第10話「リリンとお勉強~レベルについて~」
「さて、ここからは詳しいレベルの説明をする。まずはレベルと強さについて」
「おう」
レベルと強さについてか。
これは俺にとって死活問題だな。
なにせ、タヌキ相手に苦戦している今の状況じゃ、強くなるなんて夢にすらなりゃしない。
……つーか、夢に出てきそうだな。タヌキ。
そんな事を考えている内に、リリンが真剣な表情で視線を向けて来た。
反射的に姿勢を正しつつ、リリンの言葉に耳を傾ける。
「レベルというのは、その生物の大体の強さを表したもの。だけど、結局は概算値に過ぎず、レベルによって恩恵がある訳ではない」
「ん、概算値?それじゃ、あんまり当てにならないってことか?」
「いや、基本的にレベルが高くなるにつれて戦闘力も上昇していく事には変わりない」
「どういうことだ?」
「レベルが高い=経験を積んでいる、という事。筋肉量が多い人物は相応の経験を積んでいる、また、魔法に秀でた者や武技に秀でた者も、当然、相応の経験を積んでいる」
「そうだな」
「ならば、同じレベルでも強さにはバラツキが出てくる。しかし、経験があるという事は戦闘においても優位に立ちやすく、総じて強いということになる」
「……なるほど。レベルの中には筋トレをして得たレベルも、野生動物を倒して得たレベルも全部ごちゃ混ぜになっているって事か」
ふむ、何となく理解出来た。
生まれてから新たな経験をする度に、レベルが上がって行く。
そして剣術や魔法といった戦闘スキルを覚えることで、より高い数値になる訳だ。
「ということで、ユニクのレベルが低いのは経験、すなわち記憶がない事が原因なのではないかと推察できる」
「あぁ、話を聞いている限りだと、俺のレベル300は相当おかしいもんな」
「うん。この世の全ての生物にはレベルが存在し、どのくらいまで成長するという大体の目安がある。さらに人間では、年齢ごとの平均値なども常識として生活に浸透している」
「確か、300レベルだと3歳児並なんだよな?」
……。自分で言っていてすごく悲しい気分になった。
俺、3歳児並みで飼い犬よりもレベルが低いんだぜ?
「そう、人間の平均値は年齢×100だと言われている。それよりも多ければ早熟、少なければ未熟とされる場合もある」
「なるほど、俺はその平均から大きく外れている訳だ」
「しかし、これは穏やかに毎日の生活をしている人々の場合であり、冒険者を初めとする多くの経験をする人々は、平均値よりも、もっと高くなる」
「うーん、じじぃのレベルは9981だったから普通で、レラさんは7000代だったから平均よりも高いってことだよな?」
「そういうこと。そして、冒険者の平均は大体2万レベルであり、これより高いと周りから一目置かれるようになる」
「冒険者は平均2万ッ!?」
「まぁ、だいたいそれくらいだと思う」
「ん?それじゃ、リリンはレベル48471だから相当高いってことになるよな?」
「……そうだね。ランク4以上の魔導師はあんまり居ないから」
「ランク?」
ランクってなんだ?何かの階級だろうか?
「そう。不安定機構では、10000レベルの事をランク1と呼ぶ。だから、レベル48471の私はランク4の魔導師となる。この『ランク1』になる事で冒険者として一人前と呼ばれ、正式に不安定機構の構成員としても登録できる」
「なるほど、つまり冒険者を名乗りたいならランク1を目指せってことだな?」
冒険者として活動するには、ランク1になるのが好ましい。
そして、リリンはランク4だから平均の2倍以上の強さなのか。
うん、だんだんと現状が見えてきたぞ。
やはりリリンの戦闘力は凄まじいらしい。
……もともと分かりきっていたけど。
だが、平均2万というのは、結構、高めな気がする。
俺の住んでいたナユタ村で、一番レベルが高いのはじじぃの9981。
その次にレベル7000代のレラさんが続き、後はレベル5000の団子状態だった。
「なるほど。とりあえず、俺はランク1を目指せば良いんだな!?」
「そう。先ずはレベルを上げることが最優先。とりあえず、普通の市民の16歳ならばレベル1600が妥当なので、そこまであげれば変人扱いされなくなる」
「変人だと……。俺って、そんな扱いなのか」
……レベル300だと変人扱いらしい。
そりゃ、親子連れは逃げるよな。
だってこんなデカイ3歳児なんている訳が無いし。
うん。変人で間違いねぇな!
