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第15話「協力体制」

 とりあえず、ブライアンのシンボルにセットされた魔法陣を解除するようにリリンを説得した。

 これから対等な話し合いをしようとしているのに、大事な息子を人質に取られたままじゃ、ブラインも落ち着かないだろうしな。


 俺の提案を聞いてリリンはだいぶ渋ったが、「そこは男にとってかけがえのない場所なんだ!」と熱く説明したら、なんとか分かってくれた様子。

 魔王の左腕をガシャンと乱雑に鳴らし、魔法陣を消滅させてくれた。


 ブライアンは安堵のため息を吐いた後、俺達に頭を下げ謝罪をしてきた。



「どんな理由があれど、俺達がお前らを襲ったのは間違いない事実だ。それなのに、お前らときたら……俺達を助けてくれると言う。恩にきる」

「……一応言っておくけど、魔法陣から解放されたからと言って、裏切るような事は許さない。もし裏切った場合、私にとっても最悪となる切り札を使わせてもらう」


「さ、最悪の切り札……?」

「そう。この切り札を使用した場合、あなたの一族全てがとても不幸な目に遭う。というか、生きるすべを失って、路頭に迷うことになる」


「な、なんだそれは……」

「切り札をおいそれと敵に話す馬鹿なんていない。黙秘権を行使する」



 ここで大悪魔さんは、とっても大悪魔らしい事を言い出した。

 どうやら、人質は息子だけじゃなかったらしい。


 話を聞く限り、リリンはブライアンの家族を人質にできるのか?

 もしやこれもレジェンダリアがらみ?

 大魔王な女王様が関わっているとあっちゃどうあがいても絶望しかないが、それくらい用心していた方が良いのかもしれないし黙っておく。


 敵は暗劇部員でワルトと同格。

 恐らくこっちも大悪魔な感じだろうし、裏切らせない保険はあった方がいい。



「じゃあ、話を戻すぞ。ブライアン、俺達の質問に答えてくれ」

「分かった。どんな事でも答えるぞ」


「今回、俺達を襲撃するように命令されたと言っていたよな?それはいつの事だ?」

「今から二週間以上前の事だ。パルテノミコンの町に滞在していた俺達は依頼を探しに不安定機構の支部へ行った。その時に、二人組の女に声を掛けられたんだが……」


「二人組の女?どんな奴だ?」

「そこは認識阻害が掛ってて良く分からない。だだ、黒い女の二人組に交渉を持ちかけられ、その後、今度は真っ白い女が現れた」


「ん?三人目が出てきた……?」



 前に襲撃をしてきた盗賊の話じゃ、二人組の真っ黒い女だという話だった。

 カミナさんを襲撃してきたのも黒い女の二人組だというし、仲間が増えている?


 いや、違う。

 ワルトの話じゃ、真っ黒い女の二人組は『シスター・ファントム』を名乗る実行部隊であり、黒幕が居るという。

 もしやその、『真っ白い女』が敵の黒幕なのか?


