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第62話「友達の履行」

『決まったぁ~~~!本日のバトルトーナメント、決勝戦への切符を手にしたのは、毒吐き~食・人・花!怒濤のようにランク9の魔法を降り注がせたその姿は、まさに魔王の所業!観客席は大丈夫か!?ビックリして気絶とかしてない?医療班、回収、よろしくぅ!』



 ヤジリは相変わらずの声色で、当たり前に称賛と暴言を撒き散らしている。

 基本的にはリリンサが行った理不尽への野次が大半。

 だが、今回は珍しく挑戦者への言葉もあった。



『それにしても、挑戦者は中々なレアスキルを持ってるね!私の知る限りだと、そのスキルを発現した人間はキミで二人目だ』

「え?自分のこのビクンビクンはやっぱり珍しいのでありますか!?」


『珍しいさ。前に持っていたのは……そうそう、魔導王なんて言われてた奴だね!そのスキルはまだまだ成長の余地がある。上手く成長させられたら、こんな大会で優勝するのなんて簡単だぞ!頑張れ!』



 挑戦者の特殊スキルに対する、本日二回目のべた褒め。

 予想していなかった展開に、挑戦者は困りながらも笑いを浮かべ、リリンサへ語り掛けた。



「へへ、褒められちゃったであります!やっぱりこのビクンビクンはすごいっぽいでありますね!」

「魔法の存在を視覚に頼らずに把握できるというのは、それだけ凄い事。誇っていいと思う」


「やったぁ!で、あります!今日はすごくいい日であります!自分の運命が変わった日でありますよ!」

「うんうん、私もそう思う。それじゃ、あっちでお話しよう」


「するであります!お茶会であります!」



 幼き日に憧れた人物と出会い、自分の力量を称賛され、そして、友達となる事が出来た。

 挑戦者の人生の中でも飛びきりに良い事の連続は、一瞬だけ感じた敗北の無念を即座に塗りつぶし、頬をバラ色に染め上げている。


 先程まで、闘技石段の上で駆け引きをしていた人物とは思えないほど緩み切った表情をしている挑戦者は、リリンサに促されるままに人気のない隅の方へ誘導されてゆく。

 今から行われるのは、リリンサ・リンサベルの『一人で悪魔商談(デヴィルビジネス)』。

 狙うのは、レジェリクエ女王陛下に対する『貢物プレゼント』をデザインする事。

 メインの食材は挑戦者。あと、ついでにセブンジード。


 離れた位置でお茶を楽しんでいたセブンジードを手招きで呼び寄せて、三人は空間から取り出した椅子に着席。

 ほんのり赤く色ずいている艶やかな笑顔なのは、挑戦者。

 うっすら青く色を失っている硬質な笑顔なのは、セブンジード。

 平均的に黒く色々と画策している暗黒微笑なのは、リリンサ。


 まったく違う表情と感情を灯している三人は、お互いの顔を見合い、牽制。

 そして、計画者たるリリンサが口火を切った。



「さて、挑戦者、私達は友達になった。けど、自己紹介すらまだのままでは格好が付かない。自己紹介をみんなでしよう」

「分かったであります!それで……こちらの方は、どちら様でありますか?」

「どちら様でもありません。ただのチャラ男です。……では、失礼いたします」



 キリっとした兵士たる顔つきでセブンジードは一礼し、威風堂々と席を立つ。

 誰も寄せ付けないという覇気は、歴戦の戦士と言っても過言では無いだろう。


 しかし、各方面から魔王と呼ばれる少女には通用しなかった。



「セブンジード。おすわり」

「……はい」



 たとえ歴戦の戦士であろうとも、大魔王の前ではペット同然。

 大魔王に対抗できるのは、同じクラスの大魔王か、英雄の息子くらいなのだ。



「次、逃亡を計ったら、10等級に堕す。ちなみに、レジェの愛する鳶色鳥は9等級。鳥以下の人生を歩むことになる」

「……家畜以下……だと……。それはもう、人生とは呼べないんじゃないか……?」



 挑戦者に聞こえない程度の声でセブンジードに耳打ちしたリリンサは、平均的な暗黒微笑でくすりと声を漏らす。

 セブンジードは、再び決死の戦いが始まってしまったことを理解し、服装を正した。


 やべえ……!これは非常にやべえぞ!!

 こんな事なら、リリンサ様の戦いを良く見ておくんだった!

 戦いを撮影するのに夢中で、どんな会話してたのか、殆ど聞いてなかったぞ!

