第42話「バトルトーナメント① 謎の美少女」
「……え”?」
「あ~らら。すげぇ嫌そうな顔。そんな顔をこのオレに向けて、タダで済むと思っているのか?」
「あ、い、いやその……ちょっとビックリしただけだ。聞いていた話とだいぶ印象が違うからさ」
「あん?その印象ってのを言ってみろ。考えていた印象と、今の印象、両方だ」
やべぇ!大悪魔さんに捕獲された!!
俺の手を握っているのは、かの有名な大悪魔、無敵殲滅・メナファス・ファントさんだ。
食い意地張っている大悪魔さんの話によると、この大悪魔さんは、保育士の皮を被っているらしい。
保育士って言えば、なんというか、すごく優しそうなイメージがある。
俺の勝手な妄想では、眼鏡とか掛けててエプロン姿が完璧に決まっている優しげなお姉さん。そんなイメージだ。
だが、俺の目の前に居るのは、そんな理想とはかけ離れた存在。
目が眩むような赤い髪に、ダイナマイトボディが際立つ、派手なジャケット。
すらりとした脚はぴっちりしたデニム包まれ、腰にはベルト、靴はハイヒールだ。
……ぶっちゃけて言おう。間違うこと無く、ギャルである。
……なんというか、まったく予想外なのが来たな。
リリンにしろ、ワルトにしろ、どちらかと言えばファンタジーな格好をしている。
それぞれ物語の登場人物としてやっていけそうな、ある意味で魔道師の王道みたいな感じだ。
レジェリクエ女王も女王なんだし、そっち側だろう。
だが、この保母さん系大悪魔は違う。
一言でいうなら都会風。
魔法とは程遠い、町に居るギャルのそのものって感じだ。
「印象か……。言うと怒られそうなんだが?」
「オレから聞いたんだぜ?怒る訳ないだろ」
「……。元々想像していたのは、『ほんわかエプロン保母さん。子供を育てるよ!』だ」
「……で?」
「今抱いているのは、『やさぐれヤンキーギャル。子供が逃げ出すよ!』だ」
「そうか。怒りはしねえが、命の保証をする気もないな。ぶち殺して良いか?」
「ふざけんな!怒られた方がマシじゃねえか!!」
この大悪魔、本性を隠す気が無いぞ!?
早速、俺の手を握り潰そうと、圧力をかけてきやがった。
第九守護天使があったからなんとかなったが、もし素手だった場合、骨がメキャア!となっていたと思われる。
これは逃げた方が良いんじゃないだろうか?
いや、逃亡しようとして失敗しようものなら、俺の人生が終わるな。
なにせ、戦闘力はリリン以上だというのだ。
どうするべきか……。
グラムを覚醒させるかどうか、非常に悩む。
「なぁ、そんなに身構えるなって。言っただろ?特別な事はするつもりないし、一緒に大会を見るだけだって」
「……本当に?正直信じられないんだが。他の大悪魔さんは似たような事を笑顔で言ってきて、速攻で裏切るぞ?」
「それはワルトナとレジェだろ。場合によってはカミナもだな。んー時にはリリンもか。そうだな、よく考えたらオレも良くやるわ」
「ほら見ろ!信用できる要素が欠片もないじゃねえか!」
「別にこれから殺し合いをしようってんじゃねえんだから、嘘なんて付くわけないだろ。いいだろ?一人で見るよりも二人で見た方が面白いぜ。知ってる奴が出てきたら解説も出来るしな」
結構食い下がってくるな……。
正直な話、リリン無しで接触するのは怖い。
別に人見知りな訳ではないが、そもそも、相手は人ではない。心無き魔人達の統括者だ。
「一応聞くが、俺をいたぶる予定なんかないよな?」
「無いけど?つうか、普通は初対面な奴にそんな事をしないだろ」
「……白衣の天使系大悪魔と、悪辣聖女系大悪魔、当然、食い意地張ってる系大悪魔も、その全員からボコられましたが?」
「なんでそうなったのか甚だ疑問だが、今のところオレは、お前をいたぶる予定なんか無い。安心して良いぞ」
自分で言っていて悲しくなったが、俺は全ての大悪魔さんにボコられている。
俺を鍛えようとしたリリンは良いとしても、残りの二人は完全に悪ノリでやって来やがったからな。
この保母さん系大悪魔も警戒するに越した事は無い。
だが、俺が警戒していると気が付くや否や、この保母さん系大悪魔は俺の手をすんなり手放した。
どことなく俺に気を使っているような、そんな空気を感じる。
今も一定の距離を取って、俺に圧力をかけないように振る舞っているっぽいし、案外、話せば分かる人なのかも……?
