第26話「拳闘大会・準備」
「俺が出るのは……バトルロイヤル形式の方だ」
「ん。そっちなの?今のユニクなら、トーナメント方式の方に出ても問題ない。というか、途中で当たらなければ、私とワンツーフィニッシュが狙えると思う」
「いやいや、これは俺の為でもあるんだ。トーナメント方式は200人からなる予選を勝ち抜かなくちゃいけないんだろ?」
「そう」
「だとすると、近くで200人の剣士の動きを見れるって事だ。もし、何でもアリのチームになったとしても、少なからず剣士はいる訳だしな」
「なるほど理解した。そういう事なら、思う存分戦って優勝してきて欲しい」
「おう、任せとけ!」
「私もトーナメント方式の方で頑張る。メナフは殿堂入りで出てこないというし、たぶん大丈夫」
「あ、そうか。メナファスさんは出てこないんだっけな」
「でも、トーナメント方式の優勝者はメナフに挑戦する権利があるらしい。壁に書いてある」
壁に書いてある?
俺はリリンが指差した方向にあった壁を見やる。
そこには一枚のポスターが貼られていた。
ん?なになに……?
殿堂入りへの挑戦?
『殿堂入りへの挑戦!』
栄光あるトーナメント方式の優勝者諸君、己の限界を知りたくはないか?
先程の大会で優勝した諸君らは、まだ満足していないだろう。
なにせ、敗北を知ること無くそこに居る。
敗北とは時に、美酒だ。
己の限界を知り、遥か高みをゆく存在を知る。
それは新たな価値観を産みだし、人生を彩る美酒となるのだ。
さぁ、オレの元に集うが良い、限界を知らぬ雛どもよ。
諸君らに、絶望と感嘆、死する恐怖と生がある事の喜びを与えてやろう。
オレの名前は『メナファス・ファント』。
諸君ら、自殺志願者を待っている。
「……。リリン、なにあれ」
「メナフの書いた煽り文。相手は死ぬ」
「相手は死ぬのか……。なんて恐ろしい」
なんだこの、勝つ自信に満ち溢れた煽り文は!?
最終的に、優勝者の事を自殺志願者と呼んでいるって、相当自信が無いとできないぞ!?
「そんなわけで、優勝すると、メナフと戦えるらしい。楽しみ」
うちの大悪魔さんが、「楽しみ」と呟いていらっしゃる……。
これは畏怖するべき緊急事態だ。
大悪魔VS大悪魔。
地獄の最終決戦である。
「一応聞くけどさ、メナファスさんとリリンが戦った余波で、怪我人または死人が出る可能性とかないよな?」
「闘技場内で戦うのなら危険はない。戦闘区域と観客席は見えない障壁によって隔絶されているから」
「そうなのか。安心したような、そうでもないような……」
「まぁ、とても派手な戦いになる事は確実だと思う。メナフはオールラウンダーとも呼ぶべきで、様々な攻撃、武器や魔法、魔道具を駆使して戦う。それを真正面から打ち破る場合、どうしても火力が高い魔法を使わざるを得ないから」
「ちなみに、火力が高いってのはいかほどの魔法なんだ?」
「使い方によってはランク5とかでも行けそうではあるけど、大体はランク7をメインにする」
「ランク9が出てこないだけマシと見るべきか……」
「というより、詠唱が必要なランク8以上の魔法だと使いづらい。詠唱を唱えている隙に物理的に殴られるし」
呪文を唱えている魔導師を容赦なく殴る……だと?
それが戦略的に正しいというのは、俺でも分かる。
生死をかけた攻防中に露骨な隙を見せれば、攻撃を受けるのは当たり前だからだ。
だが、なんだろう、この、もやもや感。
何故か犯してはいけないタブーを平然とぶち破ってきているような気がするのは、相手が心無き魔人達の統括者だとか呼ばれているからだろうか?
