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第7話「索敵」

「おい、アホタヌキ。用は済んだし、帰っていいぞ」

「ヴィギルア!」



 リリンがキングゲロ鳥を捕獲した後、タヌキ戦を続ける雰囲気じゃなくなった。

 というか、魔方陣を出したせいでミニドラが息切れしているので物理的に不可能だ。


 とりあえず、用済みになったアホタヌキにはご退場願おう。

 コイツがここに居ても、俺のストレスが音速を超えて増えるだけ。

 おら、お前は用済みだ。どっかいけ、しっし!!


 俺の投げやりな追い払いが功を奏し、アホタヌキは何も言わず茂みへ向かって歩き出した。

 若干ながら、足取りが楽しげ。

 うっきうきなタヌキステップで軽快に歩いてゆく。


 そんなに毛がさらっさらになったのが嬉しいのか?

 ……今度会ったら、グラムで角刈りにしてやろう。



「……ぐるぐるきんぐー?」

「ぐるぐるきんぐぅー!」



 新たな目標を見据えつつも、直近の問題に視線を向ける。


 今は敵の作戦に乗ったふりをしている最中。

 だったのだが、表向きの目標だったキングゲロ鳥の捕獲を達成してしまった以上、この森に長居するのは不自然だ。

 さて、どうするかな。



「リリン、キングゲロ鳥を捕まえちまったが、この後どうする?」

「んー。せっかくだし、ミニドラを連れて森を散策しよう。手頃な強さの動物がいたらレベル上げもできる」


「そうだな。流石に最初からタヌキはレベル高すぎだったし、今度は手頃な奴が出てきて欲しいぜ。連鎖猪とかがベストだ!」



 一応の建前として、ミニドラのレベル上げを続行するという事にした。

 リリンによると、飼育しているペットのレベル上げをする冒険者も多いらしく、別に不自然じゃないらしい。



「じゃ、行くか」

「うん」

「ぐるぐるきんぐー!」



 話も決まり、キングゲロ鳥をリリンが召喚した籠に入れて拘束もした。

 これで準備は万端だぜ。


 さぁ、何処からでも掛かってこい!!



 **********



「……ユニク。来た」

「おう。後ろに居るみたいだな」




 森を散策し始めて、さらに2時間。

 見かけた連鎖猪とか破滅鹿とかをミニドラと戦わせてレベル上げをしていると、俺達の背後から何者かの気配が近づいてきた。

 ミニドラのレベルも2000近くになったし、タイミング的には丁度いい。



「ミニドラのレベルも大分上がってきたな」

「そうだね。そろそろタヌキを倒せそう?」



 俺達は何気ない話でカモフラージュしつつ、後ろの人影の気配を探る。

 足音は2人……いや、3人か。

 規則的に聞こえてくる二人分の足音の他に、分かりづらくもう一人分混じっている。


 俺達は頷き合い、敵が来たということを再度確認。

 さらに第九識天使ケルヴィムを発動し、声に出さなくても意思の疎通ができるように準備。

 そして、極秘に作戦会議を行った。



「敵は3人か?」

「そう。前を歩いている二人はともかく、後ろに居る3人目は凄い熟練の冒険者で間違いない」


「足音が聞き取りづらいもんな。で、どうする?」

「色々面倒なので、出てくるように勧告をしよう。出てくれば話を聞く。出てこなければ、魔法で滅多打ち」



 ……戦略がタヌキより脳筋なんだが?

 出てこなければ滅多打ちって、流石は大悪魔。殺意に満ち溢れている。

 まぁ、リリンは散々に渡り、「敵は許さない!」と言ってたし、多少はしょうがない。



「いくぞ……、さん、にい」

「いち……今!」



 俺は、是非出てきて欲しいと思いながら、リリンとタイミングを合わせて振り返った。

 敵は俺たちに合わせて足を止め、当然、隠れたまま出てこようとしない。


 だが、そこの木の陰から気配を感じる。

 これは人間の気配だ。少なくとも、タヌキの気配じゃない。



「おい、そこに居るんだろ?俺達に何か用か?」

「…………。」



 反応が無いな。

 ……ダメか?このままだと魔法で滅多打ちになるんだが?


 俺の問いかけから5秒が経過した段階で、リリンが嬉々として星丈―ルナを構え始めた。

 後5秒もすれば、破滅の雷光が敵を襲うだろう。


 そんな俺の心中を察したかのように、木の影がざわつき男が2人姿を現した。

 どうやら、リリンの平均的な暗黒微笑を見て怖くなったらしい。



「おっとと!いきなし杖を向けないで欲しいんだなぁ!」

「そうだそうだ、物騒だぞ!」



 出てきたのは、やせ細った長身の男と、小太りな背の低い男。

 年齢は二人とも20代半ばといったところか。

 レベルは、長身の方が52971で、小太りな方が52110。

 結構レベルが高いが、コイツらが刺客なのか?



