第57話「眷皇種・希望を費やす冥王竜」
「な・ん・だ・今・の・は?」
おい、なんだ今のは?
突き刺したグラムの隙間から、もの凄い熱量を感じたんだが?
一応、話の流れから、リリンが放った魔法が何故かグラムから放出された事は分かる。
だが、なんでそんな事が出来るんだよ!?
いつの間に仕込みやがったッ!!
「ワルトナ、いつの間にこんな連携仕込んだの?」
ほら、当事者のリリンも首をかしげているじゃねえかッ!?
どういう事だよ、説明してくれワルト!
「いつの間にって、そりゃぁ……僕とユニが訓練している時にだよ。僕の肩書きは『戦略破綻』。仕込みはバッチリさ!」
あの悪魔な訓練の時かッ!?
まったく油断も隙もありゃしねぇ!
「ちょっと説明しておくと、グラムの表面に転移魔法の出口を設置したってわけさ。この方法なら、ユニが魔法を使っているように見えるだろ?やったね魔導剣士になれたよ!」
「知らんうちに魔法が発動するとか怖すぎるだろッ!次使う時は許可を取ってからにしてくれ!」
まったく悪びれもせず、大悪魔さんはくすくすと笑い声を漏らしている。
これ以上話していると精神を削られそうなので、俺は視線を落下してゆく鎧武者ドラゴンに向けた。
あぁ……さようなら鎧武者ドラゴン。
地上にいるであろうタヌキとよろしくやってくれ。
意識を失い地上に落下を始めた鎧武者ドラゴンが遠ざかってゆく。
その巨体のせいで落下スピードがゆっくりに見えるが、段々と加速していって最終的には凄まじい勢いで地上に激突するだろう。
……いや、マジでこれはヤバくね?
地上にいるタヌキに対しては「ざまぁ見ろ!」と思うが、近くにはトーガ達平均的な冒険者組がいる。
いくら水害の王が発動しているとはいえ、あんな巨体を支える事は出来ないだろう。
俺達でなんとかしたほうが良さそうだ。
「リリン、ワルト。このままじゃ地上にいる奴らに被害が出ちまう。なんとかできねえか?」
「……する必要が無いと思う」
「……え?リリン?」
「落ちる速度がゆっくりになってきている。何かの力が干渉しているのは確実。ほら、見て」
リリンが指を指した先、だいぶ下降して地上に近づいていた鎧武者ドラゴンが動きを止めていた。
いや、止められている。
樹木の檻が鎧武者ドラゴンを捉え、空間に縫い付けているのだ。
その檻はだんだんと成長し、やがては鎧武者ドラゴンを完全に包み込んだ。
それはまるで、巨大な卵のようだ。
「なんだあれ……?まさか、鎧武者ドラゴンを回復しようとしているのか?」
「内部で複雑な魔法が形成されている。ワルトナ、内容、分かる?」
「干渉は拒まれているが、間違いなく回復魔法だね。どのくらい時間が掛るか分から無いけど、間違いなく完全復活に近い状態で出てくるはずさ」
「完全復活?確か回復魔法ってのは、そんな凄い効果が無いって話じゃ無かったか?」
「それは人間の話だよ、ユニク。特にドラゴンは回復力が凄いし」
「竜、というか、爬虫類にも言える事だけど、奴らの再生の能力は高いんだ。なにせ、脱皮と称して体表を作り変える事が出来るんだからね。元々の生命力を増加させる回復魔法とは相性が良いってわけさ」
なるほど……つまり、ドラゴンさんは回復力が凄いってことだな!
