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第21話「ゲロ鳥の行き先」

「ぐるぐるきんぐー!」

「ぐるぐるきんぐー!!」


「……ぐるぐるきんぐぅ!?」

「ぐるぐるきんぐー!!」


「ぐるげ!?」

「ぐるげ!!」


「はぁ……。リリン、コイツはどうするんだ?」



 俺は途方に暮れている。


 ブライアンと別れた後、俺達はそのまま不安定機構の受付ヘ行き、依頼完了を報告……をしようとした。

 報酬はなんと1億エドロ。

 捕獲事態は凄く簡単だったし、ホントに1億の価値があるのか疑問だが、貰える物は貰っておくに限る。


 だが、結果として俺達が1億エドロを手にする事は無く、キングなゲロ鳥のみが残った。

 そもそも、敵が俺達をおびき出す為に仕掛けた依頼だったわけだが、まさかこんな事になろうとはな……。


 俺はキングゲロ鳥を愛でて現実逃避をしながら、先程起こった出来事を思いだす。



 **********



「……はい?依頼が無いって、そんな馬鹿な」

「ですから、ユニクルフィン様が仰られるような依頼は、そもそも存在していなくてですね……。ですので、良く分からない鳥をお持ちになられて、1億エドロも払えって言われても、困ってしまうのです……」



 あぁ、さっきからこの調子で、全然話が進まない。


 俺達はブライアン達が用意した依頼を受けて森へ行き、見事にキングなゲロ鳥を捕獲してきた。

 レベルはあろう事か99999。

 文字通り限界を超えたゲロ鳥なわけだし、間違いなくキングゲロ鳥だろう。


 というか、鳴き声からしてキングだ。

 自ら、『ぐるぐるきんぐー!!』って名乗ってるんだから間違いようが無い。


 そんな訳で、いくら敵からの依頼であったと言えど、これは正式な依頼。

 リリンも、「不安定機構を通している以上、そう簡単にキャンセルはされない。そもそも、依頼の発注段階でお金を預けるし、取り下げ手続きをしたとしても、すでに依頼を受けている私達はキャンセル料を貰える」と言っていた。


 キャンセル料は達成報酬の2割。

 だから少なくとも2000万エドロは貰えるはずなのだ。

 しかし、依頼がそもそも存在していなかったとなれば話は別。


 ちくしょう。こんな大金を簡単に諦めてたまるか!

 リリンさん、出番ですよ!



