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第37話「回転する思惑」

「そうさね。まずは本題から行くとしようか。さっき闘技石段で戦っていた男の正体を教えておくれ」

「ふむ。よかろう」



 指導聖母に名を連ねる『悪辣ヴィシャス』と『悪喰プアフード』。

 両者は笑みを溢し、警戒を絶やさず、各々が培ってきた経験と知識を武器として、ひそやかに戦闘を開始した。


 先制口撃を行うのは悪辣たるワルトナ・バレンシア。

 話の心臓部を抉り取る為、一直線に問いを突き出し、それに悪喰が答えた。



「赤い髪の男の名は『ユニクルフィン』じゃの。かの英雄ユルドルードの実子であり、神の作りし理を超え、英雄の資格を持つ者じゃの」

「そっちじゃねーよ……。僕が聞きたいのは黒髪の男の方……だったんだが、そっちの話にも興味が湧いたね。どうだい?ついでに話してくれないか?」



 ワルトナは、悪喰の話を聞いて……戦慄した。

 なぜなら、ユニクルフィンの正体を知っている人物は極少数であり、ワルトナは全ての人物を把握しているからだ。


 唯一の親族であり、実父、ユルドルード。

 ユルドルードを含む『ゆにクラブカード』の12人の所持者。

 そこに、大聖母ノウィンと英雄ホーライの陣営を加えれば、ほぼ全てと言っていい。


 ワルトナは、頭の中でそれらの人物の顔を思い浮かべると、悪喰の顔と見比べてゆく。

 そして、全ての人物が目の前の悪喰と一致しない事を確認し終えたワルトナは、13人目のゆにクラブカード所持者の存在を垣間見る事になった。


 これは……大物が釣れたかもしれないね。

 13番目のゆにクラブカードの所持者については、僕どころか、ノウィン様ですら知らないと仰られていた。

 過去のユニを知らないのならば、『英雄の資格を持つ者』という言葉が出てくるはずがないし、何かしらの関係があるだろうね。


 警戒を強めたワルトナは、おくびにも態度に出さずに、悪喰の言葉を待つ。



「なんじゃ?ユニクルフィンについては、お主の方が詳しかろ?さっきのは冗談じゃから気にするでない」

「いやいや、冗談じゃないんだよ。『英雄見習いユニクルフィン』 この事実を知っているなんて、キミはいったい何者だい?」


「合ってるようじゃの。……ワルトナよ。それなりに賢そうじゃし、この儂との知恵比べでもしてみるかの?」



 何かを肯定する悪喰いの言葉へ、ワルトナは深い頷きを返した。


 やっぱり、さっきのはブラフ(引っかけ)だったか。

 挑発に見せかけた情報の提示。『ユニクルフィンについて知っているぞ』と、コイツは示してきた訳だ。


 ゆにクラブカードの所持者を除けば、残るのはユルド様の陣営か、ノウィン様の陣営。あとは……ホーライ様の陣営という線もありうるね。

 僕は、ゆにクラブカードの所持者全てを把握している。

 故に、あとはまったく関係ない第三者という事になるが、それは可能性が低いはず。

 やっぱり、13番目の関係者以外に考えられない。


 ぶっちゃけて言えば、昔のユニを知っていてカードを持っていないのは、クソタヌキくらいなもんさ。

 ……狸に化かされているってレベルじゃないね。却下。



「そうだねぇ。僕も指導聖母。若輩ながら相手を務めさせてもらうよ。で、ユニクルフィン……彼について僕は多くの事を知っている。それはキミも同じだというのかい?」

「実際は配下からの報告を聞いている程度で、直接的な面識はないじゃの」



 つまり、配下がゆにクラブカードを所持している?

 レジェの所の、テトラフィーアみたいなものか?



