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第49話「終戦!ドラジョーカー④―描き続けた絆―」

「何だこれ……。体の色が透けて行く……?」



 リリンとワルトは、それぞれが持つ最強の魔法の『雷人王の掌(ゼウスケラノス)』と『氷終王の槍刑(ハデスバイデント)』を融合させ、精巧緻密な時計の針を模した1対2本の『槍』を産み出した。


『『命を止める時針槍(クロック・クロノス)』とリリンとワルトが呼ぶこの槍を見て、俺達の周囲の空間が世界から隔絶されたのだと、直感で悟った。

 まるで、遠くの景色が離れていくかのように感じ、焦燥感に刈られる。

 この空間内にいるべきではないと、魂が危機を訴えているのだ。


 そして、


 この空間の中心は、リリンとワルトの持つ二本の時針槍。

 二人の持つ『命を止める時針槍(クロック・クロノス)』こそが、この隔絶された世界の中心であり、例えるのならば、まるで一つの時計盤のようだ。


 そして、運命の時計盤は動きだした。

 開始の合図は、どこまでも良く響く鈴のような声。



「やろう。ワルトナ」

「ここからは、まさに時間との勝負だ。リリン、速攻で決めに行くよ」


「分かってる。容赦も慈悲も、失敗も敗北もありえない。全ては私とワルトナの思うがままに」



 交差させていた『命を止める時針槍(クロック・クロノス)』をゆっくりと離して、リリンは切っ先をドラジョーカーに向けた。

 リリンが持つのは赤い長針槍。

 複雑に組み合わされた魔法陣が、カチリカチリと駆動している。


 本当に時計みたいだ……。


 ありきたりな感想を心の中で呟いていると、俺の意識の中に、情報の濁流が流れ込んできた。



「やあ、ユニ。困惑しているみたいだね」



 脳内に響く、ワルトの声。

 軽快ながらも、重みを感じさせるワルトの声は、今の現状を語りだした。



「この槍は、世界の理を超越した証」


「効果はとても滑稽で、常識では語れやしない」


「時計盤の世界は、時の流れが狂うんだ」


「時間が、世界と少しづつ、ズレていく」


「時がズレると、光が届かなくなり、やがては存在を証明できなくなる」


「色が失われてゆく原因はそれで、完全に色が消えれば、世界からも消滅する」


「失われた色はどこに行くかって?良い質問だね」


「色は全てこの二本の槍に集約されてゆく」


「赤、青、緑の色光の三原色を知っているかい?その内の二色がこの槍さ」


「緑がない?良い疑問だ。今回は足りていないんだよ。不完全なんだ、残念ながら」


「ともかく、この空間は刻一刻と(物質)を失っていくし、失った物質エネルギーはこの槍に集約されて一つとなる」


「つまり、この空間の中に存在する物質の全てがこの槍であり、この槍こそが、空間そのものだ」


「だから、この槍を使うという事は、物質や現象を支配するということに等しい」


「さぁ、ユニ。感嘆の声をあげるといい。これが僕ら二人の最高。正真正銘の『最強の魔法』だ」



 卒倒しそうなほど、乱雑に響いたワルトの声は、いかにこの魔法が危険なのかを語っていた。


 一つ、この槍によって空間は隔てられ、世界から切り離されたということ。

 一つ、空間内に存在する全ての物質はエネルギーに変換され、槍に蓄えられてゆくということ。

 最後に一つ。この槍を持つリリンとワルトは、空間を支配することができるということ。


 この槍は危険だ。危険すぎる代物だ。

 事象が起こった後の結果として、破壊があるのではない。

 破壊という概念そのものを、無理やり押し付ける事が出来る禁断の力。


 だが、俺はこの魔法を見て、不思議な感覚を得ていた。


 恐怖から解放されたときに感じる『安堵』。


 どうしてだか分からない。

 だが、この魔法を見た瞬間、込み上げてきた感情の中に、確かに『安堵』があったのだ。



「ピィィィィィィエロォオオオ!」



 俺が思考に埋没していると、ドラジョーカーが奇声を発した。

 もともと奇声だったけど、今回のは特に酷い。


 ドラジョーカーは、指ではじいたナイフが作った隙間に、無理やりに体をネジこませて失楽園を覆う(ディスピアガーデン)を破壊。

 その代償に体の表面の化粧が剥がれ落ち、もともとの素肌が露出した。


 現れたのは、生物の極致とも言うべき、鍛え上げられた肉体。

 野生における絶対的指標である筋肉が隆起し、固い鱗が美しく流れている。

