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第78話「夕暮れの作戦準備」

『それじゃあ最後に、勝者インタビューのお時間行ってみよ!』


『凄まじい激闘を制した絶対王者たる毒吐き食人花。いや、今は聖鈴の魔導師になったんだっけ?ま、どっちでもいいよね!はいマイクを取って、コメントをどうぞ!』



 ゆるい空気感を出しながら、ヤジリは闘技石段の上に立っているリリンサへとマイクを差し出し、笑顔を向けた。

 まるで、慶事でもあったかのようにハイテンションな振る舞いに、リリンサは平均的な表情をほんのりと崩し、笑顔を返す。


 その瞳には、VIP席に座る赤い髪の男が映っている。



「ユニク、見て。勝った。メナフもズバーン!って倒した!」

「お、おう……」



 狼狽するユニクルフィンの発した声は、それこそ呟く程度の声量しか出ていない。

 しかし、その声は遠く離れたリリンサへしっかりと届き、さらにリリンサの表情が明るく輝く。

 ヤジリが気を利かせてユニクルフィンの手元にマイクを召喚し、何となく察したユニクルフィンはマイクを手に取り、リリンサへ返答をしたからだ。



「おう……。ちゃんと見てたぜ。すっげえ格好良かったぞ」

「うん!とても頑張った!だから今夜は、凄く褒めて欲しい!」


「褒める……褒めるかぁ……。ちぃと難しいかもな」

「え”っ!なんで!?褒めてくれても良いと思うっ!」


「あぁ、別に、褒めても良いと思ってはいるんだ。ただな……」

「ただ……?」


「その物騒な魔王様を、一刻も早く封印しろぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!」



 **********



「やれやれ。せっかくオレが色々仕掛けを施してやったってのによ、全部台無しにするような事をしやがって」

「だって、あぁでもしないと勝てないと思った。結果的に勝てたし、私は満足している!」


「満、足、す、ん、な、このお馬鹿ッ!!お前、聖鈴の魔導師って名乗ったの忘れてるんじゃねえのか!?」

「……。聖女としては、ちょっと迫力ありすぎ?」


「あり過ぎなんてもんじゃねえ。大悪魔と評判の無敵殲滅も、裸足で逃げ出す酷さだぜ。わー。あの聖女様の槍、すっごく怖ーい!」



 あぁ、もう、どうしてこうなった……。


 無事に大魔王エンドを迎えた俺達は、これからの作戦を練る為に集結している。

 会場は、たこ焼き屋のおやじの店。

 槍をブンブン振り回していた方の大魔王様が、「お腹すいた。何か食べに行かないと、代わりにユニクを食べてしまいそう!」とか言い出しやがったからだ。


 普通、リリンほど可愛らしい女の子にそんな事を言われた日にゃ、色んなもんが奮い立つ所だ。が、俺の魂は先程の恐怖を思い出ししぼんだ。

 浮かんでくる情景は、美味しくリリンに頂かれる俺の姿。

 もちろん、スプラッタ間違い無しだぜ。


 そんな性癖は俺には無いので、速攻で話の主導権を握り、たこ焼き屋に導く。

 ……約束があるとはいえ、奢って貰ってすまんな。たこ焼き屋のおやじ。

 俺だって、リリン一人で5パックも食うとは思って無かったよ。



「むう。メナフの作戦は失敗してしまった?」

「作戦?」


「ユニク。メナフは、自分が心無き魔人達の統括者の無敵殲滅だと暴露する事で、私達の敵をおびき出そうとしてくれていた。こうすれば敵が近寄ってくるからって」



 へぇ、なるほど、それは良い作戦かもしれない。

 リリンから聞いた作戦は、メナファスが無敵殲滅だと宣言する事で、敵の接触を促すというものだった。


 現状、俺達は敵との攻防に勝利し続けている。

 そんな状況で、敵の目線で見れば、これ以上の戦力増強は避けたいはずで、メナファスが一人で行動していれば攻撃を仕掛けてくる可能性が高いというのだ。

 この作戦は、当然、敵が俺達の戦いを見ていることを想定している。

 不安定機構で『キングゲロ鳥の捕獲』が『クソタヌキの捕獲』に差し替えられていた以上、この町に出入りしているのは確定で、俺達の戦闘力を知るチャンスを棒に振る訳が無いしな。



