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第57話「バトルトーナメント⑬アルカディアVSビリオンソード終」

『ほい!二回目の賭け金は……特に変化なし!観客の皆さんの関心の無さが窺えます!ま、謎のタヌキ少女とサウザンドソードの師匠じゃこんなもんだよねー』



 相変わらずの辛辣なマイクパフォーマンスをガン無視して、アルカディアは焦りまくっている。

 観客席から鬼の形相で睨みつけてきているソドムのリクエストに答えないとヤバいと、必死になって思考を巡らしているのだ。


 うわー!ソドム様、めちゃんこ怒ってる!

 今は那由他様がいるから抑え込まれているけど、一匹になったらヤバい!

 というか、ちらっと見えた魔法陣がヤバすぎるし!

 帝王機(アレ)がもし、出てきちゃったら……。

 考えるだけで、毛並みがゴワゴワになる!


 もうこれは、普通に勝つだけじゃダメっぽい。

 相手を極限までボッコボコにして、ちょっとでもソドム様の機嫌を取り戻さないと、今夜、私が八つ当たりされて死ぬ。

 う”ぎるあ~ん!助けて、おじさま~~!



『……ということで、前振りは済んだし、そろそろ行きますよ!それじゃ…』



 アルカディアが必死になって考え出した答えは、『ビリオンソードを完膚なきまでに叩き潰し、ソドム様のご機嫌を取る!』だった。

 この戦いを、タイタンヘッド戦前の準備運動程度にしか考えていなかったアルカディア。

 しかし、気まぐれに出したバナナのせいで、本気を出さざるを得ない展開となってしまった。


 アルカディアは、すうぅ……と息を深く吸い込みながら、意識をビリオンソードに向ける。


 相手は身長180cm程の、細身の剣士。

 筋力は無さそうで、組みあえば間違いなく勝てる。

 ……けど、そんな普通の戦いをしても、ソドム様の機嫌は直らない。

 見た感じ派手で、スカッとする勝ち方をしないと……。


 そういえば、剣士は剣が大事なのだと、おじさまが言ってた。

 なら、とりあえず剣を全部へし折ろう。

 二本しかないっぽいけど、アレをバッキバキに折った後は、ひたすらボコる。

 そうだ。リンなんちゃらがやった、アレをやろう。

 竜巻みたいに蹴りまくった後、服を剥ぎ取る奴。

 美味しいハンバーグを作った人はリンなんちゃらに剥かれて泣いてたし、あれならソドム様も納得してくれるかも?


 あなたに恨みはないけど、世界は弱肉強食。

 大人しく、私の餌食にされて欲しい!う”ぎるあ!!



「先に言っておく。あなたに恨みは……」


『……始め!!』


「う”ぎるあ!?」



 一応、戦闘前に意思表示をしようとしたアルカディア。

 しかし、その声はヤジリの開始の掛け声と重なってしまった。

 お互いに、あ!っと思ったが、もう遅い。


 ヤジリの声に闘技石段は反応し、ビリオンソードとアルカディアは転移。

 完全に不意を突かれたアルカディアは驚き、最初の一手で出遅れた。


 そして……ビリオンソードは揺るがず、右腰の刀を抜き放つ。

 己が戦域を構築する為に。



「《刀剣収集召喚バンデットソードサモン!》」



 ビリオンソードが引きぬいた刀は『刻印刀こくいんとう』と呼ばれるものだ。

 この刀は、その名の通り、魔法を刻印し付与しておくことができる魔剣。

 刻印しておける魔法はランク7までに限られるが、それ以外の制限は一切ない。

 便利である分、非常に高価であり、この刀一本で10億エドロを軽々と越える。


 そんな刻印刀にビリオンソードが込めた魔法は、77本の刀剣を召喚する為の魔法陣だった。

『剣こそ、力』だと信じるビリオンソードは、30年を超える人生の旅路の中で、数千本に渡る刀を集めた。

 そして、あらゆる状況に対応するために選び抜いたこの77本こそが、ビリオンソードの最高であり、勝利への確信。


 ビリオンソードは、抜き放った刻印刀を精錬された動きで地面に突き刺し、魔力を注ぐ。

 そして、闘技石段は大きな召喚陣を映し出した。



「《孤軍奮闘・羅刹の陣!》」



 ビリオンソードのその声に従い、魔法陣は77に分裂。

 闘気石段上に散らばった魔法陣は一斉に輝き、その中心から様々な種類の刀剣が出現した。


 77本の刀剣がそこら中から突き出しているという奇妙な光景。

 種類も長さも系統も違う様々な刀剣の森は、まるで、戦場に並ぶ墓標のようだった。


 そんな中で、ビリオンソードは高らかに声を張り上げた。



「ふむ、絶景かな、絶景かな」

「いっぱい出すぎ……。う”ぎるあ……」



 アルカディアは絶句した。


 全部へし折ると決めたそばから、剣が79本になってしまった。

 非常に面倒だと思い、えー。どうしよう。と考え込んでいる為に絶句しているのだ。


 うーん。

 こんなにあると凄く面倒。

 やっぱり、一撃でぶち殺……ん。でも、これ全部へし折ったら、結構派手かも?

