第7章続・プロローグ「神が認めた暴虐」
「絶滅じゃの……この目に映る竜をすべて殺し、頭と尾を並べて謝罪の文をしたためさせてやる……の」
「やべぇ事になった……」
ユルドルードは、人間の形をした”何か”を見て、恐怖を抱いていた。
この人外なる化物、その正体はタヌキ。
タヌキなのだが、神から直接力を与えられたという、想像を絶する存在なのだ。
そんなヤバい生物が怒り狂っている。これは、マジで大陸が滅ぶ危機だとユルドルードは即座に行動を起こした。
怒りという物は、時間が経つにつれて膨らんでいく場合がある。
そんな事になれば、まず手に負えない。
怒りが育ちきる前に、発散させなくてはと、ユルドルードは探り探り、那由他へ声をかけた。
「いきなりどうしたんだよ、ナユ?空が爆発したが、何があった?」
「トカゲ風情が儂の前で粗相をしたのじゃ。それも、食事中にな。種族が滅ぶには妥当な理由じゃの……」
……理由がしょうも無い!!だけど、ナユがキレるのもしょうが無い気もする!!
ユルドルードは内心で叫びながら、状況の分析を終えた。
那由他はスプーンを口に入れようとした瞬間、ふと、ドラゴンに視線を向けてしまった。そして、見られていると思っていないドラゴンは……。
卓越した経験を持つユルドルードは、直ぐに答えに辿り着き、頭を抱えたくなった。
そりゃ、カレーを食うという瞬間にそんなもん見せられたら俺だってキレる。と妙に納得しつつも、事態はそんな生易しい物では無い。
このままいけば、那由他は怒りに任せてのドラゴンを狩る。
そうなれば、周囲に何が居ようとも関係なく、人類滅亡クラスの魔法が連発することになるのだ。
過去の文献から答えを導き出したユルドルードは、人類を守るための戦いを一人で始めた。
「ナユ。状況は察したぜ。お前の怒りはもっともだ。あんな教育のなっていない竜は滅ぼした方が良い」
「じゃの。ならばユルド、ちと空を飛んでおれ。なぁに儂の前から竜を消し去る程度、10分で全部終わるからの」
「待て待て待て。そのやり方だと大陸ごと焼き払うつもりだよな?」
「こんがりウェルダンじゃ。鱗の一枚も残してやらん」
「ふざけんな!周囲の迷惑も考えろよ!!タヌキも吹き飛ぶぞッ!!いいのか!?」
那由他は苛立ちを隠すことなく、視線をユルドルードに向けた。
ぞくりとした悪寒がユルドルードを襲うが、今は引くべきではない。
人類をその背に背負ったユルドルードは、絶大なる化物へ、恐れつつ立ち向かった。
「まぁ、聞けって。その方法だと、被害の割にはドラゴンを殺し漏らすかもしれねぇ。なにせあいつらは空を飛ぶし、高位竜ともなれば魔法だって使える。複数の高位竜が防御魔法を全開で張ったのなら、耐えきるかもしれねえぜ?」
「何が言いたいじゃの?回りくどいのは好かんぞ」
「せっかくだし、天龍嶽に乗り込もうぜ!」
「……。その案、乗った《次元の獣道》」
そして、転移魔法が構築され、天龍嶽に続く道が開かれた。
那由他は無言で転移魔法をくぐり、ユルドルードもその後に続く。
いくら英雄といえど、始原の皇種と1対1で戦うのは、無謀を超えた悪手でしかない。
人間を守る事を最優先に考えたユルドルードは、転移魔法の中を進みながら、密かにドラゴンに謝った。
*********
んー。いつ来てもここはヤベェ雰囲気だな。
もう2度と近寄らねえと、アプリとプロジアと一緒に誓ったが、こんなどうしようもない理由で来る事になるとは思わなかったぜ……。
俺達は天龍嶽の中腹、『竜の湾』と呼ばれる広い場所に居る。
ここは天龍嶽の中心付近であり、広く整地された岩石地帯。多くの竜がこの場所で訓練をし、時々だが、眷皇種の『惑星竜シリーズ』も姿を現す場所だ。
あぁ……。3人で旅をしていた時に、調子に乗ってここに着て、酷い目に遭った記憶が蘇ってくる。
