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第63話「バトルトーナメント⑱アルカディアVSタイタンヘッド」

「なんというか、すごく真っ当な試合を見た気がする……」



 リリンの第三戦を見て、ちょっとほっとしている俺がいる。

 さっきの戦いで、リリンはランク9の魔法を連打してたし、対戦相手の人もなんだかんだ魔法に対応していたりと、凄くハイレベルな試合だった。

 普通なら、「すげぇぇぇぇ!」となる所だろう。

 しかし、俺が抱いている感情は、「ほっとしたぁぁぁぁ!」だ。


 なにせ、全裸に剥かれる事も無ければ、心をへし折られる事もなく、場外アウトというルールに則った穏やかな決着だったのだ。

 ……いや、これが普通のはずなんだけど、最近リリンの暴れっぷりは非常に凄まじい。

 ピエロドラゴンをブチ転がした辺りから様子がおかしくなり、やってきた刺客を無慈悲にモウゲンドしたり、まったく悪い事をしていないサウザンドサードをノリで剥いたり。


 そんな中で、「憧れているであります!」と言ってきた少年が対戦相手だった。

 それはまさに、生か死デッド・オア・アライブになること間違い無し。


 ……なお、生き残った場合、心無き小悪魔に進化を果たす可能性もあった。

 だが結局そうならず、挑戦者とリリンは普通に友達になって終わったらしい。


 めでたしめでたし。完。



「一時はどうなるかと思ったが、ま、終わってみれば普通の試合だったな。本当に良かったと思うぜ!」

「ランク9の連撃を見ても普通とか言うんだな。いつもはどんなもん見てるんだよ……。ま、安心したのはオレも一緒だけどよ」



 そう言ってメナファスは、持っていたジュースを煽った。

 それこそ、酒なんじゃないかと思ってしまう程の飲みっぷりに、何か思う事があったらしいと悟る。


 せっかくだし聞いてみるか。

 雰囲気的には悪い感情は無さそうだしな!



「そういえば、さっきの挑戦者とは何度か戦ったことがあるって言ってたよな?顔見知りだったのか?」

「顔見知りって程でもねえよ。だけどよ、アイツは孤児だって事は知ってる。大人ぶっちゃいるが、アイツはまだガキだ。リリンと同じくらいなんじゃねえか?」


「へー。俺達と同年代なんだな。確かに、幼さの残る顔立ちと言われれば、そう見えるな。で、それがメナファスとどう繋がってくるんだ?」

「子供を攫って売り飛ばすと評判のゴミを”片付け”に行った時に、あいつが出てきたんだよ。ゴミが雇っていた冒険者に混ざっててさ。そんで、戦闘になった」


「ん?挑戦者は悪人に味方してたのか?」

「悪人に味方というか、依頼者の味方だな。冒険者は依頼を受けたらそれを履行するだけだ。ましてや、アイツは臨時の雇われメンバー。深い事情なんか把握してないと思うぜ」


「なるほど。で、無事にリリンと戦ってるって事は、メナファスは”お片付け”しなかったんだな。俺はてっきり……全滅させているもんだと思ってたぜ!」

「あぁ、殺しは卒業したぞ。捕まえたゴミ共はレジェが買い取ってくれるし。リサイクルだぜ。エコだろ?」


「ちらっと黒いのが見えた!?」



 子供を攫って売り飛ばす……なるほど、極悪人の所業だ。

 そんな事をしているんだから、無敵殲滅さんがやってきて、”お片付け”されても仕方が無いと思う。

 で、今度は売る側だった悪人共が売り飛ばされると。


 ……うん。こっちも極悪だ。

 これのどこがエコ(環境に優しい)

 エゴ(利己主義)の間違いだろ?