「キミはユニクルフィンとは面識が無いんだね?そうかいそうかい、配下からの報告ね……」

「そうじゃの。じゃが、あ奴も持つグラムについては、この世界で儂より詳しい奴はおるまい」


「噂に名高い神殺しの一本、神壊戦刃グラムだね。僕も興味がある所だし教えておくれよ。対価は……次の晩餐会でのメニューに僕が選んだ至高の一品を添えさせて貰うとしよう」

「肉が良いじゃの!」


「あぁ、了解した。七種類の味が楽しめるという、伝説のステーキをご用意するよ」

「じゅるり。神壊戦刃グラムを含む――」



 あー。こういう明確な攻めどころがある奴は楽でいいなぁーー。

 というか、僕の周り、食い意地張ってる奴、多すぎじゃないか?


 どうでもいい思考を切り捨てて、ワルトナは悪喰の話に耳を傾ける。

 悪喰によって、『ユニクルフィンを何故、知っているのか』から、『神壊戦刃について』へ、話がスライドしている事を疑問に思わずに。



「十の神殺しと呼ばれる武器達は、文字通り、神を殺す為に神から与えられた力を使って創造された物じゃ」

「その神の力と言うのは『神の情報端末(アカシックレコード)』だと言われてるよね」


「そうじゃ。実際は世界中の神の情報端末を集めて創り出した、あらゆる願いを実現する為の『神像兵器』とも言うべき代物じゃの。で、その願いの究極系が『神の殺害』であり、神の管理からの脱却、すなわち『世界の解放』なのじゃな」

「ふむふむ、そうなのかい。それで、何でキミはそんなに詳しいんだ?ユニクルフィンの事も知っている風だし、僕は興味が尽きないよ」



 ここでワルトナの思考が追いついた。

 そして、悪喰によって話が曲げられていた事に気づき、軌道修正を試みる。



「僕が聞きたいのはキミがなぜ、ユニクルフィンとグラムについて詳しいのか?だ。答えてくれるね?」

「ユニクルフィンに関しては先ほど言った通り、話を聞き齧った程度じゃの。じゃがの、グラムについては実体験を伴う知識じゃ。使ったことも、使われた事もどっちもあるじゃの」


「どっちもあるだって?」



 なるほど、大体関係性が見えてきた。

 コイツに情報を流している人の中に、ユルド様もいるって事だね。


 おそらくだが、悪喰はユルド様と戦闘になった、もしくは敵対していた。

 ユルド様はしがらみを嫌う自由人だからねぇ。ブルファム王国あたりがユルド様を手に入れようとちょっかいを掛けたのかも。

 その実行部隊の指揮官がコイツで、煩わしく思ったユルド様がコイツを追い払う為にグラムを奮ったとしてもおかしくない。


 そんでもって、ユルド様にほだされたコイツは、グラムを触らせてもらったことがある……と。

 へぇ。英雄を襲撃するとか、ちゃんと働いてたんだね。悪喰。


 心の中で称賛を送りつつ、じっくりと思考を進めたワルトナ。

 そして、時系列がおかしい事に気が付いた。



「ん?ちょっと待ってくれ。この8年間、グラムはノウィン様と僕が管理していたんだよ。リリンサに偶然を装い預けてね。だから、キミがグラムに触れる事が出来たのは8年前という事になる訳だけど、キミは今、何歳だい?僕は人を見る目は有る方だと思うから当ててあげるよ。大体10歳前後だろ?」

「くくく、人を見る目(・・・・・)かの。まぁ確かに、この姿は10歳未満といった所じゃ。ぶっちゃけて言わせてもらうがの、この姿は偽りの姿じゃ」


「やっぱりか。いくらなんでも幼すぎるとは思っていたから驚かないけどね。あーあ。でもちょっとだけ残念かも。これで僕は指導聖母の中で最年少かぁ。子供扱いされるのは嫌いなんだけどねぇ」

「子供扱いされるのが嫌なのかの?便利じゃろうが」


「便利?どこが?」

「例えばの、甘味どころの店に行くとするじゃの?その時に屈託のない笑顔を振りまくと、サービスが良いのじゃの!増えるのじゃ、イチゴが!白玉団子が!!ビスケットが!!!」


「くだらねぇぇ!そんな理由で姿を偽るとか、まさに悪喰って感じではあるけども!つーか、お金を持ち歩かない癖によく言うよ。お前みたいのは客とは呼ばないんだよ!」

「儂は金を持っとらんが、従者は持ってるからの。必要に応じて召喚するの」



 ……じゃあ、その従者を呼びだせよ。

 何で僕に奢らせようとしてんだよ。つーか、お金自体を召喚しろ。資本社会をなめんな!