そういえば、カミナさんもタイラント森ヒュドラと戦った時、頭を一つずつ丁寧に叩いていたっけ。
時間が経てば、鎧武者ドラゴンが復活する。
しかも、状況は悪くなった状態でだ。
化物竜達の言動を聞くに、鎧武者ドラゴン達には慢心や油断があった。
言ってしまえば俺達を舐めていたのだ。
その隙を突く事で俺達は勝利したという事は、まぎれもない事実。
だから、戦線に鎧武者ドラゴンが復帰したら、それこそ、鬼武者の形相で襲いかかってくるだろう。
一時的であるが、2対4の状況になった今、一気に勝負を決してしまいたい。
まずは、鎧武者ドラゴンを回復させているであろう木の化物ドラゴンを倒す。
そして、次は……冥王竜だ。
「リリンワルト。さっきの連携をもう一回やるぞ。俺のグラムじゃ、あの木の幹は突破できない。だが魔法ならダメージを与えられる。そうだろ?」
「複雑な魔法によって構築されているあの幹は、他の魔法の干渉に弱いはず。出来る」
「僕の空間魔法をさっき使って見た感じ、問題なさそうだね。一気に決着を付けてしまおう」
俺は視線を木の化物竜に向け、グラムも構え直す。
敵は未だ俺達を見据えたまま、干渉を仕掛けてくるような気配は無い。
たぶんあいつは、魔導師タイプだ。
懐に入ってしまえば、俺達が有利になるはず。
俺はバッファ全開で接近するべく、前のめりに姿勢を崩した。
その時だった。
今まで存在感が空気だった冥王竜が、言葉を発したのだ。
「もうよい。下がるがいい。カイコン」
「……仰セノママニ」
冥王竜は木の化物竜の戦意を削いで、下がらせた。
もしかして、口の中を剣で突き刺した後、魔法で焼くという無慈悲すぎる俺達の戦いを見て怖くなった、とか?
もともと俺を『赤き先駆者』とかいう意味分かんない呼び名で呼んできたし、何か有りそうだしな。
矛を収めてくれるというのなら、それに越した事は……。
視線を冥王竜に向けながら、楽観的な事を考え始めていた俺。
あぁ、なんて馬鹿なんだろうか。
相手は、世界第2位の強さの不可思議竜の眷属。
そんな大層な名を持つ生物が、そんな弱気な事を言うはずが無いのに。
振り向いた俺の視線の先に居たのは、2匹のドラゴン。
カラフルなカラーリングで滑稽さを演出しているピエロなドラゴンと、全てのドラゴンの原点ともいえる、シンプルな体つきの黒い竜。
ただ、特出すべき点、それは……
冥王竜の爪が、ドラピエクロの喉に突き刺さり捕らえている事だ。
「ドラピエクロッ!!」
「あまりにも弱い。この程度の実力で我に刃向うと豪語したのか。同じ竜族として、侮蔑どころか憐れみすらも感じるぞ」
「ピ……ピエ……ロン……」
一体、何があった?
確かに俺達は鎧武者ドラゴンと戦っていたし、誰も見てはいなかった。
だが、いくらなんでも誰も気がつかないというのはおかしい。
冥王竜は存在感が空気だったのだ。
たったの一つも音を生じさせないくらいに。
「お前には天龍嶽にて200年の修行を命ずる。その後は好きにするが良い。もっとも、その時にはお前を知る人間など残ってはおらぬだろうがな」
「イヤダ……ピエロンガマッテイル……アイニ……」
それだけ言うとドラピエクロは脱力し、力なく四肢と尻尾が垂れ下がった。
気を失ってしまったらしい。
その光景を、俺のリリンもワルトも、ただ見続けるしかなかった。
見たままの情景が物語っている、『冥王竜がドラピエクロを、音も立てずに無力化した』という事実を。
冥王竜はドラピエクロを空中に放り投げると、何かの呪文を唱えた。
光で出来た鎖がドラピエクロの体に巻き付き、拘束。
そして、興味無さげに視線を外し、俺に向けて話し出した。
「さて、赤き先駆者よ、お前は……」
「俺は……?」
「老いたな」
「……おう。俺も老いたって言われる年か……」
俺はまだピチピチの16歳だよッ!!
どちらかといえば、まだガキだよッ!!よく童貞って言われるんだよッちくしょうめッッ!!
いきなりふざけた事を言い出した冥王竜。
コイツはなんかすごく生きてそうだし、ボケ始めているのかもしれない。
「何が言いたいんだ?冥王竜」
「隠さずとも分かるぞ赤き先駆者よ。動きに精彩が感じられぬ。もうすぐ寿命で死ぬのであろう?」
死なねえよッ!!嫌なフラグを立てるんじゃねえよッ!!
