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第7章プロローグ終「神が付けた価値」

「ユニクの所にワルトが居たのは予想外すぎたが、まぁいいか。アルカ、その後冥王竜が出てくるんだろ?ワルトは一緒に戦ったのか?」

「うん。そうだけど、先にドラゴンの群れが200匹くらい来た」

 

「200匹……。間違いなくお前が暴れたせいだろうな、ナユ。ん?なんか言えよ」

「……カレーは美味いのーー。おかわりじゃ!」

 

「コイツ……!」

 

 

 悪びれも無く皿を差し出してきた那由他に鋭い視線を向けながら、ユルドルードはカレーをよそる。

 寸銅鍋一杯にあったはずのカレーが、もう半分を切っている光景を見て、額の血管がビキビキと鳴るが、ひたすら我慢。

 

 今はユニクの状況を聞くのが先だと、冷静さを取り戻し再びアルカに視線を向けた。

 ……なお、よそったカレーには具を入れていない。

 

 

「ドラゴン200匹に冥王竜か。よく生き残ったな」

「最初は冥王竜ってのはいなかったよ?隠れて見てたっぽい」

 

「ん?じゃあ、雑魚の群れだったのか?」

「んーん。変な奴が居た。カラフルな色した変なドラゴン。ピエロ―ンて鳴いてた」

 

「「ピエロ―ン?」」

 

 

 なんだその奇声は?とユルドルードは首をかしげた。

 ドラゴンの鳴き声にはバリエーションがあるのは知っているが、流石に「ピエロ―ン!」なんてのは心当たりない。……と思いかけた所で、昔聞いた話を思い出した。

 

『天龍嶽の峠で、でか過ぎるピエロに襲われたから、なんとかして欲しい』

 

 そんな相談を不安定機構・深淵アビスから受けたユルドルードは、「竜の聖地である天龍嶽にピエロが出没するとか絶対にねぇよ!」と話を断ったことがあったのだ。

 当時の考えを改めて、へぇー。と感心するユルドルード。

 そしてすぐに、ユニクルフィン達が危険に晒されていた事を悟った。

 

 

「ちょっと待てよ。そんな個性豊かなドラゴンなら、相当強いだろ?なにせドラゴンは超階級主義。自らの個性を出すには、実力を示さなくちゃいけねえからな」

「そのピエロドラゴンなら聞いた事があるの。恵まれた才能を自分の趣味に費やす変わった奴がいるという話じゃな。もし、そいつが本気で技と技能を磨き続けたのなら、惑星竜に入っていた可能性すらあると、『999(トリプルナイン)タヌキ委員会』で話題に上がったからの」

 

「そんな強そうなドラゴンまで、ナユを見て逃げ出したのか……」

「いや、そ奴は事あるごとに脱走を企てていたらしく、冥王竜に目を付けられていたらしいの。今回、冥王竜がお主の子等の所に現れたのも、そのピエロドラゴンを連れ戻しに行ったというのが真相じゃろうな」

 

「……いや、案外、冥王トカゲも移住を考えてたりしてな。生き残ったドラゴンから、「マ~タ、冥王竜サン負ケタッテヨ!」「ダヨナ―。冥王竜サン、マジ、迷惑竜!」って言われてたし」

「ガチ泣きしてたからのー」

 

 

 アルカディアは、なんとなく、冥王竜に親近感が湧いた。

 成り上がりタヌキ将軍だったアルカディアにとって、一族を統べることの大変さは身にしみて感じる事だったからだ。

 

 頑張ったけど、報われない。

 そんな経験を数多くしてきたアルカディアは、心の中で冥王竜を慰めた後、再び話を元に戻した。

 

 

「そんなわけで、ゆになんちゃらとりんなんちゃらとわるなんちゃらの三人は変なドラゴンと戦って、見事に勝利したっぽい」

「……したっぽい?見てたんじゃねえのか?アルカ」

 

