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第6話「キング鳶色鳥」

「……なんだって?」



 え?今コイツ、なんて鳴いた?

 いや待て、少し落ち着こう。


 コイツの名前はゲロ鳥。

 頭にアホ毛が生えているが、間違いなくゲロ鳥。

 だから、コイツの鳴き声は『ぐるぐるげっげー』のはずだ。


 そうか、俺は咳き込んでいたせいで、聞き間違ったんだな?

 もう一度鳴き直してみれば、すぐに確認が取れるだろう。

 んっんー!よし、喉の調子もばっちりだ。



「ぐるぐるげっげー?」

「……。」


「ぐるぐるげっげーー?」

「……。」


「……ぐるぐ?」

「ぐるぐ!」



 ……おかしい。

 ぐるぐるげっげーに反応しない。

 ただ、途中までなら反応を示した。


 だとするとやはり……。



「……。」

「……。」


「……ぐるぐるきんぐー?」

「ぐるぐるきんぐー!」



 ……コイツは間違いねぇ!!キングゲロ鳥だッッ!!

 自ら『キング』って名乗ってやがるッ!!



「リリンッ!こいつ、キングゲロ鳥みたいだぞ!?」

「というか、鳴き声を確認しなくても、レベルを見れば一目瞭然」



 レベル?

 そうか、あまりの衝撃で、レベルを確認することを忘れてい……。



 ―レベル99999―



「……レベル高ぇぇッッ!?!?」

「私も鳶色鳥で5桁のレベルを持つ個体は初めて見た。当然、レベル上限の個体なんて会った事は無い」


「確か、レベル上限はどのくらい強いのか分からないから注意が必要なんだよな?」

「そう。ドラゴンフィーバー雑魚戦並みの個体もいれば、果てしなく強い冥王竜みたいなのもいる。このこはどっちだろう?」



 ……冥王竜並み?

 いやそんなはずはあるまい。だって、ゲロ鳥だぞ?

 いくら”キング”とか大層な名前が付いていた所で、こんなに小さい鳥が……。

 ふと、ここで俺の脳裏にクソタヌキの姿が浮かび上がった。


 何を隠そう、あいつのレベルもまた99999。

 それこそ意味が分からないくらいに強いだろうが、それでもレベルは99999なのだ。


 そして、俺は気が付いてしまった。

 冥王竜。

 クソタヌキこと、タヌキ帝王。

 そして……キング鳶色鳥。


 ……全員、”王”って名前に入ってやがる……。



「リリン。要警戒だ」

「うん。防御を中心に魔法を起動させておく」



 くっ!最近妙にインフレが激しいと思っていたが、もう、冥王竜並みの敵が出現するとはな。


 ……ってそんなわけねぇだろッ!!

 そうポンポンとあんな化物が出てきてたまるかッ!!


 最後こそへたれた冥王竜だったが、その強さは俺達が三人がかりでも全く歯が立たなかったと言っても良い。

 で、そんな化物が「ぐるぐるきんぐー!」と鳴くとか、どんな異常事態だよ。


 一応、臨戦態勢に入りつつ、俺達は様子見を始めた。

 キングゲロ鳥はキョロキョロと周囲を観察した後、視線をピタリと止め、とある生物を凝視している。

 その視線の矛先は、アホタヌキ。


 そして、キングゲロ鳥は、アホタヌキをじぃ……。と見つめ、ぺろりと舌を出し、「ぐるぐるくうふくーー!」と鳴いて襲いかかった。

 油断しきっていたアホタヌキの頭の上に『!?』という驚愕の文字が浮かんでいる。


 ……アホタヌキVSミニドラVSキングゲロ鳥。

 文字通り、三つ巴の戦いが始まろうとしている。



「リリン、なんか面白い事になったな」

「うん。キング鳶色鳥には少し暴れてもらおう。そして疲れた所を一網打尽!」



 なるほど、漁夫の利作戦か。

 キングゲロ鳥の狙いがアホタヌキならミニドラ達も食われる事はないだろうし、かなりいい作戦だ。

 いけ!キングゲロ鳥!!アホタヌキに地獄を見せてやれ!!


 それにしても、いいタイミングで乱入してきやがったな。

 前回もリリンがアホタヌキにトドメを刺すという瞬間だったし、今回もミニドラとアホタヌキが決戦?をしている最中だった。

 ゲロ鳥は空気を呼んで出現している……?