 くそ!諜報員失格も良いところじゃねえか!


 頭を抱えそうになりつつも、セブンジードは平静を装う。

 それが、セブンジードが生き残る為に必要な第一歩だ。



「分かった?」

「もちろんですよ!さっきのは軽い冗談ですって!」



 セブンジードは、自分の保身のために待機場所で全力を尽くしていた。

 それは、リリンサの戦いを記録し、レジェンダリアに持ち帰るというもの。


 セブンジードの上官は勿論、一般の兵士の中でも偉人と化し、様々な議論が繰り広げられている存在のリリンサ。

 それはもはや、生きる伝説。UMA(未確認動物)みたいな扱いとなっている。


 そんな幻の存在を映した映像を持ち帰れば、窮地を脱する事が出来るとセブンジードは思ったのだ。

 敗北し、レジェンダリア国の機密情報を流失させてしまった失態を、他者の好奇心を利用して相殺する。

 上級階級の人達への説明は、リリンサから行って貰うつもりでいたセブンジードは、これでなんとか凌ぎ切ったと、安堵してしまった。


 しかし、心無き魔王様(リリンサ)に手招かれ、再び窮地に落された。

 ざわめき立つ背筋を悟られないように、セブンジードは挑戦者に視線を向ける。


 くっ!腹を決めるしかないな。

 んで……勝利のカギはこの優男が握っている訳だ。

 確か、戦闘が始まる前にレジェンダリアに住みたいとか言ってたよな……?

 案外可愛い顔してるが、こういうのに限って、”遊び”を覚えたらドハマりする。

 ふ。俺の得意分野だ。



「で、話の流れから察するに、コイツをレジェンダリアに連れて行けばいいんですね?」

「話が早くて助かる。私の意向として、速やかにレジェの所に連れてって欲しい」

「あの、自分も分かる話がしたいでありますよ!ヒソヒソ話は嫌でありますよ!」


「ん。ごめん。ここからはみんなで話をしよう」

「あぁ、そうですね。お互い名前すらよく分かってないのもアレですし、俺も含めて一度話を整理しましょう」

「そうするであります!」


「じゃ、私から自己紹介しよう。私の名前は『リリンサ・リンサベル』。レジェンダリア国の侵攻軍総指揮官であり、レジェンダリア国において指導者的立場でもある。最高位指導者のレジェリクエ女王陛下とはとても仲が良い。で、心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)のリーダーでもある!」

「は?」

「は?であります?」



 その言葉を聞いて、挑戦者とセブンジードは固まった。

 セブンジードは、「リーダーとか、聞いてねええええ!!」と頭を抱え、挑戦者は「さっき、倒すって言っちゃったでありますぅぅ!?」と混乱。

 リリンサの先制口撃は、極大のダメージを二人に与えた。



「あれ?セブンジードも驚いてるの?隷属手帳見せたよね?」

「口答えしてすみませんが、そこにはリーダーとか書いてなかったです」


「……確かに。じゃ、覚えておいて」

「忘れるのは不可能です。まず間違いなく、孫にまで語り継ぐ事になると思います」



 どうにかして話の主導権を握ろうとしてたセブンジードは、まず冷静になるべきだと、水筒を取り出して一口飲んだ。

 その沈黙の隙に、挑戦者が控えめに声を出す。



「知らなかったでありますよ……。毒吐き食人花が心無き魔人達の統括者だって、知らなかったでありますよ……。さっき倒すなんて言ってごめんであります」

「いい。もともと、心無き魔人達の統括者という肩書きは、そういう悪評を集めるように設計したもの。効果が出ているようでなによりだと思う」


「そうなんでありますか……?」

「そうなんであります。で、これからは私の事を、『リリン』と呼んで欲しい。親しい人はみんなそうやって呼ぶから」


「分かったでありま……」

「ちょっと待て。それはダメだと進言させてください!」



 纏まり掛けた話を遮ったのは、セブンジードだ。

 セブンジードはワザとらしく咳払いをして場の空気を整えつつ、まずはリリンサへ視線を向けた。



「リリンサ様、確認ですが、コイツは軍に入隊させるんですよね?だとしたら、リリンサ様は上官となります。節度は保つべきかと」

「私は気にしない」


「リリンサ様が気にしなくとも、他の人が気にします。テトラフィーア様やメイなども、リリンサ様の事を敬称を付けて呼ぶでしょう?せめて、公共の場ではそうするべきです」

「むぅ。仕方が無い。それでいい?挑戦者?」


「よく分からなかったでありますが……とにかく、他の人の迷惑になるでありますね?だったらいいでありますよ。冒険者のチームでもリーダーに敬称を付けるのはよくある事であります!」



