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第71話「索敵と命令」

『本日の戦いは熱かったッ!!ランク9の魔法をガンガン使う、そこらの雑魚共じゃ対応できないであろう撃戦の数々!いつもの大会ならブッチギリで優勝できる奴ばっかりだったし、これは神様も大満足だね!!』


『そして、それらを見事に喰い散らかして勝利を収めたのは……やっぱり我らの、毒吐き食人花ッ!!なお、この花は非常に高い致死性の毒を持っています!観客の皆様、見かけても触らないように、ご注意下さい!!』

「……。トドメは差してない。誤解を与えるようなことを言わないで欲しい!」



「ポ・イ・ズンッ!ヘイ!ポ・イ・ズンッ!!」という大歓声が観客席から湧きあがっている。

 各々が抱いている興奮は最高潮に達し、優勝者たるリリンサに熱い声援を送っているのだ。


 ヤジリは、そんなリリンサを称える声援に「うんうん。みんな楽しそうで何よりだね!」と頷くと、優勝者インタビューをするべく闘技石段に降り立った。

 流れるような身のこなしでリリンサにマイクを向けながらニッコリ微笑み、視線でリリンサにコメントを促す。


 そしてリリンサは、流れるような身のこなしでヤジリの横を通り過ぎ、華麗にスルーした。



『えぇ!?ちょ!毒吐きさん!?』

「すぐ戻る。ちょっと待ってて!」



 リリンサの視線は、待機場所で睨み合いをしているアルカディアとタイタンヘッドに向けられている。

 偶然が重なった結果、アルカディアの足止めをする事になっているタイタンヘッドへ「ナイスだと思う!」と礼を言いながら、バッファの魔法全開で駆け寄っていった。



「う”~ぎるあ……。オレンジの恨み……。忘れていない……」

「参った!俺の負けだよ!オレンジの弁償はするから、勘弁してくれ!!」


「あなたがへし折ったオレンジの木は3本。だから、その倍……いや、さらに倍にして、12本は貰わないとダメ!!」

「植えてくるぞ!!明日には植木屋に連絡して、セフィロトアルテの森に植林しに行ってくるッ!!なんだったらもっと、そうだ、5種類植えてやる!合計60本でどうだッ!!」


「……ホント?」

「本当だ。だからそのガントレットの拳を下ろしてくれ。もう殴られたくない。……これ以上、へこんだら命に関わるからな!」


「特別に許してやる!オレンジの木をいっぱいくれるなんて、タコなんちゃらは気前が良い!う”ぎるあぁぁ~ん!」



 アルカディアは自分の縄張りにオレンジ農園が出来ると聞いて、歓喜の舞いを踊り始めた。

 その歌声はもちろんタヌキ語であり、変な空気が周囲を支配してゆく。


 タイタンヘッドは「なんだその奇妙な踊りと歌は!?民族鼓舞みたいなもんか!?」とツッコミを入れたくなったが、我慢。

 荒くれ共を束ねる不安定機構の支部長たるタイタンヘッドは、非常に処世術に長けているのだ。


 そして、「これで一安心だ」と、胸を撫で下ろそうとして……背後から音速で駆け寄ってきた大悪魔に跳ね飛ばされた。



「どいて!」

「ごっっ!ふうッ!」

「あ。……成仏した?」


「ゴホゴホッッッ!!死んでねえぞッ!!」



 15mほど吹き飛ばされたタイタンヘッドは、抗議の視線をリリンサに向け……ようとして、やめた。

 リリンサを一目見て、「なんだあれは、ドラゴンよりも恐ろしい!」と戦略的撤退を選択し、セブンジードとナインアリアが居る安全地帯へ避難してゆく。



「アルカディア。私はあなたに勝利した。なので正体を吐いて貰う!!」

「……。」



 アルカディアは、どうにかしてこの局面を切り抜けなければならないと、思考を巡らす。

 そして願わくは、那由他の命令も遂行しようと画策も始めた。



 う”ぎるあ……。りんなんちゃらに怪しまれてる?