つーか、後ろで笑いをこらえている二人!!お前らも俺と同じ歳だろうがッ!?
「言っておくけどな、すぐに寿命で死ぬなんて事はないぞ?少なく見積もっても、あと50年は生きるつもりだし」
「ふむ?後ろの青い方からはやたら生命力を感じるが、お前と白いのは吹けば消えそうではないか。騙されぬぞ?」
……は?
俺とワルトは吹けば飛びそうな生命力?
いや、この場合はそうじゃないだろう。
恐らくリリンが特別生命力に溢れているってことだ。
なんでリリンだけが生命力に溢れているんだ?
確かリリンは、自分でも魔力量が多いと言っていたが、何か関係があるんだろうか……?
俺は思考を巡らせ、ふと、思い当たる節を見つけた。
……健康の秘訣は、好き嫌いなく食い放題する事だな。間違いねぇ。
「まぁ、何でもいいけどな。で、本題に入ろうぜ?何が言いたいんだ?」
「お前と出会ったのはいつの事だったか。偶然の邂逅だったろうが、ともかく、お前と戦い我は……負けた」
「お前が俺に負けた……?」
「我は竜族。ただの人間に劣ったという事実は耐えがたい屈辱だったのだ」
「そうだろうな、冥王竜。だが、俺はあれから成長し、新たな力も身に付けている。昔よりも手強いかもしれないぜ?」
「それはなかろう。お前は老いた。老いてしまったのだ。昔のお前なら、一撃でゲンジツとカイコンを打ち破ったであろうよ。だが、今の無様な戦いは何だ?」
「今の戦いが無様……?」
「あぁそうだ、無様だ!我は警戒し、手下の命を試金石にしたというのに、お前は我の想像よりも遥かに劣っていた!なんと滑稽なことか、お前のような老いた獣に、警戒を発した我のなんたる見る目の無さか!!」
いや、勝手に勘違いしたのお前だし。
つーかさらっと、部下を試金石にしたとか言ったな。
木の方は淡々とお前の言葉を聞いているぞ?そんな迂闊な事を言うから、滑稽になるんだろ。
しかし、話の流れが良くないのは間違いない。
昔も、確かコイツから喧嘩を売って来たんじゃなかったか……?
「冥王竜。さっきから言ってるだろ?本題に入ろうって。何が言いたい?」
「我はお前の力を見定めた後、戦うつもりでいた。己の威信を取り戻す為にだ。だが、それはもう叶わぬ」
「俺が弱くなったからだな?」
「然り。今のお前を倒した所で、威厳など取り戻しようもない」
「だったらさ。もう戦わなくてもいいよな?」
「あぁ。戦わぬ。……これから行うのは『蹂躙』なのだ。強き我が弱き人間を叩き潰し、気分を落ち着かせるという唯の……気晴らしだ」
……気晴らし?
コイツは俺達の実力を見て、戦っても気晴らし程度にしかならないと言いやがったのか?
ふざけやがって。
「気晴らしか。そう思っているのは、お前だけだけどな!」
俺は尽かさず体を前に押し出し、空中を強く蹴った。
三歩目を踏み出し、速度が最高潮になり始めた頃、目の前に空間魔法が出現。
ナイスだワルト!