「よう、俺達を尾行していたようだが、何か用でもあるのか?」

「ふぇふぇふぇ。ここではあまり見かけない顔だったからなぁ。気になってなぁ」

「そうだぁそうだぁ。あんた方は大変に珍しい。そのドラゴンも珍しいんで、なおのこと珍しいだぁ」



 男達は悪びれるそぶりも無く、笑顔で答えた。

 一見して悪意が無さそうに見えるが、俺の質問に何一つ答えちゃいない。

 どう考えても要注意。第一、まだ一人出てきてないしな。


 俺は心の中でリリンへ、「どういう風にしてあぶり出す?」と質問を飛ばした。

 リリンはすぐに、「まかせて」と頷いた後、胡散臭い男連中に鋭い視線を飛ばす。

 何かを仕掛けるようだ。



「ホロビノに興味を抱くとは、良い目を持っていると思う」

「でしょ?とってもカッコイイですし、何より愛嬌がある。素晴らしい竜ですなぁ」

「強そうだし大人しいだぁ。子供を連れているのも、ベリーグッド!」


「良く分かってる。私のホロビノは、強くてカッコよくて可愛くて大人しい最高のペット。最近になって子供も増えた!」

「うんうん。いいですなぁ、大変に羨ましいですなぁ!」

「ホントだぁ。あ、撫でてみても良いか?」


「優しくするなら、撫でても良い」

「おや?おやおやおや?これはふんわり撫で心地!敷布団にして寝たら気持ちのいい事でしょうなぁ」

「おほ!人生経験に無い新たな出会い。掛け布団にしても良さそうだぁ!」



 ……おい、何の話をしてるんだよッ!?

 普通に会話してるだけじゃねぇか!


 しかも、コイツらさっきからホロビノの事を、『敷布団』やら『掛け布団』やら言いたい放題。

 嬉しそうに頷いているけど、たぶん褒めてるんじゃなくて馬鹿にしてるんだと思うぞ?リリン。


 俺は一層視線を鋭くして、怪しい男二人組を睨みつけた。

 さっきから、話の論点がすり替えられてばかりで全然進んでいない。

 俺がしっかりしないと、不味い事になりそうだ。



「もう面倒だから率直に言うけど、後ろに隠れている奴、さっさと出てこい」

「……ほう?俺の気配を察知するとは、なかなかやるじゃねえか」



 二人組の男の後ろから、屈強な男が姿を現した。

 赤黒い肌に、短く切り揃えた髪。

 背丈が2m近い大男で、隆起した筋肉を鮮明に表わしている。


 そして、背中には背丈とほぼ同じ大きさの大剣。

 コイツは間違いなく強い。

 レベルも、リリンの関係者を除けば、出会った中での最高値『レベル63103』だ。


 コイツら3人が俺達の敵?

 戦いになるのだとしたら、一筋縄じゃいかなそうだ。



「で、男が三人がかりで、俺達に何の用だ?」

「あぁ、なんて事はない……」


「……。」

「お前らが受けた、『キング鳶色鳥の依頼』を一緒にやらないかと打診をしに来たんだ」



 …………は?

 キングゲロ鳥の依頼を一緒にやりに来た?

 いい歳した大人が、ゲロ鳥を捕まえに来ただと?


 良く分からんので、一応話を聞いておこう。



「ゲロ鳥の依頼?そんなもん、俺達と共同でやらなくても勝手にやればいいだろ?」

「そうしたいのは山々なんだが、キングゲロ鳥の依頼を受けようにも、俺達じゃ条件がそぐわない」


「じゃあ、諦めろ」

「報酬が1億エドロだぞ?そう簡単に諦められないだろ」



 まぁ確かに、ぐるぐるげっげー……もとい、ぐるぐるきんぐー!と鳴くだけで1億エドロも貰えるなら、誰だってそうする。


 だけど、コイツらの言っている事は何かがおかしい。


 そもそも、どうしてそんな依頼がある事を知っているんだ?

 俺達は不安定機構の職員から直接、依頼を受けた。

 掲示板には張られてなかったし、どう見ても条件が一致しないコイツらに、職員が話をするはずないと思うんだが?



「つーか、俺達がそんな依頼を受けているのを知ってるんだな?誰から聞いたんだ?」

「きっかけはただのミスだ。俺達は別の任務を受ける為に不安定機構の応接室に通されたんだが、たまたまテーブルの上に依頼書が残っててな。それを見て追いかけてきた訳だ」


「その依頼を受けたのが俺達だって、何で分かったんだ?」

「俺達はお前らが応接室から出て来た後、すぐに部屋に呼ばれたんだ。状況的にそうとしか思えないだろ?」



 大柄の男の話を聞く限り、一応の筋道は通っている。

 ただ、レベル的に見ても一流なコイツらが他の依頼者に便乗するというのは良くある事なんだろうか?