 妙な疲労感を覚えながらも、ワルトナは悪喰の正体の仮定を進めていく。

 出来上がったのは、まさに闇に居座る指導聖母と言うべき、真っ黒な人物像。


 ・僕ですら見破れない認識錯誤の魔法を、容易く掛け続けるほど高い魔法技術を持っている。

 生物の召喚という虚無魔法の中でも最高位クラスに難しい魔法を使える事から見ても、間違いないだろう。


 ・ユルド様と関係を持ち、ある程度親しい間柄であるという事。

 ユルド様が活発に活動していたのは10年前だという事を考慮して、年齢は20代から30代だろうか?


 ・そして、従者がいる。

 僕の記憶の中では、『準指導聖母・悪喰』は直轄部隊を持っていない。

 だから、悪喰としてではなく、個人として持つものだろう。



「そうかい。何となくお前と呼んできたが、改めるべきかもねぇ」

「好きに呼ぶがよいじゃの。名前ごときで腹を立てたりせんからの。じゃが儂の食事を邪魔すれば待つのは死じゃの。覚えておくがよい」


「はいはい。僕の身近にもそういう奴がいるんでね、危険性は承知しているよ」



 そう言えば一度、バナナの皮に石を詰め込んでクソタヌキにプレゼントした事があったっけなぁ……。

 あの時は、ヤバかったなぁ……。


 そう言えばリリンも、楽しみにしていたバイキングを邪魔された事があったなぁ……。

 あの時も、ヤバかったなぁ……。


 遠い目をしつつ、悪喰の正体を『食いしん坊幼女』から『食い意地張ってる準指導聖母』へ改めたワルトナ。

 悪喰の事を同格の武力を持つ存在だと仮定し、侮りと奢りを捨てた。



「それで、悪喰。ここからは本題と混ぜながら話を進めていくよ。いいね?」

「本題、ユニクルフィンと戦っていた男の事じゃの?」


「あぁ、そうさ。キミはさっきから、あえて僕に情報を流しているんだし、深く探ってもいいんだろう?」

「いいじゃの。面白ければ、それでいいじゃのー」



 油断なく笑うワルトナと不敵に笑う悪喰。

 その二人の瞳に熱が灯った。



「まずはあの男の正体を教えておくれ。あぁ、細かいステイタスも頼むよ。キミの従者なんだし詳しいだろう?」

「くくく、よかろう。あ奴の名前は、『エルドラド』。黄金郷の管理をする儂の腹心であり、執事みたいなもんじゃの。男であり、剣と魔法なら魔法の方が得意じゃが、剣で戦えんという事では無い。どちらも高水準であり、あえて選ぶなら、魔法の方が得意と言う事じゃの」