 セブンジードは内心で「よし!」と呟き、リリンサは内心で「むぅ」と頬を膨らませた。

 そして挑戦者は、和やかな談笑が出来ている事に満足感を覚えつつ、話の続きを待っている。


 雰囲気的には、次はセブンジードの番だ。

 そんな空気をセブンジードが読めないはずもなく、然りとした声で語りだした。



「次は俺の番だな。俺の名前は『セブンジード・エイトクロス』。リリンサ様の軍に所属し、指揮官補佐を任命されている。もし軍に入るんだとしたら、俺の部下という事になるだろう」

「ん?ちょっと待って欲しいであります。その軍に、リリンサ様も居らっしゃるんでありますよね?自分は出来るだけ近くに居たいであります!友達でありますので!」



 苦虫を噛み潰したかのような顔をしているのは、セブンジード。

 平均的な無表情の中に、焦りを隠しているのが、リリンサ。

 二人は互いに視線を交差させ、瞳で語り合う。


 協力して、セブンジード。

 分かりました、リリンサ様。



「そのことで、謝っておかなければいけない事がある」

「なんでありますか?」


「実は、あなたと私は一緒に行動する事は出来ない」

「な、何ででありますか!?友達なんでありますよ!?」


「そう、友達。でも、出来ない事もある。……私は、神様から神託を授かっている。『英雄の息子と一緒に、いずれくる世界の厄災に備えよ』。神の指示に従い二人で旅をしている私達は、あまりレジェンダリアに帰らない。納得して欲しい」

「神……でありますか……。だったら、自分もその旅にご一緒したいであります!どんな事でもするでありますよ!朝ごはんの支度から、寝床の確保まで任せて欲しいであります!」


「二人きりじゃないと意味が無い。なので、ダメ!」

「そんなぁあああ!」



 すがりつく挑戦者の頭をリリンサは撫でつつ、セブンジードに「どうにかして」と視線を飛ばす。

 その平均的な瞳の中に、理不尽すぎるほどの殺気が込められていると感じたセブンジードは、持ちうる頭脳をフル回転させ作戦を練った。


 出来上がった作戦は部下同僚に最も受けが良い、『チャラ男流、人生の楽しみ方』。

 セブンジードは、女性を口説く事を趣味としている。

 だからと言って、男から毛嫌いされているわけでは無い。


 むしろ、その逆だ。

 部下には軽い感じで接しつつ、任務明けの夜にはセブンジードの奢りで飲みに行くことも多い。

 上官からは遊んでばかりだと怒られる事もあるが、その上官を巻き込んで飲みに行き、上手に奢らせることで部下からの信頼を獲得させて、良い気分を味あわせる。

 部下同僚からは公私共に頼りにされ、上官からは便利な奴と思われているのだ。

 そんな、非常に好ましい信頼関係をセブンジードは築いていた。


 ……なお、セブンジードのナンパの成功率が低いのは、『抜け駆けは、天誅てんちゅーですわ!』という、女性同士の戒律がある為だ。

 当然、そんなものがあるなどセブンジードは知らない。

 メイとテトラフィーアが管理しており、完全に秘匿されている為、知りようもない。


 不幸な運命をたどる事を約束された男セブンジードは、優しく肩を叩きながら、挑戦者に語り掛けた。



「ほら、リリンサ様は神様にお願いされてるんだから、しょうがないだろ。そんなに悲しむなよ」

「だって、せっかく友達になったであります……。それなのに……」


「じゃ、俺とは友達になってくれないのか?」

「え。っであります」


「え?じゃねえよ。いいか、お前が今から行く国は、この大陸で最も栄えている国の王都だ。で、俺はその王都の遊び場の全てを把握していると言っても良い。人生の楽しみ方、教えてやんよ!」