 俺はバレないように平静を装いつつ、リリンに第九識天使を通して問いかけた。

 すると、リリンの解答は、「あまりない事だし、褒められた事でも無い」。

 通常、依頼に対して戦力が足りないと判断した場合は、依頼を受ける前に仲間を募るらしい。

 そして、仲間だという意思表示もかねて一緒に依頼内容の説明を聞き、職員立ち会いの下、公平な契約を取り決めるのがルール。


 後から戦力の補充をする場合でも、職員を通すのが普通だというし、やはりどこかがおかしい。

 そもそも、リリンは別の観点から、コイツらの事を敵認定している。



「リリン。どう思う?」

「100%に近い確率で、敵で間違いない」


「なんでそう思うんだ?」

「この森を拠点にしているのなら、犬を連れて居ないのはおかしい。恐らくだけど、この冒険者たちは空を飛ぶなどの緊急離脱手段を備えているから、気にしていないんだと思う」


「それは俺達にも言える事だけど、緊急離脱が出来るなら犬を連れて居なくても問題ないよな?」

「それは違う。犬を始めとするガイド役の動物も無しに、森を探索するというのは不可能。私達のように任務自体はどうでもよく、ただブラブラと散策するだけならいい。だけれど、目的がある場合は動物が必須となる」


「確かに、そうだよな……。探し回るなら、犬が居た方が効率は良さそうだし」

「犬を連れて居ない理由は、目的の対象を既に発見しているということ。つまり、狙いは始めから私達ということになる」



 普段からボケ倒しているリリンが、すげぇ頼りになる……だと……。

 何か悪いものでも食った……ぐらいじゃ効果は薄そうだし、頭でも打ったのだろうか?


 ともかく、リリンの話は説得力があるし、間違いなさそうだ。

 そうと決まれば、対策もしやすい。

 俺はリリンと内心で相談し、コイツらの話に乗る事に決めた。


 まずは、興味がある振りをして話を転がす。

 その後で情報を引き出し、一気に勝負を決めに行く。



「話は分かった。だけど、俺達にメリットがあるように思えないんだが、そこん所はどう思っているんだ?」

「ここだけの話だが、俺達はキング鳶色鳥と思しき鳥の居場所を知っている」


「なに?本当か?」

「昨日たまたま見かけたんだが、そん時は化物が居るなーぐらいにしか思わなかった。だが、依頼があるとなれば話は別だ。アイツはレベルが99999だったし、戦力的にもお前ら二人じゃ危険だろう?」


「つまり、案内役と戦闘の両方で役に立つって事か?」

「そうだ。ぶっちゃけて言えば、この任務をこなすのにお前らは必要ない。ただ、その依頼を達成するのにお前達の名前と顔が必要だから声をかけたって事だ」



 話だけ聞くのなら、大変においしい話だ。

 この男の言い方だと、俺達は同行しているだけで、後は勝手に処理してくれるらしい。

 これが罠じゃなければ両手を上げて喜んでいた所だな。


 俺達の方針は、相手の話に乗って情報収拾をすること。

 ここは話を合わせて、森の奥に居るというキングの所に連れて行って欲しい所だが……実は、ものすごく大きな問題をリリンが抱えている。


 もう既に、キングゲロ鳥は捕獲済みなんだけど、どうしよう……。


 当のキングゲロ鳥は良く状況を理解していないらしく、キョロキョロと視線を色んな方向へ向けている。

 しょうがない。不自然だが、普通のゲロ鳥だと言い張ってコイツらの話に乗ろう。

 俺は提案された好条件で気分を良くした風を装い、大男に視線を向けようとして、なぜか、リリンの持つキングゲロ鳥と視線があった。


 そして、キングゲロ鳥は何かを察し、まるで俺をあざ笑うかのように荘厳に鳴きやがった。



「ぐるぐるきんぐー!」

「……。」

「……。」


「ぐるぐるぅぅぅぅぅっ、きんっぐぅぅぅぅ!」

「……すまん。実はもう、キングゲロ鳥は捕獲済みなんだ」

「……そうみたいだな。……マジか」



 なんかすまん。

 これもすべて、クソタヌキが仕組んだ事なんだ。

 だから、文句を言うならクソタヌキに言ってくれ。


 せっかくいい感じに話が纏まりそうだったのに、振り出しに戻ってしまった。

 俺達の間に冷たい風が吹き抜けているし、どう軌道修正をしたらいいのか、まったく分からない。


 お互いに困り果てる俺達。

 だが、事態を眺めていたリリンから、思わぬ話が提案された。



「あなた達が見たという化物の所へ、案内して欲しい」

「リリン?」


「キング鳶色鳥かどうかはともかく、そんな化け物が居るなら退治した方が良い。でも、あなた達だけでは放置するでしょ?だから、私達が行って倒しておこうと思う」



 ナイスだ!リリン!!

 今日のリリンは冴えまくっているな!


 どうやら敵もリリンの申し入れを受けるようで、「じゃあ、案内をするからついてこい」と言って、森の奥を指差した。

 これで無事に話に乗る事が出来る。


 さて、上手く情報を引き出せると良いんだけど。

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