これで距離など関係無しに冥王竜に一撃を入れる事が出来る。
真っ暗な空間の先にある光の門。
それを潜れば後は剣を振り抜くだけ。
そこにリリンが魔法を合わせてくるかもしれないが、分かっていれば問題ない。
さぁ、先制攻撃は貰った。
俺は勢いよく光の門から飛び出そうとして――
――光の門から突き出された黒竜の拳に衝突した。
「がふッ……」
「ユニっ!」
ちっくしょう。そんなんありかよ……。
目の前にいきなり障害物が出現するなんて思ってもいなかった。
受け身もろくに取れずに、真っ黒な空間に投げ出された俺は、吹き飛ばされた先に出現した光の門に身を投じた。
その先に居たのは、リリン。
小さい体で俺を優しく受け止め、鋭い視線を冥王竜に向けている。
「お前……、何をした?」
「手で払っただけだ。空間の転移など出来て当たり前。敵の空間転移に干渉するのは、人間には難しかろうが眷皇種にしてみれば常識だ。我をナメ過ぎではないのか?」
「そんな事はどうでもいい。よくも、ユニクを傷つけたな……ブチ転がしてやる!!《雷人王の掌!》」
リリンは星丈ールナを冥王竜へ向け、雷人王の掌を唱えた。
直ぐに目の前に空間転移の魔方陣が現れ、冥王竜の顔の前に繋がる、直通の発射口が完成。
瞬く間に魔法は発射され、空間を超越して冥王竜に届いた。
直撃だった。
……直撃のはずだ。
なのに、冥王竜は微動すら起こさなかった。
まるで気にならないとでも言うように、冥王竜は口を開く。
「ふむ、先ほどから見ていて思うたが……その魔法、所詮は真似事だな。本物とは程遠い」
「な……に、を言っている?」
「青き人よ。その魔法は不完全であるぞ。眷皇種たる我に向けるには、研鑽が足りぬと言っているのだ」
「私の雷人王の掌が、不完全……?」
「光魔法は『我が師』が得意としていたが、我は対して扱えんでな。すまんが、この程度の魔法でしか持て成してやれん。これで力の差を感じてくれると助かる……《堕落雷》」
上空が弾け、直径1kmにも及ぶであろう魔法陣が構築された。
7つの魔法陣が組み合わされた不思議な模様が、渦巻き解け、一つの魔法陣となり、輝きを発している。
あれはヤバい。
そう判断したのは俺だけではなく、リリンとワルトも同じだった。
三人は同時に迎撃の態勢に入り、それぞれが考えうる手段を実行した。
「《五十奏魔法連・超高層雷放電!》」
「《五十奏魔法連・南極氷床!》」
「《重力星の崩壊!!》」
まずはリリンが50本の雷を真上の魔法陣へ向かって放った。
空気を炸裂させながら、直視困難な光の矢は天に昇ってゆく。
そこに、ワルトの氷の魔法が続く。
閃光が駆け抜けた進路を遮るように、50枚の分厚い氷の壁が構築され、相対する魔法陣から放たれるであろう魔法を阻害するべく立ち塞がった。
それでも、足りないと俺は思った。
俺の前に出ようとしていた二人を強引に引き戻し、俺は直観に任せてグラムを振う。
100の破壊音が響いた後、その雷は俺の前に姿を現した。
禍々しいまでの暗黒の雷。
俺はそれ目掛けてグラムを突き出し、先端に設置していた『重力星の崩壊』が全てを無に帰すべく、喰らい付く。
だが、及ばなかった。
漏れ出た一本の雷が俺を襲い、一撃で第九守護天使を破壊したのだ。
そして、再び喰らい漏らし、雷が俺を――
「ユニクッ!」
「ばっ……なんてことをするんだ!リリン!」
俺の体は強引に後ろに引かれ、暗黒の雷は目標を変えた。
代わりにリリンが雷を受け、第九守護天使を破壊されている。
そして、落雷を遮っていた俺はもう、そこには居ない。
大方の雷は喰らい尽くしたとはいえ、まだ残って……
「リリンッ!!」
もうもうと上がる煙は、何を意味するのだろうか。
俺はその先を考えるのが、耐えられないくらい……怖い。
「リ……リリン……?」
煙が晴れた場所には、何も残っていなかった。
なにも、跡形さえ、無く……。
そ、そんな……。
「ふぅ。凄く焦った。ユニクに怪我が無いようで何より」
「バカを言うなよリリン!キミが死んだら元も子も無いだろ!!」
「一瞬時間を稼げば、ワルトナが助けてくれると信じてた」
「つっ!怒る気にもならないよ……まったく……」
あぁ、俺の後ろから大悪魔さんのイチャラブトークが聞こえる。
何だかんだホント仲良いよな。大悪魔さん達。
俺は視線を冥王竜に向けたまま、後ろ歩きで移動。
危機一髪の状況だったのに、適当な事を言いながら小競り合いをしている大悪魔さんの会話に加わった。
「すまん。俺が不甲斐無いばっかりに、危険に晒しちまった」
「いい。今の攻防は私達の誰が欠けても耐える事が出来ない代物だった。こうして皆が生きているのならこれが最善手だったという事」
「だが、これで力の差が分かっただろ?ユニが顔見知りだっていうから様子見していたが……やっぱり、勝ち目が無い。逃げるよ」
あぁ確かにこれは、今の俺達じゃ、勝ちようが無い。
冥王竜は言ったのだ。「光の魔法は得意ではない。この程度しか扱えない」と。
だからあの魔法は、冥王竜の本気では無い。
唯のお遊び。リリンが雷の魔法を使ったから、それを真似て使っただけなのだ。
これほどまで圧倒的に強いのか、眷皇種。
昔の俺が勝ったとか言うのも、何かの間違いじゃねえのか?