俺が、まだ見ぬ大悪魔に想いを馳せていると、うちの大悪魔さんは冒険者の荒波をかき分けて移動を始めた。
あぁ……リリンとすれ違った冒険者が、一人残らず目を見開いている。
俺はリリンを見失う前にと、その背中を追い掛けた。
**********
「ユニク。ここが登録用窓口」
「へぇ、窓口っていっぱいあるんだな」
「それはそう。一回の大会で600人くらい参加するんだし、当然と言える」
「そりゃそうだ」
リリンに連れられて行った先にあったのは、細かく区分けされた受付カウンター。
横一列に並び、その数はざっと数えて20もある。
リリンの話だと、反対側にもあるらしいので合計40の受付が有るらしい。
だとすると、一か所あたり15人と言う事になり結構な負荷となる。
これを、申し込みが始まってから2時間程度で処理するというのだから、驚きを隠せない。
そんな凄腕受付員が巣食うカウンターの一番左、壁際へとリリンは進んでいく。
迷いなく進む背中を見るに、お気に入りの場所が有るらしい。
そこは不思議と、人だかりが少なかった。
というか、まったくいない。
疑問に思い上の看板を見てみると、そこには……『VIP受付』と書かれていた。
「なんだここ?VIP受付?」
「ここは、過去、優勝を経験した事のある人のみが使用できる受付。東西南北の端四か所はVIP受付になってる」
「優勝者は特別扱いか。そういう待遇の良さ、俺は好きだぜ!」
「私もそう思う。さて、受付を済ましてしまおう。……こんにちは。参加の申し込みをしたい」
「ぐぅ……。」
リリンは受付の前に立つと、躊躇なく受付員に話しかけた。
もし俺だったら、迷った挙句、他の受付に行ったかもしれない。
なにせ、この受付員さんは爆睡中だった。
ピンクのメガネを横に置き机に突っ伏して寝ている姿を見て、絶句する俺をよそに、リリンが行動を起こす。
そっと静かに受付員さんの耳元へ、備え付けてあった呼び出し用のベルを置くと……連出した。
ピンポンピンポンピンポンピンポン…………。
「きゃああああああ!?」
「おはよう。目が覚めた?ヤジリ」
「んん?目覚めてないっぽいです?リリン様が見えます」
「ちゃんと目覚めて。私はここに居る」
「いやいや、そんな馬鹿な。もうかれこれ何年ここに来ていないと」
「……ワサビとタバスコを一気飲みした方が良いと思う」
「間違いない!この暴言、リリン様だ!!」
おい、なんだ最後のやり取りは!?
きつめの暴言がリリンの証明になるってどういう事だよ!?
「ヤジリ、久しぶり。今日は拳闘大会に出る為にここに来た。登録をして欲しい」
「これまたどういう風の吹きまわしですか?あなたがここで大暴れしていたのは2年くらい前。実力的に金欠という事でも無いでしょう?」
「ん。殿堂入り……ってのが居ると聞いた。私の狙いはメナファス・ファント」
「はっはぁん!これは面白い事を言いきりますね!つまり、本来の目的の拳闘大会は足がかりでしかなく、敵はいないと?」
「ん。ぱっと見た感じ、私の敵になるようなのはいない」
「ま、そうでしょうね。しかし、不思議でしょうがないんですが、どうしてリリン様のレベルがお変わりないのですか?」
リリンの強者宣言に対し、ヤジリさんは首をかしげて疑問を口にした。
いつの間にか装着していたピンクのメガネをくいっと元の位置に戻し、興味ありげにリリンを眺めている。
その顔はリリンには無い大人の色気とも言うべき、艶やかさが有った。
胸のふくらみを見ても、リリンには無い物をお持ちのよう……あいた!
「ユニク。どこを見てる」
「ははは、気のせいだろ?」
やっべぇ。怒られないように、平常心を保っておこう。
ぐるぐるきんぐー!ぐるぐるきんぐー!!
「それで、レベルの件なんですが」
「実はこのレベルは本来のレベルでは無い。実在のレベルよりも低く見せている」
「レベルを低く……それって大事件ですね。闘技場の賭けが公平に行われなくなる可能性があります」
「そうなの?」
「えぇ、レベルというのは賭けをするうえでの判断基準ですし。でも……」
「でも?」
「面白いからオッケー!ってことにしまーーす!」
そんなノリが軽くていいのかよ!?
リリンの話じゃ、レベルを偽っていた事によって相手から侮られ、楽に勝利を手に入れてきたという。
しかも、相手に懸賞金を引き揚げさせるというオマケ付き。
まぁ、今更か。
ヤジリさんも良いって言ってるんだし、もし問題になっても出場しなければいいだけの話だ。
キングゲロ鳥がもたらした多大なる財によって、懐事情に余裕のある現状、無理に金を稼ぐ必要も無いしな。
それにしても、さっきヤジリさんが言った『賭け』って何の事だ?
