッ!!


 だが、そんな事は些細なことでしかない。

 もっと大きな問題が、現在進行形で、俺の身にも起こっているからだ。


 ……なんで俺まで光ってるんだよ!!

 魔王の左腕、雑すぎるんだけどッ!!



「あの、リリンさん?何で俺まで光ってるんだ?」

「……ユニクをブチ転がすと、敵は困るという事。敵の急所はユニク。」


「え。……ま、まぁ、俺はリリンの味方だしな。ターゲット指定されても、攻撃して……来ないで欲しいな?」

「裏切りは断罪するべきだとおもう。……二度と私に逆らえないように、ガチガチに恐怖で縛りたい。」


「待ってくれッ!それ、冤罪!!」

「ふふふ。『疑わしきは罰しておけ。その内、白も黒くなる。』だよ、ユニク。」



 なに今の格言みたいな奴!?

 間違いなく、聖女様のお言葉な気がするんだけど!



「待て待て待て!!敵はこっち!俺じゃないだろ!!」

「抱きつかれているその格好で言うの?信憑性ゼロ。ありえない。……《悪たる私が命じる。あの二人の心と体に、打撲を与えて。》」




 ひぃぃぃぃい!

 打撲とか、発想がリアルすぎる!

 流石は、心無き大魔王!!

 敵を痛めつけて追い詰める行為に慣れてやがるッ!!


 このまま事態をヤンデリリンに任せていると、恐ろしい結末を迎えそうなので、とりあえず逃げる!

 俺は恐怖で泣きべそをかき始めたセフィナの手を引いて、走り出した。



「逃げるな。《分離し、追え、魔王の右腕。》」



 ヤンデリリンは大きく腕を振りかぶると、乱雑に振り抜いた。

 そして、その勢いに乗る形で、ヤンデリリンの腕から魔王の右腕は分離し、俺達に迫る。


 チラリと後ろを振り返ったら、無数に枝分かれした槍がものすっごい速さで突っ込んで来ていた。

 ……明らかに、打撲狙いじゃないんだけど。

 確実に命を取りに来てるんだけど。


 ちくしょう!!

 どうしてこうなった!!



「うおおお!!《次空間移(ディメンジョンムーブ) 》」



 出来るだけ遠くに星を飛ばし、重力場を形成。

 直ぐに体を反転させ、目の前1mにまで迫って来ていた魔王の右腕に向かって、グラムを振るう。



「どりゃああ!」



 激しい打ち合いの結果は、五分と五分。

 まさに一進一退の攻防。


 グラムは世界最高の破壊力を持つが、扱う俺は人間であり限界がある。

 一方、魔王の右腕は能力こそグラムに劣るものの、人間には出来ない奇妙な動き、垂直移動、分裂、変形を繰り返し、俺の予測の裏をかき続けてきた。


 対応するだけで、決定的な一撃を与えられない。

 流石は、魔王様の右腕。殺意が満ち溢れているなんてもんじゃねえ!


 しばらくの激戦を繰り広げていると、セフィナが杖をかざし「流れ落ちる水銀(ロスト・マーキュリィ)」を使った。

 意外な事に、大魔王な右腕は動きを鈍らせ、グラついた。

 俺はグラムの重量を増大させ、大振りに降った一撃で魔王の右腕を吹き飛ばす。


 そして一瞬の隙を突きセフィナを抱きかかえ、引力と斥力を全開にして、高速で森へと逃げ込んだのだ。



「ひゃああああん!速いよ!?ユニクルフィンさん、速いよ!?怖いよ!?」

「黙ってろ舌を噛むぞ!」



 反射的にヤンデリリンと距離を取っちまったが、これで良かったんだろうか?

 というか、敵だった少女と一緒に、仲間のはずのリリンから逃亡するって、マジで訳が分からん状況になりつつある。


 俺は全速力で森を突き走り、魔王の右腕からの脱出に成功。

 そして、木陰に身を隠し、涙目でいじけているセフィナに声を掛けた。



「なぁ、『ゆーにぃ』って俺の事だよな?」



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