「メナファスも俺達に協力してくれてたんだな。しかし、リリンの暴走によって敵は逃亡。受けた恐怖により、しばらくは出てこない可能性が高くなったと」

「むぅ。ごめん」


「ま、やっちまったもんはしょうがないさ。話を進めよう」



 現在、俺達の周囲は閑散としている。

 観客席にいた観客の殆どは、リリンが槍を出現させた瞬間、全力で逃げ出した。

 解き放たれる絶叫のハーモニーに、ここは地獄かとツッコミを入れそうになったほど酷い有様で、観客の殆どが帰宅し、人なんて数えるほどしかいない。

 ……すまんな、追加の材料を用意したと言っていた屋台のおやじ達。

 俺だって、リリンが大魔王だって知って……たな。うん、今更感が強い。


 そんなわけで、敵はもう既にいないはずだ。

 というか、俺が敵だったら速攻で逃げる。

 バッファ全開、グラムの惑星重力軌道も発動し、効率よく最高速度で逃げ出すぜ!



「私の悪ノリのせいで、せっかく正体を暴露してまで作ってくれたチャンスを無駄にしてしまった。メナフ、ごめん」

「謝らなくていいぜ。むしろ、敵が接触を計ってくる可能性は高くなったと思うからな」


「ん?なんでそうなるの?」

「魔王シリーズの恐怖機構は『比類なき恐怖を与え、恐怖から逃れる為に思考を統一する』からだよ。敵の目線で見れば、もう既に、リリンに喧嘩を売ってしまっている状況で後には引けないんだ。そんな時に更なる戦力としてオレが加わるのは全力で阻止しに来るだろう」


「確かに、カミナの所には敵の襲撃があったと聞いた。あ、そうなると、私達が心無き魔人達の統括者として繋がっているとバレてる?」

「そうかもしれねえな。ワルトナの所に襲撃が無かったのは、警戒されてるからか、それとも……?まぁいい。今夜、オレは酒場で晩酌でもしようかね。敗北をツマミにしながら、敵が来るのをゆっくり待つか」


「ん。私も今夜は予定があるし、そうしよう。明日待ち合わせをして、結果を報告し合おう」

「いいぜ。待ち合わせはそうだな……不安定機構の支部にするか」


「分かった。午前9時くらいが良いと思う」



 それから少し雑談をして、メナファスは夕暮れの街並みに消えていった。

 久しぶりに本気の戦闘をしたせいで汗や砂でベタベタするからと、ひと風呂浴びてから、町の酒場で晩酌と情報収拾をするらしい。


 あんだけ派手に『無敵殲滅』だと宣言しといて、何食わぬ顔で酒場に行くのは問題があるじゃないかと思ったが、認識阻害の仮面を上手く使い、バレないようにするらしい。

 そんな事をしたら、敵もメナファスの事を見つけられないんじゃないのか?と聞いたら、『カミナを出し抜く程の腕を持つ、ワルトナと同じ指導聖母』なら間違いなく見破って来るので問題はないそうだ。