「その時には、私の前には真っ白いドラゴンが降ってきてて、それどころじゃなかった」

「白いドラゴンがついに出てきやがったか。で、率直に聞くが、その白いドラゴンってのは外に居るアイツか?」



 アルカディアはユルドルードが指差した窓の先を見下ろして、絶句した。

 そこはまさに死屍累々。

 数多のドラゴンが横たわりうめき声をあげているという、壮絶な光景だったからだ。


 そんな予想だにしなかった光景を見て、アルカディアは思った感想をそのまま口に出した。



「……。なにこれ?死に掛けドラゴン、那由他様の話よりも多くない?」

「それはな、山の麓に出現したタヌキ将軍の軍勢が攻め入ってきて、ドラゴンを蹴散らしたからだ」


「……。でも、あのタヌキ達は私と同じタヌキ将軍だった。ドラゴンには強い奴がいなかったの?」

「それはな、悪ノリした那由他が、バッファの魔法を掛けまくったからだ」


「……。もしかして、あの隅っこに居る茶色いゴツゴツした岩っぽい何かって……」

「あれはな、タヌキ将軍のなれの果てだ。漏れなく全員、レベル99999に到達したぞ」


「……。レベルが負けた!?う”ぎるあ!」



 召喚されたタヌキ将軍の中でも、アルカディアは上位のレベルに居た。

 もっさりゴワゴワヘアーは一回り体を大きく見せ、機嫌が悪かったせいで睨みつけたら、海を割るように道が出来たほど恐れられていたのだ。


 しかし、今は違う。

 超絶美しい毛並みを手に入れた自分と、もはや毛並みと呼んでいいのか考えるレベルの剛毛へと進化している、タヌキ将軍達。

 心底、ああならなくて良かったと、アルカディアは胸をなで降ろした。



「おじさまが言う白いドラゴンって、どれ?」

「ん?タヌキ将軍とは反対側、あの一際でかいドラゴンの横、ほら、あそこだよ」


「……あ!あいつだよおじさま!!アイツの吐いた炎が私の毛にトドメを指したんだよ!う”ぎるるあ!」



 やっぱりそうか……。とユルドルードは考え込んだ。

 あの白きドラゴン、『希望を戴く天王竜ウィルホープ・ウラノス』には特別な思いがあるからだ。


 過去、ユルドルードのパーティーが戦った最後の相手。

 火星竜、水星竜、金星竜、地星竜との親善試合を終え、余興として戦いを申し込んだ相手がこの天王竜だったのだ。



「アルカ、あの白いドラゴンはユニク達にどう関係してる?もしあいつがユニク達に危害を加えるような存在なら、今ここで始末することも視野に入れなくちゃいけねぇからな」

「ペットだよ?」


「…………は?」

「あの白いドラゴンはリンなんちゃらのペット。ソドム様が「くははは!クソ情けねぇなぁ、ホープ!飼い犬になり下がるとは俺のライバルだったお前はどこに行きやがった?」とめっちゃ爆笑してた」


