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第7章続続々プロローグ「神が授けた能力」

「みんな、喰われちゃったっすよ!?水星竜さんも、金星竜さんも、地星竜ちゃんもみんな、みんな、喰われちゃったっすよ!?!?」



 ごりごりごり……と、ナユの咀嚼音だけが響いている。

 周囲には、ナユに喰い散らかされ死んでいるダベ竜と、その中で意識を失っているも辛うじて生きているダベ竜が混ざりあっているという地獄のような状況だ。


 そんな地獄の情景の中で意識があるのは、ナユと土星竜と海王竜。それに俺と、座り心地のいい冥王ツチノコ。

 ナユは、「もぎゅもぎゅ……噛めば意外と味が出てくるのー。お?こんな技を隠し持っていたのかの。これを使えば良かったのにのー」と惑星竜達を味わっている。

 何か食っているのは、いつもの事だしいい。

 内容に問題があるような気がしないでもないが、まぁ、いい。


 問題は土星竜だ。

 土星竜はナユの近くに落ちている卵を悲しそうに拾い集めながら、時折、視線を遠くの山に向けている。

 言葉こそないものの、「……どうしてこうなった………。」と、今にも呟きそう。

 コイツとはいい酒が飲めそうだ。


 さて、俺はどうしたもんかな。

 ナユの表情から察するに、今度こそ機嫌を直していそうな気もする……が。まだ様子を見よう。


 とりあえず、「喰われちゃったすよ!?みんな、喰われちゃったすよ!?!?」とうるさい冥王ツチノコを落ち着かせた後、事態の終息を計ろうと思う。

 俺は、錯乱している冥王ツチノコの鼻先を蹴飛ばした。



「喰われちゃ、あいたっ!」

「喰われたのは見りゃ分かるだろ。で、喰われた理由の方も分かるのか?」


「え?腹が減ってたからじゃないっすか?」

「……それもある。が、ナユが敵を捕食するのには他にも理由があるんだよ。あの後ろの珠を見ろ」


「あの、みんなを喰っちゃった奴っすか?」



 ナユの後ろで沈黙している赤黒い球体。

 さっきまで歪に変形し、大きな口の形をしていたそれは、惑星竜を全て体内に収めてから微動だにしていない。


 あの球体『悪喰あくじき=イーター』は、ナユの『口』であり、『歯』であり、『胃』であり、『脳』だ。

 ナユの意思のままに、この世界のすべての万物と事象を、捕食し、咀嚼し、留飲し、記憶するための器官。


「この世の万物をその舌と胃に納め、最も美味なるものを見つけよ」


 これは神から直接授かった『神託』であり、それを実行するために、神から授かった力の殆どを使い作りだしたのがこの『悪喰=イーター』なのだと、ナユ自身が語った事がある。


 悪喰=イーターの存在理由は単純明快、より多くの物質を効率よく喰らう為。

 ナユの小さい口の代わりに、あらゆる物質を噛み砕き圧縮し、ナユの口内へ送る。

 そして、ナユはそれらを味わい、咀嚼し、飲み下して……その”食べ物”に蓄えられていた経験レベルと現象を得るのだ。


 つまりナユは、喰った生物が持っていた、全ての知識、技術、経験を飲み下し吸収。その後は自らの能力として扱う事が出来る。

 今まで数千年の時を経て、多くの生物、竜も人も、虫も魚も、王も皇も喰い続けてきたナユは、世界最大の知識『全知』を持つ者であり、あらゆる力で最強の蟲量大数の『全能』と対を成す。


 ナユは、ありとあらゆる知識、人類が研鑽の末に生み出してきた魔法でさえも全てその身に宿す、全世界最強の”魔道師”でもある。



「ということで、お前と戦ってたときも、何気なく腕を喰ってたの気が付いたか?」

「気が付いていたっす!うわー。って思ったっす!」


「つーことで、ナユはお前の持つ技能の全てを扱う事ができる」

「あ、そういう事だったっすね!俺の決め台詞、『拳に纏え……核熱の因子(ニュートリノ)!』に似てる技だな―と思ってたっすけど、パクリだったんすね!」



 パクリ……か。

 そういうことは思っていても口に出さない方が良いぞ、冥王ツチノコ。

 ナユが動きを止めてこっちを見てるし、今にも喰われそう。


 俺は手仕草だけで「すまん!」と合図を送ると、ナユは露骨に「ちっ。」っと舌打ちをして、土星竜に向き直った。

 そして、ぎょ!?っと目を見開く土星竜。


 しかし、土星竜は稚魚ドラゴン達とは格が違った。

 ナユに睨まれたら殆どの生物がまったく動けないか、恐怖に駆られて逃げ出すっていうのに、土星竜は腕を構え、臨戦態勢を取ったのだ。



「那由他様と相まみえるのもいつ以来でしょうか?」

「200年前に、タヌキ大戦争をした以来じゃの」


「ご教授、願えますかな?」

「いいじゃの。天王竜がいればなお良かったが、お前だけでもそこそこ楽しめるからの。で、後ろのヘタレ海王竜。お前は参加するか?」



 お?今まで沈黙を保っていた海王竜が戦うのか?

