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第63話「それぞれの目標」

「むぅ……。せっかくユルドルードの居場所が分かったのに。……やっぱり天龍嶽に行こう?ユニク」

「ダメだ」


「ワルトナ、空間魔法を繋げて欲しい。次元の落とし穴でひとっ飛び」

「だめだ」


「むぅ……凄く残念。ホロビノについて行けば良かった」



 冥王竜を見送った後、地上に戻ろうと話を進めていた俺とワルトへ、リリンの平均的なジト目が向けられている。

 リリンは「むぅ……」っと頬を膨らませて、大変にご機嫌ナナメだ。


 まぁ、リリンの良い分も分からない事も無い。

 リリンは俺を探しながら、ついでに親父の事も探していたらしく、世界を旅しながら聞き込みをしたが収穫はほぼゼロ。

 辛うじて白銀比が3年前に会ったという話を聞けた程度で、出会うどころか有力な情報の欠片も手に入れる事が出来なかった。


 そんな現状で、親父は天龍嶽にいる可能性が高い。

 それを知った今、リリンが天龍嶽に行こう!と平均的な表情を崩すのも無理は無いと思う。


 ……だけどな。

 いるんだよ。

 世界最強のタヌキが。

 一度滅びかけた世界を構築し直したとかいう、究極のタヌキがいるんだよ。


 そんな所へ、俺は絶対に行きたくない。

 命とバナナがいくつあっても足りねえからな!



「まぁ、親父にはその内会えるだろ。目的があって世界を旅しているのなら、もしかすると俺の事を思い出して会いに来るかもしれないしさ」

「……今まで放っておいたのに?」

「まったく、聞き訳が無いねぇリリン。分かったよ。僕の部下を天龍嶽に向かわせて、英雄ユルドルードを探させる。見つけたらリリンに会って貰えるように話をするからさ」



 ワルトがいい事を思いついた風に、折衷案を出した。

 確かにこの方法なら俺達に被害は無いし、リリンだけじゃなく息子の俺も会いたがっていると言えば、会ってくれる可能性は高い。


 でもそこまで辿りつくのに、一体何人の人生が使い潰されるんだろうか。


 タヌキ汚染を度外視しても、天龍嶽という場所は最上位ドラゴンの巣窟。

 頭のおかしいピエロなドラゴンが下っ端として数えられるほど、強き者共の巣食う土地なのだ。


 そこに、ワルトの部下、つまりはワルトよりも戦闘力が劣る人が親父を探しに行く。

 なるほど。大悪魔さんは今日も平常運転です。



「……その話は本当?ワルトナ」

「この僕が、キミに嘘を吐いた事があったかい?」


「……。いっぱいあるよね?」

「僕は聖母だよ?人の為ならば、嘘ぐらい平気で吐くさ」



 人の為ならば?

 その人ってのは自分の事だよな?ワルト。


 結局、親父を見つけたら連絡をするとワルトが約束し、リリンが納得する形になった。

 無難な所に落ち着いたと思うが、その約束が果たされる日がいつになるのかは定かではない。


 そんなやり取りをしつつ、俺達は地上に降りて行った。



 **********



「うわぁ……」

「これはすごい」

「……。この森ってさ、森だったよね?おかしいなぁ。森じゃなくなってるや」



 上空から見下ろしている限りでは、俺達の足元には深緑が広がっていた。

 戦闘を始める前と比べて変化を感じていなかったが、地上に近づくにつれて違和感を覚え始め、はっきりと視認できる距離まで近づいた現在、非常に不味い状況である事が分かった。


 森を構築していた木の幹部分が焼滅し、辺り一面に木の葉が散らばっている。

 簡単に言えば、森を上から押しつぶしたかのように全ての木々が凪ぎ倒された、見るも無残な姿だ。


 森というか、倒木の畑といった感じ。

 これをやらかしたのがタヌキとホロビノだというのだから始末に負えない。


 ……あ。

 もしかしてホロビノの野郎、怒られたくなくて天龍嶽に逃げやがったのか?

