第52話「バトルトーナメント⑩毒吐き食人花VS七騎士」
「《魔弾・雷光槍!》」
リリンサは、再び放たれた5発の雷光槍を星丈―ルナの拡散能力で打ち消しながら、素早くセブンジードから距離を取った。
そして、セブンジードが持つ魔導銃の形状を見て、リリンサの知る情報と照らし合わせていく。
……ん。随分と小さくなっているけど、ベースはカミナが試作した魔導銃で間違いない。
だとしたら、私とワルトナとの連携が基礎構想となっているはず。
近接戦闘は危険。一旦距離を取って様子を見よう。
リリンサは足早に離脱しつつ、心無き魔人達の統括者で意見を出し合って作った魔導銃の基本設計を思い出してゆく。
魔導銃の構想の基礎になったものは、前衛職たるリリンサが、複数の敵を効率よく処理するために考案された連携攻撃だ。
魔法は長距離から攻撃するのには適しているが、詠唱という時間的制約がある以上、無言で攻撃できる剣士や拳闘師に遅れを取る。
当然、隔絶した技量差があればその不利を跳ね返す事も出来るが、リリンサやワルトナは自らの事を、世界最高レベルでないと自覚していた。
それ故に、同レベルの剣士と近接戦闘を行えば敗北もありうると、対策を立てたのだ。
それが、炎ドラゴンを壊滅させた絨毯爆撃、魔法弾をワルトナが作りリリンサが打ち出す、コンボ攻撃だ。
詠唱を最小限に抑え、魔法の連射能力を生かしたまま、遠近両方の戦闘で優位に立つ。
それを可能にしたのがリリンサとワルトナの連携であり、心無き魔人達の統括者の主力攻撃でもあった。
「やはり、詠唱無しで連射が可能みたいだね。一般的な魔導銃はどちらかというと破壊力を向上させるもので、一回一回詠唱を必要としていた。これはすごい事」
「えぇ、世紀の大発明だなんて言われてますよ。この銃が配備されてから、俺の属する部隊も負け無しでね。偵察に行ったはずが、敵の主力部隊を壊滅させて帰ってくるなんて曲芸も出来るようになりました」
リリンサの言っている魔導銃とは、メナファスが持つ一般的な大規模戦力級兵器の事だ。
しかし、心無き魔人達の統括者内で提案されていた魔導銃とは異なる。
そして、心無き魔人達の統括者が作ろうとしていた魔導銃は未完成のままとなっているはずだった。
基本設計を終え、試作1号機を作った段階でパーティーは解散となったからだ。
実用化しなかったはずの魔導銃の研究をレジェリクエが引き継いでいたと知り、リリンサはちょっとだけ感動を覚えた。
その後、ふと、現実に戻る。
「その武器はすごい。本当に国を落とす力があるはず……。で、何で私は貰えないの?ずるいと思う!」
「え?知りませんよ!女王陛下に聞いてください!!」
頬を膨らませながら、突然トンデモナイ事を言い出した上官に対し、セブンジードは言葉を詰まらせた。
いや、貰えないも何も、国に居ないじゃん!
つーか、総指揮官が持ってないとか知ってる訳ないだろ!
知らないとか言ってるのも、ブラフだと思うだろ、普通!!
むぅうと小さく唸っているリリンサを見て、セブンジードは妙な違和感を抱き、女王陛下の思惑を考察した。
そして、情報が出揃った今、簡単に解く事が出来たのだ。
なるほど。大会中に最高機密のはずの銃を使えと言ってきたのは、総指揮官に興味を持たせる為か。
なるほどなるほど、「良いご飯になると思うのぉ」とは、餌をぶら下げって食い付かせるってことね。
……餌?