 だが、海王竜は首を横に振り、拒否。

 若干残念そうにナユが視線を向けたが、その意見が変わる事は無かった。


 ……どういうことだ?

 ナユに睨まれても意見を変えなかったという事は、つまり、海王竜はナユの意見に拒否を突きつけられる存在だという事だ。


 そんな存在が、ただの眷皇種であるはずが無い。

 知っている可能性は限り無く低いだろうが、冥王ツチノコに聞いてみよう。



「おい、冥王竜。あの、海王竜ってのはどんな奴だ?」

「海王竜さんっすか?俺は最近惑星竜になったんで話したこと無いっすー」


「会話すらしたこと無いとか……ツチノコに聞いた俺が馬鹿だったか」

「でも、実は惑星竜の中で一番強いって噂っすよ?」


「どういうことだ?」

「なんでも、土星竜さんやお師匠様の天王竜様よりも古くから惑星竜をしているらしいっす。でも、あくまでも噂で、実際には戦ってる所を見た竜はいないっす!」


「もう一つ聞くぞ。不可思議竜はいつもこの天龍嶽に居ないのか?」

「あんまりいないっす。たまーにふらっと帰ってくるっすけど、突然だから惑星竜全員で顔を合わせる事とかしないし、俺も3回くらいしかお話をさせていただいた事は無いっす」



 まぁ、そうだよな。

 始原の皇種とかいう神的な存在が、そうやすやすと部下と触れ合うなんて事はしないだろうし。

 ……ナユは時々、タヌキを膝にのせてモフッてたりするが、アレは特別だ。


 それにしても、やっぱり、海王竜には手を出さない方が良いみたいだな。

 ナユが「ヘタレ」と呼ぶ存在など、思い当たる節は一つしかない。


 そうと分かれば、手出しは禁物。

 あっちは土星竜とナユに任せて、俺達は事態の終息を計ろう。



「さて、冥王竜。お前がナユにボコられた理由を知りたくはないか?」

「さっき、那由他様は「食事の邪魔をされた」って言っていたっすね?でも、心当たりが無いんすけど?」


「あぁ。実はな――」



 俺は、冥王ツチノコにありのままを話した。

 まったくの脚色無し。

 皇種を狩る為に仕掛けた罠の待ち時間でカレーを作ろうと思い立った経緯から、冥王竜が来るまでを事細かに語る。


 そして、俺の話を聞き終わった冥王ツチノコは、目を見開いて、口を限界まで広げて叫んだ。



「俺、関係ないじゃないっすかぁぁぁぁ!?!?冤罪どころか、完全に八つ当たりっすよね!?」



 おい、そんな事を言うんじゃねえよ!

 ナユの機嫌が悪くなるだろうがッ!!


 冥王ツチノコが叫んだ瞬間、ナユと土星竜が戦っている場所からものすっごい音が聞こえた。

 稚魚共だったら、確実に死んでいるであろう攻撃を必死に耐える土星竜。

 すまん、土星竜。

 このツチノコには俺がきつく言っておく。おらッ!



「痛い!なにするっすか!?」

「一つ覚えておけ、冥王竜。ナユには常識が通用しねぇ。なにせアイツの脳味噌は喰う事しか考えてないからな」



 あ、今度は凄まじい閃光が飛び交ったな。

 そこら辺で気絶していたダベ竜達が巻き込まれてゆく。


 すまん、ダベ竜。

 お前らの怒りは俺が変わりに発散しておく。おらッ!



「また痛いっす!……じゃあ、俺がこんな理不尽な目にあっている原因は……?」

「あそこに落ちてる燃えカスだな。ほら見てみろ。あんな姿になってもレベルが消えてねえ。ナユのヤバさが分かるだろ?」


「ホントっすね……。マジ怖いっす!」

「で、アレは元々黒い鱗のドラゴンだったらしいんだが、心当たりはあるか?」


「鱗だけで判別とか不可能っすよ。元に戻せないっすか?」



 復元か……。

 俺はあんまりやった事ねえが、散々アプリがやるのを見ていたし、なんとかできるだろ。


 俺は、断片的になっている記憶の中から、時空魔法の最高峰を探しだす。

 確か――。



「《赤の時針、青の分針、緑の秒針。愛しき我が子らは、歩み違えど、再び重なり合う運命なり―命を巻き戻す時計王(クロノス・グラス)―》」



 とりあえず、魔法をこの場に留めて置く為の”より代”が必要なんだが、俺は魔道杖とか持ってないし、何か代わりになりそうな……お?これでいいや。

 お前はツチノコなんだし、角とかいらないだろ。おらっ!