「それじゃ、ご一緒させていただきます……」
「おっと、敬語は無しで呼び名もメナファスでいいぞ。つうか、軽く暴言を吐いてくるくらいのほうが、逆に楽しいくらいだぜ」
「そうか。案外腹は黒くないっぽいな。正直、明日の朝日は拝めないかと思って冷や冷やしたぞ」
「おーう。すげえ変わり身。いや、リリンを相手にするのなら、これくらいは必須だな」
こうして、俺は保母さん系大悪魔……もとい、大悪魔ギャルと一緒に行動する事になった。
大悪魔ギャルの行動力は凄まじく、瞬く間に手軽くつまめる軽食や飲み物を調達し、観客席へ移動。
向かったのは、闘技石段の真正面に位置する観客席の一等地。
さりげなくVIP席っぽい所に案内するとは、この大悪魔ギャルはすごいやり手なのかもしれない。
**********
『レディースメーーン、ジェントルメン!さあさあ、やって参りました、拳闘大会・午後の部!ぶっちゃけ午前中の部はただのお遊びで、今からやるのが本当の拳闘大会なーのだぁぁ!』
俺とメナファスが席について程なくして、ヤジリさんが現れて開始の宣言を始めた。
なんか見るからに肌がつやつやしているし、しっかりと休息を取って来たらしい。
なにせ、コイツは仕事を放り出してサボっていた訳だからな。それくらい肌つやが良くて当たり前だ。
『さぁて。本日はすごい人物が続々参戦しているんだよねぇ。ぶっちゃけ有名人やら、見るからに強そうな奴やら、正体不明の謎キャラまで盛りだくさん!私は解説者ですが、観客として楽しみたいです。あーサボりたい!』
ふざけんな!さっきサボったばっかりだろッ!
どうやら俺と同じ意見を持つ人はそれなりの数がいるようで、観客席からブーイングが湧きあがっている。
その音量は、俺を痛めつけた時と同等かそれ以上。
もしかして、観客は何を言っても罵倒するのか?
気が付いたときには周囲と同じように罵声を発しているメナファスへ、質問をぶつけてみた。
「メナファス、これは勘違いかもしれないんだが、罵声が多過ぎないか?俺が戦っている時もそうだったし」
「あん?それが良いんじゃねえか。擬似的とはいえ命をベットした賭け事だぜ?そんくらい馬鹿騒ぎしなくちゃ楽しくねえってもんだ」
「やべぇ。言動が大悪魔そのものだ。そんなド直球に来られると、どう対応していいか分からん!」
「いいんだよ難しく考えなくて、ノリだノリ。お前も思った事を言っとけ」
「そうか、ノリか。よし、じゃあ俺も。…………働けよ!給料ドロボー!」
『……そこのVIP席、2の2の3に座っている奴、後で指導聖母会議の議題にしてやるから、覚悟しておけよ』
VIP席2の2の3?
なんだそれと思いキョロキョロと視線を巡らせてみると、メナファスが指を差しているプレートに目が止まった。
俺の背もたれについているそれには、座席番号と思われるナンバーが書かれている。
そうか、俺の座席番号は2の2の3なのか。
……何で俺にだけ反応しやがったッ!?
この指導聖母、理不尽すぎるだろッ!!