「そんじゃな。頑張れよ、お二人さん」

「……!うん頑張る」

「おう、メナファスも、返り討ちにされるんじゃねえぞ」


「くくく。オレが返り討ちとか無いだろ。お前らみたいな失敗はしねぇよ。それにしてもその反応……くく、頑張れよ、リリン」



 軽い足取りで去って行ったメナファスは、どことなく哀愁が漂っているように見えた。


 うーん。雷人王の掌を生身で喰らって死ななかった事といい、普通の人間じゃ無いのは間違いない。

 だが、なんかこう、心理的な意味でも気になるものがあるんだよな。

 少し寂しげというか、無理して騒いでいるというかさ。



「なぁ、メナファスってさ、いつもあんな雰囲気なのか?」

「……違う。メナフは、たぶん、悲しいことがあったんだと思う。ユニク、何かメナフから聞いていない?」


「え?いや……。そういえばさ、保母さんを失業して、清掃業をしているなんて言ってたな」

「メナフが保母さんを辞めた?」


「あぁ、詳しくは聞かなかったが、物悲しそうな雰囲気だったぜ?あん時は、挑戦者を思いやってそんな顔をしているのかと思ったが、違うのか?」

「メナフは、子供を育てることに強い憧れを持っている。昔、自分がそうされたように、未来を知らない子供に多くの希望を見せてやるのがメナフの夢だという程に。だから、メナフが自主的に退職を選ぶとは考えづらい。恐らく、何かがあったんだと思う」



 リリンの補足説明では、メナファスは紛争地帯で生まれ育った孤児だという。

 30人くらいの集団で生活をしていて、周りの大人たちはメナファスに戦士としての教育を施していたそうだ。


 敵は害すもの。

 人は殺すもの。

 物は奪うもの。


 悪劣な環境で育ったメナファスは、いつの間にか一人になり、そして、誰かの組織に加わり、また一人になるのを繰り返していた。

 メナファスが原因なのではない。

 周りが弱すぎたのだ。

 結果的に、味方はメナファスを残し全滅し、敵は残ったメナファスに全滅させられた。


 それを何度か繰り返し、そして、名乗らぬ老爺に出会ったそうだ。



「名乗らぬ老爺?」

「うん。メナフを人の世界に連れだした老爺は、名前や素性、その一切を教えてくれなかったんだって。『せっかく人に成れたのじゃ。わざわざ過酷な運命に近づく必要もなかろう。ほほほ』っていうのが口癖だったらしい」


「なんだその爺さん。胡散臭さが半端じゃねえな」

「身寄りもなく保護者も不明な子供を連れ去るなんて、見方を変えれば普通に犯罪。未成年者略取で罰せられるべきだと思う!」



 ……うん。確かに未成年者略取は罰した方が良い重罪だな。

 だけどさ、リリンも森で迷子になっていた女の子を連れて来て、自宅の温泉宿で働いて貰ってるとか言ってなかったっけ?


 いや、未成年者略取と決めつけるのはまだ早いか。

 もしかしたら、何か理由があって親の元に帰れないのかもしれないし、もしかしたら、親から承諾を得ているかもしれない。


 ちょっと確認した方が良い気もするが、リリンが亡くなった妹の代わりに溺愛しているのは事実だ。

 これは、複雑な問題だし、触らない方が良いだろう。

 狐の皇種も潜んでいるらしいし。



「しばらく旅をして、メナフはその人と別れた。というよりも、皇種が暴れている所に遭遇して行方不明になってしまったらしい」

「なんか、話が急に物騒になったんだけど!?」



 え!?皇種の事を考えていたら、皇種が出てきたんだけどッ!?

 いきなりの展開に困るが、話を聞く限りたまたま出会っただけで、何かしらの因縁とかがある訳では無いらしい。

 その皇種というのも、いつの間にか退治されたらしいしな。



「そんなわけで、再び一人になったメナフは世界を旅しながら色んな物を見て回り、私達に出会った。やがて、その名乗らぬ老爺と同じように子供を育ててみたいと思うようになり、私達と別れた後で小さな保育園に就職。色んな苦労があるけれど、それでも楽しいんだって笑ってた」