 目に止まった冥王ツチノコの角をへし折ってから魔法を纏わせ、時間を巻き戻す魔道具を作成。

 後はこれを突き刺せば回復するはずだが……。その前に再生を邪魔するナユの炎をどうにかしねえとな。


 俺は腰に刺していた神愛聖剣を抜き、刃を燃えカスに通した。


 神愛聖剣には『万象断絶』という機能がある。

 これは、この剣で攻撃した場合、同系統の物質全てに同じ効果を及ぼすという能力だ。

 だが、通わす魔力を調整することによって、同じ因子を持つ物体に、どの次元にあるのかどうかに関わらず影響を与える事が出来るようになる。


 簡単に言うと、この剣で斬ったら、自分の複製を別の次元に置いておいたとしても、同時に破壊することができるのだ。

 つまり、ナユの炎によって本体が別の次元に分け隔てられていようとも、この剣で斬ったのならば破壊できるし、破壊したのだから因果が外れ、再生を受け付けるようになるはず。


 そして、俺の予定どおりの結果となった。

 神愛聖剣の刃がするり通り過ぎた後、纏っていた炎が揺らめき、消えた。


 そのまま放置すれば命も消えてしまうが、1秒の時間さえあれば十分だ。

 作成した『命を巻き戻す時計王』を突き刺し、燃えカスの時間を巻き戻す。



「……ぎーぎー?」

「……あ。」



 あ。って間の抜けた声を出すんじゃねえよ、冥王ツチノコ。

 失敗したかと思ったじゃねえか。


 だが、無事に成功したらしい。

 無残な姿だった燃えカスは以前の姿を取り戻し、普通のドラゴンになった。

 特に言う事のない普通さ。ザ・ドラゴン!って感じだな。


 さて、話を聞いても良いんだが、ドラゴン語を話すのは面倒……あ、俺達が燃えかすを復活させた事にナユが気付いた。

 必死で抗っていた土星竜を一撃で沈め、俺達の方へゆっくり歩いてくる。


 ナユが来る前に、冥王ツチノコとの約束を果たしちまおう。

 俺は冥王ツチノコを神愛聖剣でぶった斬り、欠損していた四肢の根元を薄く切り落とした。



「なにするっすか!?」

「なにするって、こうするんだよ!」



 続いて、命を巻き戻す時計王を冥王ツチノコの鼻先に突き刺す。

 目を白黒させ声にならない呻きを上げながら、光り出す冥王ツチノコ。


 いや、既に手足は生えたし、冥王トカゲに進化している。

 このまま翼が生えればいよいよ、冥王竜に戻れる……って所で、ナユが到着。


 無言で蹴りを入れて『命を巻き戻す時計王』をぶっ壊し、俺に視線を向けた。



「なんじゃユルド。そいつを生き返らせたのか?」

「あぁ、もういいだろ?ナユ。だいぶストレスも解消できたんじゃないか?」


「そこそこじゃな。儂の怒りはまだ燻っているが、堪えられぬほどではないといった所かの」

「そりゃあ良かった。後はコイツに話を聞いて、謝らせれば万事解決だな」



 ぎーぎーと鳴いていたザ・ドラゴンは、状況を飲み込めていないようで、周囲を見渡してキョロキョロするばかり。

 見かねた冥王トカゲが、「汝は、どうしてあのような事をした?」と威圧感たっぷりに問いただしている。


 そして……ザ・ドラゴンはごくりと唾を飲み込んで、意を決したように片言で喋り出した。



「オナカ、コワシテテ……」

「……。腹を壊すなど、気高き竜族にあるまじき痴態だ。命を以て償うが良い《冥王の(プルート・インパク)……》」

「ふむ?どうして腹を壊したのじゃ?」


「冥王竜サンノ部下ハ、ミンナソウ。竜ヅカイガアラクテ超絶ブラックダカラ、ミンナ体、壊シテル」

「……。」

「つまり、このトカゲが悪いんじゃな?」


「ウン。」



 ナユが良い笑顔でじりじりと冥王トカゲに迫ってゆく。

 冥王トカゲは後づさろうとしたが、いつの間にか背後には海王竜と土星竜が立っていた。


 前門のタヌキ、後門のドラゴン。

 トカゲに抗う術は無い。



 **********



「そんなわけで、儂はデザートとして冥王竜を喰い散らかして腹ごなしをした後、この天龍嶽でくつろいでおったという訳じゃの」

「……結局食べられてる……。でも生きてたよ?」


「喰い尽してはおらん。死んでないから転生もしないし、体の再生には暫くかかるじゃの。それが儂が与えた罰じゃ」



 アルカディアは、頬を引きつらせて笑っていた。

 強さに差はあれど、ソドムと同じ眷皇種が一方的に食い散らかされるという前代未聞の事態に、思考が追い付いていないのだ。


 しかし、止まり掛けている思考の片隅で「眷皇種……おいしいのかな」と考えているあたり、アルカディアもまた、食欲に従順なる者『タヌキ』。


 そして、アルカディアは減ってきたお腹をさすり、ユルドルードにおねだりをした。



「おじさま、カレーっての食べたい」


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