第55話「観客席での考察」
「ちょっと待って!?突っ込みどころが多すぎて、ツッコミきれない!」
なんだ今の!?一回戦の時より酷いじゃねえか!
アルカディアさんの戦いの余韻が冷めないまま、リリンの2回目の戦いが始まった。
なにやら訳ありそうな対戦相手と嬉しそうなリリン。
これは何かあるなと思っていたんだが、まさか大魔王さんの先兵だっとはな。
つーか、レジェリクエ女王も来てたのかよ!
流石に大悪魔3人は手に負えない!
助けて!ホロビ……無理か。
ここは俺一人でなんとかするしかないようだ。
俺は今の所、比較的大人しい無敵殲滅さんに話しかけた。
「なぁ、メナファス。さっきのセブンジードはさ、リリンとどんな関係なんだ?」
「アイツが言ってた通りだよ。セブンジードはリリンが総指揮官を任命されている『終末の鈴音』の指揮官補佐で、『魔弾のセブン』だな。魔導銃の随一の使い手と言われていて、数km離れた位置から敵国の国旗を撃ち抜き文字を書いて、宣戦布告をするらしいぞ」
うわぁ……滅茶苦茶、凄い人だった!
なるほど、レベルも69769と高いし、どう考えても一級戦力なのだろう。
それなのに、セブンジードはリリンの軍の中で4番目の強さだというのだ。
どんなやべぇ集団だよ。
……瞬殺されるだろ。ロイが。
だがしかし、意外な事にロイは耐えているらしい。
前には20万の悪魔兵、後ろには謎のピエロドラゴン。
そんでもって、準大悪魔クラスが少なくとも、4人。
保って1秒の戦いになると思うんだが、まさかの増援として、鏡銀騎士団が参戦しているとか?
実際の所どうなんだ?
鏡銀騎士団と終末の鈴音、どっちが強いんだ?
「終末の鈴音の侵攻をフィートフィルシアが食い止めてるらしいけどさ、そんな事できるのか?そもそも、鏡銀騎士団自体が結構不明な存在なんだよな」
「あぁ、鏡銀騎士団と一口に言っても2種類あるからな。今回フィルシアに加担しているのは弱い方だと思うぞ」
「2種類?どういう事だ?」
「澪騎士は人類の守護者なんて言われてるくらい強くて、数多くの命を救っているんだが、なにぶん一人しかいない。当然、複数の事案には対応できないという訳だ。そこで私兵として『白鏡銀騎士団』という、大規模な兵団を従えている」
「白鏡銀騎士団……か。カッコいいぜ!」
「こっちの白鏡銀騎士団は才能ある冒険者を貴族の騎士が纏めているんだが……。午前の部に出場してた程度の奴も数多く含まれている。大体8割くらいは雑魚だな」
「あの程度の人員か……。蹴散らされるな。大悪魔に」
「まぁ、この白鏡銀騎士団は複数の分隊に分かれていて強さも様々だ。今回加担したのはブルファム王国系貴族の娘が率いる30名前後の分隊だと思うぜ。あいつらは澪騎士のお気に入りの一つで、それなりに強いしな」
「ん?それって予想なのか?」
「そうだよ。だが、間違いないと思うぞ」
たぶんだが、メナファスが言っているその分隊とは、ロイの奴を迎えに来た人達の事だろう。
あまり近くで見たわけではないが、鎧も剣もすごく煌びやかで力が迸っていた。
ロイなんて、謝罪しに行く時の顔がドス紫色だったもんな。
23頭の三頭熊に会いに行く方がまだ気楽かもしれない……と呟いていたし。
そんな訳で、ロイの所に加担するなら、あの人たちの可能性が一番高い訳だが、メナファスはその事を知らないはずだよな?
