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第12話「覚悟」

「よう。覚悟は出来てるって言っていたよな? だから、遠慮なく行かせてもらうぜ」

「いや、待ってくれ。気になる事がある」


「あん?」



 俺は今、見知らぬ空間に転移させられ、大絶賛ピンチ中。

 罠に掛ったふりをして敵をあぶり出すどころか、そのまましっかり罠に嵌るという、マヌケをやらかしたからだ。

 山積みになった問題と見当たらない打開策。

 ここは冷静に現状を整理しよう。


 問題そのいち、バカデカイ大剣を持った大男『ブライアン』が気さくに話しかけてきてる。

 割と敵意がむき出し。普通に戦闘になるだろう。


 問題そのに、リリンと分断されてしまったということ。

 これは二つの意味で心配だ。

 一つは普通にリリンの身の安全が心配。

 さっきのブライアンの話によると、コイツらは俺達の戦闘を見て勝てると思ってここに来ているらしい。

 という事は、リリン対策が万全の可能性があるのだ。


 いくらリリンと言えど、負ける事もある。

 現状、リリンが自分で勝てないと断言しているのは三名。


『澪騎士・ゼットゼロこと、澪さん』

『幾億蛇峰・アマタノ』

『極色万変・白銀比』


 あと、条件によっては心無き魔人達の統括者にも負けるらしい。


 ……。

 心配いらなそうだな。

 あの細いのと太いのが、『人類の希望』やら、『皇種』やら、『この大陸の諸悪の根源』やらと肩を並べるとは到底思えない。

 あ。リリンはクソタヌキにも勝てないっていってたっけ?


 ははは、クソタヌキと同じ強さとか、絶対にありえねぇよ!!



「俺の身の安全もそうだが、リリンの方が凄く気になるんだ」

「……。ソレはどういう意味で、だ?」


「安否が心配なだけだ。気にしないでくれ」



 うん。どう考察してもリリンが敗北する光景が浮かばない。

 だとすると……これは、大悪魔さん降臨フラグか?


 リリンは事あるごとに敵の事を『ブチ転がす!』とか『捕まえて奴隷にする!』とか『ワルトナに頼んで、人生を使い潰す!』とか言っていたし、どんな事になるか想像もつかない。

 流石に殺しちゃいないと思うが、取り返しのつかない事をしてなきゃいいんだが……。



「……おい。」

「でも、怒ったリリンは怖いからな……。ワルトやカミナさんも警戒してた『ヤンデリリン』とかいうのもいるらしいし……」


「おいこの野郎!」

「ん?なんだよ。大事な所なんだから、邪魔しないでくれ」


「あぁ、それはすまなかった……ってなると思うか?」

「ははは。全然思わないな!」



 俺が転移をしてから、5分が経った。

 もしリリンが敵を瞬殺していたのならば、もうここに来ていてもおかしくない時間だ。


 様子見として時間を稼いでいたが、これは本当に覚悟を決めないといけないのかもしれない。

 現状、脱出できる手段は思いつかず、目の前には明確な敵が居る。


 確か、ワルトの戦略では可能な限り、情報収拾に努めるのがセオリーらしいが……。



「俺は、戦いの前にごちゃごちゃ語るのは好きじゃねえ。腹をくくれ。ユニクルフィン」



 俺の時間稼ぎに気付き、戦闘を始めようとするブライアン。

 これはもう、話をするような雰囲気じゃない。


 ブライアンは大剣を真正面に構え、俺を見定めている。

 俺も覚悟を決めて、グラムを両手で構えた。


 あぁ、でも、これだけはやっておきたい事があるんだ。



「しょうがない、戦いを始めるとしよう。……あ、ちょっといいか?」

「んだよ。まだ何かあるのか?」



 真剣な視線をお互いに交差させて、開始の挨拶を済ませた。

 そして、流れをぶった切る俺の言葉に気分を害しつつも、ブライアンは雰囲気を緩めて言葉を返してきた。


 圧倒的強者の余裕という奴だろう。

 姿勢こそ崩さないものの、俺が話し出すのを待ってくれている。


 ありがたや、ありがたや。

 このチャンスは、逃さず使わせてもらうぜ。



「戦う前に、これを見て欲しくてな」

「ん?どれだ?」



 俺はグラムから左手を放すと、ユラユラと揺らして視線を誘導。

 ブライアンは、何も持っていない俺の手を凝視している。


 ……すまんな。戦いはもう、始まっているんだ。



「……《指から不意打ち、主雷撃!!》」

「ぐ、ぐあああああ!!」



 くくく、心無き魔人達の統括者直伝、指から不意打ち主雷撃の味はどうだッ!?