「ふっざけんなァァァ!俺を餌にするんじゃねえええええ!」
「むぅ……?」
自分が餌にされた事に気が付き、そこから、芋づる式に真実に辿り着いたセブンジード。
レジェリクエの狙いは、二つあった。
一つは、魔導銃という最先端技術を見せ、それに対する興味を引く事で、リリンサをレジェンダリアに呼び寄せる口実を作る為だ。
レジェンダリアに招こうとしているが、何やら理由があるらしく帰ってこないのだとセブンジードは聞いている。
それを寂しそうに語る上官を見て、ロリコンだと何度も笑ったのだから間違いない。
そしてもう一つは……。
5万人を超える観衆へ、魔導銃を持つ存在、つまりレジェンダリア国とリリンサの関係性を暴露し、行動に制限を掛ける為だ。
レジェンダリアの総指揮官だと判明すれば、様々な所からリリンサへ接触があるだろう。
一度そうなってしまえば、個人で行動するよりもレジェンダリア国へ帰還する方が安全となる。
セブンジードは、リリンサが旅をしている理由を知らない。
しかし、狡猾なレジェリクエの性格を知る彼は、今が最も適した時期、つまりリリンサの目的が達せられているという事に思い当たった。
ここは素直に聞いてみるのも良いかもしれないと、フレンドリーな雰囲気を纏わせ、弾丸と共にリリンサへ質問を放つ。
「そういえば、総指揮官の目的が達せられたと聞いたのですが、本当ですか?《魔弾・土石槌!》」
「おおむね本当。私の目的はほぼ完遂され、後は仕上げのみ《対滅精霊八式!》」
「へぇ。オメデトウゴザイマス《魔弾・氷結杭!》」
「なんか、言葉が堅い気がする……。《五重奏魔法連・主雷撃!》」
ぶつかり合う氷と雷は、二人のちょうど中間で炸裂し、暴風となって吹き荒れた。
それを見て、これがいつもの戦場だったらどんだけ楽なことかと、セブンジードは現実から逃避する。
現在、レジェンダリア軍は魔導銃で武装し、各地で猛威を奮っている。
その力は絶対的なもので、魔導師が銃弾たる魔法を装填すれば、剣士だろうが拳闘師だろうが魔導師に早変わりするという規格外な戦略を可能としていた。
敵の視線で見れば、その力は分かりやすいだろう。
魔導師で構成されていると思わしき軍団が、侵攻してきた。
遠距離から魔法を放って来る軍団に対し、敵軍の将も、魔導師を当てがって迎撃。
隙をついて近接戦闘に持ち込めば魔導師は後退をするしかなく、戦線を膠着状態とさせてから対策を練るのが定石だ。
しかし、決死の突撃をして魔導師の軍団に突っ込んだ敵兵は、信じられない者を見る事になる。
熱気が迸る、ムッキムキの筋肉。
一般的な常識では非力であるはずの魔導師が、歴戦の戦士じみた筋肉で武装し、目眩がする程の殺意を持って剣で斬り掛ってくるという、凄まじい光景に出会う事になるのだ。
その驚愕たるや、絶望級。
え?っと声を漏らす暇もなく全員が敗北し、捕虜となる敵兵。
そして、再び魔導師に戻った筋肉ムッキムキのオッサン集団は、遠距離から魔法を撃ちながら進撃を繰り返す。
そんな理不尽極まる戦略を可能としているのが、魔導銃だ。
当然、この大陸の上位者達を震え上がらせ、ものすごい勢いで情報の調査が行われている。
しかし、全てがレジェンダリア国の最奥で製造されているが為に、ほとんど情報は露見していない。
聞こえてくるのは、レジェンダリア国に大敗をしたという情報のみで、遠くから薄ら見たという程度でしかないのだ。
遠い目で、セブンジードは想いにふける。
あぁ、戦場なら、魔導銃を見て目ん玉ひん剥いた馬鹿共は、どいつもこいつも無条件降伏をしてくる。
なのに、なんで総指揮官は目をキラキラさせているんだよ。
……して良いかな?無条件降伏、俺がして良いかな!?
……あぁ!もう断られたんだった!!