「なんか……ちょっとイメージ変わるな。無敵殲滅さんはもっとこう、殺伐としている研ぎ澄まされたナイフみたいなもんだと思ってたぜ」


「うん。私達と出会った時は、それはもうすっごく鋭かった。戦闘力も私とワルトナとレジェの三人がかりでやっと戦えるくらい」

「ん?なんか言い回しに違和感があったぞ?どうして初対面で戦う事になってるんだ?」


「だって敵だったし。回数で言うと……10回くらいは殺し合いをしたと思う!」

「待て待てッ!平均的な微笑で語って良い話じゃないッ!」



 いきなりの衝撃の展開に、俺はつい声を荒げてしまった。

 ま、周囲に人影はいないし別にいいけどな。


 それよりも、どういう事なのか聞かないと不味いことになりそうな雰囲気が、ヒシヒシと伝わってくる。

 俺はリリンに話を促しつつ、歩き出した。



 **********




「それじゃ、メナファスとは最初は敵同士で、激しく戦いあう関係だったと?」

「そういう事。心無き魔人達の統括者として有名になってきて、それを快く思わなかった不安的機構アンバランスノワールの上層部は刺客としてメナフを送りこんできた」


「不安定機構・黒と戦うの、まさかの二回目だっただと……」

「結局、メナフを取り込んだ私達の手により、無事に敵は殲滅された。今回も、一欠片も残さない程にブチ転がしたいと思っている!」



 たこ焼き屋を余裕で壊滅させ、ついでに隣のお好み焼き屋に打撃を与えつつ、俺達は受付に戻って来た。

 リリンは、物騒な目標を平均的な表情を崩しながら意気込んでいて、瞳がる気に満ちている。

 色んな意味で危険そうなので、早く宿に戻って落ち着かせたいところだが、まだやることが残っているのだ。


 リリンの優勝賞金と副賞の屋台食べ放題チケットの獲得。

 受け取る金額は、なんと驚異の26億3千万エドロだ。


 俺には途方もなさ過ぎて価値が良く分からないが、普通の人が一生暮らす分には困らない金額だというのは十分に分かる。

 いやほぉぉぉう!大金持ちだぜッ!

 俺が稼いだのはたったの1億エドロぽっちだけど、気にしたら負けだッ!!



「それにしても、26億かぁ。なぁ、リリン的にもかなりの稼ぎになったんじゃないのか?」

「うん。しばらくは遊んでいても大丈夫そう。不安定機構の任務だと、ここまで大きい金額のは無いし」


「そうか。しばらく遊ぶ……。そうだな!せっかくだし、遠くの町にでも遊びに行くか?」

「遠くの町?じゃあ、レジェのとこに向かう?」


「そんな命がけの遊びは嫌なんだけど!却下だッ!」



 ちくしょう!

 どうにかしてレジェンダリアに向かわないで済むようにリリンを誘ってみたが、まさか地獄に直行しようと言い出すとはな。


 さっき会ったセブンジードさんの話だと、レジェンダリアの王都は遊んで良し、住んで良しの夢のような場所らしい。

 食べ物も美味く、劇場や音楽館なども豊富。

 そして、ひっそりと教えてくれたが、綺麗なお姉さんと楽しくお話し出来るお店も多いらしく、非常に興味を引かれたのも事実だ。

 だが……。


 そこで懇願された内容は、今でも俺の心に残っている。



 **********


「えぇっと、ユニクルフィンだったよな?ちょっとこっちに来てくれないか?」

「ん?いいけど……?」



 セブンジードさんに呼ばれて付いて行くと、リリンとナインアリアさんから見えない位置に来た。

 ものすごく深刻な、恐怖を秘めている表情。

 きっと、大悪魔さんに襲われたに違いない。俺と同じ気配がするし。



「頼むッ!どうにかして、リリンサ様をレジェンダリアに近づけないようにしてくれ!!」

「……なんでだ?」


「リリンサ様が来ると大変な事になるからだよ!ん?分からねえって顔してるな、だったら具体的に言ってやるよ。何だあの槍はッッ!?!?一目見ただけで、いろんなもんが飛び出すかと思ったぞッ!?」

「ふ。魔王の右腕(デモン・ライト)って言うらしいぜ。リリンのお気に入りな魔道具だ」


「あんなのがお気に入りだとッ!?嘘だろおいッ!!」

「残念ながら、嘘じゃない。それにな……ついでにもう一つ、スペシャルな事を教えてやろうか?」


「ス、スペシャル……?まだ、なんかあるのか……?」

「あぁ、ものすごーく残念なことに、魔王の右腕はシリーズ物なんだ。俺が見たのは『槍』の他に『杖』と『アクセサリー』。……だからな、リリンは少なくとも3つ以上の魔王シリーズを所持しているぞ」