 ソドム様もちょっとは喜んでくれるかな?


 悪魔めいた、アルカディアの思考。

 アルカディアは、リリンサが持つような『全部折るのは可哀そうだから、半分にしておこう』という、人間的な優しさを持ち合わせていない。

 野生動物なのだから、ある意味当然である。


 そんなアルカディアの薄ら笑みを見て勘違いしたビリオンソードは、「そうか。この素晴らしさが分かるのか」ちょっとだけ上機嫌になり、饒舌に語り出した。

 77本の剣に秘められた、己の過去と思い出を。



「この刀剣達は、拙者がこの手で集めた刀から選び抜いた至高の77本。拙者の誇りでもある!」

「……。」


「いいだろう?羨ましいだろう?例えばな、お前の目の前に刺さっている刀は、ブルファム王国の有名な鍛冶が打ったものだ。紫色の波紋は光に当てると……」

「……素手でもイケそう。う”ぎるあ!」



 ビリオンソードの話をガン無視したアルカディアは、軽い声と共に、地面に突き刺さっている刀へ正拳突きを放った。

 そして、『ぽきん。』という、あっけない音が響く。

 剣のちょうどド真ん中から折れた刀は、特に劇的な現象もなく、普通に地面に転がった。



「あ。イケた」

「……。おい、小娘。お前は今、何をしたのか分かっているのか?」


「剣を折った」

「分かっているのだな?……ふふ、ふふふ、ふふふふふふ!」



 ビリオンソードは、些細な事で感情が揺らぐようでは、剣の道を極めることは出来ないと思っている。

 しかし、感情のコントロールが出来るどうかは、話が別だった。

 それが出来るのなら、ビリオンソードは師範を超えた大師範へと至っていたであろう。


 ビリオンソードは、ブチギレた。

 己の計画を邪魔した、毒吐き食人花に。

 隠し事を平然と暴露した、ヤジリに。

 そして、我慢をしていたビリオンソードの堪忍袋をチョコバナナで突き破ぶったばかりか、大事な刀を不意打ちでへし折ったアルカディアに。


 雄叫びし、地面を蹴り上げ、激しく身を捩りながら、ビリオンソードは激怒し走り出す。



「許さぬぞぉお!小娘ぇえ!!《多層魔法連・地翔足(ラピッドステップ)空盾エアロシール剣客棟梁ソードリーダー!!》」

「う”ぎるあ!」



 ビリオンソードは、自身とアルカディアとの間に有る20個の魔法陣を活性化させ、召喚陣から突き出していた刀を解放。

 そして、すれ違うように走り抜けながら、20本の刀剣を腰と背中に装備してゆく。


 20の刀剣を背負った姿は、まさに悪鬼。

 鬼VSタヌキの戦いの幕が上がった。



「《奥義・微塵切り》一。二。三。四。五。六。七……」



 怒りに体をまかせながらも、ビリオンソードは冷静に技を繰り出す。


 ビリオンソードはアルカディアを舐めていない。

 ヤジリがマイクパフォーマンスを行っている間に、いや、一回戦のアルカディアの戦いを見てその強さを知った瞬間から、どんな武技を用いて戦うか決めていた。


 20本の刀が繰り出す連撃、その八手目でアルカディアは体勢を崩し、次の刺突の防御に失敗。

 残りの10連撃で蹂躙し、戦いの幕を引く。


 レベル77877という恐ろしき存在に対し繰り出したビリオンソードの攻撃は、その予想通り、八手目で変化が訪れた。

 しかし、それはビリオンソードの予定とは異なるもの。

 今まで様子を見つつ受け流していたアルカディアが、攻勢に転じたのだ。



「八ぃ!」

「《英雄の技巧(おじさまアーツ)ノリで熊王の牙を折るベアトリクス・エクステンション》」



 アルカディアは、ビリオンソードが突き出した刺突を、へし折り投げ捨てた。

 真っ直ぐに突き出された刀の側面を肘と膝で挟み込み、力任せに折り割ったのだ。


 え。っとマヌケな声を出したのは、当然、ビリオンソードの方だ。

 そして、流れるような連撃が中断された事により、次の一手が一瞬だけ鈍る。


 次の瞬間、アルカディアの蹴りがビリオンソードを襲った。

 車輪のごとく苛烈に回転する蹴りに、防戦一方となるビリオンソード。

 くう!っと声を漏らしながら、必死になって蹴りを裁き……ギリギリで耐え抜いた。



「はぁ……はぁ……。拙者の連撃が破られるとは……。」

「回収完了」


「な!それは拙者の剣!返……」

「まとめて、ドーン。う”ぎるあ!」



 そして、ぼっきぃ!っという、剣が纏めてへし折られる音が響いた。

 その数合計、18本。

 つまり、ビリオンソードが両手に持っている剣以外はすべてアルカディアに回収され、膝蹴りによって、へし折られたのである。


 そんな無残な光景を見て、ビリオンソードは、膝から崩れ落ちた。



「そんな……。拙者の思い出が……」

「やっぱり、折られると困るっぽい?」



 アルカディアはへし折った剣とビリオンソードを見比べながら呟いた。

 試しに折ってみよう。という軽い気持ちでの行動は、的確にビリオンソードの心に傷をつけたのだ。


 崩れ落ちたビリオンソードを見て、確信を得たアルカディアはさらに作戦を練る。


 うん。剣は間違いなく大事っぽい?