「それは……魅力的であります……」


「レジェンダリアは良いぞ。なにせ国策が『国民には、快楽をぉ!』だからな。上手い飯、面白い道楽、綺麗な装飾品。なんでもあるんだ」

「孤児の自分には、ちょっと想像できないでありますが、なんか凄そうであります!」



 瞳をキラキラさせ、挑戦者はセブンジードに熱い視線を送っている。

 挑戦者は、孤児であり必要経費の多い冒険者だ。

 当然、贅沢な衣食住には程遠く、今回自分に賭けた懸賞金も毒吐き食人花に笑われないようにと、貯金全額を注ぎ込んだ『1000万エドロ』だった。


 そんな人生を歩んできた挑戦者は、セブンジードが語る話に聞き入り、憧れた。

 挑戦者の表情は、リリンサが友達になろうといった時と同じくらいに輝いている。

 そして、二人のやり取りを「うんうん」と頷きながらリリンサは見ていた。


『国民には、快楽を。敵国には、絶望を』。レジェの国策のおかげか、レジェンダリアには美味しい物がいっぱいある。きっと満足してくれるはず。

 これで、レジェも、セブンジードも、挑戦者も、私も、みんな幸せ。

 ……。ロイは、うん。サーカスでも見て幸せになればいいと思う。今なら凄いドラゴンもいるはずだし。



「まったく、こりゃ放っておけなさそうだ。24時間、遊びつくそうぜ!」

「う、魅力がいっぱいであります……。でも、自分は……リリンサ様と……」

「挑戦者、別に私と会えなくなるわけじゃない。それに、セブンジードの所属する軍には2000人くらいいる。友達も作り放題!」


「そうだぞ。これは自慢だが、2000人の同胞で俺の顔を知らない奴はいない。俺の横に居れば友達を作るチャンスなんて山ほどあるぜ?」

「セブンジード様!お世話になるであります!!」



 よしよし、上手く行ったねと。リリンサは平均的な微笑みをした。

 リリンサは、利益を獲得するために他人を犠牲にするようなやり方を好まない。

『ある程度の犠牲はしょうがないよね!』派のワルトナとはそこが違う所であり、きちんと挑戦者も利益を得られるように考えているのだ。


 後はセブンジードが上手く話を纏めるだろうし、試合を見ておこうと思ったリリンサ。

 そして、二人の話を聞き流していると、話がおかしな方向に流れていっているのに気が付いた。



「ま、しばらくは生活環境に慣れないだろうからな。俺の部屋で寝泊まりするといいぞ。その間に適当に住居を見繕ってやるから」

「いいでありますか!?凄いであります!誰かと一緒に住むなんて、考えたことも無かったであります!」


「いいってことよ。お前にゃ、教えてやることも多そうだしな。綺麗なお姉さんがいるお店にも連れてってやるから、楽しみにしとけ」

「え。綺麗なお姉さんのお店でありますか?……えっと、自分はちょっと遠慮したいでありますよ……」


「あん?そういうの知らなくて何が楽しいんだよ?リリンサ様がいるから大きな声じゃ言えねえが……。いいもんだぞ、女の子の胸は」

「自分、そういう所に行くと負けた気がするであります……。綺麗な女の人には自分じゃなれない(・・・・・・・・)って、思っているであります……」


「は?男が女の子みたいになってどうす……ぐぎゃああああ!痛い!何これ!?電撃ッッ!?」



 バチバチと火花が散る程の、苛烈なスパーク。

 テーブル越しに伝わったその雷は、見事にセブンジードのみに直撃し、リリンサの不快感を伝えた。

 なお、挑戦者はテーブルから手を離している。

 魔法の発動を敏感に感じる事の出来る挑戦者は、リリンサから漏れ出た魔力を感じて、本能的に回避したのである。



「セブンジード、私の前で色ボケ倒すとは良い度胸をしている。今度やったら雷撃じゃなくて炎で燃やす。だいたい体の中央にある熱に弱い部分を」

「なにその魔王な所業!?俺、そんな目に会わされるほどの事しました!?してないですよ!?」


「ん。挑戦者が嫌がってるのに、大人のお店に連れて行こうとした。そもそも、あなたの事は節操がないと聞いている。同棲を申し出たのも、そういう事をする為?」

「同棲って、その表現はおかしいでしょう!?男二人集まって何をしろってんですか!!しっかり言っておきますけどね、俺は男の体には、まったく興味がなぁああい!!女の子の柔らかな膨らみは、この手に納めたいと思っていますがね!はは!」