「リリン。どうにかなんないか?依頼が無いって言われても、俺達はちゃんと受けた訳だしな」

「……支部長を呼んでほしい。私達に依頼をしたのは支部長。だから確認すればすぐに分かる」

「えぇっと、そうですね分かりました。呼んできます」



 なるほど、確かにそれが一番手っ取り早い。

 支部長も胡散臭い依頼だとか言っていたし、依頼内容は確認済み。

 もし、依頼が消滅しているなんて事になれば、不安定機構の信用に関わる事態になるし、調査もするだろう。


 それに、多少ややこしい事になるかもしれないが、最終的には悪辣聖女様が出張ってきて1億エドロを巻き上げてくれるはず。

 ……手数料として半分持っていかれたとしても、5000万エドロは残る。

 そこからリリンと半分こしても2500万エドロ。俺のお財布が潤う事、間違い無し。


 というか、もし1エドロも貰えなかったら大損害だ。

 リリンは6億エドロもブライアン達に支払ったし、俺は俺でリリンに飯を奢ると言っている。

 色んな意味でピンチなのだ。


 俺が食費にいくらかかるのかを想像して戦慄していると、事務所の奥からスキンヘッドな強面支部長が現れた。

 そういえば、まだ名前すら聞いていなかったな。

 リリンの呼び名を借りるなら、『タコ頭』。

 よし、名前が判明するまでこれで行こう。



「おう、鈴令りんれい。明日の拳闘大会に出るのか?」

「そんな話をしに来たのではない。まずは用件を済ましてから」


「そうか。ならとっとと済ましちまおう。で用件は何だ?」

「あなたから受けた依頼を達成してきた。これが証拠」



 そう言ってリリンはキングゲロ鳥の入った籠を突き出した。

 キングゲロ鳥も丁度いいタイミングで「ぐるぐるきんぐー!」と自己紹介。

 流石はキング、どこぞの帝王とは比べ物にならない礼儀正しさだ。


 しかし、どうみてもキングなゲロ鳥をタコ頭は訝しげに見つめている。

 そして、悩んだ末に「なんだコイツは?」と言った。



「鈴令、こいつは鳶色鳥の亜種……か?珍しいっちゃ珍しいが、鳴き声が違うから貴族には売れねえぞ」

「違う。これは貴方が持ってきた依頼に記されていた捕獲目標。私達が受けた依頼にはキング鳶色鳥を捕獲して欲しいと記されていた」


「いやそんな依頼は渡してねえぞ?そもそも、亜種と言えど鳶色鳥、お前に頼まなくても捕まえられ……なんだコイツは!?レベルがクソ高ぇ!?」

「……一応聞くけど、私は依頼を受けたよね?」


「もちろんだ。記録にも残っているぞ」

「どんなの?」


「タヌキの亜種の捕獲依頼だったろ。頭に純白の星マークが有る珍しいタヌキが森に居るから、捕まえて欲しいって奴だ」



 ふざけんな!!そんな超絶難易度な依頼を誰が受けるかッ!!

 そのタヌキはな、ドラゴン200匹を余裕で狩りつくす軍隊を従えているクソタヌキだぞ!

 この町の冒険者を全員集めても、余裕でお釣りがくるぜ!



「……そう。ちなみに、これが私達が受けた依頼書。一応確認してみて」

「どれどれ……。いや、これは子どもの落書きだろ?いくら鈴令の言うことでも、こんなもんは正式な依頼だと認められないぞ」



 タコ頭の声を聞いたリリンは平均的な表情で「そう。騒がしてしまった事は謝罪する」と言って、あっけなく引き下がった。

 どうやら諦めたらしい。


 ちくしょう、敵の手段が悪質すぎる……。

 まさか、依頼書が落書きみたいな書体だったのも、意図してやっていたというのか……。


 流石はワルトと同等の指導聖母。

 タコ頭の認識を書き換えた後、よりにも寄ってクソタヌキ捕獲の依頼と差し替えて……ん?もしや、俺とアイツの関係性を知っているのか?

 だとすると、俺の昔を知っているというのは間違いなさそうだ。


 変な所で憶測に裏が取れた気もするが、それは後でワルトにでも報告して、推察の材料にでもして貰おう。

 金が手に入らなかったのは残念だが、今は諦めるしかなさそうだ。



「しょうがないか。じゃ帰ろうぜリリン」

「うん、そうしよう」

「おい待て鈴令。明日の拳闘大会には出るんだろ?」


「どっちでもいい。……と言いたい所だったけど、優勝賞金を貰いに行こうと思っている。さっき言ってた殿堂入りも気になっているし」

「おぉ!そうかそうか!!うしっ。俺は明日仕事を休む!有給休暇は腐るほどあるんだ!」



 そして支部長は猛烈な勢いで裏方に引っ込んでいった。

 だが、姿こそ見えなくなったが、声は聞こえてくる。


 俺は明日休みだ!よろしくう!!

 え?ふざけないでください!会議が有るでしょう、会議が!

 会議?会議と大会どっちが大切かなんて言わなくても分かるだろうが!

 当たり前です!会議の方が大切ですから!!

 なんだと!?


 ……。

 そんなにリリンと戦いたいのか。

 俺には真似できないな。だって焼かれるんだぞ?男のシンボルを。



 **********



「はぁ。依頼を受けたが故に6億も支払うことになって、手元に残ったのはキングなゲロ鳥一匹か。で、コイツはどうするんだ?野に帰すのか?」

「……うーん。そんなことしたら、それこそなんにも残らない。私に考えがある」


「考え?」

「今、ホロビノは魔王シリーズが刺さった敵を抱えて飛んでいる。すごく頑張っているのだし、何らかのご褒美を与えるべき」


「……つまり?」

「その鳥はホロビノのおやつ?」

「ぐるげ!?」



 リリンの残酷な一言を聞いたキングゲロ鳥が、すんごい顔で絶句している。

 まさに、籠の中の鳥状態であり、逃げ場は無い。ホロビノが帰還すれば、すぐさま美味しくいただかれる事になるだろう。


 ……いや、流石にそれは可哀そうな気がする。

 一応コイツはミニドラたちの戦闘で敗北しているとはいえ、食われるのはなぁ……。

 ミニドラ達がよだれを垂らしていたような気もするし、そんな話になってリリンが食っていいと言えば、間違いなく食われる運命だ。


 うん。それは無しでいこう。

 コイツはキング!王族だしな!!