 冥王竜に頼まれて仕方が無い風を装うとは、悪辣さが飼い主に似てきている。将来がとても不安だ。



「しっかし、この有様は……トーガ達、生きてるかな?」

「一応、生きているっぽい?水害の王が発動している場所は被害少なめだし」

「死んでもらっちゃ困るよ。片付けする労働力が居なくなるからね」



 そう言いながらリリンは沼地の方を指差し、俺とワルトは視線を向けた。

 その場所は、ギリギリ森と言えなくもないという微妙な感じ。


 だが、その場所に大勢の人影が集まっているのが見えた。

 殆どの冒険者が身を寄せ合いながら、各々の武器を構え臨戦態勢を取っている。


 だが、何かがおかしい。

 構えられた武器の先端に、必ず、何かの果物が突き刺さっているんだけど。

 大体はバナナ。他にもリンゴやオレンジ、変わったところでは饅頭やパンなんかも混じっているし、これはどう見ても……あ。物陰から飛び出したタヌキが、剣の先端に突き刺さっていたバナナを強奪して行きやがった。


 タヌキフィーバーはまだ終わっていないらしい。



「ワルト、この森は封鎖した方が良いんじゃないか?人間が暮らせる環境じゃないぞ?」

「完全な形での封鎖はできないんだよねぇ。暫くはドラモドキの影響で生命淘汰が進むから、危険生物を駆除しなくちゃいけないし」


「もう既にタヌキがいるから大丈夫じゃないか?タヌキが居るのに他の生物が住みつくとは到底思えない」

「もし大丈夫じゃなかった場合、ドラゴンとタヌキが共存する魔境が生まれるけど、それでもいいのかい?」



 ……タヌキ&ドラゴン。

 そう言えば、タヌキは森ドラゴンと共生するってカミナさんも言ってたな。


 それは絶対に阻止するべきだ。

 例えタヌキに、媚を売ってでも!


 俺は現実逃避をするべく、遠目で冒険者達を眺めた。

 じりじりと緊張した空気を放つ冒険者と、時折姿を現しては果物を奪い去ってゆくタヌキ。


 あぁ。チラチラ姿を見せるタヌキの腹の膨れ具合が凄い。

 どいつもこいつも食い意地が張ってやがる……。

 俺は、一刻も早く冒険者たちから目を背ける為、トーガ達を探した。



「さて、トーガたちはどこに……お?いたいた。おーい!」

「……。ユニクル……」


「あぁ良かった無事だったか。トーガ、シシトとシュウク、パプリもって、なんでそんな怖い顔しているんだ?」

「……あぁ。いやな、大したことじゃねえんだ。ただっちょっと……言いたい事があるだけだ」


「俺達にか?なんだ?」

「そうだな……。よし、言うぞ…………。お前ら……ホントに、人間かッッ!?」



 **********



「まったく、何度、夢なんじゃねえかと疑ったことか……」

「本当に、ね。ピエロドラゴンとか意味分かんなすぎるもんね……」

「ドラゴンもそうですが、空からタヌキが降り注いだ時には変な笑いが込み上げましたよ。ふへへ」

「パプリはね、リリンおね―さまとバレンちゃんの魔法を見てね、凄いって思ったよ……トーガおじちゃんが1000人いても負けちゃうよ……」



 あぁ……ブロンズナックルの皆さんの瞳が死んでいる。

 いや、ブロンズナックルのメンバーだけじゃない。俺とリリンとワルトを除く、この場の全員の瞳が死んでいるのだ。


 これはどう見ても、恐怖症候群(リリンシンドローム)!!

 この場にいる冒険者たちは、森と同じくらい、再起不能だろう。



「それぞれ思う事があると思うが……これだけは言っておくぞ、みんな」

「「「「……。」」」」


「全部、タヌキのせいだからッ!」

「「「「ふざけんなっ!!お前らのせいだろッッ!!」」」」



 いや、違うんだよ!

 ホントにタヌキのせいなんだってッ!!