「なぁ、リリン。賭けって何だ?」
「ん。トーナメント方式の方では、全ての戦いを賭けの対象としている。内容はシンプルにどちらが勝つかというもの」
「へぇ。そういうのもあるんだな」
「ちなみに、賭けられた金額の10%が相手の懸賞金額に上乗せされる」
「……え?」
「つまり、私が勝つ方に10億エドロのお金が集まったとする。そうすると、対戦相手の懸賞金が1億エドロアップ。逆に相手が勝つ方に1000万エドロが集まったのなら、私の懸賞金は100万アップとなる」
これは、何とも面白いシステムだ。
もし仮に、リリンが1億の懸賞金、相手が100万の懸賞金での対戦カートが出来たとする。
これは双方にとって面白くない状況だ。
リリンは勝利しても大金を得る事は出来ず、相手だって勝利しても利益を取り逃がす。お互いに戦う前からやる気がそがれるのだ。
そこでこのシステムが出てくる。
リリンが1億、相手が100万。
これは勝てるという自信の差が明らかであり、通常、リリンの方に賭け金は傾くはず。
すると賭けの結果はこうなる訳だ。
リリン10億の賭け金、相手1000万の賭け金。
こうなった場合、それぞれの掛け金の10%は相手の懸賞金に上乗せされる。
最終的には、リリン1億100万エドロ、相手1億100万エドロとなり、双方が同額となる。
このシステムの良いところは、弱者が強者を倒した場合、自分が本来掛けていた金額よりも、莫大な利益が得られるという事。
そして、リリンのような強者が、自らの掛け金を下げたとしても上手くいかないところだろう。
「なんだかんだ、懸賞金のバランスを取る仕組みもあるんだな。ワルトにヤラれるばかりじゃないみたいで、安心したぜ!」
「……この仕組みを考えたのも、ワルトナ」
「え。」
「連勝記録が積み上がり、対戦相手の懸賞金が極端に少なくなったことへの対策としてワルトナが考えて運営に提案した。「対戦相手からもぎ捕れないなら、観客からもぎ捕ればいいじゃないか」って」
「えっっっぐい!!」
どこまで貪り尽くせば気が済むんだよ!?
とことんまで無慈悲に吸い上げていくこの所業、まさに、心無き魔人達の統括者。
あぁ、どこかに大悪魔を倒せる聖女はいないだろうか?
……いないな。なにせ、聖女自身が大悪魔だ。慈悲も救いもない。
「済みませんが、登録の方を先に済ましていただいても?」
「ん。そうだった。ごめん」
「いえいえ。あ、先程のレベル詐称の件ですが、本日の出場より、レベル未知数として出場していただく事になります。これは暗劇部員などのレベルを隠されている方々と同等の処置ですね」
「それで構わない。表示するレベルも隠した方が良い?」
「あえてそのままでお願いします。そっちの方が面白いので」
「わかった。そのままにしておく」
「では登録ですね。ご確認ですが、参加するのはトーナメント方式の方で間違いありませんか?」
「間違いない」
「では、参加料10万エドロをお納めください。はい、お預かりいたしました。次に、懸賞金ですが、いくらお掛けになりますか?」
「……8億エドロ」
そう言ってリリンは、札束を召喚した。
この8億と言う微妙な金額は、キングゲロ鳥がもたらした財のリリンの取り分と同じ額だ。
テトラフィーアさんから貰った10億エドロの内、まず、ウワゴートとモウゲンドの慰謝料として支払った6億エドロ分をリリンに渡し、そこから二人で2億エドロづつ分けた。
リリンは「私の失態なのだから、いらない」と言っていたが、それを言ってしまうと、キングゲロ鳥を捕まえたのだってリリンだ。
これは二人で受けた依頼であり、その依頼内で利益と損失が相殺できるのであれば、そうした方が良いに決まっている。
もし、貰える金額が1億エドロくらいだったら相殺は無理だし、リリンの言葉に甘えて折半だった。
そして、俺の取り分5000万エドロをリリンの為に使った方が、後々の為になりそうだったしな。
「8億エドロ……昔から思っていますが、豪快ですね。すみませんが数えさせていただきますね」
「ん。どうぞ」
「《窓口集計》はい、確かに8億エドロあります。お預かりいたします」
ヤジリさんの声に合わせ、カウンターの奥からガタイの良い男が出てきて、札束を運んでいく。
この大金を支払ったのが可憐な少女だと気が付いたようで目が見開かれたが、何も言わずに作業をこなして帰って行った。
「それでは最後に、カードの提示をお願いします」
「分かった」
リリンは空間から1枚のカードを取り出すとヤジリさんに差し出した。
白を基調とした色合いのカードで、大きさはリリンの手の平サイズ。
それを受け取ったヤジリさんは素早く手元の魔道具にカードをかざし、何かの呪文を唱えた。
するとカードに赤い光がともり、すぐに消える。
「終わりました」と言って、ヤジリさんがリリンにカードを返しているし、どうやら登録が済んだらしい。
「リリン、今のは?」
「拳闘大会の登録を行った。このカードをあの魔道具に近づける事によって簡単に登録できる。ユニクはカードを持ってないからカードを作るとこから始めないといけない。ヤジリ、よろしく」
「そういえば、リリン様?そのお方とはどのような関係です?随分と親しげですが?」
「……リリン。手短な奴で頼む」
「ユニクは私の旦那様!」
「なんですって!?」
おいリリン!!