そして……。お前は遥か高みにいるようだな。タヌキ帝王
「逃げる……といっても、どうするんだ?」
「それは問題ない。ワルトナにはアキシオンがあるから」
「アキシオン?あぁ、あの持ってる杖か」
「あの杖はワルトナがもしもの時の為にと用意しているもの。効果は絶対」
ワルトは、杖を突き出し詠唱に入っている。
程なくして詠唱が終わり、杖に付けられた宝珠が砕けて落ちた。
「《飛び立て……世界跳躍ッ!》」
闇の波動が俺達を透過し全方向に広がって、気がつけば俺は黒い世界に立っていた。
ここは、空間魔法の中?
そうか、俺達を空間魔法で逃がそうって事か。
よく見れば、ここにいるのは俺達だけじゃない。
リリンやワルトナはもちろん、トーガやシシトにシュウクとパプリ。その他大勢見たことも無い冒険者たちが大勢いる。
なるほど、近くにいた全ての人間を一度に転移させるとか、流石は大悪魔さんだ。
程なくして、足元から大きな光の門が近づいてきた。
全員がそこに吸いこまれて、元居た世界に帰還する。
遠く離れた地の、見たことも無い風景……が、そこにはあるはずだった。
「おかえり、脆弱な人間よ。気は済んだか?」
そこには、黒い竜が聳え立っていた。
大きさは20m程。
漆黒の鱗を纏い、己こそが絶対なる竜であると主張するかのように、腕を組み俺達を見下ろしている。
その信じがたい光景に、俺とリリンは絶句するしかなかった。
唯一ワルトだけが、あり得ないと声を上げ、状況を受け入れている。
「あり得ない!僕が10日も掛けて練り込んだ空間魔法だぞっ!?特に阻害対策は何重にも張り巡らせた!あんな短時間で攻略されるはずが無いんだ!!!」
「我は虚無魔法を好んで使う、相性が良いからだ。虚無とは、時、空間、生が緻密に絡み合った物。空間のみに重きを置いた薄い虚無魔法など、攻略は容易い」
「嘘だっ!!そんなこと、出来るはずが……」
「我は、魔法の効果時間を操る事が出来る。お前の魔法の準備時間を伸長させ、干渉する時間を稼ぎ、後はゆっくり解いて組み直した。同じ場所に転移するようにな」
「ば、バカな……そんな事が……」
魔法の効果時間を操る?
そんな馬鹿げた事ができるってのかよ?
だが、これで納得もいった。
リリンが放った雷人王の掌が無効化された件についてだ。
あれは恐らく、魔法の着弾時に雷人王の掌の時間を加速させ、効果を速めたんだろう。
いくら出力の高い魔法であっても、効果時間が1000分の1秒とかだったら、大したダメージを与える事ができない。
全ての魔法が意味を成さない。
攻撃系の魔法はもちろん、身体強化バッファや防御魔法だって、効果時間が過ぎれば消えるのだから。
人間としての身体能力のみで、20mを超す化物と戦わせられる。
俺達の目の前には、絶望そのものが形を成して立っているようだった。
そして、絶望は、口を開いた。
「赤き先駆者と戦った時は、1時間ほどであった。だから、こたびの蹂躙も1時間としよう。……20分毎に一人ずつ、殺す」
「最初は白。次に青。最後に赤、お前だ」
「我の力を現実として感じ、己の無力さを悔恨しながら、希望を費やし死ぬがいい……弱き、人間よ」




