第45話「バトルトーナメント④毒吐き食人花VSサウザンドソード終」
『それじゃ紹介も終わった事だし、早速いってみよ!バトルトーナメント一回戦、開始、でぇす!』
開始の宣言と共に闘技石段上でランダムに転移させられた両名は、慌てることなく直ぐに敵を視線で捉えた。
リリンサとサウザンドソードの距離は、おおよそ15m。
それぞれが手に武器を持ち、戦いが始まった事を示唆している。
そして、サウザンドソードは、戦闘前の紹介時には思ってもいなかった意見を抱いた。
「隙だらけ、なのか……?」
杖を構えるどころか動こうとすらしないリリンサを見て、サウザンドソードは困惑した。
なにせ、リリンサはどこにでもいるような平均的な表情で突っ立っているだけ。
しかし、サウンドソードの困惑はすぐに、別の意味での困惑に変化してゆく。
「違う。あれは……獲物を見つめる捕食者の目だ。自分が負けるなんてこれっぽっちも思っていない、ドラゴンとかと同じ、強者の目だ……」
数秒後、サウザンドソードは己と敵の実力差を思い知った。
視線の先に居る『毒吐き食人花』は、『ただの少女』だとしか思えないほどに無造作に杖を持ち、呆然と立っているだけという戦闘中にあるまじき態度で、サウザンドソードを睥睨している。
それはまるで、他者を見下す絶対者たる振舞い。
リリンサのその傲慢な態度は、「全ての行為に対する対策を終えているが故に、何も準備をする事はない」のだと、相対した敵に思わせる。
何も考えていなさそうな抜けた表情は仕掛けられた罠であるはずだと、僅かな時間を消費しサウンドソードは作戦を練った。
相手は魔導師だ。
近接戦闘の中に勝機はあるはず。
接近しての連撃で小手調べをして、実力を計ろう。
戦略の方向性は決まり、ならばと、右手に持っていた魔法剣『速達』の効果を起動。
この速達は、使用者の感覚を鋭敏化し、反応速度を引き上げる効果を持つ。
身体能力が最重要である剣士にとって、感覚の増大は非常に効果的な一手だ。
「行くぞ!《……覇気を纏い、武を貫く。我が頂きの技を受けてみよ!地連脚!》」
サウンドソードが使用した、大地を高速で駆ける為に必要なバッファ。
この地連脚は、地翔脚の上位互換に当たる、ランク3の魔法だ。
何もかもを破壊する土石流をイメージした、剛力と高速を得る事が出来るこの魔法を使用する事によって、サウザンドソードは並みならぬ強者と互角以上の戦いを繰り広げてきた。
強者の代表格であるエンシェント森ドラゴンでさえ、よろめかせる事が出来るほどの剛力で振られる剣は、並みの反射神経では回避する事は出来ない。
ましてや、か弱いはずの少女がまともに剣を受けるなど、サウザンドソードの常識では考えられない事だった。
毒吐き食人花は、バッファの魔法を掛けていない。
回避は難しいはずだ。
今なら、あるいは……。
リリンサの実力の調査と、あわよくば短期決着を狙い、サウザンドソードは走り出した。
「バッファも無しに突っ立ってるったぁ余裕じゃねえか!くらえ!《連続剣舞》」
たったの15mの距離など、バッファの魔法をかけた剣士の前では無いに等しい。
数度の踏み込みを行えば、もう既に攻撃の有効圏内。
高性能な剣を使用した連撃が完全な形で決まれば、自分よりも上位の冒険者でさえ葬る事が出来る。
自らが作りあげた必勝パターンを遂行するべく、サウザンドソードはリリンサに近寄った。
そして、鋭敏化されていたサウザンドソードの聴力は、ボソボソと唱えられていた『滅びの呪文』を捉えてしまった。
「《……強歩・地翔脚・地連脚・飛行脚・疾風加速・陣雷加速・瞬界加速……》」
「なんだとッ!?!?」
サウザンドソードが聞いたのは、リリンサが出来る限り唇を動かさないように超小声で唱えていた、バッファ魔法の群れ。
