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第74話「毒吐き食人花VSメナファス・ファント②」

 

「リリン。オレ達が戦うのは、どんくらい久しぶりだか覚えているか?」

「だいたい……一年ぶりくらいのはず」


「短いよなぁ、一年なんてさ。お前はどうだ?この一年、有意義なものだったと胸を張れるか?」

「張れるに決まっている。私の人生の目標が大きく進展した、実りのある年だと言いきれるから」


「そうか。それは良かったな。だったらよ、オレに見せちゃあくれねえか?成長したお前の姿をよ」

「いくらでも見せてあげる。きっと驚くと思う!」



 二人の大悪魔の戦いは、静かな談笑から始まった。

 それはまるで、しばらくぶりに会った友人へ気さくに声を掛けるような仕草だ。


 しかし、お互いへ向けている視線は、剣呑なる鋭き眼光。

 その瞳は揺らぐことが無く、たったの一瞬でも気を緩めれば、即座に飲み込まれてしまうと予想が出来た。


 そんな張り詰めた空気を切り裂くように、どちらともが、小さく息を吐く。

 戦闘を行う為の準備、バッファの魔法と共に。



「《多層魔法連・瞬界加速スピーディー飛行脚フライトステップ次元認識領域トライキュービクルスフィア》」



 リリンサが唱えたのは、最も良く使う瞬界加速と飛行脚の組み合わせに、空間把握能力を拡張する次元認識領域を足したものだ。


 超状の攻撃速度を誇るメナファスの連撃は、人間が持つ狭い視野では捕らえることは難しい。

 その為、上空から俯瞰する様な視野は必須であり、今から行われる戦いは、お互いの距離関係を掌握した方が勝利する事になるとリリンサは知っているのだ。


 そして、あえて第九識天使を使わないのは、メナファス程の実力者と戦う場合では共有している視野を利用されフェイントを掛けられてしまうからだ。

 メナファスと数え切れない戦いを行ってきたリリンサは、しっかりとした対メナファスの戦法を持っている。



 メナファスに勝つには、近づき過ぎても、離れ過ぎてもダメ。

 5mから10mくらいの位置を維持し、魔法戦で打ち勝つ!



 リリンサは素早く戦略を立て、メナファスと距離を保ったまま、円を描くように走り出す。

 持っている星丈ールナは怪しい輝きを放っていた。



「相変わらず動き回るのが好きみたいだな。だったらオレもマネをしよう《多層魔法連・瞬界加速―飛行脚―次元認識領域》」



 そしてメナファスも、リリンサとまったく同じ魔法を唱えた。

 しかし、前の二つの魔法はリリンサの動きに対応する為のものであるが、後者はリリンサとは違う目的で唱えたものだ。


 メナファスの戦闘職業をあえて明言するのならば……『召喚術師』が最も近い。

 召喚術師とは、予め決めていた物質や生命を召喚し、有益に使用して勝利を目指す者たちの事を差す。

 危険動物を召喚し使役する『ビーストテイマー』や、自律して動く魔道具などを召喚する『パペットマスター』などが有名であり、どちらも溢れるほどの物量を用意し圧勝を狙う戦いを方する。