「ちなみに、挑戦者を捕まえなかったのって、雇われていただけだからか?」

「そうだ。なお、在籍してた冒険者チームのリーダーは捕まえてボコッたぞ。依頼者の本質を見抜けなかった責任はそいつにあるからな。どんな風にボコったか聞くか?」


「おう。遠慮しとくぜ!」

「で、孤児と言っても色々あるだろうが、アイツは世間一般的な普通の孤児だ。決まった住居を持たず、日銭を稼いで凌いでいるって感じの奴な」


「ほうほう。それで?」

「そんなもん、ほっとけねえだろうがよ。だからせめて孤児院に在籍させるとかして、身元の確保ぐらいはしてやりたかったんだが……」



 へぇ。普通にいい事だよな。

 孤児というものがどんな実態を送っているのか知らないが、想像するにあまり良い環境とは言えないだろう。

 そんな可哀そうな挑戦者を見たメナファスは、どうにか更生させるために孤児院を勧めたという。


 しかし、追い詰められた依頼主が最後の嫌がらせとばかりに、メナファスが心無き魔人達の統括者だと暴露してしまった。

 それを聞いた挑戦者はメナファスの事が信じられなくなり、結果的に冒険者を続けているらしい。



「なるほど。血飛沫でお化粧している真っ赤な顔の大悪魔さんだもんな。信憑性を疑うまでもないか」

「おい。オレが血飛沫で化粧してたってのはどこ情報だ?」


「俺の中のイメージだ!」

「そうか。今度は銃の底で殴るんじゃなくて、銃弾を撃ち込んでやるからな。覚悟しとけよ」


「……ふ。《第九守護天使セラフィム!》《第九守護天使セラフィムッ!》《第九守護天使セラフィムゥゥゥッ!!》」

「その程度で防げると思ってんのか?オレの事ナメ過ぎだろ」



 ひぃ!失敗した!!

 メナファスの雰囲気がしっとりしているから元気づけてやろうと思ったが、これはヤバい!

 うっかり大魔王様の逆鱗に触れてしまったらしい。

 なんとか軌道修正しないと、闇に葬られる!



「すまん、最近、青いのと白いのがボケ倒しているせいで、距離感を見誤ったみたいだ」

「ち。青いのは天然で、白いのは確信犯だしな。しょうがないから許してやるよ」



 た、助かった!



「……だが、ワルトには後で報告しておくぞ。お前が暴言を吐いていたってな」



 ダメだった!全然、助かってないッ!!



「ま、いいや。挑戦者はレジェの所に流れていくっぽいし、安心したら気が抜けちまった。ほら見てみろ。セブンジードの顔が青くなってるぞ」

「うわぁ。ホントだ。あの顔はリリンに何かやられたっぽい……?」



 確か、セブンジードはロイの領地を攻め込む軍の司令官補佐だったはず。

 隅っこの方で密談している三人の顔色から察するに、リリンが挑戦者を軍に入れようと無茶をしているのは確定っぽい。

 つまり、ロイの敵になる訳だ。


 あぁ、ロイの敵が増えていく。

 ……が、もう行くとこまで行っちゃった感があるし、今更だな。

 フラグが立ち過ぎて、どうなるか全く予想できないし放っておこう。



「さ、これでリリンは決勝進出が決定したわけだ。次はアルカディアさんの番だな!」

「ホントお前、図太い性格してるな。ったくよ。で、アルカディアVSタコヘッドの試合か」


「どうした?なんか複雑そうな顔だな」

「んー。アルカディアは強い。が、タコヘッドとは相性が最悪だなって思ってさ」


「な、なんだって!?」

「アルカディアは優れた身体能力で敵を圧倒してきた。カミナやリリンに似た動きが出来るんなら、そうなるのは当たり前だろうけどよ、タコヘッドはああ見えて技能派だ。とっさの判断力はリリンよりも上で、ルールのあるこういった試合はめっぽう強い。極論、闘技石段から突き落とせば勝ちだしな」


「マジか……」

「ぶっちゃけた話、あいつが日ごろから大会に参加しないのは、堅実に勝ち過ぎて面白みに欠けるなんて言われているからだぞ。第一、不安定機構の支部長なんてのは雑魚に務まる仕事じゃねえ」


「くっ。タコヘッドが強いのは十分に分かった。だが、アルカディアさんなら、きっと大丈夫だ!」



 あんだけ外道……げふんげふん。容赦ない攻めをするアルカディアさんならきっと大丈夫だ。

 今だって、闘技石段の上で、冷静にタコヘッドを……って、めっちゃ威嚇してるぅぅぅぅぅ!