仲間が扱う事ができるためによく知るバッファもあったが、後半に行くに連れて知らない魔法になっていくそれらを聞いて、サウザンドソードの剣は迷いを産んだ。
攻めるか。逃げるか。
その答えは出ること無く、どちらでも無い選択肢『爆破』がリリンサによって突きつけられる。
「とりあえず吹き飛んで。《対滅精霊八式!》」
「ぐぅごおおおおおお!!」
ズバギぃぃぃぃン!っと鉄が爆ぜる音を轟かせて、サウザンドソードは吹き飛んで転がった。
幼い少女の華奢な体躯から繰り出されたとは思えない杖での重すぎる一撃は剣を破壊するだけでは済まず、サウザンドソードの脇腹を殴打したのだ。
サウザンドソードは呼吸がすぐには出来ず、何度か必死にえづいて息を吸ってから状況を確認した。
それは、必殺の一撃を繰り出せるかもと期待していた剣が、2本とも真っ二つに折れて転がっているという凄惨な光景。
奇しくも、サウザンドソードの鋭敏化された知覚は、攻防が行われた一瞬に放たれた殺意を感じ、手に持つ剣を体の前面へと滑りこませて防御を行っていたのだ。
「一撃で、剣を二本とも折っただと……」
自分が所持している戦力の25%を失ったサウザンドソードは、代わりに背中の剣を二本とも引き抜きながら打開策を考える。
そんな中、リリンサが言葉を掛けてきた。
「あなたは弱い……。それなのに、戦略という物をまるで分かっていない。最初から、自分の戦略を腰やら背中やらにぶら下げて相手に見せるなんて頭が悪いと思う」
「ぐ!……だが、この剣の性能までは見抜けないだろ」
「……。右手に持っているのが光の雷系統。左手に持っているのが風のバッファ系統」
「な……なに……?」
「察するに『光を放つ剣』と『切断力が向上した剣』だね。そんな子供騙し、私には通用しない」
見事に魔剣の能力を言い当てられ、サウザンドソードは狼狽している。
今まで多くの対人戦を繰り広げてきたサウザンドソードは、もちろん、剣を主軸に戦う剣士だ。
その『サウザンドソード』の名前は、無類の剣好きに由来する。
様々な剣を所持し、その時の戦略に合わせた8本の剣を選んで大会に出場しているサウザンドソードは、多少過大でありながらも、自らの事を『千本の剣を扱う男』としてこの名を名乗っているのだ。
その意思は半端なものではなく、実際、試合で使う剣は同じものを連続して使わないという縛りを掛けている。
そんなせせこましい努力は何気に効果が高く、『何度も試合に出ていて情報があるにも関わらず、対策が取りづらい選手』として、自他共に共通認識として定着している。
それなのに、リリンサは所見で剣の性能を見抜いた。
あり得ない離れ技を披露され、サウザンドソードの心にヒビが入る。
「一目見て、この剣の能力が分かったというのか?」
「うん」
「なんで、そんな事が分かるんだ?」
「経験則から導き出した予測。私はこれでも世界を旅しながら色んな武器に触れてきた。そういった魔道具に詳しい仲間もいるし知識は豊富。あとは、直感」
一応の確認として問いかけてみたものの、ドッ直球な肯定の言葉を貰ってサウザンドソードは悶えた。
「何でそんな事が出来るんだ!」とか「嘘に決まってる!」とか「直感ってなんだよ、直感って!」などと叫びたかったが、自分の想い人が見ている状況で、そんな無様は見せられない。
軽く舌打ちすると、内心の動揺を悟られないようにサウザンドソードは特攻を仕掛けた。
リリンサの目の前5mの地点で跳躍。
フワリと体を舞わせた、上段からの2連撃。
身長差を考えれば有効な手段であるはずのそれは、着刀の時間を微妙にずらすという小技や、剣の能力の発光を織り交ぜて視野を妨害するなどして、万全の状態でリリンサに迫る。
僅かながらに、「この剣で決着がつけばいいな」と期待しながら。
「えい。えい。」
だが、そんな事はあり得ない。
常勝無敗を謳われたこの『毒吐き食人花』には、そんな小細工は通用しない。