「リリン、ホロビノのおやつは別の物にしよう」

「うんそれでもいい。実はさっきの案は冗談みたいなもので、もう一つ案がある」


「なんだ。本気で言っているのかと思ったぜ」



 いや、俺が止めなかったら、食わせてただろ。

 いつにも増して、平均的な真顔なリリン。

 普段のリリンなら大丈夫だと思うが、ご機嫌ナナメな大魔王様だし、何をしても不思議じゃない。


『魔王のペットのドラゴンに供物として、鳥を捧げる』。

 ほら、違和感がまったく無い。



「それで、他の案って言うのは何だ?」

「レジェにあげる」



 行き先が『ペットの胃袋』から、『友達の魔王のふところ』に変わっただけだった!!

 一応生き残る可能性はあるが……実際どうなんだ?ちょっと妄想してみよう。


 玉座に座る魔王な女王様とその膝の上に鎮座するキングゲロ鳥。

 そして、そこにイケメンな戦雷の騎士長が捕らえられて連れてこられた。


 魔王な女王様は言う。


「余に弓を引いた愚か者ぉ。あなたの処分を言い渡すわぁ。……この子が」

「……ぐるぐるきんぐぅー!」


「あはぁ。処刑だってぇ」


 ……こっちはこっちでロクな事にならなそうだ。



「リリン、それもどうかと思うんだが?」

「でも、レジェならたぶん買い取ってくれる。それこそ、1億エドロよりもくれるかも」


「……ほんとか?」

「たぶん。レジェは鳶色鳥を何だかんだ愛でているから」


「なんだその、『何だかんだ愛でている』ってのは?」

「普通にペットとしてというのもあるし、貴族をコントロールする為の装置としてや、畜産、戦争時における撹乱兵器としても使用したことすらある」



 ……使い道が多い!

 ペット以外の理由が殺伐としているけどな!

 というか、さりげなく『畜産』が混じっているってどういう事だよ!


 ちょっと触れてはいけない感じだったので、その事は放置。

 重要なのは、このキングなゲロ鳥がいくらで売れるかって事だけだ。


 俺はリリンを見ながら頷いた。

 リリンはその意図を正しく理解したようで、携帯電魔を取り出し、手早く操作。

 掛けているのは勿論……女王レジェリクエ本人へだ。



「プルルルルル……私レジェリクエ……今、レジェンダリアの城下町に居るの……」



 何度聞いても、背筋がぞっとする声だ。

 まるで氷の塊を背中にくっつけられたかのように、悪寒が走る。


 カミナさんやワルト、ましてやリリンとも違う雰囲気だし、ちょっと会いたくない。

 だって俺は、心無き魔人達の統括者(アンハート・デヴィル)に会うたびに戦闘になっている。

 このまま進めば、戦闘は避けられないような気がするのだ。


 あれ?ゲロ鳥を売り飛ばすというこの選択肢、ミスったような気がしてきたぞ?

 ワルトも可能な限りレジェリクエ女王には近づくなって言ってたし、俺の中で不安が育ってゆく。


 俺はリリンを一度止めようと、手を伸ばした。

 しかし、それは遅すぎたようだ。

 ガチャリという電話が繋がった音がして、相手の声が聞こえてきた。



「もしもし?こちらはレジェリクエ女王陛下の執務室ですわ」

「ん?どちらさま?」


「テトラフィーア・(きゅー)・フランベルジュですわ。お久しぶりですわね、リリン様」



 ……誰だ?



「ん。久しぶり。レジェいないの?」

「えぇ、今日は新生児の生誕式典がありまして、城下町で買い付けを行っておりますの」


「そうなんだ。今日いっぱいかかる?」

「かかってしまうと思いますわ。今月は生まれた新生児の数が多くて、200人を超えていますの。値段を決めるだけで大仕事ですわ」



 今、もの凄く酷い言葉が聞こえたような気がするんだが?