「あんなのが、合計三つもぉおおおおおお!?!?オワタ……。そんなやべえ大魔王を散々煽ったとか、俺の人生、オワタァ……」



 **********



 そんな訳で、セブンジードさんからの懇願を受けた俺は、一層レジェンダリアに近づきたくなくなった。


 その時にさりげなく確認してみたが、フィートフィルシア侵略作戦にリリンが加わる様な事になれば、一瞬で闘いが終わるだろうとのこと。

 なんでも、レジェリクエ大魔王陛下が「リリンが戻ればぁ、本気出すぅ」っと意気込んでいるというのだ。


 俺の舵取りに、数百万人の命が掛っている。

 フィートフィルシアの人口なんて知らないけど、そんくらい居るだろ。たぶん。



「あれ、ヤジリはいないの?」

「……いませんよ。あの馬鹿はお酒を飲みに行きましたから」



 数百万人の運命の重さがのしかかっている間に、リリンは受付に到着し手続きを始めていた。

 やはりVIP受付は締まっており、隣の通常受付で対応するみたいだ。


 担当の人は俺もお世話になった、出来るオーラの受付員さん。

 こんな美人な人が、全裸三人衆の先鋒・ドンキブルの奥さんだったとはな。

 世界は広いなぁ。



「それでは清算させていただきますね。魔法の鈴蘭様……あれ?データに無い?」

「……毒吐き食人花で調べてみて」


「あ、ありました……。なんで……?」

「ヤジリのせい。こういう小技を仕込んでくるのは大抵そう。昔も良くやられた」


「……重ね重ね、申し訳ございません……。あの馬鹿の給料を差し引いて、自分の愚かさを償わせます」

「ん。了解した」



 試合が終わっても、悪戯を仕掛けてくるのかよ!

 ほんともう、やりたい放題だ。

 もしこの世界に神がいるのなら、是非、天罰を下して欲しいと思う。



「では、こちらがリリンサ様がお受け取りになる優勝賞金の26億3千万エドロでございます」

「ありがと。あ、そうだ。交換できる景品のカタログを見せて欲しい」



 唸るような札束の山脈が俺達を取り囲んだ。

 俺のちっぽけな小山なんて鼻で笑うレベルな大山脈が連なり、最早、ありがたみを超えて恐怖すら感じる。


 俺が事態に付いて行けず震えていると、リリンは変な事を言い出していた。

 話を聞く限り、この闘技場では現金を受け取る代わりに、闘技場側が用意した品質の良い景品を購入する事が出来るらしい。


 この景品は、獲得した賞金のみでしか購入する事は出来ず、非常に高額。

 俺が賞金を貰った時に提示されなかったのも、1億エドロで買える景品の種類が少ないからだそうだ。

 どれどれ、買える奴はどれだ……?

 あれ、ぱっと見た感じ、一つしか見当たらな……。



『クロコダイナソ・ミスリル鎧 8700万エドロ』



 ……既に着ているんだが。

 つーか、ウリカウ総合商館だと2000万エドロだったんだけど。

 ボッタ食ってないか?おい。


 カタログを覗き見て、その値段の高さに驚く俺。

 リリンは何かを探しているようで、ペラペラとページをめくっている。



「何を探しているんだ?リリン」

「……お酒が欲しい」


「酒はダメだろッ!!」



 おい待てリリンッ!

 なに平均的な疑問の顔をしてるんだよ!?


 リリンも俺も16歳であり、普通に未成年だ。

 酒を飲むのはダメだとされる……って、そんな建前はどうでもいい!

 俺はカミナさんに聞いたリリンの弱点を思い出す。


「リリンの弱点はお酒よ。お酒を飲むと、私か、ワルトナか、レジェか、メナフの真似をするようになって、すごく可愛いわ」


 なるほど、『暗黒ナース』か『悪辣聖女』か『大魔王陛下』か『武装保母さん』になる訳だな。

 俺、存亡の危機ッ!!させるかッ!!