何でそんなに詳しい予想を立てられるのか、聞いておいた方が良さそう。
もしかしたら、墓参りじゃなくて、お見舞いになるかもしれないし。
あ、場合によっては、ピエロドラゴンが看守を務める監獄に面会に行くという線もありうるな。
どっちにせよ、生きてロイに再会出来たら内情を語ってやりたい。
「予想の割には、何でそこまで分かるんだ?」
「あぁ、それはな、戦況が膠着状態にあるってセブンジードが言ったからだ。セブンジードが属する終末の鈴音は、レジェンダリア国内でも5本指に入る攻撃力を持つ。そいつらが攻めて攻め切れなかったと言うのなら、相当の戦力がフィルシアにあるって事だろ?」
「まぁ、そうなるよな?」
「だがよ、終末の鈴音が攻めるのに失敗した以上、今度はフィルシア側が攻勢に出るはずだ。んで、結果は膠着状態。つまり、フィルシア側も攻めるのに失敗したって事だ」
「ふむふむ?それで?」
「戦力が高い水準で拮抗しているんなら、可能性は限られてくる。もし、鏡銀騎士団の大元の殺鏡銀騎士団が出て来てたら、終末の鈴音はヤバかっただろうな」
「殺鏡銀騎士団……物騒なのが出てきた……」
「鏡銀騎士団てのは、もともと八刀魔剣に敗れて配下になった奴が殆どだ。そりゃあもう、戦闘力が凄いのよ。あのリリンですら本気を出してやっと上位に食い込めるかどうかって所らしい」
「……。そりゃ、やべぇ……。」
リリンが本気を出して、やっと上位に食い込める……だと?
上位に食い込める、それなら、一番じゃないって事だよな?
それってつまり、さっきみたいなランク9の魔法を連発するリリンを抑え込める奴が居るって事だよな?
……。あれ?ロイ、助かった?
「そんな奴らがフィートフィルシアに加担するかもしれないのか……。でも、まだ加担してないんだよな?」
「どっちも、本気で攻めちゃいねえんだよ。いいか、鏡銀騎士団も本気じゃないが、レジェも本気を出していない。……レジェが本気で侵攻をする時、20万の兵は全て『リリン』になる。全ての兵がランク9の魔法を断片的に使えるという恐ろしい兵力だ」
「なにその魔王軍!?どうなったらそんな事になるんだよ!?」
「あー。レジェに電話をかけた事あるか?あん時に流れる音声は相手によって発動する魔法が違うんだが……」
「あぁ、確か、リリンの時は位置を特定されて、ワルトの時はランク9の魔法だったな」
「ぷ。ワルトナ警戒されまくりじゃねえか。でよ、その本質はレジェの声=魔法ってこと。そんでもって、魔導銃には通信機が内蔵されていてな、レジェは離れた位置にある魔導銃に魔法を装填出来るんだよ」
「つまり……?」
「魔導銃が、ランク9の魔法の発射装置になるってことだ。当然、魔法を装填するタイミングはレジェの意思によるが、トリガーは各自が引く事も出来る。想像してみろよ。さっきみたいな光景が20万回も繰り返される光景をよ」
「……。死んだ。ロイ、死んだ……。ついでにピエロも死んだ……」
何その地獄。
草一本、残る気がしない。
まさに魔王の所業であり、地獄は地獄でも、阿鼻無間地獄に相当する。
そんな力、人類に向けるべきじゃない。
ものすごく厳重に封印し……いや、待てよ?
