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第19話「リリンとお勉強~英雄・ユルドルード~」


 俺は、『英雄・ホーライ伝説』を半分くらい読了した段階で、とある確信を得た。



 ――この小説の執筆者、英雄ホーライとは、間違いなく俺の村の村長、ホウライのことである。と



 そもそも嫌な予感はしていたが、この小説を読むにつれ疑心は懐疑になり、やがて確信になった。


 そう、主人公たるホーライの口調は俺の知る村長ホウライと酷似している。

 人を小バカにしながらも、常に中心を射るような物事の言い方。


 例えばこんな感じに、人をイラつかせるのだ。

 これは、登場人物、光の少年賢者・ライトアに向けた言葉だ。



「どうした?小僧。お前の特技はテカテカ光るだけか?だったら魔法なんぞ使わずに、お前の広いおデコに油でも塗った方が安上がりだわい」


「情けないのう。どうれ、お前でも出来そうな仕事を与えてやろう。風呂沸かしといてくれ、その魔法で」


「ほお!夜を昼に変えるとは、こりゃ凄い。これで24時間、薪割りが出来るのう」



 などなど、このホーライとやらは兎に角、口が悪い。

 小説として読む分には大いに楽しめそうだが、その口調に覚えのある俺としてみれば、どうしても村長の顔が浮かんできやがる。

 そして、極めつけは敵に破れそうになった少年賢者・ライトアを助け出したシーンだ。


 

「まったく、自身と相手の力量を見誤るとは、お主それでも賢者か?やれやれ、情けなさ過ぎて(・・・・・・・)ケツから溜め息が(・・・・・・・・)出そうになる(・・・・・・)わい」



 この言い回しはそれはもう、よーく覚えている。リリンと始めて出会った日に、じじぃに言われた言葉だ。


 俺は絶対の確信を持って、この小説の執筆者は村長ホウライだと断言できる。

 そして、村長じじぃのレベルは9981。

 冒険者の平均2万レベルには丁度半分と言ったところ。

 この事実が、つまらない現実を語る。


 この『英雄・ホーライ伝説』はフィクションである。と


 しかし、目の前に座るリリンの目は今だにキラキラと輝いている。

 彼女は憧れている。最強の英雄・ホーライにだ。

 パタンと本を閉じ、リリンに視線を送ってみる。

 すると待ってましたとばかりに、リリンは口早で語り出した。



「ユニクが読み終えた中盤迄に、ホーライは7つの魔法を使用したと思う!それは、高位の魔導師であればその凄さが分かるというもの。例えば最初の魔法は――――」



 あっ、これ、変なスイッチが入っちゃってるな。

 つらつらと並べ立てられる言葉はこの本の、というか英雄ホーライがいかに凄いかの解説だった。


 ……うん。言えない。これは、言えないぞ!


 もしかしたらこの本は、あのショボくれた村長じじぃが書いたかもしれないなんて、とてもじゃないが言えない!


 夢は、夢のままの方がいい。

 俺はこの事実を心の中に封印しつつ、早急に話を元に戻した。



「とりあえずホーライ伝説は後で読むとして、英雄の知名度が凄いのは分かった。じゃぁ具体的にはどんなことを成す存在なのか、教えてくれ、おっとネタバレになることは避けくれよな!」

「うん、承知した。ネタバレよくない。英雄とは強き者で、この世界の超状の危険を取り除くもの。具体的には、噴火した火山を止めにいったり、大干ばつの地域に湖を作ったり、皇種を討伐したりと、人類には不可能とされているような事柄を、たった一人の力で成してしまう存在のこと」


「……え?ちょっとスケールがでかすぎて着いていけないんだが?火山を止める?皇種を討伐?一人でどうやってだ?」

「そう、人類には理解ができない。しかし、その方法を後から聞けば、理論は通ることばかり。『噴火を止めたいなら、山を切り崩して埋めてしまえばいい』そんな常識はずれの手段を行えてしまうのが、英雄と呼ばれる者。そして、ユニク、貴方のお父様もその一人なんだよ」