 俺は必死に言い訳を並べたが、虚しく風に乗って消えてゆく。

 冒険者から向けられる視線が痛い。

 完全に顔を覚えられただろうし、俺達はもう、普通の冒険者として活動できそうもない。


 さらば、俺の平和な冒険者生活。

 これからは大悪魔の召使いとして頑張っていくよ。


 俺が諦めの境地に達した時、悪辣系聖女のワルトが口を開いた。

 どうやら、事態の終息を計るらしい。



「さて、この場には20人を超える冒険者が居るけれど、キミらは本当に運が良いね」

「……どういうことだよ?バレンシア」



 トーガが代表して答えた。

 一応ここ等辺の元締めだと言っていたし、形式上はトーガが一番偉いんだろう。

 ワルトが連れてきた冒険者も混じっているはずだが、静観している。


 そして、ワルトは笑顔を冒険者に向けた。

 今日一番の真っ黒い笑顔だな。さよなら、トーガ達。



「運が良いだろ?こんな大災害があったんだ。この森は当然、出入りが厳しく制限された禁域に指定される」

「当然だろうな」


「で、この森を調査する人間が必要となるわけだ。そして、都合のいい事にキミらは高位の冒険者集団。それなりの知識はあるだろう?」

「……それで?」


「あぁ、それでだけど、殆ど討伐したとはいえドラモドキも少なからず生息している。つまりは、それなりにレベルの高い、言うならば、高値で売買される極上の生物たちが引き寄せられるってことになるよねぇ?」

「……そうかもしれねぇ。いや、そうなるはずだよな」


「高級素材がわんさか迷い込んでくる極上の狩り場を、キミらで独占。しかも、見晴らしがよくて奇襲される可能性は低いときた」

「……。ごくり。」


「ボーナスステージに参加したい人は、手を挙げてくれるかい?」



 そして、全員が無言で手を挙げた。

 死にそうだった瞳に、希望が溢れるキラキラとした光を灯して。


 ……なお、ワルトとリリンは、小声で「ちょろいなー」と呟きやがった。

 こっちの大悪魔さんの瞳も、とてもキラキラしている。



 **********



「さて、参加者全員と魔道具を使った契約を済ませたし、僕はそろそろ大書院ヒストリアに戻るよ」



 あの後、冒険者たちはワルトが取り出した紙に著名し、何かの契約を行った。

 どう考えても、ヤバい奴だ。

 なにせ……、契約所の中段付近に、こんな文章があった。



『この契約を締結した者は、暗劇部員の仮資格を有し、大聖母シンシア直轄の実動部隊としての義務を果たさなければならない。』



 つまり、この契約書は『暗劇部員・派遣社員』になる為のものなのだ。

 ちなみに、トーガに「暗劇部員って知ってる?」と聞いたら、「劇団みたいなもんだって、バレンシアから聞いたぞ?」という答えが返ってきた。

 ……劇団みたいなもの、か。

 描かれた筋書きの上で踊るって意味なら、確かにあってる。


 そんなこんなで契約を済ましたワルトは、俺達を残して大書院ヒストリアに帰るらしい。

 なんでも、待たせている人物がいるのだとか。



「もう帰っちゃうの?ワルトナ」

「僕としてもキミらと祝勝会でも開きたいところだけどね。実は大書院ヒストリアに待たせている人が居るんだ」


「そうなの?ワルトナのお客さん……?」

「客って言うよりも部下だねぇ。これがなかなか目が離せなくてさ。ちなみに、あんまり放っておくと、僕が隠していたおやつが食いつくされるから、そっちの意味でも心配だね」



 ……なんかリリンに近しい物を感じる。


 そして、おい、リリン。

 なにが、「おやつの食べ過ぎは体に毒!」だよ!

 ワルトの用意したフルーツタルト殆ど一人で食ってた人が言っていいセリフじゃないぞ!!



「そんなわけで僕はヒストリアに帰るけど、直ぐに別の場所に出かける事になるし、キミらとはしばらくお別れだね」

「そうなの?どこに行くの?」


「まずは……不安定機構・深部だね。眷皇種なんてもんが出てきた以上、報告をしに行かなければならない。その後はドラピエクロの所に行って悪才アンジニアスと利益配分の話をする。その後はレジェの所へ向かって、シュウクから巻き上げた宝剣をあげて、フィートフィルシア攻略作戦でも練ろうかな。あぁ、本当に働き詰めだ。僕ほど一生懸命に働く聖母なんて他にいないよ」