「やっぱりキミの従者だったか。そうじゃないかって思っていたよ」



 謎の男の正体が悪喰の従者であると、ワルトナは見抜いていた。

 話の流れから察した事であったが、悪喰の声質から、謎の男に対しての信頼のようなものも感じていたのだ。


 そしてそれは見事に的中した。……が、肯定の言葉と共に帰ってきたのは、ワルトナの予想を遥かに超えたものだった。




「黄金郷で、エルドラド……。信じられないものが出てきたんだが?不安定機構の宝物庫が存在した島だろ。それ」

「そうじゃの。神殺しを始めとする、歴史上最強クラスの宝物が奉納されている、伝説の地じゃの」


「……おい。金が無いんじゃなかったのかよッッッ!?あるじゃん、箒で掃いて捨てるぐらいあるじゃんッッッ!?」

「事実上の古銭じゃし使えんじゃの。金を溶かしても面倒なだけじゃし」


「そんな歴史的価値がある物を簡単に溶かすとか言うな!むしろ、一種類ずつ集めて僕にくれ!好きなんだよ、そういうの集めるの!!」

「くれてやるのは構わないが、先程も言った通り、金など持っとらん」



 ぐぅ。っと低い声を出して、必死に表面を取り繕うワルトナ。

 リリンサの趣味が食べ歩きであるのに対し、ワルトナの趣味は歴史ある財宝を集める事だった。


 お金自体にはそれほど執着が無いワルトナであったが、歴史を感じれるようなものが好きなのだ。

 それは、空虚となってしまっている自分の過去の代わりを求めているかのように。



「ちなみにの、黄金郷は管理している土地の代表として挙げただけで、他にもいくつか管理している土地はあるじゃの」

「……やっべぇ。僕はキミの事を舐めていたのを、初めて後悔しているよ」


「これからは気を付けるとよいと思うぞ。さっきタヌキ帝王にも舐められていたしの!」

「舐められたなんて優しいもんじゃないね。名実ともに、噛みつかれたんだよッ!!」



 ち。コイツ、お金持ちのボンボンだったのか。

 いくつも領地を持っているって、言うならば女王とかって事だろ?

 女王……女王ねぇ。

 僕の身近にいる女王は貧相な胸だけど、身なりはそれはもう凄い物を着てるよ。

 少なくとも、そんな298エドロで買えそうな安物の服は着ないねぇ。


 ……しょぼい衣服を着てるから貧乏なのかと思ったが、お金の使い方を知らないだけかよ。腹立つなぁ。


 というか、そもそも、エルドラドなんて個人で所有するなんてできるのか?

 不安定機構側から見たら、全力で取り返しに行くと思うんだけど?

 それとも、背後にはノウィン様が立っている?

 確認した方が良さそうだな……。


 思考を加速させつつ、ワルトナは話を進める。



「エルドラドか。是非一度行ってみたいものだけど、キミに許可を取ればいいのかい?それとも、不安定機構の大聖母ノウィン様の方が良いのかな?」

「どちらかと言えば、儂じゃな。だが、黄金郷には入国できんよ。エルの奴が許可を出さんからの」



 そうかい。言葉や表情から察するに、ノウィン様、つまり、不安定機構は関係ないってことみたいだね。

 ……もしかして、僕、今、ものすっごく危ない橋を渡っているんじゃ?

 なんだか、コイツがタヌキ帝王よりも恐ろしい生物に見えてきたよ。


 加速させた思考で導き出した答えに悶絶しつつも、ワルトナは強い意思を保ち続けた。

 大事なのは、ユニクルフィンとリンサベル一家の安全。

 それ以外はワルトナにとって、優先順位の劣る些事なのだ。



「なるほど、それでさっきの戦いに神殺しが使用されたんだねぇ。エルドラドの管理者ならば、当然持ってるだろうしね。ちなみに、なんていう神殺しなんだい?」

「神縛不動ヴァジュラじゃの。光を使役し概念を操る第2の神殺し。お前さんの持つシャキナに似ておるの」


「まったく、何でもお見通しってことかい?至近距離に居たクソタヌキはともかく、離れた位置に居たはずのキミにまで見破られてるとは思って無かったよ」

「これはアドバイスなのじゃが、未覚醒状態で所持するのはやめておいた方が良いじゃの。魔力が通っていないから普通の魔道具に見えると思っておるのかもしれんが、目の良い儂から見れば逆に不自然じゃしの」