「……はは、何かの間違いだろ?そんなすげぇ人の息子が俺だなんて………」

「神の名を使った『神託』に嘘が書かれることなど、絶対に無い。神託に『英雄ユルドルードの実子、ユニクルフィン』と書かれた以上、絶対に、ユニクは英雄の実子」


「い、いや、もしかしたら同姓同名かもしんないだろ!?」

「それもない。私の神託には一枚の魔道具が添付されていた。定期的に今のユニクの姿が写し変わる魔法のカード。コレがそう。《サモンウエポン=ゆにクラブ》」



 一瞬の内に召喚光が放たれ、リリンの手の上に手のひらサイズのカードが表れた。


 全体が黒光りする高級感溢れたデザインで、カードの上部には『ゆにクラブ』と金文字で書かれている。

 そしてその下には、俺の写真が大々と表示されていた。



「見て、このカードこそ神託と共に届けられた、ユニクに対する唯一の手掛かり。このカードがユニクの身元を証明している」

「ちょっと触ってもいいか?」


「うん」



 リリンの手からカードを受け取ると、ちょっとだけ違和感があった。これ、透明なガラス?で保護されているな。

 聞いてみると、「絶対に汚したり傷つけたりしたくなかった」なんて、嬉しいことを言ってくれた。


 さて、色々な確度で裏表を見てみても、カードの名前と俺の写真以外何も書かれていない。

 ……高級感あふれるカードに手抜きか?


 しかし、この写真は紛れもなく俺で、背景はナユタ村で間違いない。

 だとすると、別人という事でもない……のか。



「これで、ユニクの身元は証明された」

「あぁ、間違いないみたいだな。正直な所、信じられない。というか、信じたくないんだけどな。だって英雄の息子がタヌキに負けたなんて笑い話にもならねぇだろ?」


「うーん。そのタヌキは、もしかしたら、超強い個体だった……とか?」

「すぐにレベル800の蛇に補食されたよ。目の前で」


「…………。」

「まあ、嘆いてもしょうがない。この際俺の強さは置いておくとして、ユルドルードだっけ?親父は一体どんな英雄だったんだ?」


「それは、この英雄ホーライ伝説の18巻から3巻に渡り書かれている」

「!?載ってるのかよッ!?」


「多分だけど、この18巻から出てくる三人組の中心人物、"ユルド"はユルドルードのことだと思う」



 再び差し出された本を手に取り、まずはタイトルの確認。

 どれどれ。

 『英雄ホーライ伝説、息巻く老爺と三匹の悪ガキ(小僧)


 悪ガキ………か。どうやら俺の親父は悪ガキだったようだな。

 最初の冒頭から数ページを読んでみると、なにやら三人の少年が英雄ホーライから逃げている様子。

 ……しかも、逃げながらも全力で魔法をぶっぱなしているらしく、環境破壊が著しい。



「待てや糞ガキ共がぁ!ワシの水筒にワサビ汁なんぞ入れおって!誰の仕業じゃ!」



 うっわぁ、まさに糞ガキ。だけれど、グッジョブ!!

 しかし、この少年ユルドのイタズラはこんなものでは収まらなかった。ページを追う毎にイタズラの内容は凄まじくなっていく。



「なぁ、リリン。この人が俺の親父なのか?」

「そうだと思う。逸話として語られるユルドルードの人物像にそっくり」



 ……。英雄(おとな)になっても、悪ガキなのか。



「その逸話ってのは?この本とは違うのか?」

「不安定機構の最深部には歴史教典と呼ばれる史実を記録した本があって、そこには英雄達の逸話も書かれている。その歴史教典によれば、ユルドルードは10年の間で24体の皇種を討伐した、長い歴史上でもとんでもない強さの英雄ということになる」


「はぁッ!?24体!?あの、アマタノみたいな奴を24体も倒したってのか………」

「そう、そして最後の皇種討伐任務、『トライアングル恥部事変』の後、姿を消した」


「……。なんだって?トライアングル恥部事変?」



 なんだその、とんでもないアホなネーミングの事件は?

 絶対に良い意味で付けられていないという事が一発で分かっちゃうんだが!?



「とある地域が三角形にくり貫かれたように、その中の無機物だけが消滅してしまうという報告を受け、ユルドルードは討伐任務に赴いた。結果的にその中に隠れていたのは皇種で、無機物を消滅させる霧を吐いていた。ならばとユルドルードは、とある決断する」

「ま、まさか………。」


「ユルドルードは自身が身に付けている全ての無機物、衣服や装備品などを脱ぎ捨て全裸で、その霧に突撃した」

「アホだ……すっげぇアホがいる……」


「そして見事その皇種を討伐に成功。しかし、長時間その霧の中に居たせいで、霧の成分が体に染み込んでしまった。なので、勝利の記者会見中もずっと全裸。全世界新聞の一面にはその逆三角形な全裸写真が載り、こうタイトルが付けられた『トライアングル恥部事変』」

「……。俺、もう、親父のこと誇れなくなった。……英雄の息子だと知って、三日も経ってないけど」


「そんなことはない。世論では色々立派だと言われている」

「いや、まったく嬉しくねぇよ!」



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