「さて、ユニクの目標はランク1を目指すという事になった訳だけれど、そうすることによって様々な特典が得られる。最も大きいのは不安定機構に登録し、職業『冒険者』としてお金を稼ぐことが出来ること」
「え、冒険者って職業なのか!?」
「うん。正確には『不安定機構・実働使徒』という職業。まぁ、大体は『冒険者』って呼ばれているし、不安定機構の窓口でも冒険者案内所と書かれている」
「へぇー、不安定機構ってのはそういう所だったのか。もっと怪しげな仕事とか危険な任務とかを命を賭けてやってるのかと思っていたぜ」
「もちろん、そういう側面もある。不安定機構には白と黒という二つの部門があって、依頼を達成し続けると昇格し、どちらかに属するようになる」
「何か変わるのか?」
「お給料が段違い」
急に現実的になった!
「お給料はとても大事。必要な魔道具や一流の装備品は割りと高価なものが多く、お金が必要になってくる。それに冒険者は歩合給で依頼をこなさないとお給料が発生しない。しかし、白と黒に属すれば、働かなくとも基本給が貰えるようになる」
「なるほど、給料が固定で出るってのは素晴らしいな!」
「ただし、白と黒に属する為の道は険しく、大抵は並みの冒険者で終わる。そして、属してしまったが故に命を賭けた戦いに身を投じたり、人生をかけて挑む『神託』を授けられたりもする」
「ん、やっぱりそういう仕事もあるんだな?」
「当然ある。そして、冒険者同士の戦いも起こる」
「仲間内で戦う?俺が襲われたら瞬殺されそうなんだけど?」
冒険者同士で戦うのか……。
もしかして獲物の取り合いとか、縄張り争いとかそういうのもあったり?
いずれにせよ、俺じゃひとたまりも無いな。
「危険であることには同意する。しかし、意外と渡り合えるのではとも思う」
「俺、3歳時並だぜ?」
「いや、ユニクの実力はもっと遥か上なのは間違いない。レベルと実力の解離はレベルが低ければ低いほど起こりやすい」
「ん?よく分からないな?詳しく頼む」
「たとえば、危険動物を狩りながら生活していたレベル5000の男と、町で勉学に励み色々な事を経験したレベル5000の男ではどちらが強いと思う?」
「そりゃ、狩りをしてた男だろうな」
「そう、しかし、二人は同じくレベル5000。見ただけでは分からない。これこそがレベルと実力の解離。前者の男は時間さえ経てばランク1に到達するからランク1の実力が有ると言える。しかし、後者は勉学だけでは、ランク1には到達できない」
「なるほど、時間の問題ってだけか。レベル上げって時間が掛るもんな」
「特に野性動物なんかはレベルが低くなっている場合が多い」
「じゃあ俺がタヌキに勝てないのも?」
「それは、戦略の差?」
「…………。」
くっ!確かにその通りだから、言い返せねぇ!
あぁ、タヌキよ。
俺は直ぐにお前より賢くなってやるからな!
「そして、ここからが重要。ランクが高くなるにつれ実力差は無くなって行く。ランク4同士の戦いともなれば、片方が圧倒するなんて有り得ない。
「そうなのか?例えば、剣士と魔導師だと全く経験が違うだろ?」
「いずれも相応の経験を積み重ねているから、相手に対して有効的な攻撃も出来る。防御や魔道具を使った効果的な戦い方も身に付けている」
「そうか……、例えば若いランク4と年寄りのランク4、どちらも同じくらいの経験をしている筈だもんな。確かに勝負は分からないか」
「生き残る為に大切なことを言うよ。ユニク。レベルは相手が持つ実力の最低値保証。レベルが1000ならば最低でもレベル1000の実力が有って、もしかしたら、それはレベル3000かも知れないし、レベル10000なのかも知れないと、常に意識して欲しい」
「あぁ、もちろんだ。タヌキ相手でも油断しないぜ!」
「流石にウマミタヌキが相手ならば、油断してても勝てるくらいになって貰わないと困る」
「…………善処します」
あの凶暴なタヌキに油断してても勝てるように、だとッ!?