「へぇ、今の状態でも分かるんだね。これは良い事を聞いた」



 そんな弱点があったなんて知らなかったよ。


 予想外の新たな情報を得ながらも、悪喰とエルドラドの思惑を探るワルトナ。

 なんとなく悪感情を感じないが、だからと言って、危険が無いとは限らない。


 緩やかに警戒を解きつつも、真実を探ろうと……そんな時だった。



「誰だい?そこに居るのは?」

「あれま。もうちっと話を聞きたかったんやがなぁ。バレてもうたわ」



 ワルトナは振り返り、後ろの座席に視線を合わせた。

 そしてその瞬間、パラパラと空間がひび割れて落ち、褐色肌の男が現れる。


 その青年こそ、今話題の渦中にいる謎の男、エルドラド。

 その登場に二人の指導聖母は驚かなかったが、それぞれが別の系統の笑みを浮かべている。


 ワルトナが浮かべているのは、歓喜の笑み。

 接触を計りたいと思っていた人物が自らやって来てくれたのだ。

 実際にはやらないが、小躍りしたい程の歓喜に満ちている。


 それに引き換え、悪喰が浮かべているのは嘲笑の笑み。

 悪戯を仕掛けた悪ガキのような、屈託のない笑顔で歓喜に満ちている。


 そして、若干バツが悪そうなのはエルドラドだ。

 ポリポリと頬を何度か掻いて、観念したように語りだした。



悪喰プアフード様の言うとおりに気配を消して近づいてみましたが、流石にシェキナの感知圏内は無理というもんですわ。ヴァジュラは万能やけど、一点突破型のシャキナ相手じゃ、どうしても欺けんもんです」

「エルよ。そこはほら、技量でなんとかするもんじゃの。事実、儂はシャキナの感知圏内に入っていようとも真実の姿がバレテはおらんじゃの」


「数が違います。と、本気で意見させてください」



 数が違う?どういう事だ?とワルトナは内心で首をかしげた。


 主人たる悪喰も神殺しを所有しているという事は分かる。しかし、数が違うというのは、僕やエルドラドよりも多くの数を所有しているということか?

 行方が分からなくなっている神殺しは、『神縛不動・ヴァジュラ』を含めて4つ。

 なら、悪喰は2つ以上持ってる?

 黄金郷に奉納されていた可能性が高い訳だから、3つ持ってても不思議じゃないね。


 そんな事になれば、それこそ、僕を含むノウィン様の陣営と真正面から戦えるということに?

 そうか。僕はつくづく、運が無いねぇ。滅茶苦茶ヤバいなんてもんじゃない!



「なぁ、悪喰。これには嘘をつかないで欲しいんだけど……。キミはいくつ、神殺しを所持しているんだい?」

「儂か?今は、一個も持ってないの。配下に預けておるからの」


「それは事実上、持ってるだろ……。配下のも含めていくつ持ってるかって聞きたいんだ」

「たしか……。いくつじゃったかの?エル」


「4つです。が、二つは神殺しとして使用不可な状態ですわ」

「使用不可?あぁ、アレの核にしたんじゃったか?」


「そうですわ。アレです」

「アレはカッコイイからのー。仕方が無かろう」


「なぁなぁ。僕も話に混ぜておくれよー。なんだいアレってさー」



 露骨に伏せ字を使われて、ワルトナは若干、苛立っている。


 なんだい、アレってさ。

 神殺しはもう既に、神の領域に存在する至高の武器。

 それを核にしてまで動かしたい物ってなんだよ?すっごく気になるじゃないか!