「リリン、酒はダメだぞ?俺達は未成年だしな」

「ユニクは勘違いしているっぽい?私が飲むんじゃなくて、贈答用」


「贈答用?」

「そう。私は未成年なので、普通の酒屋だと売ってくれない。なので、こういった機会に手に入れるか、ワルトナにお願いして用意して貰う」


「あぁ、リリンが飲まないんなら別に良いんだが……。誰に贈るんだ」

「白銀比様」


「それはそれで問題あるだろッ!!」



 なんで狐の皇種に酒を贈るって話になった!?

 つーか、話を聞く限り何度も贈ってるっぽいんだけど!?



「これと、これと、あ、このブドウの奴は二本で。白銀比様はブドウ好きだし」

「タヌキはバナナで、狐はブドウ!?じゃなくって、リリン!なんで白銀比様に酒を贈るって話になるんだ?」


「ん。レジェの所に行った後にでも、一回、自宅に帰ろうと思う。その頃にはきっと……温泉にも……!」

「リリンの自宅に行くのには反対しないが、別に白銀比様に会いに行く必要もないだろ?」


「会いに行かなくても間違いなく遭遇するし、第一、それなりにお世話にもなっている。あ、加護を貰ったお礼もしなくちゃいけないから、今回は多めにしておこう。それじゃ、これと、これと、これも……」



 う。加護のお礼か。

 そう言われちゃ仕方がないが……。

 一言だけ言わせてくれ。


 その酒、一本で1億エドロを超えてるんだが!?

 狐の皇種、グルメすぎるだろッ!!

 タヌキなんて、一本500エドロのチョコバナナで、歓喜しまくってたんだぞ!!



「これで良し。お会計はおいくらになった?」

「10億3100万エドロですね」


「そう。それじゃ会計をして」



 ……酒代が10億エドロォ……。

 なんだこの感情。

 無性に鳴きたくなったぜ。ぐるぐるきんぐぅー……。


 そして、購入金額を引いた15億9900万エドロがリリンに受け渡された。

 量が量だけに、リリンは乱雑に札束を何処かに転送して行く。

 俺も手伝ったが、最初は緊張していたのに、流れ作業としてどんどんこなして行くようになった。


 そして、リリンは屋台食べ放題チケットを、とても大事そうに財布にしまった。

 そうか。そのチケットはリリンにとって、15億エドロよりも価値があるんだな。


 それ、オレも持ってる。やったぜ!



「さて、貰うもん貰ったし、後はホテルに帰って寝るだけだな」

「いや、まだやることがある」


「ん?そう言えば今夜は用事があるとか言ってたか?何があるんだ」

「……ん。良かった、まだ居た」


「まだ居た?誰かを探してる……のか……?」



 リリンが向けた視線の先には、可憐で美しく、元気いっぱい過ぎて遭遇した敵をことごとく全裸に剥いていった少女が居た。

 観客席で見たときよりも、数倍、可愛く見える……。

 あぁ、お好み焼きを食べる姿ですら美しい……。

 横に積まれた簡易ケースの残骸は見なかった事にする。食べキャラ枠はもう埋まってるんだ。


 そんな彼女の名前はアルカディアさん。

 俺の心がトキめく、初恋の人だ。



「もしかして、リリンが探しているのって、アルカディアさんなのか……?」

「そう。彼女には聞きたい事があるので、今夜一緒に食事をしようと誘ってある」


「な、なんだって!?よくやったぞリリン!」

「何で喜ぶの……?あ、もしかしてユニクも、気になっていた?」



 何で喜ぶのって?……嬉しいに決まってるだろ!

 気になっていたって?……気にしまくりだぜ!!


 今から起ころうとしているのは、まさに両手に花状態。

 俺が妄想までした、憧れの超展開だ。


 あぁ、ドキドキと油汗が止まらないッ!!



「実は俺も、アルカディアさんの事が気になっていてな」

「やっぱりそう?うん、私も、アルカディアは敵だと思う!」



 ……。

 …………。

 ………………は?



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