 **********



「う”ぎるるるる!う”ーぎー”!」

『……。さあ、続いての試合は準決勝・第二試合!『アルカディア』VS『タコヘッド!』。両者ともに拳での戦闘が得意でありますが、その実、戦闘スタイルは全くの別物だ!!』


「う”ーぎーぃー……ぎぎろぎあ!」

『……。アルカディアは手に何も付けず、素手で戦闘しています。それは身体能力に任せた戦いであり、サウザンドソードの剣を奪った後なんか、鈍器みたいに使ってたぞ!まさに、野生児!」


「う”ぎる~~。う”ぎるあん!」

『……。かたやタコヘッドは、あんな顔してるくせに、理知ある戦いが得意だ!当然、拳闘師なんだから拳がメインだけれども、魔法も魔道具も柔軟に使いこな――』


「う”ぃーぎー!!う”ぎるあ!!」

『うるせぇんだよッ!!人間の言葉を喋れって言ってるだろッッ!!』



 アルカディアは闘技石段場で相対するタイタンヘッドを睨みつけ、威嚇しまくっている。

 ヤジリの暴言を妨害するという暴挙を行ってしまう程、アルカディアはタイタンヘッドに対し、怒りを抱いているのだ。


 絶対に許さない!

 完膚なきまでに叩き潰してから、木の下に埋めて、オレンジの木の肥料にしてやる!


 鋭すぎるアルカディアの眼光は、まさに、絶大な力を秘めている魔獣やドラゴンと同じものだ。

 それを機敏に感じ取ったタイタンヘッドは、引きつった笑みを浮かべ、ポリポリと頬を掻いた。



「あのよぉ……。俺が何かしたか?正直に言うぞ。まったく心当たりが無いんだが?」

「なんだと!?ふざけんな!!私のオレンジの木を、オレンジの木を……う”ぃぃぃぎる、あ”あ”~!!」


「肝心なところが分からねえ……。なあ、ヤジリ、どうにかなんねえか?」


『まったく、ちゃんと教育しろって言いたくなるよねー。ほい。《原初の言葉スタートスペル》』



 ヤジリはパチリと指を鳴らし、申し訳程度に魔法名を付け加えて、アルカディアを指差した。

 するとアルカディアは優しい光に包まれ……何事もなく、その場で立ちつくす。

 しかし、アルカディアの威嚇は身を潜め、しっかりとした人間の言葉となって発音されるようになった。


 ランク(オーバード)・《原初の言葉(スタートスペル)

 人類の中でも最上位の一握りしか使えない、創星魔法の一つ。


 そんな神撃が使用された事など知らないタイタンヘッドは、「便利な魔法もあるもんだな」と一人で納得し、視線をアルカディアに向けた。



「で、オレンジの木がどうしたって?」

「お前は、私のオレンジの木を切り倒して燃やしやがった。食べられない獲物の毛皮とか骨とかを根元に埋めて、大事に育ててたのに!」


「オレンジの木?切り倒して燃やす?……そういえば人物紹介の時、お前の故郷はセフィロトアルテの近くだって言ってたが……。もしかして、森にでも住んでたのか?」

「そうに決まってる。馬鹿にするものいい加減にしてほしい!」


「だとしたら……」



 アルカディアは思い出していた。

 あの時の屈辱、無念、そして……激情を。


 *********



「ヴィギルア!」



 すたこらさっさと軽快なリズムで草木を踏み鳴らしているのは、一匹のタヌキ。

 このタヌキこそ、のちに『タヌキ帝王ソドム』によって、『アルカディア』の名前を貰うタヌキ将軍だ。


 アルカディアは、ご機嫌な足取りで自分の縄張りを走りながら、目的地に向けて思いを馳せる。


 大荒れの天気がやっと収まったし、オレンジの木の下で日向ぼっこでもしよう。

 そろそろ実も大きくなってきたし、良い匂いもするようになった。

 長老タヌキの言ってた通り、食べ残しを木の下に埋めると、育ちが良いっぽい?

 すごく楽しみ!ヴィギルア!