あの時に戦ったのは、『水星竜』と『金星竜』だったっけ。
激戦の末に引き分けだったけど、俺達有利な条件での勝負だったし、本気の殺し合いなら瞬殺されていたかもな。
今なら、水星竜と金星竜、2対1でも戦えると思うが、それ以上の上位竜、特に、『天王竜』とかが出てきたらヤバい。
あいつと『土星竜』は別格だ。神愛聖剣を開放しても勝てるかどうか分からない戦いになるくらいにはヤバい。
とりあえず、姿を隠す魔法を使って、様子見をするべきだな。
この魔法はじじぃとの”隠れんぼ”に勝利するためにアプリと開発した特別製だし、そう簡単には見破れまい。
「ナユ。ほら、間抜けな面した竜がいっぱいいるぞ。ストレス発散して来い。俺はここで見てるからさ《夜叉に隠れて酒を飲む》」
「……。行ってくるの」
そして、ナユは崖から飛び降りた。
さりげなく原初識聖界を掛けてみたが、妨害されなかったという事は見てろって事だろうし、世界最高峰の戦いを見物させて貰うとしよう。
俺は意識を集中して、ナユの視界と聴覚を同期した。
目の前には数千匹のドラゴンが、平和そうに暮らしている。
あぁ、心が痛む。
「クハ―。今日ノ訓練モ辛カッタ。美味イモノ食イタイー」
「ダナー。コンガリ焼イタ肉食イタイー。肉!!」
「……。肉か?そんなに喰たいのなら、喰えばよいじゃの。ほれ」
ナユは手に持っていた『轟々と燃え盛るソレ』をダベッていた竜の前に投げ捨てた。
驚愕に目を見開くダベ竜。
片言だろうと言葉を喋る個体だし、レベルは当然、99999。まぁ、天龍嶽のいる時点で殆どがそうだろうし、気にするほどではない。
むしろ、レベルが中途半端な奴の方が危険だからな。
そんな訳で、最初の邂逅は雑魚戦からだな。
ちなみに、轟々と燃え盛っているのは、ナユの食事を邪魔したであろうドラゴンだったものだ。
空で爆裂させてそれでお終いなんて、ナユはそんな優しい性格じゃない。
辛うじて竜の形をしているそれは、なんと、レベルが表示されている。
つまり、生きているって事だ。
ナユが何をしたのか知らないが、あんな状態で生かしてあるとか、世界最高の知識は伊達じゃない。
拷問や処刑法といった知識すらナユは持っているし、ついでに言えば、もの凄くマニアックな夜の知識も完全完備。
……色んな意味でヤバい。
あんな幼い外見で、耳年増どころか、どんなプレイも完全網羅だとか考えたくない。
お?そうこうしている内に、ダベ竜達が正気を取り戻したみたいだな。
鋭い爪をナユに向けて威嚇し始めた。
「オ、オ前!ナンテ酷イコトヲ!!」
「ドウヤッテココニ入ッテキタ!?」
「《ふぅー。》……失せろ。雑魚が」
スパンッ。っと軽い音をさせて、ダベ竜が爆ぜた。
まるで蝋燭の灯を消すかの如く、吐息だけで殺しやがった……。
そして、周囲でナユを見ていたドラゴンが一斉に騒ぎだす。
口々に、「敵襲ダー!」とか、「逃ゲロ―!」とか言っている。
なお、そいつらが3文字以上発音する事は無かった。
光の筋となったナユが、声を出したドラゴンを順番に素手で刺し貫き殺したからだ。
この一瞬で、おおよそ500匹の命が散った。
ドラゴン大絶滅である。
「静まれ……者どもよ。一体何があったというのだ?」
阿鼻叫喚地獄と化したこの場を鎮めるように、空から真っ黒いドラゴンが降りてきた。
流暢な言葉遣いだし、高位竜で間違いないだろう。
しかし、見たこと無い顔だ。20年前にはこんな奴は見かけなかった。
状況が分からないから、耳を済まして聞いてみるか。
「冥王竜サンダ!冥王竜サンガ来テぶべっ」
「助カッぶべっ」
冥王竜?誰だ?
『惑星竜シリーズ』は、全部で8体だったはず。最近増えたのか?
つうか、ナユが片っ端からぶっ殺しているせいで、イマイチ情報が集まらないッ!!