幼女が日常的に口ずさむような『えい』という、朗らかな掛け声。
その掛け声に付随して杖が動き、対滅精霊八式を纏っている星丈―ルナは、ズバギャアアアン!という破壊の音を響かせる。
「剣んんんんんんんん!?」
「ちなみに、剣が折られたからといって追撃が止むなんて事はあり得ない。覚えておいた方が良いと思う。えい!」
「ごごふぅ!」
剣を無残に破壊したリリンサの取った次の行動は、蹴りだった。
一撃目でダメージを与えた脇腹への中段蹴りは、正確無慈悲にサウザンドソードに突き刺さり、傷口を抉る。
あまりの痛みに悶えそうになったサウザンドソードは、鍛えた腹筋に力を入れると気合で我慢した。
これでも、サウザンドソードは一流の冒険者。
攻撃が失敗し、反撃を受けてしまった際の対処法は心得ている。
まずは冷静になる事だ。
離脱か反撃かを選択し、すぐに行動に移す事。
そして、今回選んだ選択肢は、反撃だ。
「ふぅ!このタイミングなら!《抜刀・居合いッ!》」
リリンサは蹴りを繰り出した直後であり、片足で体重を支えている。
当然ながら、理不尽な破壊力を繰り出す杖も、蹴りの反動でサウザンドソードとは反対の方向へ向いていた。
それは、サウザンドソードの目線で見れば、敵からの反撃を受けて生き残った時に訪れる、最大の好機。
やはり魔導師は近接戦闘に不慣れだったかと、この好機を勝利に変える為、サウザンドソードは己が持つ最大の技を繰り出した。
『抜刀・居合い』
サウザンドソードは、何も考えずに8本もの剣を帯刀しているのではない。
左側の腰に下げた、鞘入りの愛刀『古傷一文字』。
最も長く使い続けたこの剣を以てして繰り出される居合い斬りこそが、サウザンドソードの最大の攻撃であり、この攻撃をカモフラージュする為の偽装として多くの剣を帯刀しているのだ。
それは、近年の闘技場に関係する者ならば周知の事実だ。
だが、リリンサは知る由もない。
そして、多くのライバルに知れ渡っているのにもかかわらず、未だに最強の技を名乗っているのは、単純にこの攻撃が強力であり、防がれた事が無いからだった。
「ふううううううう!」
「……《サモンウエポン=》」
抜刀術の代表格、居合い斬り。
サウザンドソードが帯剣している剣で唯一、鞘があるその剣から放たれるそれは、音速の剣技とも呼ばれる高速の太刀筋。
空中で持っていた剣を持ち変えるというイレギュラーと、予定していない中段から迫る攻撃に、知らぬ者はおろか、警戒していた者でさえ回避不能な知覚できない一撃だ。
攻撃のモーションに入れた以上、相手の絶命は必至。
過去の経験から、サウザンドソードは勝利を確信した。
「ちぇえい!」
「《殲刀一閃・桜華》」
サウザンドソードの古傷一文字が鞘から抜き放たれた瞬間、リリンサは突き出していた方の足の裏に、見えない足場を作りだした。
それを蹴った事による跳躍は、垂直の壁を足場にしたかのような、サウザンドソードの予想の範疇を超えた軌道だった。
クルリと空中で身をひるがえすリリンサの真下を、音速で通過する古傷一文字。
んがっ!?っと目玉が飛び出さんばかりに目を見開き、思考を放棄するサウザンドソード。
そしてリリンサは空中で座すると、いつの間にか腰の横に備えていた桜華を鞘から抜き放った。
それは正真正銘の知覚できない一撃。『居合斬り』。
「……ふえ?」
サウザンドソードが急に軽くなった剣先に目を向ければ、もうそれは既に剣ではなく、柄だった。
バラバラと空中で散っていく刀身は4分割され、今の一瞬で2往復もの剣撃を受けた事を悟らせる。
絶句するサウザンドソード。
その心中は「あれ?俺が戦っていたのって剣士だったっけ?あれ?あれ?」だった。
「そして蹴り。えい!」
「ぐっはぁああ!」
更なる追撃を受けて、サウザンドソードは吹き飛んで地に伏した。
