第25話「大会の形式」
タヌキの捜索も兼ねて、神形闘技場の回りをぐるっと一周。
様々な屋台を胃袋的に蹴散らしながら、神形闘技場の彫刻や石盤を見て回った。
その時にクソタヌキは見つからなかった。……が、気になるものを発見。
それは、天空よりタヌキが降り注ぐ光景が描かれた10枚の石盤だった。
リリン曰く、この石盤はかつて栄えた都『枢機霊王国』の滅びが描かれているらしい。
一枚目はタヌキ帝王と人間が対峙している姿。
二枚目はタヌキが降り注ぐあの恐ろしき光景だ。
そして石盤はなお続き、最後には鋼鉄の巨人らしきものと、タヌキ帝王が戦っている。
たぶん、この巨人は人間側の決戦兵器なんだろう。
鎧なのか魔道具なのかは分からないが、一応人っぽい姿をしている。
対するタヌキの上空には様々な武器や防具が並ぶ。
剣や盾、弓、槍、ハンマー、カギ爪、鞭、斧、バナナ。
食料すら用意しているとは、さすがタヌキ。
狡猾さでは人間を凌駕している。
俺は、確信めいた予測を立てつつ、リリンへ確認を促した。
「なぁ、リリン。この戦いの結果はどうなったんだ?」
「枢機霊王国は滅んだ。今はタヌキの楽園になってるみたい」
……うん、そうじゃないかと思ってた……。
おい、クソタヌキ。
お前は石盤で語り継がれるような存在だったのか。
気軽に町に来てんじゃねぇよ。滅べ。
再びやるせない思いで身を焦がしながら、俺達は闘技場の中へ入っていく。
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闘技場の中に入ると、溢れんばかりの人と熱気が俺を出迎えた。
見渡す限り人の波が続き、喧騒に包まれている。
「しかし……この人だかりが全て参加者なのか?」
「そう。でも、ぱっと見た感じ、私たちの敵になりそうなのは居なさそう?」
リリンに促され、俺は周囲の人だかりへ目を向けた。
レベル目視も起動し、大体の強さを計る。
「一番多いのはレベル2万代か?それに次いで1万代、そのあと3万代で、レベル4万以上はほとんど見当たらねぇ」
「ランク4以上のも居ることには居る。目立たない様に気配を消しているだけ」
リリンは壁に向かって指を指した。
そこに居たのは……ムッキムキのタコ頭。
レベルは……59000か。
てゆうか、ほんとに仕事を放り出してきたのかよ……。そんなことしてると、パルテミコンの支部長に捕まってお仕置きされるぞ?
「それで、何で気配を隠しているんだ?」
「強ければ強いほど、下級の冒険者に付きまとわれてうんざりする。私も、戦いの後に握手を求められたりするのは困る」
リリンのは、他の冒険者とは違う気がする……。
タコ頭はリリンのファンクラブ的なものが有ると言ってたし、おおかた、白い大悪魔が裏で仕組んだことだろう。
それにしても、リリンにもファンクラブか……。
俺と一緒だな!俺のは殺伐としてるけど!!
「それで、登録はどうするんだ?混んでいるみたいだし、さっさと済ましちゃおうぜ?」
「その前に、拳闘大会の説明をしたいと思う」
そういえば、大会自体の説明を聞いていない。
リリンは『拳闘大会で勝つのは、死ぬ覚悟と殺す覚悟が必要』と言った。
仮想肉体は戦闘不能になるか、負けを認めると解除されるらしいので、勝敗はそこで決まる。
だが、リリンは「勝ちまくって、荒稼ぎしていた」と言っていた
だとすると、何らかの方法で金を手に入れる事ができるはずだ。
「金を稼げるんだったよな?」
「うん。稼げる。まぁ、とりあえず聞いて欲しい」
「おう」
「そもそも、拳闘大会は午前の部と午後の部に別れている」
「そうなのか?」
「そう。バトルロイヤル形式とトーナメント形式。バトルロイヤル形式はランク3までの冒険者が出れる。そして、トーナメント形式はそういった条件は無く誰でも出れる。ただし、ランク4以上の冒険者が出場するので、普通はランクの低い冒険者は出てこない」
なるほど、レベルで組み分けしているのか。
それならば分かりやすいし、何より、一方的な戦いにならないはずだ。
レベルが全てじゃ無いとはいえ、ある程度の戦力は比例する。
ランク4万の大悪魔さんVSランク1の新人冒険者とか、あまりにも可哀そうすぎるしな。
「そうすると……俺はどっちにも出られるんだな?俺のレベルは14142な訳だし」
「そういうこと。そして、二つの形式はこの様に違う」
「名前からして違うもんな。どう違うんだ?」
「まず、バトルロイヤル形式。一つの会場に100人が押し込められる。その後、5分ごとに20人が追加。それを5回行って、最後に立っていた者が勝者」
「なるほど。200人での生き残り戦をする訳だな?」
「そう。そして、バトルロイヤル形式は3回行われる。剣をメインにした200人。魔法をメインにした200人。何でもアリの200人。ユニクが登録した場合、剣メインのチームに入るか、何でもアリのチームに入るかのどちらかとなる」
どうやら、使う武器によっても組み分けされるようだ。
剣主体の場合は、200人が剣でガキィン!ガキィン!やるし、魔法メインの場合は杖でズガァン!ズガァン!となる。
魔導師の恐ろしさを知っている俺からすると、心底、剣士で良かったと思う。
「そして、勝ち残った3人が戦う。これにより1位2位3位が決まり、それぞれ決まった賞金を手に入れる事になる」
「なるほど。ちなみに、優勝賞金はいくらなんだ?」
「1位1億エドロ。2位5000万エドロ。3位2500万エドロ。それに加えて、周りの屋台の食べ放題チケットが貰える。すばらしい副賞だと思う!」
……なぁ、リリン。2500万エドロ以上、食うとかないよな?