 確かにいないだろうな。

 ここまで一生懸命に人の人生を踏み台にしようとする聖母なんて、絶対に他にいない。


 しかし、何だかんだ、ワルトには世話になった。

 敵の正体は暗劇部員の指導聖母だって判明したし、きちんと礼を言っておくべきだな。



「ワルト、改めて礼を言っておくぜ。ありがとな!」

「ユニに礼を言われるなんて照れるなぁ。第一、僕はお礼を言われる様な事をしてないってのに」

「そんなことない。ワルトナのおかげで色々分かった事も多い。ありがと」


「ふふ、それじゃ、キミ等の礼はちゃんと貰っておくよ。返せって言っても返さないからね?」



 そう言いながら、ワルトは空間魔法で時空を歪め、転移の魔法陣を作りだした。

 そのまま魔法へ向けて歩み寄り、とぷり。と右腕を突き入れる。


 そして、ふと思い出したかのように振り返り、ワルトは口を開いた。



「あぁ、そうそう。キミらへ、特にユニに、言っておかなくちゃならない事があるんだ」

「ん?なんだ?」

「どうしたの?」


「……添い寝の訓練とか、あるわけないだろ。二人揃ってレジェに騙されて、バーカじゃねぇの?」

「はあぁッ!?」

「えっ、ちょっと、ワルトナ!?」


「じゃっあっねー」



 最後の最後で暴言を吐いて、ワルトは魔法陣の中へ消えた。

 本当に大悪魔らしい別れの挨拶。まったくブレやしねぇ。


 ……さて、どういう事だよ!?リリン。

 添い寝の訓練って必要無いのかよッ!?

 リリンと出会ってから毎日欠かさず行ってきたのに、今更否定されても困るんだがッ!?



