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第53話「別れと出会い」

「はいはい、それじゃレジェん所には、僕は割と近いうちに、リリン達はその内行くからね。おもてなしには期待してるよ」

「ワルトナは転移ですぐ来るだろうからいいけどぉ、リリン達はその内なのぉ?」


「そうだよ。ユニのタヌキ嫌いが治ったくらいに行くから」

「あらぁ、残念がるわねぇ。いっぱい準備しておくからぁ、いつでもいらっしゃぁい」



 いつでもいらっしゃい、か。

 その条件で俺がレジェンダリア国に行くことなんて無いから、準備なんてしなくていいぞ。


 俺がタヌキ好きになることなんて、未来永劫、ありえねぇ。



「まったく、レジェの性癖にも困ったもんだよ。すぐにケモナーに対応してくるとはね」

「人のせいにしようするんじゃねえよ、この悪辣ピエロ悪魔ッ!!変な情報を流していたの、明らかにお前じゃねえかッ!!」

「……タヌキ嫌いだったの?ユニク」


「いやいや、僕らは心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)。いうならば、運命共同体で仲間だ。キミの特殊性癖なんて見なかったことにしつつ、新聞社に匿名でリークするよ」

「やめろッ!?!?そんな事になったら、俺=タヌキになっちまうだろうがッ!!」

「タヌキ嫌いなの?ねぇ、ユニク?」


「あぁ、リリン。ユニはタヌキが好き過ぎて、照れているだけさ。ツンデレってやつだよ」

「この期に及んで、変な事を吹き込むんじゃねぇよ!」

「ツンデレ?じゃあ好きなの?」



 あぁ、やっとの思いで大魔王会談が終了したかと思ったら、悪辣ピエロ悪魔のタヌキプッシュ。

 完全に俺で遊んでやがる。

 さっき帝王を見た時は慌てて居たくせに、身がわりが早い。


 俺は楽しげに話し合っているリリンとワルトの間に割って入り、話を中断させた。

 このまま話を続けさせると、絶対にロクなことにならない。


 少なくとも、『タヌキ踊り』とやらをリリンに覚えさせるわけにはいかない。

 俺はドラピエクロを指差して「そろそろ、あいつの話に戻ろうぜ?」と切り出した。



「話が脱線し過ぎだろ。ほら見ろ!ドラピエクロのジャグリングする岩の数が凄い事になってるぞ!」

「あ、これは普通に凄い。たぶんピエロンでも出来ないと思う」

「35……個?いやぁ、2mを超える大きさの大岩が35個も空で舞っているとか、未曾有の大災害だねぇ。メテオだねぇ。それじゃ、最後の電話にいってみよー」



 ドラピエクロは、「ドラドラドラ……」と唸りながら、猛烈な勢いで岩をジャグリングさせている。

 その心は、純粋無垢。

 飼い主のピエロンに褒めて貰う為にやっているんだろう。


 すげぇよ、頑張ったな。ドラピエクロ。

 きっと、ピエロンも、お前のそんな姿を見たら気絶すると思うぜ!

 25年以上もピエロをやってるらしいし、年齢が50歳を超えていそうなピエロン。


 ……これはヤバい。ショック死もありうるぞ!



「プルルルルル。プルルルルル。ガチャ。」



 俺が悲劇の可能性を吟味している間に、ワルトの電話はどこかに繋がったようだ。

 大悪魔→大魔王と続いて、何が来るんだ?



「ぴえぇぇぇぇろぉぉぉぉぉぉん!こちらは、ピ・エ・ロ!トレイン・ド・ピエロでぇ~~~~ございます!」



 あ、ピエロだったか。

 ……なんで電話番号知ってるんだよッ!?

 悪魔同士連絡を取り合っても不思議じゃないが、ピエロは違うだろッ!!


 電話に出たのは、明らかに声を作ってるであろう、壮年のオジサン声。

 甲高いながらも何処か渋いその声は、歴戦のピエロを連想させる。


 で、ここで突然、悲劇が起こった。

 電話から聞こえた声は、もの凄い大声量。

 そのせいで、ビックリしたワルトが耳から電話機を話し、遠ざけた。

 ピエロな声が空に響き渡り、そして……。


 ドラピエクロがジャグリングしていた岩の全てが手からこぼれ、地上に向かって落下していく。

 ……本日の天気は、朝からドラゴンが空を舞い、タヌキが降り注ぐでしょう。

 また、突然の隕石にも注意が必要です。



「大丈夫かな?地上……」

「今はホロビノが優勢。本気を出したホロビノに死角はな……あ。」


「どうした?リリン」

「降ってきた岩をタヌキが装備した。黒い手甲を付けているから、いつもの奴だと思う」



 どんな事になってるんだよ!?地上!!