「はぁはぁはぁ……。当たり前に魔導銃の攻撃を裁くんですね……。普通、初見だったら一方的に勝てるんですよ。俺らがね」
「まぁ、私は基本的な構造を理解している。当然と言えば当然」
「ち。知らないとか言っときながら、秘匿されている筈の情報をばっちり……ん?」
セブンジードは、再び、違和感に捕らわれた。
確かに、魔導銃に関する情報は、秘匿されている。
第一級機密情報として取り扱いに細心の注意が払われているのだから当然だ。
そんな中、俺は5万人もいる観衆の中で、銃の存在を大々的に露見させてしまった。
露見させた事自体は、良い。
女王陛下の指示であり、軍事的な思惑が有るのは間違いないからだ。
でも……。
それに思い当たったセブンジードは、叫ばずにはいられなかった。
リリンサという大魚を釣り上げる為に水の中に投げ込まれた、『餌』。
餌は食い付かれるものであり、当然、死ぬ。
自分の運命を悟ったセブンジードは、やけくそになりながら、叫ぶ。
「くそぉぉぉぉぉぉぉお!どうやっても破滅しかねえええええ!!」
「ん。どうしたの?」
セブンジードが気が付いた真実。
レジェリクエが計画した最大の策謀は、魔導銃を持つレジェンダリアの兵士が、銃を持たないレジェンダリアの上位指揮官に敗北する様を見せ、魔導銃の力を見誤らせる事にあった。
絶対的な力の象徴となっている魔導銃。
それを持つ兵士が敗北したというのは、各地に安堵と希望を振りまく事になる。
――あぁ、魔導銃も絶対ではないのだと。
――攻略する手段はあり、策を弄すればレジェンダリアの進行を止められるのだと。
そして、魔導銃を撃ち破ったのが、レジェンダリアの指揮官たるリリンサ。
つまり、レジェンダリア国の最強戦力は魔導銃を所持しておらず、その力を否定したということになる。
これで、魔導銃の情報が出回る前の状態に戻った。
高まっていた魔導銃への警戒は、希望が見えた事により瓦解し、油断となる。
この一撃は、一気に趨勢を決しかねない程のものであり、戦況を大きくレジェンダリア国に傾ける事になるのだ。
……1名の、尊い犠牲によって。
大筋で見れば、セブンジードのやった事は、会心の一手だ。
しかし、狭い視野で見れば、レジェンダリア国への裏切りに等しい。
秘匿されていた最重要機密情報の流出。
しかも、セブンジードは勢いに任せて、身分の証明書たる隊服まで出してしまったのだ。
これは間違いなく糾弾される事であり、場合によっては処刑もありうる。
いくら女王陛下の言葉があったと供述しても、レジェリクエ自らが否定すれば、どうする事も出来ない。
事実上、首輪を嵌められて絞首台の上に立たされたのに等しいのだ。
セブンジードは、泣いた。
恥ずかしげもなく涙を流しなら、必死に生きる道を模索する。
「くそぉ……。くそぉ……。俺はまだチャラ男でいたい……。戦闘マシーンは嫌だ……。傀儡人形はもっと嫌だ……」
「何かあったらしい?良く分からないけど、たぶん、私を倒せればどうにでもできると思う」
「なに……?そうなのか?」
「うん。私よりも強い事が証明できれば、少なくとも一等級奴隷になれるはず。この階級に居る人物は少ない。当然、意見を言える者は少なく、その影響力は計り知れない」
思わず敬語をやめてしまったセブンジードは、失敗したなと思いつつも、リリンサの言葉を吟味した。
一級奴隷と言えば、テトラフィーア大臣と同じ階級だ。
その上となれば、女王陛下の同胞と噂の心無き魔人達の統括者とかいう胡散臭い連中が特級階級に居るだけで、その上は女王陛下しかいない。
事実上の、上から二番目。
処刑とかを実行する側。……俺、生き残る。
テトラフィーア大臣も、同じ階級だから口出しできない。俺……幸せ!
僅かな希望が垣間見えた事により、セブンジードの脳細胞は再び起動した。
「そうだ……。総指揮官を倒せば、光明が見える。倒せば……倒せば?………………無理だろッ!!」
「……。やはりテトラの言っていたように、サボり癖があるっぽい。これは鍛えた方が良さそうなので、ちょっと本気で行く。《崩壊。迫りくる終焉の音を前に、なせる事など唯の祈りだけ。割れ出ずる熱雷の翁よ、私のモノとなるがいい。―雷霆の戦軍―》」
再起動したセブンジードの脳細胞は、瞬時に情報の精査を終え、結論を出した。