 そして、メナファスの戦いも例に漏れず、圧倒的な物量戦を主軸としている。

 しかし、召喚するのは危険極まる魔獣でも、伝説級のゴーレムでも無い。


 近代になって開発され、魔法という個人の才能によらなくても同じだけの破壊力を生み出す道具……銃火器。

 それらを悠然と召喚し、類まれなる才能によって、人知を超えた攻撃を可能とするのが『無敵殲滅』の真骨頂なのだ。


 メナファスは様々な重火器を召喚しながら戦う『召喚砲兵(ウエポンサモナー)』だ。

 彼女がひとたび戦闘を始めれば、弾丸が弾丸を呼び、どんな場所でも鉄音の響く紛争地帯へと姿を変える。


 ぶらつかせていた手を前に突き出し、メナファスは召喚の魔法を唱えた。

 そして、自身が最も信頼する武器、一対二丁のハンドガンを呼び出したのだ。



「《サモンウエポン=敵踊る弾奏ヘビィエネミークレイジー》」



 メナファスの手に握られたのは、様々なボタンやトリガーが突き出した、複雑な形の小銃だった。

 一応は銃の形をしているものの、万人が想像する様なスリムなシルエットではなく、厚みも幅もある長方形のような形をしている。


 メナファスは迷わず銃口をリリンサに向けて狙いを定め、躊躇なくトリガーを引いた。

 銃口に出現した魔法陣をくぐり抜けた弾丸が、音速を超えて飛び出してゆく。



「ははははは!行くぜぇリリン!」



 高速で闘技石段の上が弾け、リリンサの背後から詰め寄った。

 メナファスは踊る弾奏のトリガーを引きっぱなしにして、連続射撃を行っているのだ。


 この銃は、機械と魔法を融合させた世界に一つだけしかない特別なもので、弾丸を装填する必要がない。

 魔法次元に格納された弾薬庫から直接転送し、弾薬を装填。

 それは、リロードをする時間を短縮しているばかりか、弾薬庫そのものを背負って戦っていることに等しい事だ。


 心無き魔人達の統括者時代、銃の不調に気が付いたメナファスは、カミナに相談を行った。

 当時、技術者と医師の狭間に居たカミナは快くメンテナンスを引き受け、そして、魔改造。

 様々な魔法的利点を組み込み、連射性能と殺傷能力を極限まで高めた後、さらにダメ押しの魔改造を経て、この銃が出来あがったのだ。


 最早原型が見当たらなくなったこの『敵踊る弾奏』は、セブンジードが持つ魔導銃とは、根本的な部分が違う。

 この銃は、魔法ではない実体のある弾丸を飛ばす。

 つまり、弾丸は質量を持っており、防御魔法を突破した場合、そのまま致命的な一撃を与えることになるのだ。

 だからこそ対処が難しいのだと知るリリンサは、弾丸の雨を受けてしまわないように走るスピードを上げて、闘技石段の上を駆け抜けてゆく。



「最初は逃げの戦法か。どうしたんだ?一年前と変わってないじゃねえか」

「戦略は練り終わっている。何も問題ない」



 二重のバッファが掛っているリリンサの走るスピードは、音速に近い。

 しかし、音速の壁を超えると空気の壁を突き破ることになり、身体に少なからずダメージが発生する。


 だからこそリリンサは要所以外ではスピードを落として走っている。

 だが迫る弾丸の射出スピードはリリンサの走るスピードを優に超えており、追い付かれるのも時間の問題だった。


 背後から地面を叩く激しい音が迫って来たのを理解したリリンサは、身体を捻り、杖を振り抜いた。

 杖の先には青色の魔法陣。狙っているのは放たれている弾幕の制圧だ。



「《五十重奏魔法連クィンクァゲテットマジック主雷撃プラズマコール!》」



 響いた雷鳴は50回。

 空間を切り裂いていた弾丸は主雷撃の光に包まれ、あっけなく弾け飛んだ。


 数え切れないほどの数があるとはいえ、直径2cmほどの弾丸では、研鑽された魔法の威力には及ばない。

 それをお互いに理解している二人は、弾け飛んだ弾丸に狙いを定めて、別々の行動を起こした。



「うずまけ!《電気の渦(ボルテクス)!》」

「走れ《超電磁誘導弾レールガン》」



 二人は、弾丸を雷系の魔法で迎撃すれば、磁力を帯びた電磁鉄に変化すると知っていた。

 だからこそリリンサは、電気の渦を作りだし、空中に散らばった弾丸を寄せ集める事が出来たのだ。


 リリンサを穿つはずだった弾丸は裏切り、メナファスの元へと帰ってゆく。

 電気によって回転と速度を引き上げられたそれらは、空気との摩擦で発光しながらも突き進む。


 だが、殺傷兵器としての目的を迎えること無く、全ての弾丸は無に帰した。

 リリンサの支配下に置かれた弾丸が相互に干渉し合う、複雑な磁力場。

 それらを利用するべくメナファスは5発の弾丸を新たに撃ち放ち、そしてそれは磁場に触れ、銃口を超えた後に加速する『《超電磁誘導弾レールガン》』となって、周囲の空間を巻き込んで爆裂させたのだ。