 話を整理するに、レジェリクエ女王は新生児の生誕式典とやらに出ているらしい。

 これはまぁいい。というか、女王自らが国民の生誕を祝うなんて、ちょっと尊敬するレベルだ。


 ……が、後に続いた言葉がもの凄くおかしい。

 それじゃまるで、生まれた子供を買い取っているみたいに聞こえるんだが……。

 これはもしや、知ってはいけないレジェンダリアの闇という奴なんじゃないだろうか。

 そして、それを知ってしまった俺は……。


 俺の存在を気取られないように、静かにしていよう。



「リリン様、何か急ぎのご用事ですの?必要とあらば取次ぎいたしますわ」

「うーん。そんなに急いでいないけど……あ、テトラ、ちょっと聞きたい」


「はい、何ですの?」

「レジェはまだ鳶色鳥を育ててる?」


「えぇ、もちろん育ててますわ。最近じゃ色々な種類の鳶色鳥を掛け合わせて、品種改良までしていますの。もう趣味というレベルを超えていますわ」

「だったら……キングな鳶色鳥がいるんだけど、欲しがると思う?」


「キングな鳶色鳥?」



 ガチな育て方してた……。品種改良って、女王がやる事じゃないだろ。学者がやれよ。


 俺が内心でツッコミを入れていると、リリンが目配せを飛ばしてきた。

 何だその、期待に満ち溢れた目は?

 俺に何をしろと……?


 何となく察してはいるものの、俺は知らぬ顔を続ける。

 すまないなリリン。俺の存在を気取られるわけにはいかないんだ。


 だがリリンはキングゲロ鳥の籠を指差すと、小さく小声で「鳴いて」と言ってきた。

 これはもう、逃げようがない……。なぜか本物のキングゲロ鳥ですら、期待に満ちた瞳で俺が鳴くのを待っているからだ。


 そして、俺は高らかに鳴いた。



「ぐるぐるきんぐーー!」


「聞いた?テトラ」

「えぇ聞きましたわ……。そして初めて聞く鳴き声ですの。堂々たる威光の中に隠された、恥じらいや迷い、これでいいのかという葛藤……。まさに王様って感じですわ!」



 うわ!俺の感情を的確に読み取られた!?

 マジで何もんだよコイツ!?



「ちなみにレベルは99999。ぱっと見た感じ、鳶色鳥のボス的何かだと思う」

「すごいですわ!絶対に欲しがると思いますの!」


「ちなみに、売りたいと思っている。おいくらで買う?」

「えっと……額面で表せない価値な気がしますわ。ですから、私個人では判断しかねるのですが……そうですね。暫定的に10億エドロでいかがですの?」

「高ぇえええええええ!?」



 あ、やべ!

 ついツッコミを入れてしまった!!


 気取られてしまったか……?

 俺はリリンに誤魔化して欲しいと仕草で示した。

 リリンは親指を立てて頷く。どうやら、分かってくれたようだ。



「リリン様?今の声はどちら様ですの?」

「私は不安定機構の支部の中に居る。新人冒険者が騒いでいるだけ」


「新人ですの?なら違いますわね」



 ふぅ。危ない所だった。

 レジェンダリアの闇を聞いてしまった以上、俺の存在を知られるわけにはいかない。

 もしバレたりしたら、戦雷の騎士長と一緒にぐるぐるきんぐ―な目に遭うのは分かりきってるからな。


 そして俺の存在を隠したまま、無事に交渉は済んだ。

 キングな鳶色鳥のお値段は、驚異の10億エドロ。

 まさか、6億エドロの損害が埋まるどころか、プラス収支になるとは思ってもいなかった。


 ……リリンと二人で分けても、2億エドロか。

 これは……豪華な飯が食えそうだな!



「それじゃ、いつお渡しして頂けるんですの?」

「生きているし、転移陣で送るのは避けた方が良いと思う。でもすぐにはレジェンダリアにいかないから届けるのには時間が掛る」


「あぁ、でしたら、私の侍従を受け取りに向かわせますわ。あの子なら転送陣も扱えますし、そこでお待ちくださいませ」

「分かった。私の居る場所は『不安定機構カラッセア支部』。どのくらいで来てくれる?」


「そうですわね。1時間以内には必ず向かわせますわ」



 そう言って、ゲロ鳥ソムリエ?は電話を切った。

 一体、何者なんだろうか……。

 声からして女の子だと思うが、それ以外の情報がまったく分からない。


 話の流れからいって、今から従者が来るのだろうし、ちょっと時間がある。

 リリンに聞いてみよう。



「リリン、今の人ってどちら様?」

「さっきのは、『テトラフィーア・Q・フランベルジュ』。レジェが支配下に置く隷属連邦の中でも、5本の指に入る大国の姫で、たぶん次期国王」


「……なんだって!?」


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