「メナファス。どうやら俺はロックオンされた様だぞ?どうしてくれるんだ?」
「さぁ?アイツとワルトは仲が良かった気がするし、適当に放っておいたら面白い事になるんじゃねえか?」
「なんだそれは!?こういう時って、普通は慰めてくれたりするもんだろ!不安を煽るんじゃねえよ!」
「いい大人が何を言ってやがる。自分の発言は自己責任なんて、当たり前のことだろ」
くぅ。この大悪魔ギャル、妙に正しい正論を言ってきやがる……。
見た目はギャルのくせして、内に秘められた悪徳さは一級品。
流石は、心無き魔人達の統括者。まったく隙がない。
「自己責任か。こうなったら沈黙を貫き通して……あのクソタヌキ!あんな所に居やがったッ!」
黙秘こそ最強だと思った瞬間に、俺の決意を粉々に打ち砕いてきたのは、屋台村を闊歩した偉大なるクソタヌキ。
俺達の反対側の観客席に居座っているアイツは、座席一つ分を陣取り、何やら美味そうに食っている。
なんだあれ?んー。たこ焼きか。それもねぎ塩みたいだな。
よし、そのまま完食して、絶滅しろ。
「おい、ホントにタヌキが好きなんだな。リリンからお前の性癖はタヌキだって聞いた時は耳を疑ったんだが、マジだとか……」
「全てにおいて間違ってるぞ。俺の性癖がタヌキ?タヌキを愛でるくらいなら、ここからバッファ無しで飛び降りて病院に搬送される方がマシだ!」
「……なんか、面白い事になってるっぽいな。もう少し見てみたいから、是非そのまま拗れていってくれ」
俺の性癖がタヌキだという誤情報が広まっているだが?
リリンには、俺のタヌキに対する素直な気持ちを伝えたはずだが、どうやら理解してくれなかったらしい。
今日も枕元にタヌキが立つのかと思うと、絶望しかない。
そんな薄暗い気持ちを変えるべく、俺は闘技石段に視線を向けた。
そこに居たのは、16人の屈強な戦士達。
この戦士たちは横一列に並び、一番右から2番目に居るのがリリンだ。
ぱっと見、身長順という訳でも、年齢順という訳でもなさそう。
一体、何の順番なんだ?
「メナファス、あの並びの順に意味はあるのか?」
「あるぜ。あれは左から順に懸賞金が高くなっていくんだ。リリンは右から二番目だから、懸賞金が2番目に高かったという事になる」
「へぇ。それじゃ、その右隣りの人はリリンよりも懸賞金が高いということか。自分の実力に自身があるんだな」
リリンが自分に掛けた懸賞金は、8億エドロ。
最近金銭感覚がおかしくなりつつあるが、どう考えても大金のはずだし、それを賭けに使えるというのはすごい事だ。
なにせ、自分に掛ける懸賞金は、現金払いだった。
つまり8億エドロ以上の現金を持ち合わせていたという事だ。
当然、それを稼ぎ出す手腕もあるという事になる。
もしや、あの子が毒吐き食人花なのか……?
俺は、未来のリリンのライバルになるであろうその人物に、目を向けた。
「……。すっげぇ可愛いんだけど!」
なんだあの、想像を絶する美少女は!?
闘技場に居るべき人じゃないだろ!!
リリンの右隣に立っているのは、自信に満ちた笑顔が眩しい、快活そうな女の子。
健康的に日焼けした肌に、茶髪をベースに所々黒と白の混じったおしゃれな髪形。
身長はリリンよりも少し高く、大体160cmといったところか。
そして何より……胸部の兵力がメナファスさんと同レベル。
隣国のリリンサ国とは比べるまでもない兵力差だ。
「なんだあの子は……。可愛いと美人を足して10倍した様な感じだぞ……?」
「可愛いっちゃ可愛いけどよ、ぶっちゃけリリンも同じくらい可愛いだろ。だからあえて聞くぞ……。胸か?」
「あぁ、そう……ごほごほ。そんなこと無いぞ。リリンは可愛いを極めた感じだが、あの子は美人寄りだしな。属性が違うはずだ」
「属性ね……別に人の好みにとやかく言うつもりもないけどよ、お前はリリンの彼氏なんじゃないのかよ?」
「あーそれな、ワルトが考えた作戦なんだよ。俺達は今、敵対している敵がいてな――」
ここで事情を知らないメナファスに、ワルトの考えた敵のあぶり出し作戦、通称、『イチャラブ大作戦』を伝えた。
同じ心無き魔人達の統括者である以上、メナファスは敵じゃないだろうし、もし協力してくれるならありがたいしな。
そんな期待を込めて話をした訳だが、何故かメナファスは溜め息をついた。
「はぁ。これはこれ以上、拗れる余地が無いな。オレが思ってた以上とか、やるじゃねえかユニクルフィン」