 セブンジードが乱暴な物言いをしたのは、彼のポリシーたる『チャラ男』を傷つけられそうだったからだ。

『男とは気楽で愉快な仲間となり、女の子には優しく紳士に獣であれ』がセブンジードの人生の主題。

 故に、たとえ恐ろしき上官であるリリンサに口答えしてでも、守らなければならないものだった。


 そもそも、ルームシェアを申し出たのも、優しい顔立ちの挑戦者を餌にして女の子を釣り上げようという打算があってのこと。

 決して、完全な善意からの事では無い。


『セブンジードは男もいけるらしいぞ!』


 これ以上、ナンパの成功率が下がりそうな噂の発生を、セブンジードは放置しておくことが出来なかった。

 そんな致死級の勘違いは、リリンサの不愉快そうなジト目を発生させ、本当の意味でセブンジードは地獄に突き落とされた。



「……不潔だと思う。テトラとメイに言って、駆除して貰おう」

「駆除!?処刑じゃなくて、駆除って言いました!?……えぇい!男同士の会話なんてこんなもんなんですよ!良いじゃないですか別に!!なぁ、お前もそう思うだろ?」

「……自分、男じゃないであります……」


「は?」

「自分は、女でありますよぉぉぉ!」


「はぁぁぁぁぁぁ!?!?」



 え。なに?え。え。

 セブンジードは意味の無い言葉を漏らすしか出来ず、状況が飲み込めていない。

 挑戦者もオロオロしている。が、それでもセブンジードよりかはまともだった。


 リリンサに促されて、挑戦者はこくりと頷くと、自分の名前を口にする。



「自分は、『ナインアリア・レイペンタクル』っていうであります。格好は汚れているでありますが、名前だけは可愛いらしいので気に入っているでありますよ!」

「ちょっと待て!事態について行けない!」


 激しく取り乱しながらも、セブンジードは、考えを纏めようとした。

 ナインアリアの突然の女の子宣言に、それを知らなかったとはいえ、恐ろしき上官たるリリンサの前での度重なるセクハラ発言。

 それに、セブンジードの祖国たるフランベルジュ国独特の名付け方と、どうも聞き覚えがある気がする『レイペンタクル』の家名。


 色んな思考がごちゃ混ぜになり、セブンジードは狼狽した。

 そして、視線を巡らせたリリンサは、はぁ。っと小さくため息をつくと、その場を取りまとめる為に口を開く。



「ということで、彼女は女の子。セブンジード、無垢な彼女を部屋に連れ込んで好き放題しようとした罪は重い。テトラとメイによって断罪されて」

「ちょっと待って!?あ、いや、コイツ……いえ、この人は女の子に見えなくて!」

「ひどいでありますよぉ。自分は確かに胸もないし、髪も短いでありますが、ちゃんと女であります……。」


「……また彼女を傷つけた。これはもう、取る(・・)しかないと思う!飼い猫のオスみたいに、おとなしくなると良い!!」

「い、嫌だぁあああああ!!もう、チャラ男じゃ無くてもいい!俺はまだ、男でいたいッッ!!」



 本日最大の悲鳴が、闘技場に響き渡る。

 その悲鳴は色々な憶測を呼び、レジェンダリア国の恐ろしさを、世界に轟かせてゆく。



 **********



 そして、黒幕たるレジェリクエ女王は、密かにセブンジードに付けていた魔道具から送られてくる通信映像を見つつ、玉座で笑っていた。


『魔導銃の間違った脆弱性を広め』

『正体不明だった総指揮官の存在をチラつかせ』

『セブンジードに楔を打ち込みつつ、実力を底上げし』

『テトラフィーアの恋に布石を置き』

『リリンサを取り戻す計画の足掛かりを組み』

『英雄の息子を捕獲する算段を付け』

『新しい戦力を手に入れた』


 それに対し、レジェリクエ女王が取った行動は、たったの一手。

『二人の従者を闘技場に連れて行って、それぞれ大会に参加させた』だけ。


 運命掌握・レジェリクエ。

 数千万人の運命を掌握し、望んだ結果を、望んだままに手にしているという噂の大魔王。

 その笑みは、酷く精錬されつくしたもので、外見上は精錬無垢な聖人が浮かべるそれと同じものにしか見えない。


 レジェリクエ女王は、そんな大魔王な微笑みを、同じ部屋でくつろいでいる存在へと向けた。



「あはぁ。ぼろ儲けぇ。……ねぇ、あなたもそう思うでしょぉ?」



 静かな執務室にあつらえたソファー。

 そこに座っている人物は、レジェリクエ女王ただ一人だけだ。


 しかし、レジェリクエ女王以外の者がいない訳ではない。

 一族を統べる王たる姿。

 絶対的な風格を纏う支配者たる、英知ある瞳。


 親愛なる友の証としても重用されている心愛の代名詞は、まるですべてを理解し、「女王様の仰せのままに」と頷くように、高らかに鳴いた。



「ぐるぐるっ!きんぐぅーー!」

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