「……どういうことだよッッ!?」



 え?は?天王竜がリリンちゃんのペット?ありえんだろ!!っとユルドルードは目を見開いて覇気を放った。

 瀕死の境に居たドラゴン達はその覇気に恐怖し、最後の力を振り絞り岩陰に隠れた後、気絶。


 轟々と垂れ流す波動を隠しもせず、ユルドルードは思ったことを口にする。



「流石にどういうことなのか知らないのは問題すぎるッ!!誰が事情を知っている奴を連れてこい!」

「ソドムでいいかの―。ほれ!」


「ヴィギュリオオン!?」



 那由他は空間に手を突っ込むと、小柄なタヌキを掴み、引きづり出した。

 まるで小タヌキのようにつまみ上げられたそれは、『タヌキ帝王・ソドム』。


 ソドムは一瞬だけ、きょとん……。とした顔をしたが、自分を掴み上げている存在が那由他であると悟ると、びしぃ!と背筋を伸ばし姿勢を正した。

 心の内側では怒りに感情を高ぶらせ、「アルカ……なにしやがった?覚えてろよ……」と鋭い殺気を放ちながらも、大人しくしている。

そんな『借りてきたタヌキ』状態になっているソドムへ、ユルドルードは語りかけた。



「……。よぉ、クソタヌキ。俺のこと分かるか?」

「はっ。分かるに決まってんだろ、人間もどき。お前らから受けた屈辱を忘れた日はねぇからな」


「おお怖い怖い。で、お前にゃ言いたいことが山ほどあるが、まずは聞きたい事がある。天王竜についてだ」

「……なんでそんな事をお前に教えなきゃなんねぇんだよ。断る」


「アルカ……鍋を持ってこい。そして、コイツに喰らわせてやれ」



 突然の指名に困惑しながらも、ユルドルードが意図している事を正しく理解したアルカディア。

 真っ直ぐにカレーの元へ向かい、寸銅鍋ごと抱えて持ってきた。


 そして、お玉でカレーを掬い、スプーンで一口分を取り分けてソドムの口元に近づけてゆく。



「ソドム様、あーん」

「や、やめろアルカ!それは何だ!?泥にしか見え……ぐふっ!」

「それ以上の発言は儂が許さん。喰うのじゃの」



 そして、アルカディアはソドムの口にスプーンをねじ込んだ。

 ソドムを押さえつけ、好き放題攻める。

 そんな光景を何度、夢見たことかと、アルカディアは何とも言えない幸福感に包まれた。


 そしてソドムも、カレーの美味さに幸福となった。



「……うま!?なんだこれは!?」

「皇種カレーだ。腹いっぱい食わしてやるから、俺の質問に答えろ」


「……いいだろう。何が聞きたい」

「あの白きドラゴン、天王竜の事だ。アイツはリリンちゃんに飼われているらしいが、知っている限りの事を話せ」


「アイツはな、王蟲兵にやられて子竜に転生したらしい。アイツがあそこまでやられるという事は、王蟲兵の中でも最上位の奴だったのかもな。で、弱り切った所でリリンサに見つかった」

「それは、偶然なのか?」


「らしい。そんでホープはリリンサ達と行動を共にするようになったんだとさ。ホープは竜としての古いしきたりに飽き飽きしていたらしく、たまにはノビノビと変わった生活をしたかったんだと」