「……?おう?良く分からんが礼を言っておく」
「あーお礼まで言われちゃったよ。こりゃ、難儀だなー」
ん?なんか選択肢を間違えた気がする。
メナファスは眉間にシワを寄せて、お手上げのポーズをとっているし、やはり間違えたようだ。
だが、何を間違えたのかよく分からない。
敵がいるのは確定だし、ワルトの作戦もふざけてはいるけど効果的だと思うしな。
「なぁ、何がいけなかったんだ?敵は速やかに調べるべきだろ?」
「そうだな。そんな方法で敵をおびき出せるんなら、それでいいと思うぜ?」
「いいも何も、一昨日この作戦に引っ掛かった敵がいるんだが?」
「マジかよ。世界は広いな」
何か釈然としないが、まぁいいや。
現状、敵は返り討ちにしてワルトに預けた訳だし、解決も時間の問題のはず。
ちょっとだけ、リリンとイチャラブできなくなるのは残念だ。
やっと慣れてきて素直に楽しめるようになってきたんだが、そもそも俺達の関係は神託を一緒に行うパートナー。
恋愛関係まで望むのは、欲張り過ぎだしな。
『続いては、12人目!なんとコイツは、私と旧知の仲でもあります!元気にしてたか、タコヘッド!今日は非番かい?』
「おうともよ。職権乱用って奴だ」
あれ?知らぬ間に選手の紹介が12人目まで進んでいる。
そう言えばさっきから凄まじい罵倒が繰り広げられていた気がするが、俺はメナファスと話すのに夢中で殆ど聞いていなかった。
辛うじて、毒吐き食人花が紹介されていないって事ぐらいしか分からない。
ちょっと失敗したなと思いつつも、過ぎてしまった物は元には戻らない。
大人しく、これからの紹介を聞くとしよう。
俺は今紹介されているタコヘッドに視線を向けた。
なるほど、タコへッドの呼び名は定着しているようだ。
レベルも59108で非常に高い。
『そうかいそうかい元気で何よりだね!それじゃ紹介いっくよ!コイツこそ、この街随一の拳闘士!ランク7までの生物なら、素手でも余裕で倒しちゃう!つーか、小指で一突きだ!』
「小指は無理だ。普通に折れる」
『最近は不安定機構の支部長なんかやっている辺り、毛根と一緒にモチベーションまで枯れたのかと思ったが、そうでもないらしい?どうだい?今日の調子は?優勝できそう?』
「あぁ、勝つぜ」
へぇ。毛根とは違い、やる気は枯れていないんだな。
毛根も枯れているんじゃなくて、剃っているんだと思うが、そんな事はどうでもいい。
タコヘッドは太い腕を空に掲げ、チラリとリリンを視線の端に捉えた後、宣誓を行った。
「俺が見ている敵は、ただ一人。魔法の鈴蘭だけだ。確かに、ちらほら強そうなのが混じっているが、他の奴には負ける気がしない。そして、攻撃速度が最も早い拳闘師は、魔導師の天敵だ。だから、今日は勝つぜ」
『おーと、随分と理想が高い!私的には、遠距離攻撃が得意な魔導師は、むしろ拳闘師の天敵なんじゃないかと思うけど、コイツの技量はそんな不利をも覆す!』
『己に賭けた懸賞金は3億エドロ!さぁ、私の予想を裏切ってみせろタコヘッド……、いや、タイタンヘッド!そして優勝した暁には、私を飲みに連れていってくれ!お前のおごりで!!』
この後に及んで、仕事終りの一杯の約束までしやがっただと……。
そういうのはな、一生懸命働いた奴の特権だ。自分の仕事を放り出して屋台に並ぶ奴の言っていい言葉じゃない!
そして、その後も順調に選手の紹介が済んでいった。
13番目は『クローバー』という剣士。
戦士としての技量もあるが、植物を主軸にした珍しい魔法を使うらしい。
レベルは42896。何気に前回準優勝なのだとか。
14番目は『ドン・キブル』。牛のマークが描かれた斧を所持しており、今大会最重量、なんとその体重は150kgもあるらしい。
身長も高く、横幅も広い。あえて言うならば胸筋という名の兵力も凄まじい物がある。
レベルは切り良く、52100。
これで、残るのは後二人となった。
それは勿論、リリンと……あの可愛い美少女だ。
そして、リリンが魔法の鈴蘭である以上、あの少女が毒吐き食人花だという事が確定してしまった。
何でそんなひどい名前なのか気になる所だが、噂話になるくらい実力者だというし、俺の期待が物凄く高まっていく。
そうこうしている内に、リリンの紹介が始まった。
『えー。ごほん。てすてす。
さぁ、噛ませ犬の紹介はさっきまででお終い。ここからが本番だよ!
