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第5話「タヌキとミニドラ」

「……本物のタヌキ踊りはとても参考になる。メモも取っておこう」



 ……意味が分からない。

 俺達はキングなゲロ鳥を探しに、もっと言えば、どう考えても罠であるこの依頼に乗ったふりをして、敵をおびき出す為にこの森に入ったはずだ。

 なのに、タヌキが踊っている。


 もう一度言おう。

 まっっったく、意味が分からない。


 しかも、リリンが興味津津な為に無視を決め込む事も出来ず、バッチリ足止めを喰らっている。

 もし、こんな姿を敵が見ているのだとしたら、もの凄く困惑しているだろう。

 そんでもって、ワルト辺りにこの光景を見られた日にゃ、「キミ等は底抜けの馬鹿だねぇ」と罵倒されているはずだ。


 ……いいかげん、その踊りも飽きたんだよ!このアホタヌキッ!!

 もう一時間近く経つって分かってんのかッ!?



「おい、アホタヌキ。お前は何しに来たんだよ?さっさと用件を済ませて帰れ」

「……ヴィギル?」


「タヌキ語は分らんって言ってるだろ?態度で示せ」

「……ヴィギルア!」



 そしてタヌキは、毛並みを『ふぁさ―』ってやった。


 ……。

 …………。

 ………………。

 お前の用件、毛並みを自慢しに来ただけッ!?!?



「え?それじゃ、お前の自慢話の為に、1時間も足止めを喰らったって事か?」

「ヴィギルア!」


「……帰れッッッ!!!」



 このアホタヌキィィィィッッ!

 俺達は、お前ほど暇じゃねえんだよォォォォォッッッ!!


 俺は体内に迸る全てのエネルギーを滾らせてバッファを起動し、全力でしっし!とタヌキを追い払った。

 そしてアホタヌキは満足げに一鳴きし、体を返して大人しく茂みへ向かっていく。

 どうやら本当に毛並みの自慢に来ただけらしい。


 ……タヌキって生物はどうしてこうも、人を馬鹿にするスキルが高いのだろうか。

 もう、生態系がそういうものなのだと納得するしかないレベルで腹が立つ。


 ホント、早くどっか行け。しっし!!


 ……ん?

 タヌキが茂みに入る前に、思わぬ生物がタヌキの進路を遮った。

 飼い犬ドラゴンことホロビノである。



「きゅあら!」

「ぎゅあ!?」

「くるる!?」



 ホロビノはタヌキの前に立ち、軽く鳴き声を上げた後、鷲掴みにしていた物体をタヌキに向かって投げつけた。

 ん?何を投げ……。ナイトメアとディザスターじゃねえか!!



「きゅあらー!」

「ヴィギルアン?」


「きゅあきゅあらら」

「ヴィーギルヴィー」


「きゅありあ」

「ギルギルー」



 あ、アホタヌキとホロビノが会話している……だと……。


 何故か始まったドラゴンタヌキ会談。

 というか、お互いに意思の疎通が図れるという事が驚きなんだが。

 タヌキは未知の生物だからいいとして、ホロビノがタヌキ語を理解しているというのが信じられない。

 やはり、俺達の知らない一面がありそうだ。


 ……で、ホロビノは、何をしようとしてるんだ?

 タヌキにミニドラを差し出して……もしや、二股疑惑の証拠隠滅かッ!?