それだと、3位だった場合、賞金と副賞の価値が入れ替わるぞ?
「バトルロイヤル形式は分かった。トーナメント形式はどうなんだ?」
「こっちは、戦いの形式自体は分かりやすい。決められたトーナメント表に従って戦うだけ。でも、賞金を手に入れる為のシステムがちょっと複雑」
「賞金のシステムが複雑?」
「そう。まず、登録時に登録料の他に、自分に懸賞金をかける」
「自分に懸賞金?」
「その懸賞金はいくらでもいい。けど、それが手に入れる事の出来る賞金に大きく関わってくる」
自分に懸賞金か。
なんか、箔が付いたみたいでちょっとカッコイイ。
実際、懸賞金なんか付いたらたまったもんじゃないけどな。
……付いてないよな?リリンに懸賞金。
「たとえば、私が懸賞金を1億エドロにしたとする」
「おう」
「そして、その金額は戦闘終了後、相手の懸賞金から奪う事が出来る金額となる」
「相手から奪う?だとすると、リリンが勝った場合、相手から1億エドロ奪えるって事か」
「ううん。実際は、相手の懸賞金が上限となる。つまり、相手に5000万エドロの懸賞金が掛っていた場合、奪える金額は5000万エドロ。相手が5億エドロの懸賞金だとしても、奪えるのは1億エドロ」
「なるほど、そういうことか……。だったら懸賞金額が高い方が稼げるよな?負けた時も損をしなさそうだ」
「それは微妙なところ。確かに、法外な値段を設定した場合、勝利すれば必ず相手の懸賞金の限度額を奪う事が出来る。でも、3回勝ちぬいたとして、相手の上限金額が全て100万エドロだとしたら、資産は1億と300万エドロ。だけど、この状態で懸賞金が5000万の相手に負けると、5000万エドロを奪われ、マイナスとなってしまう」
そうか。このシステムだと、自分の懸賞金が相手の懸賞金より下回るとリスクが無くなる。
仮に、100万エドロ同士が戦った場合、勝った方は200万エドロを所持。この時点で負けたとしても元本を割る事は無いわけだ。
ただ、金額差が開くとそうならない。
リリンの話のように、最後の最後でどんでん返しを喰らう事も十分にありうる。
手堅く稼ぐか……。夢を見て大きく懸賞金をかけるか。
リリンは……なんとなく、がっつり行きそう。2億エドロくらいか?
「リリンはいつもなら、どのくらい懸賞金で参加するんだ?」
「だいたい、5億エドロから10億エドロの間」
「予想よりもがっつりいくな!?」
「ワルトナがこの金額を設定した。なんでも相場を引き上げるためだとか?」
「相場を引き上げる?」
「そう。5億エドロを手に入れるチャンスが有るのに、自分の懸賞金は1000万だから、私に勝っても1000万しか手に入らない。それは勿体無いと人は思うのだとか」
「確かに、リリンに勝てば5億とか言われたら飛び付きそうではある」
「そして、私はレベルの偽装をしている。ランク4の冒険者は普通、ランク5の冒険者に勝てない。だいたいの冒険者はレベルが4万台で成長を止める。それを超えたランク5の冒険者ははっきり言って強さがまるで違う」
ならば、トーガ達は、ブライアンやモウゲンド、ウワゴートに勝てないのか。
確かにそりゃ、リリンのレベルを見て油断もするってもんだ。
後から聞いた話じゃ、あの二人はリリンの事を舐めまくっていたらしい。
ずっと馬鹿にされて頭に来たと、昨夜、ベッドの上のタヌキが語っていた。
「それにしても、相場を引き上げるか。大悪魔さん、容赦ねえな」
「うん。今はどうなっているか分からないけど、懸賞金はその人の格を示すものでもある。安い金額を設定すると、負けることが前提と見られ、後の冒険者稼業に響く」
うわぁ。つまり、値段を上げるだけ上げて、下がらせないということか。
なんと言う酷さ。
見た目幼女な女の子が5億エドロをぶら下げて歩く。
見え見えの餌だが、あまりにも異常すぎて、逆にこれはチョロいと思われるのかもしれない。
リリンの怖さは戦ってみなければ分からない。
そして、戦った後にはもう遅過ぎるのだ。
流石は心無き魔人達の統括者。
存在自体が、極悪だ!
「それでユニク。どっちに出たい?」
「そうだな……俺は……」
リリンの問いかけを吟味し、俺は決断を下した。