かつて、この町を震撼させた、可憐な少女。
その少女は、可愛い顔して、エゲツナイ行動を繰り返し、私達を恐怖のどん底に突き落としたのだ。
敵という敵を、いたぶり、屠り、装備品をことごとく破壊し、挙句の果てには、心までたたき潰した……。そんな少女が、ついに、帰ってきた!!
かつ目せよ!この少女こそ、最悪最高、悪逆非道の一輪の毒花!
懸賞金額は驚異の8億エドロ!
その名も、魔法の鈴蘭……?いいや違うね。彼女はそんな可愛い名前は似合わない。私たちは彼女をこう呼んだのさ。……毒吐き食人花!』
なんだってぇぇぇぇ!?
何でリリンが毒吐き食人花!?違うだろ!魔法の鈴蘭だぞッ!!
俺はその紹介が信じられずに、メナファスに視線を飛ばした。
メナファスは、然りとした声で、「残念だが、間違っていない」と呟いた。
「間違ってない?いや、リリンは魔法の鈴蘭だろ?」
「そうだが、まぁ、毒吐き食人花ってのは異名だよ。リリンのあまりの暴虐無尽さに恐れ慄いた敗北者たちがそう呼び始めたんだ。なお、一番最初にそう呼んだのは、リリンに負けたワルトナって少女だ」
「完全に身内じゃねえかッ!!」
何がどうして、そうなった!?
魔法の鈴蘭という呼び名だって、ワルトが付けたって話だろ!?
それなのに、どうして、毒吐き食人花なんかに……。
何故だと思考を巡らせた瞬間、俺は真実に辿り着いた。
鈴蘭。
それは、根、茎、葉、花、全てに毒性を持つ有毒植物。
その毒性を摂取してしまった場合、嘔吐や頭痛を引き起こし、場合によっては心臓マヒなどに発展する場合もあるスペシャルな大悪魔草だ。
なるほど。これはワルトが引いた既定路線って事だな。
魔法の鈴蘭、通称・毒吐き食人花。
リリン、その名前、良く似合ってるぜ。
俺もそんな症状に襲われた経験があるしな。
俺は一人で納得し、目線を遠くに投げた。
しかしリリンは納得できなかったようで、ヤジリさんへ抗議をし始めている。
「ヤジリ。抗議したい。私の登録名は魔法の鈴蘭。そんな毒々しい名前じゃない!」
『鈴蘭は猛毒があるし、あながち間違ってないよね?』
「名前の由来は、鈴蘭の花のように慎ましくも美しくあれというのが由来。毒とか関係ない!」
『えー。でも、こっちの方がいいんじゃない?あまーい香りで誘惑して、恋人を手中に納めるとか、まさに食人花。名は体を表すだと思うけど』
「……そうなの?」
『そうそう。ブラックドラゴンスレイヤーはキミのなんでしょ?だったらいいじゃん。毒吐き食人花で』
「なるほど、理解した。彼は私のもの!誰にも渡さない!!」
『という事で、彼女の名前は、毒吐き食人花!今日も破壊力のある毒を期待してるよ!』
あ、リリンまでもが認めてしまった。
まさに名は体を表すとだと俺も思うし、頷いているメナファスさんもそう思っているっぽい。
そんなこんなでリリンの紹介は無事に終わり、最後に残るのは、謎の美少女ただ一人。
懸賞金はまさかのリリン越え。
そしてその表情は、負けるだなんて一切思っていない自身に満ち溢れたものだ。
俺は神経を磨ぎ澄まして、その紹介に耳を傾ける。
『さあ、ついに最後の紹介となりました!本大会最高金額の10億エドロを賭けたのは、この褐色肌の美少女だ!なんと、出生も、生い立ちも、何もかもが不明!!つーか、聞いても意味が分からない!!』
聞いても意味が分からない?
ふざけんな!!ちゃんと仕事しろッ!!
『いや、マジで話を聞くだけじゃ絶対に理解が及ばない!それもそのはず、自称、タヌキの集落で生まれ育った女、その名も……!』
『アルカディアーー!』
「う”ぃぎるあーーー!!」
……。
……………。
……………………。
その謎の美少女は、タヌキっぽい雄叫びをあげた。
あぁ、タヌキの鳴き声を聞いて胸が高鳴るなんて、俺はもう、ダメかもしれない。