「リリン、ホロビノは何をしようとしているんだろうな?」

「アレはたぶん、レベル上げをさせたいんだと思う」


「レベル上げ?タヌキでか?無謀すぎるだろ」

「獅子は己の子を崖から突き落とすという。だからホロビノも自分の子供に試練を与えたいのかもしれない」


「崖から落とされるよりも、致死率が高めだな。タヌキの前に叩き落とすとか、溶岩の中に放り込むようなもんだ」



 こう言っちゃなんだが、スパルタ過ぎるだろ。

 いくらドラゴンとはいえ、レベルが1000しかないミニドラがタヌキと戦えるわけがない。


 しかも、このアホタヌキはただのタヌキでは無く、とってもスペシャルなタヌキ将軍。

 俺には餌が差し出されたようにしか見えない。


 さらばミニドラ。出会って2時間しか経ってないけど、お前たちが俺の事を睨んできた事は忘れないから、安心して食われてくれ。



「そうか。とりあえず埋葬の準備をしておくとしよう」

「なんでそうなる。ホロビノは勝算のない戦いなどさせない。だから充分に勝ち目のある戦いになる」


「いや、流石に無理だろ。レベルが1000しかないんだぜ?」

「たぶんだけど、あの子達はレベルに見合わない強さを持っていると思う」


「なんでそんな事が分かるんだ?」

「ナイトメアはさっき、私の第九守護天使にヒビを入れた。どう考えても、レベル1000で出来る芸当じゃない」


「そんな大事な事は早く言ってくれよ!!」



 ミニドラが第九守護天使を壊しかけたって、どう考えても手に余る奴じゃねえかッッ!!

 ホロビノが眷皇種だという疑惑も有ったし、あのミニドラもひと癖ありそうだ。



「リリン、一つ提案があるんだが?」

「何?」


「この戦い、じっくり観戦しようぜ?」

「……うん。分かった。ミニドラを応援する!」



 よし、良い方向に話を持って行けたようだ。

 謎のミニドラコンビVSアホタヌキ。

 世紀の対決が始まろうとしている。

 実況中継はこの俺、ユニクルフィンと、平均的大悪魔リリンがお送りします!


 なお、俺はアホタヌキの勝利は揺るぎないと思っている。

 予想ではミニドラが蹂躙されるのにかかる時間は、おおよそ3分。

 タヌキが軽やかにミニドラを瞬殺し、勝利の舞いを踊る姿がはっきりと見えるぜ!


 そうと決まれば後は見るだけ。

 何気に俺は、タヌキの戦いをじっくり見た経験がない。

 森ドラとの戦闘は少しだけ眺めたが、すぐにタヌキが負けそうになって助けに入ったし、この間はホロビノとアホタヌキの戦闘は結局、観戦することができなかった。

 ……ちょっと楽しみになってきたかも。



「きゅあらん!」

「ヴィギルア!」



 そうこうしている内にホロビノとアホタヌキの間で話が纏まったらしい。

 アホタヌキは当たり前のように2本の足で立ち上がり、前足を器用に使って、「かかってこい」っとミニドラを挑発。

 赤いナイトメアはただでさえ赤い顔をさらに真っ赤に染めて、アホタヌキに突撃を仕掛けた。


 おおーと!唐突に戦いの火蓋が切って落とされたぁ!!



「ぎゅあろぉぉぉ!」

「……。」



 ナイトメア、真っ直ぐ愚直に突進を仕掛ける!!

 なにげに地面を高速で走り抜け、アホタヌキに急速接近!

 これは先制攻撃なるかッ!?


 しかし、タヌキはまったく慌てない!

 余裕を持ってバックステップを決めて距離を調整し、そのまま進路を反転、ナイトメアを向かいうっったぁぁぁ!

 目にも止まらぬ速さで繰り出されたパンチが、ナイトメアの右頬を抉るッ!!

 そして、ナイトメアは綺麗に放物線を描いて空を飛び、木と木の隙間へ、ナイスッ!シュートォォ!


 ゴーォォォルッ!!!

 先制点はタヌキッ!先制点はタヌキが上げましたぁ!!