8本中5本の剣を失い、最強の技まで完全に攻略されたばかりか、その技で愛刀を叩き斬られたのだから無理もない。
心は完全に砕け散り、立ちあがる気力すら既になく、終焉の時をただ待つばかりである。
「どうしたの?生きる事を諦めた?」
「……。あぁ。」
「じゃあ、応援してくれているあの女性に、敗北を見せると良い」
その声を聞いて、サウザンドソードは視線を観客席に向けた。
そこに居たのは自分の仲間と、必死に応援しているスーターの姿。
観客席の一番下段、闘技石段から一番近い場所で手すりを握り締めている彼女は、大粒の涙を流しながらも、大声でサウザンドソードの勝利を叫んでいる。
その熱気に、想いに、サウザンドソードの心は反応を示した。
ゆらりと立ち上がり、鋭い眼光をリリンサへ向けて、口の中に溜まっていた血と共に意思を吐きだす。
「そうだ。負けられねえんだ……。負けられねぇ。あんなに必死に応援されて、冷たい手すりを握り締められちゃ、負ける訳にはいかねぇんだよ」
「戦う意思はあるということ?良い事だと思う」
「そうだ。良い事だ。俺は勝つ。お前に勝って、勝って、勝って、そして……」
息を大きく吸い込み、サウザンドソードは自分の殻を破った。
いつまでも決心がつかず、もじもじとしていた自分と決別した事を示す、願いの言葉をスーターに示して。
「スーーターーーッ!!好きだッ!俺がこの戦いに勝ったら、結婚してくれッ!!!!」
交際の申し込みどころか、その先をぶっちぎるサウザンドソードの咆哮は様々な人の心を揺らした。
そして、その願いの言葉にどよめく観客席の最下段で、一人の女は「……はい」と、泣き崩れながら返事を返す。
「そういう事だ。負ける訳にはいかなくなった。悪いな、ガキにはまだ早い話だったろ?」
「そんなことない。私もさっき告白されたばかり。その気持ちは十分に理解できる!」
「最近のガキは進んでるんだな……。だがよ!」
がっきぃん!っと先程までとは違う音色が響く。
それは、サウザンドソードが限界を超えた証。
居合斬りを超えるスピードで斬りかかった事により、リリンサが防御をした音だ。
捕食者と獲物の関係から、敵と敵への進化。
その変化に気が付かずに、サウザンドソードは連撃を繰り出す。
「今の俺は強いぜ!なにせ2年もの間、溜め込んでいた想いをぶちまけた後だからな!」
「2年ね。ならばその想いを、私にぶつけてみると良い」
激しく散る火花は、幾度となく剣がぶつかり合うたびに繰り返された。
サウザンドソードが持っている剣は後3本。『炎を出す剣』と『水を出す剣』、最後に『磁力を帯びた剣』だ。
炎は剣の攻撃範囲を広げ、水はぶつけ合わせた剣が滑り、予期せぬ結果を産む。
そして、磁力を帯びた剣は、相手の剣筋を狂わせる。
3本の剣を器用に持ちかえながら、サウザンドソードは怒濤の連撃を繰り出し続ける。
一撃や二撃じゃ足りてない。敵が動かなくなるまで、延々と。
限界を超えた軌道によって体の筋繊維がブチブチと断裂しているが構わず続けたその連撃は3分を楽に超える長時間、行われ続け――。
唐突に、勝敗が示された。
「嘘だろ……剣が……」
「あなたの敗因は、破壊耐性の無い武器を使用した事。こういった激しい打ち合いをするとどうしても、武器の品質が劣る方が負けてしまう」
サウザンドソードが両手に持つ剣や腰に帯剣している剣は、ほとんど刀身部分が残っていない。
それに引き換え、リリンサが持っている桜華は刃こぼれ一つなく、輝きを放ったままだ。
誰の目に見ても勝敗は決した。
まったく消耗していないリリンサと、攻撃手段を全て失ったサウザンドソード。
どうみても、これから先、真っ当な勝負が成立するとは思えない。
それ以前に、リリンサは魔道師だ。
何かがおかしくないか?と観客一同が疑問に思いながらも、凄まじい技量を見せつけられては文句も言えなかった。