手短にって言ったのは、英雄のくだりは言わなくていいぞって事だよ!?
俺は急いでリリンの言葉に、「になる予定」を付けくわえた。
流石にリリンをキズモノにするような噂を流されては困る。
リリンの為にも、リリンを溺愛するワルトから報復の嫌がらせを受ける俺の未来を無くすためにも。
「そうですか、恋人だと言う事ですね?へえーー。」
「なんだその意味ありげな声は?」
「特になにも。それで登録でしたね?登録は簡単ですよ。参加名、つまり、ニックネームを決めていただいて、レベル情報をカードに同期させることで終わります」
「カードにレベルを同期?」
「そうです。対象者のレベル表示とカードに表示されているレベルを同じにするという魔法が、このカードには掛けられています。下1桁まで同じレベルの人なんて滅多にいませんし、本人確認もそれで出来ます」
「ん?リリンはレベル詐称しているよな?その場合、詐称しているレベルが表示されるのか?」
「そのようですね。他にも、暗劇部員等が使う認識阻害などが有った場合も、レベルが表示されなくなります。まぁ、こんなカードに使われる魔法ですから、ランクが高くないので当然ですね」
まぁ、そりゃそうか。
見破れるのなら、大悪魔さん達に騙される事も無かっただろうし。
それにしても、ニックネーム、か。
「ちなみにリリンのはどんなニックネームなんだ?」
「私のは、『魔法の鈴蘭』。ワルトナがつけてくれた!」
「ですが、リリン様の場合は……」
確か鈴蘭というのは、小さいツボミが一杯つく綺麗な花だったはず。
外見的にはまさにぴったりな感じだが、金を巻き上げてゆく大悪魔の一味としてみれば不相応な事、間違いあるまい。
ヤジリさんが言い淀んだ気持ちもちょっと分かる気がするが、話を広げてもしょうがないので置いておく。
そうだな、俺のニックネームは……。
「さっぱり思いつかん!」
だめだ!俺にはこういったセンスが壊滅的に無い!
タヌキの悪口はすらすら出てくるが、自分の事になるとまったく出てこない!!
さて困った。どうしたもんかな。
「リリン、何か良い案ないか?」
「たぬふかいz」
「却下で」
「たぬくるふぃ」
「それもダメだ」
「じゃあ、なにがいいの?」
う。逆に問い直されてしまった。
正直タヌキに関わりが無ければ何でもいいが……。
あ、こういう時の為に貰った肩書きが有ったじゃないか!
そうだよ俺は、有償救世ユニクルフィン!
この肩書き、使わせてもらうぜ、ワルト。
「この間ワルトに貰った肩書きを使おうぜ」
「それはダメ。あれは私の仲間だと示すもの。こういった場所で使うのは好ましくない」
「……確かに。言われてみればその通りだな。危ない所だった」
「やっぱり、タヌフカイザーにした方が良いと思う!」
「……もういっその事、本名でいいんじゃないか?ユニクルフィンでお願いします」
そうだよ。別にニックネームを付けるからと言って、本名を使ってはいけないというルールは無い。
ちょっと味気ないが、ここは手堅く行くぜ!
俺はヤジリさんに話を促すと、分かりましたと言って、名簿を調べ始めた。
名前被りが無いかどうか調べているらしい。
ユニクルフィンなんて名前、早々被るとは思えないけどな。
「ユニクルフィンですね……あ、被ってますので使用不可です」
「え。じゃあ、ユニクは?」
「それも被りです」
「は?それじゃあ、ユニ」
「それもダメ」
「ユニフィー」
「それもあります」
「なんでだよッ!?」
「といいますか、ユニクルフィンに関連する様なニックネームが数十種類登録されてますね」
「どうなってんだよ!?ちくしょうめッ!」
なんだこれ!?偶然か!?