 俺は特に意味も無く、キングゲロ鳥が出てきた茂みに視線を向けた。


 ……ガサッ。


 あれ?まだ何かいるんだけど?

 というか……今、ちらっと茶色い毛が見えたぞ?


 ……。

 …………。

 ………………そうか、お前が仕組んでいたのか。クソタヌキ。



「ユニク、戦いが始まるよ」

「おう、楽しみだ」



 三つ巴の戦い。最初に動いたのはアホタヌキだった。

 アホタヌキは二足歩行で立つと、短く召喚の魔法陣を唱え漆黒のガントレットを装備。

 どうやらキングゲロ鳥に本気を出すらしい。

 そして、地面を爆裂させながら怒濤の勢いで突撃を仕掛けた。



「ヴィギルア!」

「ぐるげ!」



 ふぉぉおん!という風を切る音が過ぎ去った。

 アホタヌキはゲロ鳥が居た位置で拳を振り降ろし、固まっている。


 そして、背後には、キングゲロ鳥の姿。

 キングゲロ鳥のくちばしの先についていた茶色い毛が、パラパラと地面へ落ちてゆく。


 あの一瞬であろう事か、キングゲロ鳥はタヌキの攻撃を回避したばかりか、反撃まで加えたらしい。

 早すぎてほとんど見えなかったんだけど……。



「今の攻防、リリンは見えたか?」

「……鳶色鳥はタヌキに二段蹴りをかました後、くちばしで毛をむしって逃走。タヌキは二段蹴りまではガントレットで防げたけど、最後のくちばし攻撃は肩に受けてしまった」


「技量が高すぎる……。タヌキとゲロ鳥なのに……」

「そして、今度はミニドラも参戦するらしい。二匹とも魔法を唱え始めた」



 いや、やめておけミニドラ!!

 お前たちの出る幕じゃない!!食われるぞ!!


 俺の心中を知る由もなく、ミニドラ達は魔法陣を完成させ、それぞれがその魔法陣を装備した。

 ナイトメアは尻尾を魔法陣に突き刺し、一体化。

 そして、魔法陣からは牙のような燃え盛る物体が出現。

 尻尾全体が薙刀の様な形となった。


 そして、ディザスターは右腕を魔法陣に通し、一体化。

 突き出された右腕全体が水で覆われて、指の先端に爪のような物体が出現。

 切り裂き魔のような爪はさぞかしよく切れる事だろう。


 二匹が突然見せた戦闘形態。

 明らかに、レベルが1000の生物ができる芸当じゃない。

 ホロビノはこんな変なドラゴンをどこから連れてきたんだ?

 いやまぁ、天龍嶽なんだろうけど、その天龍嶽にはこんな芸当ができるドラゴンがうじゃうじゃいるって事か?


 流石はドラゴン。今頃、タヌキを駆逐し終っている頃だろう。



「ヴィギルア!」

「くるる~」

「ぎゅろー」

「ぐるぐるきんぐー!」



 俺が妄想している間に、準備を整えた珍獣共が一気に勝負を仕掛けた。


 それぞれが得意な必殺技を発動し、各々狙いを定めている。

 ナイトメアが狙うのは、タヌキ。

 ディザスターが狙うのは、タヌキ。

 キングゲロ鳥が狙うのは、タヌキ。


 ……アホタヌキ涙目である。ざまぁ!


 それでも、アホタヌキはすべての敵に対応して見せた。

 1mほどの炎の槍と化しているナイトメアの尾をガントレットで受け止め、エネルギーを吸収。

 炎の槍は着弾した瞬間有爆を起こしたが、ガントレットの内部を通してエネルギーは別方向へ流されてしまった。


 その流された方向に居たのは、キングゲロ鳥。

 突然の放出攻撃にも慌てることなく、地面を強く蹴りあげ、飛翔。

 ……こいつ、ゲロ鳥のくせに空を飛びやがっただと。


 ゲロ鳥が進路を変更した事により、ディザスターの攻撃が先にアホタヌキへ届いた。

 ディザスターは地面を滑るように移動し、すれ違いざまにタヌキを切りつける。

 ガキィン!という良い音がして、火花が散った。

 しかし、起こったのはそれだけで、ディザスターの攻撃は失敗に終わった。


 そして、キングゲロ鳥は下降体制に入り、鋭い爪をアホタヌキに向けた。

 アホタヌキはディザスターの攻撃を裁いたばかりで、体勢が不乱れている。

 このまま行けば爪がタヌキを穿つ――、と思った瞬間、アホタヌキは体を乱回転させて拳を地面に叩きつけた。



「こ、これは、かつて三頭熊がリリンの雷光槍を無効化した技!」



 アホタヌキはどこで知ったのかその技を使い、地面を爆破させて土砂のカーテンを作成。

 その土砂に阻まれたキングゲロ鳥は、器用に土砂を蹴りあげて方向転換。


 一旦体勢を立て直すべく、地面に向かってって、ええええ!?