 猫なで声でご機嫌伺いをするワルトナだったが、その瞳の奥には冷静の炎が灯っている。

 エルドラドと悪喰の一挙手一同を観察し、必要な情報を得るために。



「あぁ、あんたは確か、指導聖母の悪辣様やったっけ?どうも、エルドラドというもんや。お久しぶりやな」

「ん?久しぶり?何処かで会ったことがあったかい?」



 そして、エルドラドの方から、ワルトナに声が掛けられた。

 それはただの挨拶だったが、ワルトナの中には疑問が残る。



「いやいや、ほんの少しすれ違っただけや。あんま気にせんでおいてくれや」

「ちなみに、どのくらい前に会ったんだい?」


「リンサベルの子と二人きりの時ですわ。ワイは今と姿が違ったし、分かるはずもない」

「つまり、3から5年前って事か。その時はシェキナも持ってなかっただろうし、見破れなかったって事だね。まぁいいさ……それよりも……アレって何だい。教えておくれよ」


「んー。簡単に教えて良いもんちゃうんやけどなぁ。どうします?悪喰様」



 エルドラドは、主人たる悪喰へお伺いを立てた。

 そして、悪喰はぐっ。っと親指を立てて、OKのサインを送る。



「教えてやるじゃの。こ奴にサービスすれば美味い飯が増えるのじゃからな!」

「そうそう。食事のグレードが爆上げだね。うちの食いしん坊も大満足な料理を出すよ」

「そういう事でしたら……。アレっちゅうのは、鎧の事でっせ。神殺しの膨大な力を増幅して『魔道鎧』の核にしとるんですわ」



 ……え”。っと絶句し、硬直するワルトナ。

 その鎧に、ワルトナは心当たりがあったのだ。


 それは、この闘技場の側面に描かれている、伝承の壁画の最後の一枚。

 クソタヌキと対峙する鋼鉄の巨人。


 それと邂逅を果たした事のあるワルトナは、真っ青な顔つきで、恐る恐る、事実確認をした。



「それは……伝説のソドムゴモラの国王が使用したとされる、国王機みたいなもんかい?」

「まさにそれでっせ。一般的には失われたロストテクノロジーやと言われているけど、黄金郷にはその技術がしっかりと残ってるという訳や。そんなわけで、悪辣さんの要望の黄金郷訪問は無理ちゅうことやな」


「もう行く気がしなくなったら、それはいい。つまり……あんな恐ろしい物をキミ等は作る技術を持っているって事かい?」

「そうやで。ま、数自体は少ないけどな。今は平和やし、ある程度上の支配階級にしか支給してへんで」



 ワルトナは、頭を抱えつつも、納得していた。


 ……なるほど。納得がいったよ。

 あのクソタヌキが召喚しやがった、『カツテナイ・機神』の出所がよーく解ったよ。

 話が拗れるから言わないけど、心の中だけは呟かせてくれ。


 そんな大事なもの、クソタヌキに奪われているんじゃないよッ!!

 僕どころか、ユニまで涙目で逃げ出したんだよッッ!!

 つーか泣いたよ!!その日の夜は、二人で布団の中で抱き合って泣いたよッ!!トラウマさ!ははッッ!!



「……。悪喰」

「なんじゃの、悪辣」


「同盟を結ばないか?」

「同盟?」


「僕らは同盟関係となって、絶対に敵対しない。対価はそうだね……。僕の領地にある料理店ならば何時いかなる時に行っても無料で食べさせてあげるよ」

「なにっ!?それは本当かの!?」


「本当さ。有効期限は僕が健康で生きている限り。どうだい?」

「エル!こ奴の領地はいくつあるのじゃの!?」


「大小合わせて50はあるんちゃいますか?いくつかはレジェンダリアに合併してるんで詳細は分かりませんわ」

「あるねぇ。それこそ、料理店なんて数えるのが面倒なくらいあるさ」


「締結じゃの!この、な……悪喰プアフードの名を以て、ここに同盟を締結するのじゃの!!」

「やったね!僕も嬉しいよ!それじゃあ早速、友人としてお話をしようじゃないかい」



 さらっと個人情報を暴露されたが、ワルトナは気にならなかった。

 神殺しが4つに、タヌキ帝王の魔道鎧に匹敵する存在と同盟が結べる。

 これ以上無いくらいの大収穫だったからだ。


 ワルトナは歓喜に震え、クソタヌキへの熱い思いをぶちまける。


 おい、クソタヌキ。

 ついにお前の戦力を上回る算段を手に入れたよ。

 毛皮の手入れをして待ってろよ。すぐにスリッパにしてやるからな!!



**********


 この日、ワルトナの運命の扉の取っ手がブチ壊された。

 褐色肌の幼い体躯を持つ、『悪喰プアフード』と名乗るこの少女こそ、神の選びし世界を支配する大厄災、極大なる知識の『那由他ナユタ』。


 英雄見習いですら恐れるクソタヌキこと『タヌキ帝王・ソドム』ですら、ただの配下とする彼女の正体を、ワルトナは……知らない。


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