「リリン。ナイトメア、瞬殺されたぞ?」

「あれ?おかしいな。でもきっと、ディザスターが仇を取ってくれるはず!」



 リリンの期待を一身に背負い、ディザスターが前に出……ない。

 どう見てもやる気無さそう。

 というか、自分がアホタヌキに勝てないってのが分かってるっぽい。


 見るからに嫌そうな顔をしていつまで経っても動かないディザスター。

 しかし、痺れを切らしたホロビノに後頭部をド突かれて、渋々動き出した。


 ナイトメアよりもコイツの方が強そうなオーラを感じる。

 さっきもいきなり飛び出したりせず、仲間を試金石にしていたし、頭も良さそう。

 案外こっちは良い勝負になるのかもな。



「くるる!」

「……。」



 ディザスターはその場で跳ねると一丁前に魔法陣を作りだし、地面へ放った。

 そして、魔法陣は地面に触れた瞬間に溶け込み、一体化。

 魔法紋が地中を広がってゆく。



「リリン、アレは何だ?」

「たぶん、地面に魔法をかけた。おそらく何らかの状態を変化させる魔法だと思う」



 状態を変化させる魔法か。


 いまいちピンと来ていない俺を置いて、ディザスターは行動を起こした。

 地面に向かって急降下し、そのまま激突……するかと思いきや、なんと地面に潜り込んだのだ。


 まるで池の中を泳いでいるかのように地面がさざ波立つ。

 こんな光景は見たこと無いが、一つだけ言えるのは……全然ドラゴンっぽくない!

 ぶっちゃけ、魚!

 つーか、翼があるんだから空を飛べよ!!



「なぁ、見たこと無い珍しい魔法だけどさ、空飛んだ方が効率が良くないか?」

「そうでもないかも。空を飛ぶだけなら上空180度を警戒すればいいだけ。だけど、地面の中も進めるのなら倍の360度を警戒しなければならない」



 へぇー。確かに言われてみればそうかもしれない。

 足元をスイスイ泳ぐ生物なんて、日常じゃまず出会う事が無いしな。

 一応、川の中に潜ったりすれば似たような経験が出来るかもしれないが、タヌキは陸上の生物だから川には潜らない。

 ……とも言い切れねぇ。


 なにせこのアホタヌキは何種類もの形態を持っている。

 ぶっちゃけ余裕で空を飛ぶし、素潜りどころか平泳ぎ、いや、クロールやバタフライすら出来るかもしれん。


 そしてそんな俺の予想は外れる事となった。

 そもそも、同じく土に潜るとかそんな必要性すらなく、あっけなく戦いの幕は引かれたのだ。



「……。ヴィギルア!」



 地面をじっと観察していたアホタヌキは、スイスイと泳ぐディザスターを完全にロックオン。

 すっ。っと静かに前足を上げたかと思うと、シュバ!っと勢いよく地面へ突き入れた。


 バッシャァ!っと良い音を立てて、弾き飛ばされるディザスター。

 それはまるで、熊が鮭を爪で捉えるあの光景そのもの。


 そして、ディザスターは訳も分からず地面に叩きつけられ、ビチビチと跳ねまわっている。


 ビチビチビチ……。

 ビチビチ……。

 ビチ……。


 しーん。


 あ、死んだ?

 第二ラウンド、……勝者、タヌキィィィィィィィィ!!



「リリン。こっちも余裕でタヌキの勝利だったな」

「うん。ちょっと期待しすぎたかも?でも可愛いから問題ない!」



 いや、可愛くても問題はあるだろ。主に、命の危険的な意味で。


 その後、勝利の雄叫びとばかりにタヌキは誇らしげに鳴いて、これ見よがしに毛並みを『ふぁさー』ってやっている。

 どんだけの毛並みをアピールしたいんだよッ!?タヌキのくせに女優気取りか!?