 視界がホロビノと繋がっていないのが悔やまれる。

 今の状況じゃ視界を繋いで貰えないだろうし、さっさとこっちを片付けよう。


 俺は再びドラピエクロに視線を向けた。

 突然のピエロな声を聞いたせいで、ドラピエクロが吃驚して……しまった訳じゃなさそうだ。

 ドラピエクロは、口元を押さえ、涙目で電話を凝視している。


 ……そうか、電話の主は、ピエロンだったのか。

 俺の推理は当たっていたようで、電話口から名乗りが聞こえてきた。



「ワタクシ、団長のぉ、ピエロンでございまぁす!そうです!団長なんです!団長ですが、電話番。……若い子が「団長は、あっち行ってろ」ってぇ、肩身が狭くてぇ……」



 うわぁ!悲しすぎるッ!!

 25年以上もピエロをやってるのに、仲間外れにされてるのかよッ!


 通話してからものの数十秒で、力関係が明白になった。

 きっとピエロメイクにも、涙が浮かんでいる事だろう。



「おほん!本日は、ご予約ですか?それとも!貸し切り公演ですか?トレイン・ド・ピエロンはいつでもどこでも何度でも、お金さえ払っていただければ、ご要望にお応え……」

「いやいや、お金は払わないよ。これは僕らと君との間で契約された取引の履行だからね。僕の事が分かるかい?」


「はて……?いや、この人を騙すのが好きそうな声はどこかで……。あぁ、思い出した。あん時は本当に世話になったな。バレンシア」

「覚えていてくれたようで、なによりだね」



 いきなり素に戻るんじゃねえよ!

 しかも、重みのある良い声しやがって。

 全然ピエロっぽくないぞ!!



「それで、契約の履行ってのはなんだ?あの時はこれっきりの関係だと、私の誘いを断ったじゃないか?」

「僕は道化を演じる事は好きだが、本物にはなりたくないよ。で、契約の履行ってのは、すこし大仰すぎる表現だったね。別れ際の口約束を果たしたといえば、通じるだろう?」


「別れ際……?ま、まさか……」

「そのまさか、さ」


「な、……なん…………だと………?」

「ドラピエクロを見つけたと言っているんだ。見つけたってのは直接的に見たことを言うよね?だから当然、生きてるよ」


「ほ、本当なのか……!?」



 あ、重みのある良い声が震えている。

 予想外の展開に、人を驚かすことが特技のピエロも言葉が出ないらしい。


 いきなりの電話から告げられたのは、愛するペットの生存の知らせ。

 しかも、25年も経ってるとあっちゃ、感動もひと押しだろう。


 そして、おい、そこのピエロなペット竜。少し離れて欲しいんだが。


 ドラピエクロは俺達に極限まで顔を近づけ、ガン見してきている。

 どのくらい近いかというと、リリンがいつの間にか再召喚していた星丈―ルナが鼻先に刺さっているくらいだ。


 今リリンが悪戯したら大変なことになる事、間違いない。

 鼻の穴がデストロイだ。

 リリンの動向にも気を配りつつ、俺は話の続きを聞いた。



「どこだ……どこにいる!!すぐに向かうぞ!!教えてくれないか!」

「まぁ、そう焦らなくても良いよ。ドラピエクロは僕が保護しているからね」


「な!捕まえてもくれたのか!?おいおいおい、感謝しても、しきれない……」

「いいんだ。昔に言ったろう?僕は聖女を名乗るつもりでいるって。聖女ならば迷子のペット探しもするもんさ」



 いや、聖女はペット探しなんてしないだろ!?