ことごとく被るって、運が無いにも程があるだろ!
と、ここまでツッコミを入れた段階で、リリンの動きがぎこちない事に気が付いた。
いつもの平均的な表情でありながらも、目が泳いでいる。
……まさか、な?
「リリン。何か知っているのか?」
「その登録をしたのは……私達」
「……。理由を聞かせてくれ」
「そもそも、この闘技場に来た理由が、ユニクを探しての事だった。ユニクルフィンの名前を使って闘技場で優勝しまくれば本物が出てくるかもしれないという作戦」
「そうか……。ちなみに実行には移したのか?」
「一回だけ。その時は1位から5位までが全てユニク系統の名前になった。正体を隠す為に認識阻害の仮面も被っている」
「不気味すぎるだろ!?」
ユニクルフィンを名乗る、仮面をかぶった謎の集団!?
なんだそれ!?そういうのは、一人で出るからいいんだろうが!
なんで大悪魔が全員で出撃してるんだよッ!?
ユニクルフィンを探す為って、確かに効果抜群だろうよ!
当時知っていたら、全力で止めに行ったと思うぜ!
「ということは、本名系もダメか。どうすれば……」
「こういう時は、過去の自分を振り返ってみると良いとワルトナが言っていた気がする。ユニク、誇れる自分を思い出して欲しい」
「誇れる自分……?」
リリンに促されて、俺は過去を振り返る。
と言っても、ナユタ村からなので、さほど大変ではない。
ナユタ村時代……薪割り職人。
うん、これは無いな。
リリンと旅に出た直後……タヌキに劣る3歳児。
ただの悪口だ。
ロイ達と新人試験……イノシシスレイヤー?
イマイチだよなぁ。
新人冒険者……お前と出会ったのはこの時だったな。アホタヌキ。
カミナさんと一緒……タヌキとの共闘が有ったとはいえ、森ドラゴン討伐に成功。
ドラゴンスレイヤーとかいいかもしれない。
ワルトと一緒……色々な生物を狩った。いつの間にか、レベル9万代が当たり前に。
慣れって怖い。
「そうだな、ドラゴンスレイヤーってのは?」
「そんなポピュラーな名前、当然登録済みですね」
「……そうか」
「あ、でも、ブラックドラゴンスレイヤーなら大丈夫です。他のカラーバリエーションはダメですけど」
ブラックドラゴンスレイヤー?
ブラックドラゴンって言うと、冥王竜が脳裏に浮かぶ。
……どちらかと言うと、スレイヤーされそうだったんだが?
というか、何でブラックドラゴンだけ登録できるんだ?
しかし、他に思いつかないのも事実。もう、これでいいや。
「よし、ブラックドラゴンスレイヤーでお願いします」
「……いいの?ユニク」
「ん?なんでだ?」
「ブラックドラゴンとは、一般的には黒土竜の事を指す。そして黒土竜はドラゴンの中でも最底辺。それをスレイヤー出来ますと言ってもあんまり自慢にはならないと思う」
「え”。あ、ヤジリさん、登録待っ――――」
「はい。出来ました」
もう遅かった……。
出来てしまった物はしょうがないし、これで行くしかないか。
タヌキよりマシだしな!
「では、カードの作成は終わりましたので、ここに指を乗せてください、はい、大丈夫です。これでレベルの同期も終わりました」
「意外と簡単なんだな」
「魔道具ですから。それで、ユニクルフィン様はどちらの大会に出場なさいますか?」
「俺が出るのは、バトルロイヤル形式の方だ。いろいろ実践を積みたくてな」
「承りました。参加料、1万エドロをお預かりいたします。はい、これにて登録は完了です。ユニクルフィン様は『剣・2番投入』になります。集合時間は9時30分となりますので遅れの無いようにお願いします。詳細なルールについては、壁の掲示物をご覧ください」
ヤジリさんが指差した先には大きな掲示板が二つ並んでいた。
一つはトーナメント方式のもの、もう一つはバトルロイヤル方式のものだろう。
登録も済んだ事だし、早速ルールを確認しに行くか。
俺とリリンは、人混みをかき分けて、掲示板へ辿り着いた。