出来るのか……?いや、出来るように、俺は、なるッ!
「さて、では、どうすればレベルが上がるのか?という話になる」
「タヌキをバッサバッサと斬りまくる?」
「その考え方は間違ってはいない。基本的に危険動物を相手に実戦をするのが最も効率が良い。ウマミタヌキはともかく」
「タヌキはダメなのか……」
「まぁ、先ずは聞いて。レベルを上げるには未知の体験をするのが一番。しかし、未知の体験といえど、得られる経験値に差がある」
「内容によるってことか?」
「そう。そして、大きく分けて二つの枠組みがある。一つは『経験値を持っている生物と戦闘を行うこと』二つめは『未知の体験をすること』」
「どう違うんだ?」
「前者は言葉通り、生物と戦うこと。そして、相手が強ければ強いほど得られるレベルが多くなり、相手が戦い慣れてない生物だと、より多くレベルが上がる。場合によっては1000単位でレベルが上がることもあるよ」
「なんだってッ!?一回の戦いで1000も上がるのか?」
「今のユニクがあの巨大ウナギを一人で倒したなら、1000は余裕で上がると思う」
「マジかよ……。でもよく考えりゃ、斧投げただけで100レベルも上がったもんな。ん、それじゃさ、リリンと戦ったらレベルがどんどん上がるのか?」
「……それはない。実はこの『生物と戦う』レベル上げにはルールがある」
「ルール?」
「全ての生物は、同じ種族との戦闘ではレベルを得ることが出来ない。というもの。未知の体験としてのレベルは上がるけれど、危険動物を倒した時程ではなく、あまり旨味がない」
「へぇ、同種族の争いが少なくなるようなルールだな。神ってのは意外と優しい?」
「神が優しい?それはどうだろう。未知の体験でのレベル上げの仕組みのせいで、争いは絶えない」
「?」
「朝、ユニクが狼狽していたような事案は実はとても多い。レベルの上昇率によっては、吐いた嘘や隠していた事がバレてしまい、欺瞞の種になることも……」
「……なるほど」
確かにそうだ。
実際、俺のレベルが30も上がったのに対し、リリンは1レベルも上がっていなかった。
これがもし、恋人同士だったりすると喧嘩になるわけだな。
……うん。神って極悪じゃねぇか!
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「失礼致します。お昼食をお持ち致しました」
壁に付けられた呼び鈴が鳴り、物静かなメイドさんの声が聞こえてきた。
いつの間にかお昼を回っていたようで、リリンは『ユニク、お昼にしよう!』と素早く立ち上がり、メイドさんを部屋に入れている。
俺としても息抜きをしたかった所だし、丁度いいぜ。
そうして、昼食も美味しく頂いて一息。
あれから続いたリリンの話を纏めると、
・レベルを上げるには経験値が必要。
・経験値には二種類、戦闘経験値と未知体験経験値がある。
・戦闘経験値は同じ種族同士では得られない。
・冒険者の平均は20000レベル。
・レベルの上限は99999レベル。
・現代にも99999に達した人はいる。
などが主な所だろう。
何となくレベルの最大値っていくつなんだ?質問してみたら、「レベルの最大値は99999。野生動物でも滅多に見る事はないけど、トンデモナイ強さを秘めているので近づいてはならない。なお、人間でもいる事にはいるけれど、こちらにも近づいてはならない」と意味深な事を言っていた。
それにしたって俺、弱いなぁ。という俺の呟きに対しては、
「ユニクはおそらくランク2、つまり、冒険者の平均値よりも実力が上だと思う。黒土竜との戦闘では何度も攻撃を回避し、逃亡にも成功していた。それは並み冒険者には難しい」
と教えて貰っている。
もしそうならば、訓練次第で直ぐにでもランク2になれるということだ。
いきなり湧いた希望に、未来への期待に胸を膨らませる。
……腹も膨れているし、もう何も入らない!