3文字以上は時々聞こえるが、それでも20文字が限界だし。
ん?ナユが手を止めたな。
一応は会話をするらしい。
「……お前は誰じゃの?」
「眷皇種たる我に向かって、”お前”とは大きく出たもんだな。人間の子供よ」
人間の子供……か。うん。知らない奴から見たら、そう見えるだろうな。
ナユは、俺と旅をするにあたって偽装工作をしている。
どこからどう見ても人間にしか見えない外見はもちろん、匂いや分泌物など一見して気にとめない様な細部まで人間そのものだ。
当然、レベルも偽装して「49100」なんていう、なんとも残念な数字で固定してるし。
だから、このひ弱そうな冥王竜ってのが、気がつかなくてもしょうがない。
他の惑星竜シリーズならナユの正体を一発で見破るだろうが、しょうがないったら、しょうがない。
「子供……か。この儂に向かって子供とは、トカゲ風情が良い気になるでないの」
「トカっ!?ふ。この惨状を見るからに、少しは腕が立つようだが、何か勘違いをしているのではないか?ここは天龍嶽。人間程度が来ていい場所では無いのだ。それが例え、腕の立つ冒険者と名高い奴であろうともな!」
「一つ聞くぞ。ここから見て東の空に飛んでおった鱗の黒いドラゴンは、お前の一族かの?」
「鱗が黒い?ならば我の同族であろうな。……ほほう?もしや、我の同族に村でも滅ぼされたか?仇打ちとは難儀であるぞ」
違う違うッ!!
滅ぼされそうなのはお前らの方だからッ!!
「認めるのじゃの?同族だと」
「そうである!しかし、残念なことだ。お前がどんな竜に会ったか知らぬが、我はその竜より上位に君臨する竜なのだ!くはははは!己が実力を勘違いするとは、滑稽なり!!」
残念なのはお前だよッ!!
よく見ろッ!!お前の同族、そこに落ちてるからッ!!
実力を勘違いしてるのはお前の方で、めっちゃくちゃ滑稽だからッ!!
「勘違い?本質も見抜けぬとは、竜の眷皇種も落ちたものじゃの。不可思議竜の程度も知れる」
「な……。なんだと?お前、今なんつったのだ?我等が皇たる不可思議竜様を呼び捨てにしたのか……?」
「呼び捨てで何が悪い。アイツは『弱腰』『逃げ腰』『へっぴり腰』じゃの。戦うという事をせんから、お前のような雑魚が眷皇種になってしまう。ヘタレドラゴンじゃの」
「へ、ヘタレ?ふっ、ふざけるなよ……」
「あん?」
「不可思議竜様を冒涜するのは、我が許さぁぁぁんぎぃやあああああぁぁぁぁぁ!!」
ぶちり。と鈍い音がした。
冥王竜は小さいと言えど、20mも有る中型竜。
身長130cm程度のナユと比べると、その差は膨大だ。
だけど、そんなもんはどうでもいいくらいに、力の差が途方も無さすぎる。
だから、こんな理不尽も簡単に実現しちまう。
冥王竜が拳をナユに打ちつけた瞬間、肩口から、腕を引きちぎられた。
爆発したように流れ出す血と、響く絶叫。
戦い、いや、蹂躙が始まるみたいだ。
ナユは返り血を一滴も浴びることなく、引き抜いた冥王竜の腕に齧り付いた。
「ゴリゴリ、ごくん。……筋ばって不味い。食えたものではないの」
「腕がッ!!我の腕は如何に!?!?」
「滑稽すぎて笑いすら起きん。そんな間抜けな思考じゃから、腕を抜かれるのじゃの。馬鹿め」
「お、お前、お前がやったのか?我の腕を、小さきお前がッ!!」
「何を驚いておる?知らぬこととはいえ、お前は格上たる儂に喧嘩を売ったのだ。こうなるのは道理じゃの」
ここでナユは、自分に掛けていた人化以外の偽装をすべて解除した。
未だ幼い人間の子供の姿だが、どこからどう見ても、人間じゃない。
溢れ出るエネルギー。それを知覚しただけで、逃げ惑っていたドラゴン達は全て気を失った。
辺りを包む異常な静寂。
静まれと言った冥王竜も真っ青な静けさだ。
そして、ナユの周りに、『999999』という数字が浮かんだ。
「ば、馬鹿な……。レベルが99万9999だと……。」
「レベルの限界地を見慣れてないのか?ふむ、蛇や狐を知らんという事は、いよいよ、雑魚過ぎて話にならんの」
「蛇?狐?何の事を言っているのだ!?もしや、皇種たる存在の中でも上位に君臨するあの方たち『幾億蛇峰様』や『極色万変様』の事を言っているのか!?」
「そうじゃ。泣きむし蛇も箱入り狐も、儂とは旧知の仲じゃからの」
「ありえぬ!強きあのお方たちと、人間がどのような関わりを持つというのだ?まして、格下のような扱いをするなど、……そんな馬鹿なこと、ありえぬ!」
「馬鹿はお前じゃ。儂のレベルがその程度であるはずが無い。ナメておるのか?」
あ。
腕を投げ捨てたナユが跳躍し、冥王竜の腹に蹴りを入れた。
ドゴォッッッ!っと鈍い音がして、冥王竜が吹き飛んでゆく。
良い音したなー。
ドガァン!と岩肌に激突して、冥王竜は血を吐き始めた。
「がはっ、がふっがふっ!ば、馬鹿な……。受けた蹴りは一発だったはず。なのに、衝撃が5回も有った……何かの魔法、か?」
「魔法?魔法なんぞ使っておらん。ただ蹴っ飛ばしただけじゃの」
「嘘を……」
「嘘では無い。人間の足には指が5本ある。そんな事も知らんのか?」
「……。」
いや、指が5本あろうとも、5連撃にはならねえだろッ!!