 思わぬ収穫に俺は内心でガッツポーズ。

 リリンも、「これは、ワルトナに知らせれば大きく話が進みそう」と平均的な頬笑みだ。



「で、真っ白い女が来たんだが……。理由は忘れちまったが、逆らっちゃいけないと思った。戦闘になれば間違いなく殺されるし言う事を聞くしか選択肢が用意されてなかった」

「……どこの暗劇部員も似たような事をしてるんだな……」


「その後、真っ黒い女の大きい方は俺達から離脱し何処かに行った。これも認識阻害されて良く分かんなかったが、凄そうな場所に行くって言ってたはずだ」

「凄そうな場所……?それだけしか手掛かりが無いんじゃ、判別は出来な……」

「ブライアン。あなたが思いつく凄そうな場所ってどこ?可能な限り並べてみて」



 ブライアンの話を聞いていたリリンが、質問を投げかけた。

 なるほど、場所の特定はできなくても、ブライアンが凄そうだと思う場所を聞く事によって、大まかな範囲を絞り込めるのか。


 思いがけないリリンの名案にちょっと感心。

 そしてすぐに、悪辣な大悪魔さんの入れ知恵だということに思い当たる。

 ……繰り返ししてきたから、手慣れてるんだな。尋問。


 俺が達観しているとブライアンが、そうだなぁ……と声を漏らし話し始めた。



「俺が凄いなんて思う場所は限られてる。すぐ思いつく所だと、『不安定機構の本部』。それと、ドラゴンが住む『天龍嶽』。あとは魔王レジェリクエが住まう『隷愛城れいあいじょう』とか、『植物に汚染された町、セフィロ・トアルテ』。それと……『古の廃都・ソドムゴモラ』くらいか」



 おい、クソタヌキが潜伏しているじゃねえかッ!!


 あまりの緊急事態に、リリンも平均的な顔に影を落としている。

 そうか、ついにクソタヌキの脅威に気が付いたのか。

 この森に入る前に買い込んだバナナチップスは、おやつにでもして処理してしまおう。



「俺が知っているのは、天龍嶽とソドムゴモラくらいか。直接行った事は無いけど、どう考えても命の危険があるような場所だな。リリンは他に知っている場所はあるか?」

「……全部知ってる」


「へぇ、流石だな。だとすると、不安定機構の本部なんかも知ってる訳だ。どんな場所なんだ?」

「不安定機構の本部は、どこに有るのか不明とされている。けど、ある条件を満たすと招待状が届き各支部の奥に有る特別転移魔法陣から行く事が出来るようになる」



 特別転移魔法陣?

 なんか凄そうなものが出てきたが、普通のとどう違うんだ?



「この魔法陣は使用すると、いくつもの魔法効果が掛る事になる。主にアンチバッファで、この影響を受けた人はただの一般人よりも弱体化してしまう」

「弱体化ね、セキュリティは万全ということか?」


「それもあるけど、真の目的はそこにない」

「どういうことだ?」


「本部は、正真正銘の猛者の集まり。一見してレベルは高く個々の力は戦略兵器レベル。でも上下関係はとても明白で、それを表す事が目的だと思う」

「もっと詳しく頼む」


「簡単に言うと、魔法陣を通った時に受けたアンチバッファをどのくらい解除出来たのかが、強さの指針になっているということ。簡単に解除できるものから難解なものまで12種類あるアンチバッファ全てを解除している人なんか、どう考えても手を出しちゃいけない」



 そういうことか。

 アンチバッファという物は、当然、何らかの行動を制限するものだ。

 そんなものは解除するのは当たり前、ましてや、強い猛者が居る場所に行くと言うのなら尚更だ。


 だが、解除したくても、解除できない。

 そして、解除できなかった分は弱体化。

 ならば当然、解除出来た人よりも明確に弱くなり、自然と階級が出来あがるってことだな。


 流石は世界を不安定にするとかいう、大組織。

 人を掌の上で踊らせるのは得意らしい。



「話を戻すぞ。ブライアン、敵は真っ白い女と真っ黒い女の二人になったんだよな?その後はどうしたんだ?」

「パルテノミコンのドラゴン大征伐に参加し、お前らの実力を計っていた。一応言っておくが、俺達は普通のドラゴンなら倒せる。だが、あのピエロとか黒い竜とかは無理だ。ピエロはでか過ぎて俺達の攻撃力が足らないし、黒い竜は攻撃力が高すぎて即死する」