 私の正体がタヌキだとバレたらヤバい。色んな意味でヤバい。


 那由他様の命令で、私がタヌキだとバレてはダメ。

 何がダメなのか分からないけど、ダメって言われたからダメ。

 那由他様の命令は絶対。


 もともとの命令は、『ゆになんちゃらの監視』

 でも、いつの間にか、『ゆになんちゃらを、私の美貌で虜にする』に変わった。


 那由他様は慣れれば問題ないって言っていたけど、人間の姿は結構疲れる。

 なので、この間、タヌキの状態で求愛してみた。


 これなら人間の姿になる必要もないし、すごく楽。

 そう思って、サラサラ毛並みで求愛のダンスを踊ってみたけど、ガン無視された。

 ……初めての求愛だったのに、今思うと、ちょっと悲しい。


 というか、アレで無理なら、どんな事をしても無理な気がする。

 なのに人間の姿で近づくとか、どうすればいいか分からない!


 それなのに、怪しまれてるとか、絶対に詰んでる。

 かなりの絶望的状況。この焦燥感は森ドラゴンと戦ったとき以上な気がする!



 アルカディアは、割と真面目な性格だ。

 超絶的上位者たる那由他の命令とあらば、最大限の努力をして、良い結果を出そうと努力する。

 しかし、諦めるもの早い。


 未だに平凡なタヌキの集落の長(タヌキ将軍)である気分が抜けず、一つの事にこだわっていては野生で生き抜けないとの想いがある。

 アルカディアは「どうしたものか……」と頭を悩ませ、とりあえず様子見を選択した。



「りんなんちゃら。私は私。正体とか無い」

「ふ。何を馬鹿な事を言っている。あなたの正体は既に見破っている。あとはただ、白状してブチ転がるだけ!」


「う”ぎるあん!?マジ!?」



 なんという事だろうかと、アルカディアは困り果てた。

 一応嘘をついてみたが速攻で否定され、さらに状況は悪くなるばかり。

 そして、那由他の命令を失敗すれば、酷い目に遭うのは間違いないと分かっているのだから、困るしかないのだ。



 タヌキだって、バレてる!?!?

 ヤバイ!!ヤバすぎるぎる!


 那由他様はきっと、私が失敗しても笑って許してくれると思う。

 でも、ソドム様やゴモラ様、エルドラド様はたぶん、笑って殺しにかかる!!

 それ以外にも、いっぱいのタヌキ帝王達に今夜謁見するし、どんな仕打ちをされるか分かったもんじゃない!!



 アルカディアは、自分の未来を想像して震え上がった。

 その想像は筆舌しがたいもので、イメージばかりが無限大に膨らんでいく。


 そしてアルカディアは混乱し、自らリリンサに白状して、ユニクルフィンに黙っていて貰う作戦を思いつき……。

 それを実行する前に、痺れを切らしたリリンサの詰問が始まった。



「アルカディア、あなたは私の敵。……私のセフィナを侮辱した罪は重く、心の内にある煮え滾る様な感情が、あなたをブチ転がせと囁いてくる」



 あえて効果音を付けるなら、ギリギリという、リリンサの鋭い歯が軋む音だろう。

 平均的な表情を若干崩しながら、憮然とした態度で、アルカディアに詰め寄るリリンサ。

 今にも飛びかかるんじゃないだろうかという程接近し、威圧を込めた瞳を向けようとして、その目が見開かれた。



「……?セフィなんちゃらって誰?」

「え。……。とぼけるのもいい加減にしてほしい。あなたは私のセフィナを騙り、私の事を「おねーちゃん」と呼んで……いないね。あれ?」


「セフィなんちゃらとか知らない。人間の知り合いとか、あなた達とタコなんちゃら、とか……ぐらいだし」



 気楽なアルカディアの態度を見て、リリンサは混乱した。

 アルカディアがさっきまで纏っていた敵意はもう既になく、むしろ好意の様なものすら感じているからだ。



 何かがおかしい……?