微妙な空気感が流れる中、感情が高ぶったままの男が一人。
その男サウザンドソードは無言で剣を捨てると、拳を構えた。
「まだだ。まだ俺は死んでねぇ。お前を倒す事は叶わねえが、闘技石段の外に叩き出せば俺の勝ちだ。まだ勝機は残ってる」
「向上心は認める。けど、無謀と無能は同意義。速やかに投降することを進めたい」
「終わってねえって言ってるだろうが。これから始まるんだよ。終わらせてたまるか!」
「そう。それじゃ……蹴るね」
「へ?うぼぁああああ!」
サウザンドソードの目の前からリリンサが消えたのと同時に、その地獄は始まった。
上下左右、あらゆる方向から繰り出される蹴りの嵐が、サウザンドソードの肉体を痛めつけているのだ。
そして、鍛え上げられた体の隅々まで痣が出来たのを見計らって、リリンサは一旦攻撃をやめた。
武器はへし折った。そこそこ太い骨もへし折った。そして最後は……心だよね?ワルトナ。
懐かしい思い出に浸りながら、リリンサは奪い取った戦利品を闘技石段の上に置く。
それは、サウザンドソードの衣服。
人類の文明から解放されたサウザンドソードは、ギリギリ残っていたパンツを見て安堵すると、地面に倒れまいと必死に膝で体を支えた。
「ちく……しょうめ。悪魔か……てめえは」
「そういえばそうだった。私は悪魔なので、慈悲はない。最後の一枚も剥ぎ取りたいと思う」
「ごめんなさい!ごめんなさい!天使です!天女です!聖女様です!」
「分かればよろしい」
己に残されていた最後の防壁を守り抜こうと、サウザンドソードは必死で叫んだ。
それを奪われてしまえば、もう二度と町を歩けないと本能で理解したからだ。
屈辱に耐えながらも、未だに勝利を諦めていないサウザンドソード。
その強き心に思うことがあったリリンサは、ふと、平均的な微笑で語り賭けた。
「あなたは一度、装備を選ぶとこからやり直した方が良いと思うので、剥いた。剣をいっぱい持つというスタイルは、敵に戦略を悟られやすい。事実、腰に一本だけ差していた鞘有りの剣を見て、抜刀術が切り札であると私は判断したのだから」
「……。お見通しだったってわけか。くそ、負けたくねえ」
「あなたは、魔法を付与できる魔剣を使うのが良いと思う。同じ剣でも効果内容を変えられる剣は、こういった闘技場ではすごく有用に働くし、なにより、同じ剣を使い続けることで錬度が上がる」
「どこで売ってるんだよそんなモン……。持ってねえんだよ」
「『ガンデ技巧店』なら間違いなくある。ガンデ技巧店はウリカウ総合商館に卸しているから、行ってみると良い」
「そうなのか。そうか、総合商館ね……。結婚指輪……買ってやりたかったなぁ」
「実現不可能?ならせめて夢の中でしてくるといい。えい」
ごっ。っという鈍い音の発生源は、サウザンドソードの頭部だ。
鞘に納められていた桜華での無慈悲な一撃は、サウザンドソードの意識を奪い、完全に勝敗が決したのだ。
それを上空から見ていたヤジリは、高らかに声を張り上げると勝者の栄光を称えた。
『コングラッチェーション!本日の第一試合、勝者は……毒吐き食人花ぁああ!圧倒的な力と、暴言という名の毒を吐き散らかして、サウザンドソードをボッコボコにしました!!』
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「……決死の決意で告白したのに、その彼女の前で裸に剥くとか。流石は大悪魔さん。容赦がなさすぎる」
「ありゃー、どう見ても交際費を稼ぐために出場してるだろうしな。彼女共々、金を巻き上げられちまっただろうし、破局待ったなしだ」
「すげえな、毒吐き食人花。毒を吐いて人を社会的に殺したぞ」
「すげえ完成度だよな、毒吐き食人花。ワルトナが見てたら、良い笑顔で笑ってると思うぜ」