この力があれば、クソタヌキを倒せるんじゃないだろうか。
ちょっと想像してみよう。
20万発の魔王の一撃が、クソタヌキに向かって放たれた。
その中を華麗に舞う、クソタヌキ。
颯爽と身を翻し、高らかに空を駆け、すべての暴虐を受け流し――
この瞬間、クソタヌキ>20万発のランク9という図式が完成。
そんなクソタヌキは、ニッコリ笑顔を俺に向け――。
そんな光景を見たら、俺はショック死するな。やめておこう。
「そんな大戦力、人類じゃ勝てないだろ……。で、そんなもんがあるならフィルシア領を落とせないのは何でなんだ?」
「そりゃ、当然、使った術者は死ぬからな。当たり前だが、身の丈に合わない魔法を使えば余波に巻き込まれて死ぬ。それをレジェは分ってるから使わないのさ」
「なるほどね……。良い人なのか大悪魔なのか、判断に困るな」
「それでもよ、澪騎士ゼットゼロが参戦してきたら使わざるをえない窮地になるだろうけどな。ま、あり得ない話だけど」
「ん?その言い方だと、澪さんに勝つには、20万発のランク9を叩きこまないといけないように聞こえるんだが?」
「それでも倒せるかどうか分かんねえな。オレたち5人とホロビノが全員で挑んで、澪騎士一人に負けたんだぞ?あの強さは常軌を逸しているぜ」
……。
俺は驚きを隠せない。
なにせ、心無き魔人達の統括者のフルメンバーを同時に相手して、勝利したというのだ。
その強さたるや、クソタヌキ級?なのかもしれない。
で、そんな澪さんは、俺達と一緒に熊狩りをしてたんだけど。
俺は驚きを隠せない。もっと他にやる事があるだろ!という意味で。
「そうか。フィートフィルシアの戦争、無事に終わると良いな」
「それは無理だろうな。もうその時期は過ぎちまったし。どっかの食べキャラが第九守護天使なんつうもんをフィルシアに与えたせいで、最初の一撃を耐えちまった。最早、無血開城はありえんだろ」
……ごめん。ロイ。
今度、詫びの品としてゲロ鳥でも持っていくよ。
上手く使って、ゲロ鳥フェチな大魔王様に取り繕ってくれ。
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「おねーちゃん、すっごおおおおおおい!」
純黒の髪をピコピコと揺らし、膝の上に茶色い毛玉を二つ乗せた少女が、嬉しそうに叫ぶ。
先程の戦いが始まってからずっとこの調子で、終始、瞳を煌めかせながら興奮している。
そんなセフィナの横で面白そうに闘技石段を見ていたのは、世界で3番目に強き者、那由他。
こちらは「ふむふむ……これは中々じゃの」と鼻を鳴らし、ひたすら興奮しているセフィナへ話しかけた。
「セフィナよ、お前さんの姉はやりおるの。あの魔導書を使った技は、至極、珍しい物じゃしの」
「ですよね!?あの人、私のおねーちゃんなんです!すごいでしょ!?」
「うむ。すごいのー。アプリコットを彷彿とさせるのー。な、ソドムもそう思うじゃの?」
「……。ヴィギュリオン!」
いきなり話を振られ、ソドムは精一杯に誠意を尽くして、適当に答えた。
今はエルドラドが買ってきた『ポップコーン・キャラメルバナナ味』に夢中で、話を聞いていなかったのだ。
じっとりとした汗をかくも、どうする事も出来ないソドム。
そんなソドムへ、無言で手を伸ばす那由他。
そして那由他は、ソドムを抱きかかえて自分の膝の上に乗せた。
……ソドムは恐怖と、ポップコーンに別れを告げた悲しみを押し殺しながら、心で泣いた。
「え?パパに似てるの?」
「そうじゃの。あ奴は魔法を使うのが得意での。このソドムとも戦っておる。どれ、ソドム。少し話してやれ」
「……アプリコットはな、俺の猛攻を防ぎ切りやがった。眷皇種の大半が防ぐ事の出来ない、俺の攻撃を、だ」
「それってすごいこと?」
「あぁ、すごいことじゃの。ソドムが使った技の中には、『太陽核』という創星魔法があった。これを受けて生き残れるものなぞ、殆どおらんからな」
「パパ、すっごーーーーい!」