「ふむふむ。それじゃアレか?タヌキが地上に降り注ぐという地獄のような光景も見ていたってことだな?」

「見てたぜ。他の冒険者は「タヌキかよ!」って笑ってたが、俺達は震えが止まらなかったぜ……。タヌキ将軍はやべえからな」


「だよな。タヌキはヤべえ。それは知る人ぞ知る世界の真理だ」

「タヌキは神獣。そんな噂だってあるくらいだしな」

「……話が脱線してる。もどして」



 おっといけない。タヌキが出ると正気を失うのは、俺の性分でな。


 それっぽい咳払いをして、俺は再び話を元に戻した。

 今度はリリンもサポートに入り、三人で話を煮詰めていく。



「お前らが馬車の進路を変えたのも、俺達が騒ぎを起こして道を塞いだからだ」

「とどのつまり、ブライアンは敵に脅迫されて俺達を観察、そして、この森へ誘導したって事か?」

「アレはあなた達の仕業だったの?」


「そういう指示だったんだよ。お前らがこの森に来た時には、上手く事が運んでいると手を叩いて喜んだくらいだった。が、ドラゴンを連れているわ、あっさりキング鳶色鳥を捕まえちまうわ、とどめにこっ酷くボコられるわ、ついていないったらありゃしねえ」

「なんかすまんな。で、そうすると、俺達の行動は敵にバレてるって事になるよな?」

「これで、敵がゆにクラブカードを持っているという事が確定した」



 そうか、やっぱりワルトの仮説どおりだったってことか……。


 俺を手に入れるために、こんなガチムチ冒険者を仕向けてくるとか、過去の俺はいったい何をしたんだ?

 なんか、ミナチルさんの足を舐めまわしたらしいし、すごく不安になってくる。

 ……親父と一緒に全裸になっていたとかだったら、土下座して謝ろう。


 さて、ブライアンの話を聞いて、不確定要素が確定に変わった。

 他に事態が急変する様な事はないのか、一応、聞いておくか。



「他に、敵が言っていた事とかで、気になる事や気が付いた事はなかったか?」

「それは……ある。憶測になっちまうが、黒い女はまだ子供、それもリンサベル、お前よりも幼い」


「どういうことだ?」

「そいつはな、お前の事を「おねーちゃん」と呼んでいた。それが何を意味するのかは阻害されて理解できなかったが、随分と親しげだった」

「……え。」



 ブライアンの言葉を聞いて、リリンの動きが固まった。

 敵は俺の過去に関わりがあるという。だが、リリンの事もおねーちゃんと呼び親しくしていた?


 色々と脳内で考察している間も、リリンは黙ったままだった。

 いつもの平均的な表情から寂しさを感じて、リリンに問いかけてみる。



「リリン?何か心当たりがあるのか?」

「……ない。私は、過去に出会った年下の女の子に、私の事を『おねーちゃん』と呼ぶようにお願いしてきた。でも、定着した事はなかったと思う。だいたい、”様”がつくし」


「……。パプリも『りりんおねーさま!』になったもんな」

「だから、私の事を親しげに「おねーちゃん」と呼んだのは、この世界でただ一人、妹のセフィナだけ。そしてセフィナはもう、この世には居ない。だからその名で私が呼ばれる事はもうないはず……」



 リリンは顔に影を落としながらも、はっきりと否定の言葉を口にした。

 黒い女の子は俺の過去に関わっていて、リリンと顔見知り……?


 いや、この場合は別なのかもしれない。

 黒い女の子は、リリンと顔見知りで、おねーちゃんと呼んでいる。

 白い女は、俺の過去と関わりがあり、ゆにクラブカードを持っている。


 俺達二人共を手に入れようとしたのも、狙っている敵が二人いるからだとしたら辻褄が合うんじゃないか?


 俺はその仮説をリリンに伝え、反応を待った。

 そしてリリンの反応は……本気の拒絶だった。



「敵の黒い女の子は、私の事をおねーちゃんと呼んだ。これは間違いないよね?ブライアン」

「間違いない。阻害されたといえど、俺だって少しくらいは精神汚染に対策をしている。絶対に間違いないぞ」


「……そう。そういうことね。良く分かった。敵は私を挑発するために手段を選ばないという事がよく、分かった」



 え?いきなりどうしたんだリリン?

 声のトーンが一段階低くなったぞ?