どんな足の構造してるんだよッ!!
冥王竜も絶句してるじゃねえかッ!!
「待て、待ってくれ!!あなた様の強さはよく分かった!話し合いをしたいのだがッ!!」
「儂はしたくない。の!」
「うぼああああああっ!!」
今度は冥王竜の残った腕に向かって上段蹴り。
めきっぃ!と良い音がして、冥王竜の腕の鱗が剥げて落ちる。
……アレは鱗だけじゃすまねえな。骨まで木端微塵だろ。
「腕が、腕がぁ……」
「茶番もほどほどにするべきだの。その腕は生まれ持っての腕では無く、魔力で作ったものであろう?」
「……。ちぃ!喰らうが良い!!《廃星の一撃ッッ!》」
冥王竜は失っていた方の腕を瞬時に再生させると、燃え上がらせてナユに殴りかかった。
見た所、それなりには高位の魔法で出来た炎だ。
あれは確か、核熱の炎と呼ばれる炎で、分子を壊した時に出るエネルギーを燃料にした1億度くらいの炎だってアプリが言ってた気がする。
そんなもんをまともに受けたら半径100mは消し飛ぶくらいには、強力なやつなんだが……。
そんな魔法での一撃を、仲間が複数倒れている所で使うとは、戦闘経験が無いなんてもんじゃない。ただのアホだろ。
そして、アホが考えなしに放った攻撃など、ナユに通用するはずもない。
冥王竜が放った必殺と思われる一撃は、ナユによって不発に終わった。
ナユの右手で、やる気無さそうに、ぺちん!と軽く払いのけられて、あっけなく終わった。
「……え?」
冥王竜の間の抜けた声と共に、行き場の無くなったエネルギーが、空へ向けて飛んでいく。
……あ。
不可思議竜の住む宮殿を掠めていった。壁がちょっと焦げたぞ。
「実力差に気付かん上に、不利を悟れば騙し打ちか。つくづく、雑魚もいいところじゃの」
「お、おのれ……。雑魚雑魚と、我は魚類では無いのだぞ……。気高き竜の一族であるのだ……。こんな所で……人間風情が……」
「なんじゃ。まだ儂の事を人間じゃと思うておったのか?よく見るがいい、特別に見せてやるからの。儂のレベルをな」
「なに?……な。、、ん、だよ、これは。なんで、なんでレベル表記が、こんなにもいっぱいある……?」
今のナユのレベル表記は当然、『999999』だ。
だが、それは正確な表現じゃない。
偽装を解除したナユの周囲には、レベル表記が合計10個も有る。
『999999』が9つと、『99999』が一つ。
全部繋げれば、
『999999』『999999』『999999』『999999』『999999』『999999『999999』『999999』『999999』『99999』。
9が合計で59個。つまり、1那由他ってことらしい。
厳密にはもう少し桁が多いらしいが、9が並んでいる方がカッコイイとかなんとかで、この数字なんだとか。
神が作ったレベル表記に無理やり合わせたというそれを俺が最初に見たのは、この世界最強、『蟲量大数』だった。
一目見て、勝ち目のなさを悟ったもんだ。でも、曲げられねぇ事があったから挑んだけどな。
今、この冥王竜とやらも、当時の俺と同じ気持ちに違いない。
……可哀そうだが、人類の礎となってくれ。
「これは、え?そんな……不可思議竜様とおな――」
「うざいから喋るでない」
「ぐべへええぇッ!」
ボディーブロー。
ボディーブロー。
ローキック。
音で言うなら、ドグッドグッボキィ!って感じか。
凄く重低音。絶対痛い奴だ!
「ひひぃ――!」
「嗚咽も禁止じゃの」
「ぐえ、ぐぐ、ぐあああッ!」
ジャブ。
ジャブ。
ストレート。
音で言うなら、ドズオンッドズオンッズギャーン!って感じだ。
どう考えても、殴った音じゃない。ランク9の魔法かな?