セフィナは、良く分かっていなかった。
ただ、自分の父親が『すごい聖女様のワルトナさんのお友達な聖女様』に褒められたから、喜んでいるだけ。
もし、この会話をワルトナが聞いていたら、昏倒していたであろう。
なにせ、ワルトナが全幅の信頼を置いているシスターサヴァンが、頭を抱えている。
「そんで、お前さんの姉はアプリコットの戦い方によく似ておる。様々な魔法を局面に於いて使い分ける。魔導師のお手本となる戦い方じゃの」
「えっへん!おねーちゃんはすごいのです!いつも皆に褒められているので、私も鼻が高いのです!」
「セフィナも、ああいう風になると良いと思うじゃの」
「私も?私は……魔導書を持ってないから無理だもん……。魔法を覚えるときは、サヴァンかワルトナさんに借りて覚えるし……」
「いやいや、メルクリウスがあるじゃの。それを使えばあの程度、造作もないことじゃの!」
「そうなの?」
「ふむ、ちょっと見てやるか。メルクリウスを召喚して見せるがよい」
「はい。分かりました!《愛せし相貌の片割れは失われた。天も地も、光も闇も、時ですら支配出来たとしても、抱いた虚無は打ち払えなかった。私は託すのだ、もう一つの愛せし我が子に、暖かな未来と希望を――。来て!……サモンウエポン=パパの杖!!》」
元気いっぱいに声を張り上げて、杖を召喚するセフィナ。
その杖は、11個の宝珠が二重円形状に並ぶ、神をも廃する解放の杖。
『神魔杖罰・メルクリウス』
第9番目の神殺しであり、魔法次元そのものと語られた、魔法と魔術の杖だ。
メルクリウスを見て、やっぱり綺麗だなーと感嘆しているセフィナは、とても大事そうに杖を両腕で抱きかかえると、朗らかな笑顔で那由他に向き直った。
「パパの杖、出しました!この杖ね、大っきくて持つのが大変だけど、すごいの!魔法がバーンってなるの!」
「……。あんな適当な詠唱で呼び出せる事が奇跡じゃしの。そりゃ、体に合わん大きさになるという物じゃの。なんじゃの、パパの杖って……」
「ふえ?適当じゃないよ?この杖はパパの杖だもん!私の大好きなパパが使ってた杖だもん!」
「そうじゃないじゃの、いいかセフィナよ。その杖の名は『神魔杖罰・メルクリウス』。それを扱うのならば必要になる名じゃ。姉を取り戻したくば、覚えるのじゃな」
「メルクリウス!めるくりうす!メルクリウス!!はい、覚えました!」
「いい子じゃの。よし、それじゃレッスンを始めようかの!」
そして、那由他はセフィナに知識を与えた。
世界最高の知識を持つ、那由他。
前任の使用者のアプリコットですら、薄らとした理解しか持てなかった知識が、与えられようとしているのだ。
その英知は、人類では到達する事が出来ない領域に存在する、神と等しき物だった。
那由他は、知っている。
神魔杖罰・メルクリウスが持つ11の宝珠の中には、過去の使用者が使った全ての魔法が、完全な形で記憶されているという事を。
那由他は、知っている。
その記憶されている魔法とは、この世界で使用された全ての魔法に等しいのだという事を。
那由他と蟲量大数のみが、知っている。
遥か昔、那由他はこの杖を持って蟲量大数に戦いを挑み、世界が破滅しかけた結末を。
那由他は、優しくセフィナに語り掛けた。
深く底の見えない、皇たる笑みを浮かべて。
「セフィナよ。この杖を従えしとき、お前は人類の……。父と同じ存在になる事ができるはずじゃの」
「パパと同じ?もしかして、英雄とかなの!?」
「いいや、英雄ではない。儂と同じ場所に立つという事じゃの」
そしてセフィナは……。
「悪喰さんと同じ……。あ、聖女様ですね!?頑張ります!!」
ずれた答えを、元気よく宣言した。
皆さま、こんにちは!青色の鮫です!!
先日、なんと、300話を突破しました!
僕の誕生日が299話だったりと、なんか思う所がある訳ですが、これも皆様の応援のおかげ。
本当にありがとうございます!
そんな熱い想いは活動報告に書くとして、一言だけ。
……タヌキ、自重しろ!