 突きぬけた弾道の軌跡に、リリンサの姿は無い。

 影響を受けない程の距離を取り、その威力を確かめる為に、しっかりと観察を行っている。



「前よりも威力が上がっている。今のはヘタなランク7の魔法よりも、よっぽど破壊力があるはず」

「いい読みだ。普通の民家でいいのなら、一撃で5軒は倒壊させるはずだぜ?」


「ふむ。意味が無いと分かっていつつも、とりあえず張り直しておこう《第九守護天使》」



 抉れた地面を見たリリンサは、その威力に驚いていた。



 一年前よりも、格段に威力が上がっているね。

 私の主雷撃の性能が上がっているせいもあるだろうけど、恐らく、メナフの技術の向上が及ぼす影響が大きい。


 メナフの持つ銃は、もともと普通の銃。

 つまり、誰が使用しても同じだけの威力を発揮するし、そうでなければならない。

 しかしカミナによって魔法陣が組み込まれ、速度、殺傷能力に変化をつけられるようになっていることで、技術が威力に直結するようになった。


 メナファスは、戦いの天才。

 あらゆる選択肢を揃えることで、最も威力の高い攻撃手段を行使する。

 今も、私の反撃を予測し、それを利用して一番威力の高い反撃を行ってきたし。


 ……やっぱり、近づきすぎるのも、離れ過ぎるのも危険だと思う。


 銃という射撃武器は、実は近接戦闘にも向いている。

 なにせ、放たれた弾丸は飛距離が長くなるにつれて速度が落ちて行く。

 つまり、近づけば近づくほど、速い状態の弾丸を処理しなくてはならない。


 そして、遠くなればなるほど、一回の攻防で私が消費する魔力が多くなる。

 魔法の飛距離を伸ばす為には、より多くの魔力を注がなくてはならない。

 だけどメナフは、距離に応じて適切な武器を選択するだけで、武器を召喚する為に必要な魔力は変わらない。


 ちょっとチートだと思う!

 だから私も、チートを使おう!



 リリンサは魔力を高め、呪文を唱えた。

 本日三回目の『魔導書の閲覧』である。



「《魔導書の閲覧(ライブラリ)!》」

「出たか、魔導書。じゃあオレも、そろそろ武装を使おうかね。《サモンウエポン=連装重機関銃(ガトリング)》」


「あ!いきなり使うの!?」

「くくく、お前の魔導書が相手じゃ、これくらいないとなぁ」



 131冊の魔導書を背後に召喚させたリリンサに対し、メナファスも、己が主武装を召喚した。


 16本の砲身が束になった、回転式の銃機関銃。

 砲身の長さは150cm程であり、右脇に装着したモーターと結合し、無限の暴威を撒き散らす。

 動力は魔力。

 そして、砲身の根元に取り付けられた機構が、精密に獲物を補足し狙いを定めるのだ。


 メナファスは、右目に召喚した照準器越しに、リリンサを見やった。

 身長、体重、動きの慣性。

 外見から判断できる要員を元に立てられた予測は、必中なる未来を映し出す。。



「最新鋭の武器VS遥か古来より伝わってきた魔法。どっちが強いか勝負と行こうぜ?」

「乗った。上達した私の技術で、全ての弾丸をブチ転がす!」



 キィイイン!と甲高い金属音がして、メナファスの連装重機関銃が動き出した。

 ダダダダダダダダッという発射音は、毎分600発。

 弾丸の雨という表現では生ぬるい、弾丸の津波がリリンサを襲う。


 だがリリンサの身には届かない。



「《十奏魔法連デクテットマジック幽玄の空盾(クリアフィルム)!》」



 リリンサの身を守っているのは、物理攻撃を無効化する空気の盾。

 それらを念入りに10枚重ね合わせ、全方向からの攻撃に備えたリリンサは、ランク9の魔導書に魔力を注ぐ時間を稼ぎ終えた。


 そして、反撃の呪文を唱えようと口を開き――。

 メナファスの声の方が速く、世界に示された。



「《大規模個人魔導(パーソナルソーサリィ)戦争依存地帯パラノイア・コンフリクト》」


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