『真っ当にやり合えば、勝ち目がない。言葉巧みに誘導し、油断を誘え!』
ノリツッコミのような暴言を吐いたのは、セブンジードが仕掛けたブラフ。
相手の感情を揺らし大ぶりの一撃を出させ、その隙を突く為の仕掛けだった。
それを知ってか知らずか、リリンサはランク8の魔法を使用し、戦闘準備を終えた。
え。ちょっとやり過ぎ……。と思いながらも、セブンジードは魔導銃を握る。
「結局、倒すしかないってことですかね!」
「そういうこと。なぜなら、私が勝利した場合、あなたを追い剥ぎする。魔導銃は欲しいし、他にも何か持ってそうだし。隠せないようにパンツまで剥ぎ取るつもりでいる!」
「負けられねえッッ!これは、負けられねえッッッ!!」
「なら、本気でかかってくると良い。行くよ《五奏魔法連・雷霆の鏃!》」
超高圧の高周波雷電で出来た5本の矢が、リリンサの手の動きに合わせて射出された。
文字通りの光速の5連撃は、通常の人間の感覚器官で捕捉する事は出来ず、あっけなく死体となって転がる事になる。
しかし……。
「《魔弾・雹壊》」
セブンジードは素早く魔導銃のトリガーを引き、光速の連撃に対応して見せた。
それが出来たのは、リリンサの唇を観察し攻撃が来る瞬間を見越して対応を行っていたからだ。
それはあくまでも予想であり、精密射撃での迎撃ではない。
だが、一回の魔法で複数の氷塊を出現させる雹壊を5連続で発動し、氷の壁を作るといった方法なら対処は可能だった。
雷霆の鏃は凄まじい攻撃力を誇るが、その性質は電気としての特性が強い。
魔法で作られた氷は、不純物の無い純水で出来ており絶縁体。
これらを理解しているセブンジードは、難なくリリンサの攻撃を切り抜け、勝負に挑む。
情報取得と現状把握は終えた。
次は……。
「隙を作る為の、牽制……えぇぇぇ!?」
「行け。《竜を撃つ一撃》」
いざ攻勢に出ようとしたセブンジードは、恐ろしきものを見て、即座に踏み込んだ足を引っ込めた。
やり投げのような動きでリリンサの手から投擲されたのは、細長い光の剣。
瞬時に氷の魔法では防ぐ事が出来ないと悟ったセブンジードは、驚くべき事に、左手を突き出してその魔法を真正面から受けた。
「うおお!《魔法流動!》」
そして、受けた雷光はセブンジードの服の表面を流れて走り、後方に受け流された。
薄く焦げた跡が服の表面に残ったが、セブンジードの肉体は無傷。
攻撃直後の隙を見い出し、千載一遇のチャンスを得たセブンジードは、魔導銃に秘められた特殊機能を起動させリリンサに詰め寄る。
「貰った!《魔弾連装・倒木に至る風撃!》」
セブンジードが起動させたのは、連射能力拡張という特殊効果だ。
通常では、魔導銃は5発しか連射出来ない。
しかし、この特殊効果を使用すると、連射能力を50発まで引き上げる事が出来る。
当然、問題はある。
この状態では魔法の中断が出来ず、必要以上に魔力を消費してしまうのだ。
それこそ、必要な魔力は魔法50発分に等しい。
魔力というものは絶対量が決まっており、戦争という継戦能力が重要視される局面では使用する事が難しい、必殺の技。
そんな決死の攻撃の中にこそ勝機があるはずだと、セブンジードは迷いなく使用し、リリンサは平均的な微笑みをしながら、全てを真っ向から受け切った。
「竜を撃つ一撃の初撃を防げたのは、すごいと思う」
「馬鹿な!?この至近距離で攻撃を受けて、何でそんなに平然としていられる!?」
「良く誤解されるのだけど、私の真骨頂は攻撃ではなく、防御。魔法の重ねがけを得意とし、それらはバッファと防御魔法と相性が良い。なので、並大抵の攻撃は無効となる」
「なんだその理不尽!?」
「理不尽でも何でもいい。そんな事より……後ろの120に分裂した竜を撃つ一撃を裁き切らないと、死ぬよ?」
「ふえ?」
そんな良く分からない警告を聞いて、一応、セブンジードは振り返った。
恐る恐る、ブラフであってくれ……。と願いながら。
「ふえぇ……。」
「行け。《白竜でも逃げ出す連撃!》」
そこに有ったのは、小さい光の子竜の群れ。
リリンサとワルトナが魔法の改変をして遊んでいる際に出来上がった、非常に厄介な性質を持つそれらが、セブンジードに向けて飛び立つ。
そもそも、竜を撃つ一撃は着弾時に閃光を解き放ち、周囲にいた敵の意識を刈り取って防御魔法を破壊。その後の余波によって、敵の肉体をズタズタに引き裂く技だ。