 おいリリン!なんでそこに居るんだよッ!?



「《対滅精霊八式エーテルダウンエイト!》」

「きん!ぐぅぅぅぅう!!」



 そんでもって、ノリノリでキングゲロ鳥を叩き落としたぁ!!

 決着ゥゥゥゥ!!!

 この勝負の勝者は大悪魔リリン!

 大悪魔の名に恥じぬ外道極まる乱入を見事に決め、勝負をかっさらったぁぁぁ!

 残りの参加メンバーは茫然自失!ホロビノは頭を抱えているぞ!!



「……ユニク見て、捕まえた!」

「おう。良かったな」



 ……自分で言っておいてなんだが、これでいいのだろうか?


 俺は周囲に視線を彷徨わせた。

 ミニドラ二匹は、すんごい顔でリリンを見ている。

 ホロビノは、ふへー。とため息を吐いたな。

 アホタヌキは……ガントレットをさっさとしまい、帰り支度を始めている。

 放っておけばすぐに帰るだろう。


 ノリノリで戦っていたミニドラ達には悪い事をした気がするが、まぁいいか。

 というか、任務成功しちゃったんだけど、これからどうしよう。


 そんな事を漠然と考えながら、俺は、リリンに抱かれているキングゲロ鳥を見て呟いた。



「……1億エドロ、ゲットだぜ!」



 ***********



「すごいよ!?あの鳥さん、キングだよね!?自分で「きんぐー!」って鳴いてるもんね!」

「……。」


「ワルトナさん?」

「……ホントに、いるのかよ……」



 鬱蒼な森に二人の少女の声が響いた。

 一人は、鈴としたどこまでも明るく元気いっぱいな声。

 もう一つは、暗く落ち込んだ声だ。


 そして、明るい声の持ち主セフィナは、ワルトナが呟いた言葉に疑問を持った。

 ワルトナの言うとおりに、この森にキング鳶色鳥がいるというから依頼書を書いたのである。

 その疑問は凄く真っ当なものだった。


 そして、ワルトナは特に慌てた様子もなく、セフィナの疑問に答えてみせた。

 この程度の失言で焦っていては、暗劇部員の指導聖母は名乗れない。



「あぁ、正直、見つかるとは思っていなかったんだ。だって、キングゲ……キング鳶色鳥は超珍しいからね。どのくらい珍しいかというと、100人冒険者を集めても知っている人がいないくらいさ」

「え!そんなに珍しいんですか!?それじゃ、見つからないですよね?」



 見つかる訳ないだろ……、僕の創作なんだから。

 冒険者を100人どころか、100万人集めても知っている奴なんかいないんだよ。


 心の中で、ワルトナはポツリと呟いた。

 そして、もの凄く深いため息もついた。


 ……で、あの鳥は何なんだい?

 ぐるぐるきんぐー!ってどう聞いても『キング』にしか聞こえないんだけど。



「そんなに珍しいなら全然見つからなくて、おねーちゃん、困っちゃいますよ?」

「見つからなくていいんだよ。僕らの作戦の為の時間稼ぎが目的なんだからね」


「時間稼ぎ?」

「そうそう。第一、キミが書いた依頼書では、キング鳶色鳥は体長20mの化物の筈だろう?というか、なんでそんな事を書いたんだい?」


「え?大きくて強いっていうから、そんくらいあるのかなって……」



 ワルトナは表面上で笑顔を作りつつも、心の中でツッコミを入れた。


 僕は、普通のよりの大きいって言っただけだろ!?

 それがどこをどうしたら、20mになるんだよ?このお馬鹿!