 これじゃまるで、噂の大悪魔みたいじゃないか。



「リリン?どうした?」

「ユニク。私は敵の事を許す事が出来ない。絶対に許さない」


「え?」

「敵は、あろうことか、セフィナを語り、あえて断片的に情報を漏らすことで私に嫌がらせをしている」


「セフィナを語る?」

「そう。思い出してユニク。ワルトが言った敵の名前。あの名前は『シスター・ファントム』だった。でも、暗劇部員に登録されておらず、『暗劇部員シスター』を名乗るのは不自然だと思っていた」


「確かにそうだよな?そう言われると、シスターの部分に特別な意味があるように聞こえてくる」

「そして、シスターの後に続くのは、”亡霊ファントム”。つまり、敵はセフィナの死を知っていて、あえて『妹の亡霊(シスターファントム)』を名乗っている」



 リリンの妹のセフィナ。


 その妹の事をリリンが溺愛していたというのは、何となく察している。

 リリンがその名を口にする時は、大抵、平均的な表情を崩しながら言葉を選ぶように話す。


 まるで、無くなってしまった宝物を思い出しているかのように、とても優しい声で話すのだ。



「だから、ね、ユニク。セフィナの死を嘲笑った敵を、私は許す事は出来ない。これは私だけの問題じゃない。セフィナの人権をも乏しめる最低の行いだから、何があっても……絶対に許さない」



 リリンは、とても低い声で言葉を締めくくると、薄く、ほんの薄く……笑った。


 それはまるで、家族を失ったという途方も無い怒りをぶつける場所を見つけてしまったかのようで。

 いや、実際にその通りなのかもしれない。


 10歳という幼すぎる年齢で、一人ぼっちになったとリリンは言っていた。

 口では語らなかったが、相当に寂しい思いもしただろう。


 そして、時が経ち忘れかけていた感情が再び呼び起こされた。

 リリンにとって大切で最低な記憶と感情を、無理やり止めるなんて俺にはできない。

 敵と邂逅するその時が来たら、気が済むまで、どこまでも付き合ってやるぜ、リリン。



「敵の思惑も分かった。だいぶ収穫があったな」

「うん。あとはこの情報をワルトナに精査して貰うだけ。もしかしたらすぐに敵の正体が判明するかも?」


「よし、そうと決まれば早速、町に戻るとするか」



 聞きたい事もだいぶ聞けたし、後は情報戦のエキスパートのワルトに任せよう。

 ブライアンの身柄は聖女シンシアが保護する、つまり、ワルトが直接管理下に置くということだ。


 あぁ……。

 心無き尋問を受ける事になると思うが、がんばるんだぞ、ブライアン。



「なぁ、その前に俺からも聞きたい事がいくつかあるんだが……」



 俺の心の声を聞いていたかのようなタイミングで、ブライアンから打診があった。


 もしや、自分が心無き運命を辿るという事が分かったのか?

 流石はランク6。感も鋭いらしい!



「なんだ聞きたい事って?」

「俺は洗いざらい話した。よってさっきリリンサが言っていた切り札ってのを受ける可能性は無くなったって事だよな?」


「そういうことになるな」

「だったらよ、それが何だったのか教えてくれないか?」



 ほう?確かにそれは俺も気になる。

 リリンは、確かこう言ったはずだ。


「私にとっても最悪となる切り札を使わせてもらう」


 この言い回しはちょっとだけ気になる。

『私にとっても』という部分。これだと、何かしらのリスクがリリンに有るような感じに聞こえるからだ。



「リリン、教えてやってくれ」

「……。思い出すだけで不愉快なできごと。それでもユニクは聞きたいの?」


「ごめん、もっと興味が湧いたんだが?」

「はぁ。しょうがない。話す」



 リリンは平均的な嫌な顔をしながらも、頷いてくれた。

 そして、俺とブライアンは静かにリリンの言葉に耳を傾ける。



「あの太いのが言っていた。「オラ達はジャフリート出身である」と。ならば知っているよね?オタク侍……剣皇シーラインのこと」


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