 今度はお前が罠に掛る番だったな!ははは!!


 我ながらなんて卑怯なんだろう。

 しかし、戦力に不安がある現状、こういった搦め手を使うしか俺に勝利の道はない。

 卑怯だろうとなんだろうと、勝てばいいのだ!



「一気に決めるぜ。《重力破壊刃ガルブレイド!》」



 俺はグラムに魔力を注ぎながら、ブライアンの肩を狙う。

 肩を破壊すれば、剣は持てない。

 そして、攻撃手段を奪えれば俺の勝利だ。

 その後も、交渉次第ではここから出してもらえるだろう。


 さっさと終わらして、リリンを助けに行かないとな!


 思考を巡らせている内に、グラムがブライアンの肩に迫っていく。

 しかし、そのまま接触しようとした瞬間、俺の背筋に寒気が走った。

 これは……!?



「ちぃ!?《惑星重力操作ァ!》」

「ぁぁぁぁぁ……《防撃・打撃万力だげきまんりき》」



 甲高い金属音と共にグラムが受け止められた。

 まるで上下から挟みこまれたかのような衝撃を受け、空間に縫い付けられてしまったのだ。


 バッファを多用して、力でねじ伏せたのではない。

 確かな技を以て、グラムは受け止められた。


 俺は咄嗟にグラムの重量を減らし、次の一手に備える。

 これがブライアンの技であるのならば、すぐに追撃が来るはず。

 素早くグラムを引き戻し、体勢を立てな……



「《剣撃・刺突錐しとつきり》」



 とすん。と俺の胸を軽い衝撃が襲った。

 指で押された程度の圧力は、ブライアンが持つ大剣の切っ先が俺の胸に刺さっているせいで起こったらしい。


 当然、俺には第九守護天使が掛っている。

 この程度の威力で、破壊されるはずが……。


 俺は、ぐらりと歪む視界でブライアンを睨みながら、グラムを暴走させた。

 理由を考えている場合じゃない。このままだと、全てが終わる。



「《重力流星群ガル・ミーティアッッ!!》」



 俺はグラムの内部へ魔力を叩きつけ、破壊の結晶を撒き散らした。

 放たれた黒い雫に危険を感じたのか、ブライアンは一度距離を置き、中段で剣を構え直す。

 卑怯な手を使っての不意打ち。

 しかし、それすらもブライアンには通じなかった。



「ちくしょう。俺はやられてばっかりじゃねえか……」

「お前は才能があり過ぎるんだな。何でも器用にこなしちまうから、技が必要にならないんだろ。剣士として研鑽を詰んだ年期が俺とお前じゃ違いすぎる」



 つい口から漏れ出た本音に、ブライアンは律儀に返答を返してきた。

 それだけ余裕があるという事だろう。


 ……まいったな。

 殺さないようにしようとか、甘い事を言ってられなさそうだ。



「……確かに、俺は剣士としての経験は無いに等しい。ちょっとリリンに習ったぐらいで自己流も良いとこだしな」

「だろうな。まず、剣の持ち方からなっちゃいねぇ」


「だから、これからはグラムの能力に頼った戦いになる。そして、グラムの能力は強すぎる」

「分かってるぜ、そんなことはよ。あんなバカでかいドラゴンに一太刀入れた剣だ。伝説の剣かなんかなんだろ?」


「あぁ。グラムが危険な剣だって分かってるならそれでいい。じゃあ、そろそろ本気でやろうぜ。構築せよ。《超重力軌道ガル・システム》」



 先ほどバラ撒いた重力流星群を起点として、高速戦闘領域『《超重力軌道ガル・システム》』をこの場に張った。

 俺を中心として100m先の四方に重力場を設定。

 影響を与える対象は俺自身。引力と斥力を操作し、人間の可動領域を超えた戦闘を実現する。


 そして、俺の心の内にも変化があった。


 人を斬るなんて、本来ならば、覚悟を以て行うべき事の筈だ。

 だが、今の俺は平常心を保っている。


 深夜の湖のような静まり切った水面のように、感情が揺れ動くことがない。



「やっと本気になったか。じゃあ、俺から仕掛けさせてもらうぜ」



 人を、斬る。

 覚悟を決めてしまえば、それはもう、日常(動物を狩ること)と変わらない。






 死と隣り合わせの俺の日常が、戻ってきただけのことだ。


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