 どんなペットだよッ!?怪獣みたいな……あ。まさに怪獣だったな、ドラピエクロ。


 俺は現実を知っているから、聖女どころか聖母と名乗るこの悪辣悪魔がドラゴンを探しだした事に違和感は無い。

 むしろ、存在を知ってて隠していたんじゃないかと疑いを持っているが、そんなことピエロンは知らないだろう。


 電話の向こうから聞こえてくる声は、ピエロらしくない、弱々しい感謝の言葉。

 何度も「ありがとう」と言われると、こっちまで良い気分になってくるな。


 あぁ……リリンも誇らしげに胸を張っている。

 俺はついさっきまで「ブチ転がしてやる!」って言ってたの、忘れてないぞ。リリン。



「ほら、せっかくだ。声でもかけてやりなよ。ドラピエクロにさ」

「そうか……すぐ近くに居るんだな……。よし」



 ワルトは、受話器を自分の耳から離し、ドラピエクロに向けた。

 そしてさらに近づくドラピエクロの顔。


 ……鼻息が荒い。勘弁して欲しい。



「ドラピエクロ……そこにいるのか……?」

「ピ……ピエロン?」


「いるんだな?ドラピエクロ」

「ピエロン。イル。ナツカシイ。ピエロフッカツ!!」


「はは!なんだよ、昔のまんまの声じゃないか。変わらないんだなぁ、ドラピエクロ」

「ピエロン、ビッグスター!ピエロンヨロコブ!ドラピエモウレシイ!!」



 いや、滅茶苦茶変わってるぞ!

 具体的に言うと、全長100mまで成長した後、大悪魔の襲撃を受けて少し縮んだが、それでも80mもあるぞ!!


 俺はふと疑問を感じ、リリンには話しかけた。



「なぁ、ワルトは、ワザと誤解される様な事をしてないか?」

「……たぶんしてる。というか、この場合の判断はワルトナが正しいと思える」


「なんでそう思うんだ?」

「全長80mのドラゴンとか、飼う飼わない以前に、受け取り拒否されると思う」



 ……。確かに。

 昔の可愛らしい姿を想像していたのにもかかわらず、やってきたのが町を余裕で壊滅させる化物とか、事前に知ってたら俺なら知らんぷりをすると思う。

 自らの生活を守るという大義名分の前には、25年前の家族愛なんて無いに等しい。

 現実は厳しいのだ。


 だが、そんな事を、大悪魔が許すはずがない。

 しかも相手は、悪辣さに関して大悪魔仲間の中で一番だと名高い、戦略破綻さん。


 ほら、ピエロとドラゴンの感動の再会シーンを見て、優しく微笑んでいらっしゃる。

 もう逃げ場がなさそうだ。可哀そうに。



「ピエロンか。今もそう呼んでくれるんだな……ドラピエクロ……。ドラピエクロ!……ドラピエクロ!!」

「ピエロン!ピエロン!ピエロン!!アイタイ!イッショニイタイ!!」


「あぁ、居てやるとも……お前にはいっぱい謝って、感謝して、そしてこれからは、ずっと一緒だ」

「ヤッタ!ピエロンガンバル!ジャグリングスル!!」


「ジャグリング?あぁ良いぞ。今度一緒にショーをやろう。なぁ、ドラピエクロ?」

「ピエロン!」


 それは無理があるんじゃないだろうか。

 サイズ感的に。



「講演の後は、昔みたいに一緒の布団で寝ような?ドラピエクロ!」

「ピエロ――ン!」



 それは絶対に無理だろッ!!まず80mの布団がねえよッ!

 そしてもし有ったとしても、絶対にやめておいた方が良いだろッッ!!


 寝返り一発で、天に召されるからな!!



「さて、僕がドラピエクロを保護したってのは、十分に伝わっただろう?」

「もちろんだ。こんな奇妙な鳴き声で鳴くドラゴンは他には絶対にいないと、出会ったときから思ってるからな」



 この鳴き声は最初からなのかよッ!?

 謎の存在すぎるだろ!ドラピエクロ!!