「げふほぉぉ!」
「咳も禁止じゃ!!」
「ぐるぇ!ぐるぇ!げぅッげぇぇーッッ!」
裏拳
肘射ち。
ひざ蹴り。
音で言うなら、ズバシャァ!ドゲシャ!ドグオオォン!って感じだ。
そろそろ死ぬんじゃないか?
……あ。泣き出しただけか。意外とタフだな。
「なんで、こんな、こんな事をするんですか……。俺が何したっていうんですっすか……?」
「あん?アレだけ儂に舐めた口を聞いておいて、いい度胸をしているじゃの。格の違いがまだ分からんのかの?」
「し、しんねぇっすよ!なんなんすか!?意味分かんないっすよ!!不可思議竜様みたいなレベルして、それじゃまるで……始原の……あ。」
あ、ナユが笑みを浮かべた。
外見が幼女なだけに、そこだけ切り取って見えば、大変に微笑ましい。
……まぁ、俺は逃げるけどな。
《臨界星加速ィィィィィィ!!》
「ふむ、ようやく気が付いたかの?じゃが、手遅れじゃ」
「ま、ま。ままままままま……!」
「さっき儂に陳腐な炎を見せてくれたの。せっかくじゃから、本物、『星を終わらせる炎』を見せてやる。……拳に纏え、《星砕く絶対熱》」
「まー!まー!助け、ひぃいいいいい!!《星の加速ッ!》《星の加速ッ!》なんで無力化できないすかぁぁぁ!?」
「そりゃ、終わりなく続く炎を加速した所で、意味があるはずないからの。覚悟はいいか?」
「よくないですぅうううう!!全然良くないですうううう!!」
「ふむ、面白い断末魔の叫びじゃの。首と胴以外で勘弁してやる」
ちかっ。っと光が迸り、火柱が5つ立ち上った。
這いつくばって逃げようとする冥王竜の四肢と尾に向かって、ナユが拳を振り降ろしたようだ。
あの炎は、冥王竜の炎とは比べ物にならない。
なにせ威力が高すぎるせいで、拳が着弾した瞬間、別の次元層まで突き抜けてから爆発するのだ。
見た感じ、炎によって腕のみが消滅したように見えるが、別次元を巻き込んでいるというのが、非常に厄介極まりない。
あの炎をまともに受けたら、絶対にどんな魔法を使おうとも、回復しない。
因果を断ち切るグラムやら、世界を改変させるレヴァテインやらを使って、やっと、元に戻す事が出来るというなんとも恐ろしい、ナユの通常攻撃。
ということで、冥王竜は四肢と尾、ついでに翼も失い、悲しい姿となった。
うーん。ツチノコ?
「ぐす……。なんで俺ばっかりこんな目に遭うっすか……。動けないっす……惨めっす……」
「これに懲りたら、教育には力を入れておけじゃの。特に、空で粗相をするのは禁止じゃ!!」
「よくわからないっすけど、誓うっす……。神と不可思議竜様に誓うっす……」
まぁ、こんな所でいいか。
ナユの表情から察するに、だいぶ頭も冷えただろうし。
カレーを食うのを邪魔した代償が、ドラゴン500匹の命と、冥王竜の涙。
始原の皇種に喧嘩を売ったにしちゃ、良い落とし所だろ。
俺は、崖から飛び降りて、ナユに声を掛けるべく歩み寄る。
まだ距離は2kmもあるが、ナユの波動がひしひしと伝わってくるな。
そーと、刺激しないように、そーと……。
「なんじゃ、ユルド。儂はまだ遊び足りんから、近づくと怪我をするぞ?」
「あぁ、悪い。もう少し見てるぜ!」
危ねぇええええ!!全然、頭が冷えていなかった!!
殺る気に満ちてるッ!!
近づく=死だッ!!
「さて、肩慣らしにもならんかったし、そろそろ、準備体操ぐらいはしたいもんじゃの。……全部、出てくるがよい」
ナユは、空を見上げ、声を放った。
その声に反応し、空間が歪む。
そして現れたのは、強大なる力を持つ、6匹の『惑星竜シリーズ』だった。
『願いを尊ぶ水星竜』
『価値を失う金星竜』
『命が蠢く地星竜』
『夢を開く火星竜』
『理想を抱かぬ土星竜』
『恐れを知る海王竜』
それらは、一匹一匹が人類にとっての絶望であり、抗えぬ天災。
おそらく、コイツらとまともに戦闘になるのは、世界中から集めても50人もいない。
ましてや勝利するとなると、一桁残るかどうかって所だな。
そんな絶対的暴威に相対するのは、究極の知識、那由他タヌキ。
ぱっと見、幼女。
中身、化物。
……なるほど。
これが、黙示録ってやつか。