 タヌキを見ていても腹が立つだけなので、瞬殺されたミニドラ達へ視線を向けてみる。

 たぶん死んではいないと思うが……あ、ホロビノに回収されて、魔法陣の中に放り込まれた。


 いつの間にか準備されていた緑色の魔法陣へ放り込まれ、しばらくした後、二匹とも無事に動きだした。

 特に外傷はなく、ただ気絶していただけのようだ。


 そして再びホロビノに鷲掴みにされ、アホタヌキの前に投げ出されたナイトメアとディザスター。

 まさに、エンドレスに続く、悪夢ナイトメア厄災ディザスター

 そういえばホロビノも、心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)の一員だったっけ。

 しっかり、飼い主からスパルタ教育を受け継いでいるらしい。


 絶望の表情に染まるミニドラ達。

 なぜか、やる気十分なアホタヌキ。

 どことなく、にやけ顔なホロビノ。


 何とも言えない空気が辺りを支配し始め、ナイトメアが泣きながらの特攻を仕掛けたのを皮切りに、今度は乱戦へ至ってゆく。



「ぎゅあらー!!」

「くるるー!」


「ヴィギルアー!」



 今度は二匹同時に攻め入るが、アホタヌキは仁王立ちで迎撃。

 高速で連撃が繰り出され、返り討ちにあったディザスターが宙を舞う。

 だが、今度はリタイヤせずに持ちなおし、そのまま水ブレスを吐いた。


 激しい水流がタヌキを襲う!

 そしてタヌキは回避もせず、その水流を顔面で受けた!?

 ゴクゴクゴク……。と喉を鳴らして一気飲みぃぃぃ!

 あ、これは水分補給してやがるッ!!

 流石タヌキ!

 敵の魔法で喉を潤すとか、煽り方が半端じゃないッ!!


 その後、アホタヌキは、げふっ。っと一息ついた後、ディザスターへ向かって突撃し、容赦なく地面へ叩きつけた。

 もはや、悪魔の化身そのものである。



「リリン、だんだんミニドラが可哀そうになってきた。そろそろ助けに入るか?」

「……。」


「リリン?」

「ユニク、あの茂みが不自然に動いた。何かが隠れている」



 ……何かが隠れてる?

 俺には居るようには見えないんだけど……?


 だが、リリンは暗劇部員が隠れているのを見破る事が出来る。

 そんなリリンが居るというのだから居るんだろう。


 俺が確かめに行こうとグラムを構えながら歩き出そうとした瞬間、茂みが大きく揺れ、何かが飛び出した。

 そしてその茶色い何かは、真っ直ぐにアホタヌキとミニドラへ向かい、激突。

 アホタヌキとミニドラはそれぞれ吹き飛ばされ、その場には、見覚えのあるようで何かが違う一匹の生物のみが残った。


 ……あ、あれは!!間違いない、ゲロ鳥だ!



「ゲロ鳥出てきたぞ!?」

「うん、ちょっと違う?ユニク、確認してみて」


「よし、ここは俺の出番だ!いくぜ!!ぐぅぅうぐる!げっげぇぇぇ!!」



 ……。

 …………。

 ………………。

 あれ?



「返事が無いんだけど?」

「うーん?なんかいつものと雰囲気が違う気がする」



 確かに、若干体が大きいし、何より頭の形がおかしい。

 普通のゲロ鳥の頭は丸いだけだが、現れたアイツはアホ毛っぽい羽がちょこんと飛び出ている。


 だが、どう見てもゲロ鳥の仲間であるのは間違いない。

 ならば、絶対に鳴かしてやる!

 この俺が無視されるなど、許しがたい事なのだ!!



「ぐるぐるげっげー!」

「……。」


「ぐぅるぐるげっげぇぇ!」

「……。」


「ぐーーーるぐる!!げっげー!」

「……。」



 こいつ!まったく反応しねえ!!

 俺の鳴き声、完全無視。

 ちくしょう!!何がいけねぇんだよッ!!



「こんちくしょう!ぐるぐる……きっ、んげほげほ!」



 けほけほッ!!

 ちっ、変な所に砂埃が!!


 不完全な鳴き声となり、ここは一旦仕切り直そうと、俺は息を整え始めた。

 だが、その不完全な声を聞いたゲロ鳥は、いきなり俺に向き直り、高らかに名乗りの鳴き声を上げやがった。



「ぐるぐるきんぐぅー!」


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