そして、その発展技であるこの白竜でも逃げ出す連撃は、ホロビノを象った光の子竜を竜を撃つ一撃のエネルギーを元に作成。
相手に向けて突撃させるという、リリンサの『ブチ転がし技』の一つ。
厄介なのは、出来上がった光の子竜の全てが、竜を撃つ一撃の性質を受け継いでいるという事だ。
たったの一匹でも受けてしまえば、防御魔法は破壊される。
その後、無抵抗となった身体で、残りの光の子竜を受け続ける事になるのだ。
セブンジードは、本能で危機を悟ると、冗談じゃない!と闘技石段の上を駆け巡った。
流星のように降り注ぐ子竜を、時に回避し、時に迎撃しながら、必死になって逃げ惑う。
「鬼ぃぃぃぃ!悪魔ぁぁぁぁぁ!!ドラゴぉぉぉぉぉん!」
「うん。これはすごい。ユニクに聞いた通りに試してみたら、いつもよりも多くの子竜が出せた」
リリンサは、ユニクルフィンからエルとの戦いの顛末を聞いていた。
その時に使用された、伝説の武器『ヴァジュラ』による光の連撃は、リリンサに新たな発想を抱かせたのだ。
エルが使ったヴァジュラは、伝説の武器の一本でグラムと同等だとユニクは言った。
そして、そのヴァジュラこそ、雷霆の戦軍の元になったという話。
ならば、エルの技を参考にすれば、威力が向上するかもしれない。
そんな感想を抱いたリリンサは、バトルトーナメントで試そうと画策していたのだ。
そして、丁度いい強さの獲物が現れた。
リリンサが嬉しそうにしていたのは、「なんて都合の良い展開なんだろう」と思っていた為だ。
「ひぃぃ!《魔弾・氷結杭!》《魔弾・氷結杭!》ちくしょぉぉ!《魔弾・土石槌!》《魔弾・氷結杭ぃぃぃ!》」
「うーん。魔法も凄いけど、これを裁き切るセブンジードの技量も凄い。何気に戦闘能力が高くて驚きを隠せない」
「くそおおおお!《魔弾・土石槌!》余裕ぶっこきやがってええ!《魔弾・氷結杭!!》」
「あ、残機が20を割った。追加しよう。《竜を撃つ一撃》からの~。《白竜でも逃げ出す連撃!》」
「くそぉぉぉぉお!!外道!魔王!!ドラゴおおおおおン!《魔弾・!土石槌!》《魔弾・氷結杭!》」
逃げ惑うセブンジードを眺めながら、リリンサはテトラフィーアとの約束を思い出していた。
「もし、セブンジードに会う機会がありましたら、世界の広さを教えてあげて欲しいのですの。セブンジードは目標に到達する力があるのですわ。でも、新たな目標を見つけようとしない。リリン様のシゴキを受けて世界の広さを知れば、もっと成長できると思いますの。ふふ。」
そんな笑いを含んだ約束は、ここに履行された。
これでいいんだよね?テトラ。と満足げに頷いたリリンサは、そろそろ終わらせるかと、星丈―ルナを握る手に力を込める。
光の子竜が全て撃ち落とされた瞬間、『雷人王の掌・願いと王位の債務』で気絶させよう。
追い剥ぎは、今回は中止。思いのほか頑張ってるし、ご褒美も用意したい。
簡易的な作戦を立て、呪文の詠唱を始めたリリンサは、逃げ惑うセブンジードを見定めて……。
そして。
なんで、魔弾連装で撃ち落とさないのかと、疑問を抱く。
「何かがおかしい?魔弾連装の方が効率がいいはず……?」
「《魔弾・氷結杭!》……それはな、この為だよッ!!!《魔弾連装・獄炎殺!》」
リリンサが異変に気が付いたのと同時に、セブンジードは最後の仕上げを行った。
闘技石段場に規則的に突き刺さった氷結杭とそれらを繋ぐ、土石で出来た溝。
その氷結杭に向かって放たれた魔弾連装・獄炎殺は、瞬く間に氷結杭を融解させ、水蒸気として溝を駆け巡らせた。
出現したのは、一辺が150mもある闘技石段いっぱいに描かれた、巨大なる魔法陣。
闘技石段場に立つリリンサの視点では知覚する事の出来ない、究極の奇襲。
「走れッッ!《主雷撃!!》」
そして……水蒸気が満たされた溝の内部を、閃光が駆け巡った。
溝と水蒸気の間にあるわずかな隙間は、全方位を絶縁体で覆われた雷光の通り道であり、ランク4という出力の小さい主雷撃でも十分に満たす事が出来た。
つまり、示されたのだ。
世界へ、ランク9の魔法を呼びだす為の魔法陣がここに有ると示され、神の定めし真理に従い、結果が顕現する。
「これが俺の、、、生き残る策だぁぁぁ!《魔弾陣詠唱・荼毘に臥す火之迦具土!》」
この瞬間、5万人を超える観客の瞳に、擬似太陽が映った。