「……ドラゴンって、自由な生き物ものなんだな」


「まぁ、あいつもそれなりに楽しくやってるんじゃねえの?チョイチョイ酷い目に合うらしいが」

「天王竜が酷いって言っているとか、どんな事だよ……」


「……ちょっと耳を貸せ。これは男にしか分からねえ話だから」



 ソドムはユルドルードを手招くと、ひそひそ話を始め、60秒後、ユルドルードは言葉を失った。



「……天国から見てるか?アプリ。お前の娘は母親似らしいぞ。嬉しいだろ?お前、ドMだったもんな……」

「……あいつって、ドMだったんだな……」



 たそがれる英雄と帝王。

 にやける神獣。

 首をかしげる将軍。


 不可解な空気が漂い始め、しばらくの沈黙の後、ユルドルードは正気に戻った。



「それにしても、ペット扱いとはな……」

「現時点での戦闘力じゃホープの方が上だが、『内蔵する魂』が表に出てきたら話は別だ。今のあいつじゃ太刀打ちできないだろうし良いんじゃね?」


「つーか、お前も気が付いてるのかよ……」

「あんだけ加護が特盛りなら俺じゃなくたって勘ぐるだろ。気が付いた以上、じっくり観察すれば見えるからな。それよりも、さっきの美味い奴、はやく寄越せよ」


「……3匹で仲良く食ってろ。俺は天王竜に会ってくるからよ」

「あぁ、そうだ。冥王竜はユニク達を殺すって滾ってたぞ。あのままじゃ返り討ちにあっただろうから、ホント雑魚も良いとこなのが笑えるがな」


「情報感謝するぜ、これも食っていいぞ、ソドム。……それにしても、あの野郎」

「分かってるじゃねえか。お?フルーツヨーグルトか」



 ユルドルードは、人外のオーラを纏わせて窓から飛び降りていった。


 すれ違ったアルカディアは、体の毛が全て逆立ち、冷や汗が吹き出している。

 あまりの恐怖に、「おじさま?」と小声で声をかけたが、返事が返ってくる事は無かった。




 **********



「……あ。誰か来たっすぅぎやあああああああ!?」

「おい、黒トカゲ。遺言はあるか?」


「な、なにするっすか!?せっかく腕が生えかけてたっすよ!?半分くらいまでお師匠様に治してもらったのに!」

「それが遺言でいいんだな?」


「ひ、ひぃ!!この人マジっす!!マジで怒ってるっぽいっす!?俺が何したって言うんですっすか!?」



 ユルドルードは無言で神愛聖剣を振りかぶり、ギロリと侮蔑の視線を向け、最後の決別の言葉を冥王竜へ投げかけた。



「命を助けてやったってのに、お前はユニク達を殺そうとしたらしいじゃねえか。俺に喧嘩を売るなんて、度胸はどの惑星竜よりのあると褒めてやるよ」

「……もうバレたっすか!?あ!いや違うっす!!誤解っす!!」


「ごかい?五回殺せばいいのか?よし、《起動せよ――》」

「違うんすよ!!勢いで殺すって言っちゃっただけで、ホントはそんな気は無かったっす!信じて欲しいっす!!」


「一応理由を聞いてやろうじゃねえか」

「俺は、お前のせい、あ。貴殿らに敗北したせいで手下のドラゴン達から馬鹿にされる毎日を送る事になったっす。だから、恨み……赤き先駆者を捕まえてくれば、優位に立てると思っ……」


「とりあえず、逃げられねえようにツチノコに戻しておくか、おら!」

「ぎゃあああああ!」



 気晴らしに冥王竜の手足を削いだ後、ユルドルードは天王竜へ視線を向けた。

 正直な所、英雄として弱肉強食の世界に居るユルドルードは、ユニクルフィン達の身に何かが起こる可能性をある程度は覚悟していた。

「俺は英雄になる!」と言いきったユニクルフィンを信じているというのが一番の理由であり、自らの身を守るというのは、その先の目標へ到達するための切符だとも思うからだ。


 ……だから、冥王竜に八つ当たりをするというのも、本来のユルドルードからはあり得ない行動だった。

 ユルドルードは内心で、タヌキまみれな自分の人生を呪った。



「おまえは、天王竜だよな?」

「きゅあ!」


「リリンちゃんのペットなんだってな。こんな事、俺が言うまでも無い事なのかもしれねえが……。俺の代わりに、あの子たちを守ってやってくれ。頼む」

「きゅあら!」



 ユルドルードは『天王竜・ホロビノ』に深く頭を下げた。

 そして、ホロビノは、それが当然であるかのように、軽く鳴いて返事を返した。



 **********



「カレーを喰いそびれたせいでドラゴンが滅びかけるとか、予想できねーよ!!」



 神は笑い続けたが為に腹筋を痛め、ソファーの上で大人しくしていた。

 だが、視線は空間に映し出された映像から話さず、笑わないように必死に声を殺している。



「それにしても、ピエロドラゴン≪ユニク・リリン・ワルトナ≪冥王竜≪雑魚惑星竜≪ホロビノ≪ソドム≪那由他≪カレー……か。カレー強すぎだろ!!」


「まったく。今日の昼食はカレーにしよう。……で、そろそろ本筋にも変化があるようだね」


「さぁ、敵役も判明し、物語は加速するばかりだ。次のエピソードもボク()を楽しませてくれると信じているよ」


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