 見た感じこの剣は、私の愛したオレンジの木や、ソドム様のバナナに匹敵するっぽいし、全部へし折れば相当なダメージが入るはず。

 いっぱいあるから大変だけど、やればソドム様も納得してくれそう!


 全部へし折ると決め意気込んだアルカディアは、折れた剣を拾い上げて、視線を周囲へ巡らせた。

 素早くルートを決めると、風を切る音を残し、姿をくらます。


 そして、ボキ!ボキ!ボキ!っと軽快なリズムで、刀がへし折られていった。

 それは、肉体の限界を超えた速度を引き出すユルドルードのバッファ『ノリで熊王の牙を折るベアトリクス・エクステンション』を纏っているからできる事であり、当然、人外の領域に足を踏みれていないと対応する事は出来ない。


 そもそも、あまりの暴挙にビリオンソードは、呆けてしまっていた。

 完全に出遅れたビリオンソードは、アルカディアが何をしているのかを理解すると、奇声を発しながら走り寄る。



「う”ぎるあ!う”ぎるあ!う”ぎるあ!う”ぎるあ!う”ぎるあ!う”ぎるあ!う”ぎるあ!う”ぎるあ!う”ぎるあ!う”ぎるあ!」

「うわぁやめちょま、え、あ、それおいまず、ひ、やめろ!やめてくれっっ!」



 ビリオンソードは、どうにかしてアルカディアの動きを止めようとするも、まったく触れる事が出来ず、それならば先に剣を回収してしまおうと手を伸ばしたが、掴めたのは無残に折れた剣だったもの。

 アルカディアは闇雲に剣を折っているのではない。

 一本の剣に対し、十回以上の攻撃を加え、刃先をボロボロに破壊してから折っている。


 ただ剣を折るだけじゃ、直されてしまう。

 ちゃんと刃を潰せと、ソドム様も言ってたし!


 程なくして、アルカディアの動きは止まった。

 召喚された77本の剣全てを折り終わり、一息吐いたのである。


 そして、ビリオンソードは、泣き崩れた。



「剣……。拙者の……けん……。」

「戦意喪失した?負けを認め……てもダメっぽい。『トドメを差せ!』って」



 これでいいですか?という視線を、観客席にいるソドムへ向けたアルカディア。

 そしてソドムの答えは相変わらず、『殺せッ!』だった。


 その命令を見て、アルカディアは軽くストレッチをし始める。

 今から行うのは、リリンサが『天空の足跡(ヘルメスタラリア)』を使用し披露した、蹴りでの蹂躙。

 人の姿に慣れつつあるとはいえ、いまだタヌキ感が抜けていないアルカディアは怪我をしないようにと、念入りに3分ほど体をほぐした。


 蹴り飛ばしながら装備品を剥ぎ取ってゆくという不慣れな行いを完遂する為の準備は、3分という時間をビリオンソードに与えた。

……が、彼の運命は変わる事は無かった。



「《模倣する目撃者(タヌキ・メモリー)髪の青い女(りんなんちゃら)》」

「……え。ぐふっ!」



 嗚咽おえつ

 それは背中をアルカディアに蹴りあげられた事により、ビリオンソードの肺から空気が漏れた音。



 どすっ!「ぐぇ!」



 今度は打撃音とほぼ同時に嗚咽が上がる。

 そしてこの瞬間、ビリオンソードの体は地上に別れを告げた。



 ドスッ!「ぐえ!」


 ドスドスッ!!「ぐえぐえ!!」


 ドスドスドスドドドドドドッッッ!!!

「ぐえぐえぐえぇぇぇぇ!!」



 渦巻く茶色い旋風は細身ながらも高身長なビリオンソードの体を巻き上げて、包み込む。

 しかし、最初の数撃は掛けていた防御魔法によって、大したダメージを受けなかった。

 それゆえに、ビリオンソードは己が対処できない化物と戦っていたのだと、悟ってしまった。



「やめ、やめ、やべぇやべぇてええええええええええええええ!」



 英雄が作り上げた、近接戦闘用のバッファ。

 そんな、ただでさえ強い魔法を使用しているのは、鍛えられた野生(?)のタヌキ。


 ドドドッ!っと連続して響いていた打撃音が止み、辺りに静寂が訪れた時には、ビリオンソードは一糸まとわぬ産まれたままの姿で絶命。

 そのまま光に包まれて天に召されていく荘厳な光景を見て、アルカディアは「あ、成仏した」と呟いた。


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