 アルカディアはタヌキのくせに、オレンジの木で肥料栽培をしていた。

 去年は悪天候であり、楽しみにしていたオレンジの実が殆ど成らなかった事に衝撃を受けたアルカディアは、タヌキの集落の長老に相談。

 そして、『肥料を与えると、植物は元気よく育つ』という事を聞いて、実行に移していたのだ。



「ヴィーギーギルギル!」



 今日は肥料栽培を始めて3ヶ月目。

 そんな、せせこましい努力のおかげか、オレンジの木はたっぷりと実をつけ、順調に育っていた。


 今日は天気も良いし、一つくらいなら、赤くなってるかも?

 そしたらつまみ食い。ヴィギルア~~ン!


 しばらく森を駆けて、目的のオレンジの木の群生地が見えてきそうな頃、アルカディアは異変に気が付いた。

 進路方向から、複数の人間の匂いがするのだ。

 素早く木によじ登り、身を隠しながら、静かに接近。


 そして……。想像を絶する光景を目のあたりにした。



「タイタンさん。木はこのくらいでいいですか?」

「いや、全部切っちまえ。ここには長い間、滞在する事になるからな。燃料はあればあるほど良い」


「皇種出現後の、環境調査ですからね……ん?この木、何かの実がなってますよ?いいんですか?」

「オレンジだろ?そいつは野生種で対して美味くもない。が、良い使い方がある」


「良い使い方ですか?」

「オレンジバケットって言ってな。その木は燻製を作る時の燃料にすると、良い匂いの付いた美味い肉になるんだよ」



 アルカディアは絶句していた。

 それこそ、人間がどんな内容の会話をしているのかなんて、理解していない。

 その前段階、複数の人間がアルカディアの聖地を土足で踏み荒らし、暴虐を振りまいている光景を見て涙していたからだ。



「ヴィ……ヴィギロギア……(そんな……。全部、切り倒されてる……。)」



 アルカディアは、泣き崩れて木から落ちた。

 ガサリという大きい音がしたが、人間たちにバレることは無かった。

 人間達はオレンジの木を山盛りにするのに夢中で、意識を森に向けていなかったからだ。


 アルカディアは、鼻水をたらしながらも、どうにかオレンジを救出できないかと思考を巡らす。

 博識な長老タヌキなら、もしかしたらどうにか出来るかもしれないという、一筋の希望を抱いて。


 身を低くし、隠密のほふく前進。

 地面と一体化したアルカディアは、ジリジリと人間たちに近づいて行き……あと10mの所まで迫る。


 だが、そこまで近づいた所で、人間とアルカディアの間に広がる途方もないレベル差に気が付いてしまったのだ。



「ヴーギル……ギルギル……ギギロギア(あの人間、強い……。レベルが、5万もある……)」



 アルカディアはタヌキ将軍であり、知能が高かった。

 それゆえに、自分のレベル24971と、一番でかいハゲ頭の男のレベル52103では、途方もない実力差があるという事に気が付いたのだ。


 戦いを挑んでも、勝てない……。

 あんなに人数がいたんじゃ、不意を突く事も出来そうにない……。


 アルカディアはどうする事も出来ず、地面と同化し続けた。

 ただただ景色の一部となって、目の前の光景に視線を送り続ける事しかできない。



「ほら、火をつけるぞ。《隕石招来爆撃コールコメットバースト!》」

「いや、薪に火をつけるのにそれはやり過ぎでしょう!?」


「いいんだよ!キャンプの初日くらい、派手に行こうぜ!おら!!」



 アルカディアは、ただただ見つめていた。

 大切に育てていたオレンジの木が燃えて逝く様を、延々と見て、全てがもう手遅れなのだと、むせび鳴く。


 その瞳に、憎き害敵が使った魔法を映し、

 その爪に、憎き害敵を八つ裂く力が欲しいと念じ、

 その魂に、絶対の復讐を……誓って。



 **********



「……そうか。あの森に住んでた原住民なんていたんだな。それは悪い事をした……謝罪する。」

「どんな謝罪をしても許す気はない。『食べ物の恨みは、七代先まで恨め』が、私達の絶対的戒律。だからお前は許さない!木端微塵にして、肥料にしてやるっ!!」

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