「ということで、ドラピエクロと存分に再開すると良い。場所は――」

「「だんちょー。きちっとスーツを決め込んだイケメンが面会を希望されていますー。」誰だそれ?「ゴルディニアスって人です」」



 ワルトの言葉を遮るようにして、電話の先から若い声が聞こえてきた。

 突然の来訪者みたいで、「今はそれどころじゃないから、返って貰ってくれ」とピエロンが断りを入れようとして、ワルトが止めに入る。



「ちょい待ち、今、ゴルディニアスって言ったかい?」

「あ?あぁ。知らねえ人なんだが、知っているのか?」


「そいつは僕の代理人さ。これからどうやってドラピエクロと再会させるかって話をしに来たんだろうね」

「な、なに!?そうなのか!!」


「そうなんだよね。あ、謝礼をくれる気があるなら、そいつに支払っておくれ。そうすれば僕に伝わるからさ」

「分かった。本当に、なんと礼を言ったらいいのか。ありがとう。ありがとう」


「約束は果たした。これで貸し借り無しさ。どこかでキミらを見かけて気分が乗ったら、声を掛けさせてもらうよ」

「もちろんそうしてくれ。……そのときは、貴女たちへ送るぅ!と・く・べ・つ・なショーをお見せいたしましょ!!コングラッチュレーション!!サンキュー!!」


「ははは。どんなショーになるのか。見物だね」



 最後のオチとしてピエロな口調に戻ったピエロンは、最大限に声を張り上げて感謝の言葉を述べていた。

 その声を聞いたドラピエクロが再び号泣。


 感動の涙なんだろうが、俺はまったく感傷的な気分にならない。

 色々とでかすぎるんだよ!!

 瞳のサイズが1m近いとか、どう考えてもホラ―だからッ!!



「さぁ、ドラピエクロ。キミの飼い主のピエロンはここから南に飛んで行った先の『デュウゲシティ』という町にいる。キミの飛行速度なら、1日も掛らないだろう」

「ピエロン!!」


「大きな湖がある綺麗な町さ。そこにたどり着いたら、むやみに町に降り立たず、ずっと空を飛んでいてくれ」

「ピエロン!」


「空を飛んでいればゴルディニアスって奴が迎えに行くからさ。その後はそいつの言う事を素直に聞くんだ。そうすればピエロンに会えるからね」

「ピエローーーーン!」


「ほら、もうお行き。幸せになるんだよ?」

「ピエロン!カンシャカンゲキ!アリガトー!!」



 そう鳴きながら、ドラピエクロは俺達からゆっくりと離れていく。

 すーーー。と空を滑るようにして距離を開け、そして大きな翼を広げた。


 その翼には、大きな魔法紋が浮かび上がっている。

 バサリバサリと翼をはためかせ、周囲の空気をかき乱し、荒れ狂う暴風を作りだしたドラピエクロ。

 やがて南の空へ視線を向けて、体を前に押し出した。


 あぁ、一時はどうなるかと思ったぜ。

 冒険者を募集するフリをして敵をあぶり出そうとしたら、頭のおかしいドラゴンが襲来だもんなー。


 俺はワルトと出会ってからの出来事を振り返る。


 カミナさんとはまた違う、悪意たっぷりの大悪魔ワルトの訓練とか、良く生き残れたと思う。

 頑張ったな!俺!


 常識的な冒険者の実力を初めて知った。

 今まで頑張り過ぎだったんだな!俺!!


 そして、リリンとワルト、心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)の本気を見た。

 もっと頑張らなくっちゃな、俺!!!



 あぁ……ドラピエクロの姿が、どんどん遠ざかっていく。

 色々あったが、総合的に見て良い経験になったんじゃないだろうか。

 きっとレベルも、もの凄く上がっているに違いない。


 俺はレベル目視を起動。そのまま自分の手に視線を落そう……として、変な違和感を覚えた。

 ドラピエクロの周囲の空気が歪んで見えたのだ。



「あ、あれ?目がおかしいな。視界が歪む」

「……違う」


「リリン?」

「あれはユニクの目のせいじゃない。本当に歪んでいる」



 え?本当に歪んでいるだって?そんなバカな。

 だって、ドラピエクロの周囲一帯、見渡す限りの空気が歪んでるんだぞ?

 いくらなんでも、大規模、すぎる……。


 俺はどうにかして否定したかった。

 だが、否定の言葉どころか、たったの一言も発することができない。



 俺の視線の先で起こった出来事を、ただ、ただ、見続けるしかできないのだ。



 悠々と空を飛ぶ、ドラピエクロが。

 縮んだと言えど、未だに80mもある巨体のドラゴンが。


 歪む空間から出現した巨大な手によって、握り捕らえられた(・・・・・・・・)という、信じがたい光景を。


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