 アルカディアは星魔法を使っていた。

 だから、盗賊を捕まえた時に使用された星魔法はアルカディアの手によって発動されたんだと思ったんだけど、違う?


 イメージカラーは、黒。

 漆黒のガントレットを持つのなら、十分に当てはまる。

 盗賊が語ったのは『真っ黒い女』『星魔法を使う』。

 だから、条件的にはバッチリだけれど……。



 答えを見つけ、思考を終了しようとしたリリンサの脳内に、違和感が残る。

 その違和感の正体はすぐに思いついた。

 だからこそリリンサはその違和感を確かめるべく、雷光槍をアルカディアへ放つ。



「……《雷光槍》」

「何をする!?う”ぎるあ!!」



 パチンという小さな音を立てて、雷光槍がガントレットに弾かれて消えた。

 そんなあっけない光景を見て、違和感が疑念へ育ってゆく。



 うん。普通にガントレットで弾くよね。

 拳闘師なアルカディアが、拳を使わない遠距離攻撃魔法で30人の盗賊を昏倒?

 それは不自然すぎると思う。

 アレだけの技量があるなら、普通に戦った方が確実で早いはず。

 魔法の当たり所が悪くて死亡させてしまう可能性もなく、敗北なんて絶対にありえないのでリスクもない。


 どういうこと……?



「アルカディア、一つ聞きたい。この質問には正直に答えて欲しい」

「……。分かった」


「『輝く星の回廊』、『30人の盗賊』、『病院』、『魔王の右腕』。これらについて心当たりはある?」

「なにそれ?知らない」



 その返答を聞いたリリンサの直感が、アルカディアが敵であるという疑惑を否定した。



 あれ……?アルカディアは敵じゃないぽい?

 質問の答えはどうでもいい。

 答えた時の態度が、敵じゃないと語っている。


 ユニクや私を狙う敵じゃないのなら、アルカディアは何者?

 たまたま、カミナに出会って。

 たまたま、私達の戦いを見学していて。

 たまたま、この闘技場に参加してというの?


 それは絶対におかしい。けど……敵っぽい感じもまったくしない。

 むぅ。分かんなくなってきた。

 助けて、ワルトナ。



「アルカディア、あなたは敵じゃないというのなら、一体何者……」


『ちょっとーー!毒吐き食人花!!この私を放っておいて雑談なんてしないで欲しいんだよね!ほら、メナファスに挑戦するんだろ?早く戻ってこーい!!』


「むぅ。怒られてしまった。このままじゃ埒が明かない。……アルカディア、提案がある。受け入れて欲しい」



 リリンサは後ろから掛った声に従い、話を切り上げ始めた。

 何故かそうしなければいけないような気がして、リリンサの気持ちを焦らせる。

 そんな微妙な変化に気が付いたアルカディアは、「これはチャンスかも!?」と心の中で呟く。



 なんか、りんなんちゃらにタヌキだってバレてないっぽい?


 セフィなんちゃらなんて知らないけど、もしかしたら、どこかで聞いた気がしなくもない気がする。でも、黙っとこう。


 私がタヌキだとバレてないのなら、上手く誘導して、ゆになんちゃらの所に連れて行って貰いたい。

「出会えさえすれば、絶対にイチコロになるはずじゃの!」と那由他様も言ってたし、案外うまくいくかも?



 アルカディアは、緻密な計画を好むような性格ではない。

 獲物を見つけたら、真っ直ぐに駆け寄って喰らいつく事を信条としている程だ。


 それでも、相手の願いをあえて受け入れて、最大の利幅を狙うくらいの知能はある。

 結局、タヌキという生物は狡猾であり、リリンサの提案を利用してやろうと、アルカディアは待ち構えた。



「私の提案は……。そんなに気を張らないで欲しい。難しい事をお願いしようという訳じゃない。ただ、今夜一緒にご飯を食べようというお誘いがしたいだけ」

「う”ぎるあ!?まじ?」


「すごくマジ。あなたの事を疑ってしまったし、罪滅ぼしの代わりに夕食を奢りたいと思う。ダメ?」

「ダメじゃない!むしろ推奨したい!」


「なら、もう一人同席させたい人がいる。午前中優勝したユニクルフィンも一緒に、あなたとご飯を食べたい。いいよね?」

「いい!それはすごくいいと思う!う”ぃ~ぎるあぁん!!」



 なんて都合の良い展開なんだと、アルカディアは興奮し始めた。



 う”ぎぃるあ!!超ラッキー!