 リリンサと長い付き合いをしてきたワルトナは、内心ツッコミに慣れている。

 そして、毎日欠かさず天然ボケを挟んでくるリンサベル姉妹にはこれくらいがちょうどいいんだと、自信たっぷりに頷いて話を元に戻した。



「時間を稼ぐっていうのは、僕らが雇った冒険者たちが準備を終える為の時間を作るって事さ。キミのおねーさん達が森に入って2時間。おそらく彼らの準備は終わっているだろうけど、どのタイミングで仕掛けるのか見物だね」

「そうだったんですね!そういえば、あの人たちはワルトナさんのお知り合いでしたっけ?」


「知り合いって程でもないんだけど、一応、面識はあったって感じかな。僕というより、僕の前任者”聖典ヴァリアブル”が良く使ってた人たちで、実力の程は折り紙つきだ」

「折り紙が付いているんですか?なんか、安っぽい……」


「安っぽいのはキミの頭の方だねぇ。可愛いねぇ」



 でも、ボケ具合は若干セフィナの方が上だと、ワルトナは思っている。

 言葉で表すなら、100gと101gの違い程度ではあるが、少しだけセフィナの方がボケが多いのだ。



「もちろん分かっているとは思うが、冒険者に依頼したのは直接的な介入、武力行使を行う為だ。手っ取り早くリリンサとユニクルフィンを別れさせる事が出来るのなら、それに越した事は無いからね」

「うん!でも、私、ちょっとがっかりしている事があるんです」


「がっかりしている事?」

「おねーちゃんね、私が思ってたよりレベルが低いの。レベルが48471なんて、私はとっくの昔に通り過ぎたよ」


「あぁ、それはね……」



 その言葉を受けて、ワルトナはセフィナの勘違いを訂正しようかと思った。

 しかし、それは実行されることはなく、あくまで言葉での注意をするだけに止める。



「リリンサはあまり戦闘をしないらしい。僕が話を聞いた限りだと、ゆったり町を回っているそうだ」

「旅行が好きなの?」


「そうそう、そんな感じ。キミだって嫌だろう?憧れのおねーちゃんが、噂の大悪魔デヴィルみたいに暴力が大好きな暴れん坊だったらさ」

「むー。それはそうだけど、またおねーちゃんに魔法を教えて貰えると思ってたのになー」


「教えて貰えばいいじゃないか」

「だってレベルが低いんだよ?あんまり強い魔法を使えないと思う。この間だって杖で殴ってただけだもん。ランク7の魔法とかも使えないんだよ、きっと」



 盗賊相手にランク7の魔法なんかぶち込んだら死人が出るだろ。

 と、至極真っ当なツッコミをワルトナは心の中で入れた。

 しかし、セフィナの中の常識では、魔法の威力を落とす為に魔法のランクを下げるというのは非常識だ。


 相手に合わせて魔法のランクを落とす事をしない。

 魔法を完全にコントロールし、望んだ結果を望んだがままに手に入れる事が出来るセフィナは、殺さない程度の威力をランクに関係なく発揮することが容易なのだ。


 一般の魔導師では不可能なランク9の魔法を扱えるリリンサやワルトナであっても、魔法の打ち損じや失敗を起こす事がある。

 しかし、セフィナは一度取得した魔法は必ず、思いどおりの結果を成功させる。

 才能という観点でのみ見れば、人類の中でもトップクラスの実力を持つのがセフィナという魔導師だった。


「この子は、天才」と幼きリリンサに言わせたその卓越したセンスは、長き時を経て、真っ当に成長している。

 そして、それを良く知るワルトナは、リリンサの実力について少しだけ補足を行った。



「いやいや、僕はドラゴンフィーバーの時にリリンサに協力して貰ったけど、かなりの使い手だったよ。魔法の腕はキミに劣るものじゃない」

「……え!そうなんですか!?」


「そうそう。温厚だから普段はあんまり戦わないけど、怒ると怖いなんて噂も聞いた事があるしね。キミも怒らせちゃダメだよ?」

「う、うん。おねーちゃん、怒るとすっっっっっごく怖いもん。リンリンって鈴が鳴った後、いつも、泣かされちゃうんだもん……」



 若干元気が無くなったセフィナを撫でながら、ワルトナは思考を巡らせた。


 さて、ブライアン達は上手くやってくれるかねぇ。

 彼らの基本的な実力は、冒険者の中で最上級。

 そして、社会の荒波を渡って来た経験は、リリンやユニじゃ、遠く及ばない。


 彼等が、リリンを簀巻きにして連れてくる未来も十分にありえる。

 そうなったら僕は、感動的な再会でも演出してやるとしようかねぇ。


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