「リリン?添い寝の訓練って必要無いのか?」

「う……あ、ううん。必要はあると思う!もし、ほら、森の中で遭難した時とか使うかもしれないし!」


「いや、しないだろ、遭難。つーか、迷子になっても吹き飛ばせるだろ。森を」

「……魔法が使えないほど疲弊しているかも!」


「そんな状況だったら、添い寝をしている場合じゃねぇだろッ!!」



 他愛も無い話をしながらも、俺は思いにふけっていた。


 あぁ、ちょっと平均的な冒険者の冒険を体験しようとしたら凄い事になったもんだ。

 反省点は多い。

 命の危険もあったし、俺は文字通り致命的なミスを犯しもした。


 今のこの穏やかな空気は全て偶然の産物で、運が良かっただけにすぎない。


 俺はもっともっと、貪欲に強さを求めならなくちゃいけない。

 その為に――。


 漠然とした目標を考えながら、俺はリリンを伴って、冒険者の人だかりの中に混じっていった。



 **********



「はぁ……疲っかれたーーーーー」



 ワルトナは転移の魔法陣から抜け出てすぐ、目の前のソファーに倒れ込んだ。

 ソファーの上でクルリと体を返して仰向けに寝転んで、ブーツも脱ぎ捨て、足を投げ出す。


 おおよそ聖女とは呼べない、それどころか、年端もいかない少女が行うにしては疲れきっている態度に、見ている人が居たら仰天するだろう。

 普段から多忙を極めているとはいえ、指導聖母であるワルトナの主な仕事はデスクワーク。


 最近では戦闘訓練も疎かになりつつあったワルトナは、「これは……ちょっとやばいくらいなまってるなぁ……」と思いつつも脱力し、ふへぇ。と緩み切った笑みを浮かべた。


 その瞬間、勢いよく備え付けのドアが開いた。



「ワルトナさぁん!お帰りなさい!」



 びくっう!!と体を撥ね退けさせ、直立不動の体制をとるワルトナ。

 内心で、「僕の反応速度も捨てたもんじゃないね!」と呟くが、自分が裸足だという事に気が付いて、むなしく溜め息を漏らした。


 そして、さりげなくブーツを召喚しながら、扉を開いた黒銀の髪を揺らす少女へ視線を叩きつける。



「キミは、ドアを開く前にノックをするという礼儀を知らないのかい?セフィナ」

「あ、ご、ごめんなさい!あの、やり直した方が良いですか?」


「今、外に出ていったら僕は鍵を掛けるよ、うん。まぁ、次からちゃんとノックしてくれればいいさ」

「ごめんなさい……気をつけます」



 セフィナは勢いよくドアを開けたハイテンションから一転、借りてきた猫みたいにションボリしてしまった。

 まったく、つくづく姉妹で仕草がそっくりだねぇ。とワルトナは思いながら、引き出しからクッキー缶を取り出し机の上に置く。



「そんな所に突っ立ってないで、こっちに来なよ。ほら、罰として僕の分とキミの分の紅茶を淹れておくれ」

「はい、すぐいれます!」



 セフィナは指さされた場所にあったティーカップを二つ手に取ると、魔法を唱えてお湯を作り注いだ。

 お湯をこぼさないように慎重にソファーに歩み寄るセフィナを、「持って来てから注げばいいのに、アホの子だねぇ」とワルトナは眺めながら思っている。



「それで、迷子のドラゴンさんは無事に飼い主の所に帰れたんですか?」

「あぁ、もちろんさ。僕が優しく話しかけると、ドラゴンは「ピエローン」って泣きだしてさ。よっぽど嬉しかったんだね」


「よかったぁ。迷子のドラゴンさんを討伐するなんて可哀そうだもんね」

「そうそう、高いお金を払って引き寄せたかいがあったってもんだ。一件落着だよ」



 キラキラとした瞳を輝かせ、セフィナは尊敬の眼差しをワルトナに向けた。

 昨日の午後、用事があるからと席を立とうとしたワルトナから事情を聞き、セフィナは事態の概要を把握しているからだ。



「なんでも、長年迷子だったドラゴンが見つかったらしいんだけどね、どうも、僕と対立する人たちがそのドラゴンを討伐しようとしているらしいんだよ。ドラゴンはとても高いお金で売れるからね」

「え。そんなの酷いと思います!何も悪いことしてないんですよね!?」


「ドラゴンってのは凄く強いし、表向きは危ないかもしれないって理由で狙われているんだ。でも、僕は聖母だし、そんな可哀そうなドラゴンを見て見ぬフリなんてできない。だから保護して飼い主の所に帰してあげるんだ」

「すごいです!ワルトナさんは優しくて、とーても、尊敬します!!」



 一応は、ワルトナは嘘を言っていない。

 指導聖母も一枚岩ではないし、ワルトナと対立する人も少なからずいるのだ。


 たとえ、正規の手段で真っ当にドラピエクロを手に入れる算段を相手がしていようとも、物は言いよう。

『嘘は言っていない。でも、真実でも無い』

 これがワルトナバレンシアの掲げる、基本理念だった。



「そんなわけで、僕はセフィナの用意した冒険者を引き連れていった訳だけど、あれは殆どが使い物にならないね」

「そうなんですか?結構レベルが高い人たちを集めたのに……」


「でも、一組だけ凄腕の冒険者チームがいた。あのチームならもしかしたら、ユニクルフィンとリリンサを引き離す事が出来るかもしれない」

「ほんとですか!?」



 やったぁ!っとソファーの上で跳ねて喜びを体で表すセフィナ。

 その朗らかな笑みは、ハシャギまくった挙げ句に膝をテーブルにぶつけて沈黙するまで続いた。



「うごご……」

「アホの子だねぇ。可愛いねぇ」


「……それで、次はどうすればいいんですか?」

「そうだね。それはおいおい、道すがら説明するとしようか」


「あの、どういうことですか?」

「セフィナ。僕と一緒に旅をしないかい?」


「え、一緒に旅、ですか?」

「そうそう。なぁに、ずっと一緒にいるという訳では無くて、僕らはそれぞれ自分の仕事をしながら頻繁に会うってことさ。その為には町を移動するときに一緒に移動した方が効率が良いだろう?」


「あ、あの……嫌とかそういうんじゃなくて、むしろ嬉しいんですけど、私、あんまりお金持ってなくて、だから、高級な宿とか馬車とかを使えなくて……」

「心配はいらないよ。僕と一緒にいるときは僕が払うからさ」


「え?そんなの悪いです!」

「いいんだ。臨時収入もあるし、キミは特別に僕と仲良くしてくれているからね。上司と部下の関係でもあるけれど、僕はキミの事を大切な友人だとも思っている。セフィナ、僕に奢られるのが、嫌かい?」



 セフィナはブンブンと頭を振って、必死にそんなこと無いです!とアピールをした。

 それを見たワルトナは、表面では素直に言う事を聞くセフィナを褒めて、内心では計画が順調に進んでいる事にほくそ笑んだ。



「さてと……それじゃあさっそく……と言いたいところだけど、まずは風呂にでも入って疲れを取ってくるよ。実はすごく疲れているんだ」

「お風呂?あ、あの、お背中流します!」


「おや?いいのかい?気が利くね」

「うん!疲れているのなら、肩も揉みます!」


「ありがとね。……それにしても、迷子のドラゴン以外にもいろいろ出てきてさ……特にタヌキは予想外でさー……」

「タヌキさん?」



 他愛も無い会話をしながら、悪辣無慈悲な少女と純粋無垢な少女は肩を並べて歩き出した。


 二人の行く末にあるのは、希望か、それとも……。

 少なくとも、疲れた体を癒す大浴場がある事は、間違いない。


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