 りんなんちゃらの方から、会わせてくれるって言いだした!


 しかも、ご飯付き!!

 人間のご飯はおいしい。果実を丸齧りするのも好きだけど、手の込んだお肉料理も捨てがたい。

 う”ぃぎるあぁ~ん!

 おじさまのカレーみたいなの食べられるかな!?

 お肉がとろとろ!野菜も濃厚!!ごはんが甘い!!!


 凄く楽しみ!!



 アルカディアは溢れてくる唾液を飲み込みながら、今夜のご馳走に思いを馳せている。

 それを見たリリンサは、すごく共感をしている平均的な表情で、「うんうん」と頷いた。



「どうやら、提案を受け入れて貰えるみたいだね。何よりだと思う。アルカディア、何か食べたいものはある?」

「オレンジ!人間の町には、おいしいオレンジの食べ物があると聞いた!それが食べたい!」


「ふむ。オレンジだと、そうだね……。シフォンケーキに、タルトやパイは鉄板。さっぱりとしたオレンジサラダも非常に美味しい。当然、ジュースも欲しいし、……あ。いいものを持ってるのを思い出した」

「いいもの?」



 リリンサは空間に手を突っ込み、大きめの瓶を取り出した。


 それは、宝石と見間違うような鮮やかなオレンジ色。

 キラキラとした流動体が瓶いっぱいに詰められており、一瞬でアルカディアの視線を奪い尽くす。


 そして、瓶から漏れ出る微かなオレンジの良い匂いを嗅ぎとったアルカディアの瞳まで、煌々と輝きだした。



「なにそれ!?りんなんちゃら、なにそれ!?」

「これはオレンジジャム。超有名店の並ばないと買えない超高級品で、すっごく美味しい。そして……はい、クラッカー。この二つを持って行って、あっちのテーブルでお茶を楽しみながら待ってて欲しい」


「分かった!りんなんちゃらは良い人だね!好き!う”ぎぃるあ!」

「うんうん。大人しく待っててね。う”ぎるあ!!」



 そしてアルカディアは小躍りしながら、タイタンヘッドとセブンジードとナインアリアが居るテーブルに向かって行った。

 そこでは、気持ち的に一段落したタイタンヘッド達が、疲れ切った心を少しでも癒そうと椅子やらテーブルやらを持ち出して、お茶会を開いている。


 スキップしならがら近づいて行くアルカディア。

 速攻で席を立とうとするタイタンヘッドと、それをさせまいとするセブンジード。

 そして、友達が増えるであります!と嬉しそうなのがナインアリアだ。


 そんな光景を見てちょっと楽しそうだなと思いながらも、リリンサの視線は真剣さを帯びている。



 アルカディアは敵では無さそうだと思った。


 けど、ユニクと一緒にご飯を食べると言った時に、態度が豹変した。

 これは怪しい。すごーく怪しい。


 何かある訳じゃないけど、なんかこう、感じるものがある。

 うーん。確かレジェはこういうの……そう、女の感とか言ってた。


 女の感的に言うのなら、アルカディアは敵ということになる。

 ユニクは私のもの!誰にも渡さない!!



 とても鋭い直感で、なんとなくアルカディアの目的を見抜いたリリンサ。

 一度だけ、ふんす!と鼻を鳴らすと、『早くこっちに来いー!』というヤジリの言葉に従って、ゆっくりと歩き出す。



「さて、最後のメインディシュはメナファス。久しぶりに戦うし、すごく楽しみ!」


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