 ふざけた格好から解き放たれた今、コイツはまぎれもない化物竜、『アルティメット・竜・ジョーカー』。

 怒りの瞳が、リリン達を睨みつけている。



「私は右側をやる。ワルトナは左側をよろしく」

「はいなー」



 軽い口調で意思の疎通をして、リリンは空を駆け始めた。


 その疾走は、精錬され尽くし、一切の無駄が無い。

 ただ真っ直ぐに走っているのではなく、全ては計算ずく、一挙手一同に意味があるのだ。


 リリンは、ドラジョーカーの手前20mまで接近すると、右足を踏みこんで、左手を前に突き出した。

  蓄えてきた勢いを余すことなく左手に乗せて、空中に三重の魔法陣を放つ。

 そして、素早く体を返して、右手に持つ『命を止める時針槍(クロック・クロノス)』を魔法陣に突き刺し、魔法を唱えた。



「《時空を超える雷(ゼウス・アダマス)》」



 リリンの鈴とした声が、雷鳴に掻き消された。

 姿までも光に埋め尽くされ、見る事が出来ない。


命を止める時針槍(クロック・クロノス)』 を突き刺した魔法陣から撃ち出されているのは、数千にも枝分かれする雷。

 光でできた巨木をそのまま叩きつけているかのような凄まじい雷が、ドラジョーカーの右腕を捉えて離さない。


 鱗の全てを発光させながら、ドラジョーカーは動きを止めている。

 いや、動けないのだ。

 体内を走る電気信号が、時空を超える雷(ゼウス・アダマス) によって上書きされている以上、動かしようが無い。



「おーまぶしいー!まるで豆電球のようだ。それでは僕も、心ばかし参加しよう」



 光が空間を埋め尽くす最中、ワルトは『命を止める時針槍(クロック・クロノス)』をドラジョーカーに向けたまま、にこやかに笑っていた。

 まるで思い出のアルバムを見ているかのような慈愛に満ちた瞳が、リリンを捉えて離さない。


 だが、事態は確実に進行していた。


 ワルトは慣れた手つきで指をはじき、ドラジョーカーの左側に特大の転移陣を出現させた。

 その大きさはドラジョーカーとほぼ同じ大きさ、直径100m程の楕円形。


 ワルトは、不安定に揺れ動く転移陣に向かって、『命を止める時針槍(クロック・クロノス)』を指し、手放す。

 手からこぼれた『命を止める時針槍(クロック・クロノス)』は、蒼い光となって進み、転移陣と一つとなった。



雷人王ゼウスの横に居るなら、やっぱりこれだよね《付き従う氷衛星(ユピテル・エウローパ)》」



 暗黒一色だった転移陣を引き裂くようにして出現したのは、ドラジョーカーを上回る大きさの、氷塊。

 それは、小さい惑星とも比喩すべきほど圧倒的で、ゆっくりと、だが、確実にドラジョーカーに迫る。


 竜と惑星の衝突。

 ましてや、竜は絶え間なく続く雷の責め苦によって、受け身一つ、取ることが出来ない。


 やがて竜は付き従う氷衛星(ユピテル・エウローパ)に飲み込まれた。

 ドラジョーカーに付き従う氷衛星(ユピテル・エウローパ)が衝突した瞬間、光り輝いていた鱗の全てが凍て尽き、氷結したのだ。


 全身の神経が麻痺し、肉体のほとんどが凍りついた。

 意思のある氷とでも呼ぶべき状態となり果てたドラジョーカーの瞳から、露が落ちる。


 それは、ワルトの魔法によって作られたものではない。

 確かな温かみのある、感情を灯した雫だ。



「ピエ……ロ……ウ……」



 瞳からは敵意が失われ、そして、怯えの色のみが残った。

 ドラジョーカーは完全に無効化されたようだな。

 抵抗の手段は残されておらず、リリンもワルトも『命を止める時針槍(クロック・クロノス)』を失ったものの、未だ健在。


 勝敗は決した。

 ならば、そろそろ、俺の出番だ。

 俺は、ドラジョーカーの目の前まで走り抜け、真っ直ぐに目を見て話しかけた。

 俺はコイツに誠実に接しなければならない。


 だって……。

 これはどう見てもやり過ぎだろッ!!


 流れで人類の危機を救うレベルな魔法をぶち込んじゃったけど、よく考えてみれば、コイツがしたことって飛んできただけだよなッ!?

 そんでもって、「ピエロ――ウ!」と楽しく曲芸をしてただけだよなッッ!?


 いくら、森に住み付きそうだといっても、現時点では実害を及ぼしていない。

 暴れ始めたのだってタヌキ帝王が出てきた後からだし、十分に正当防衛が成立しそう。


 ごめんな。うちの大悪魔さんは、なぜかドラゴンに厳しいんだ。

 ペットのホロビノも、よく泣いている。



「すまんな。許してくれとは言わねえから、俺の話を聞いてくれるか?」

「……。」


「お前はさ、誰かを探しているんだろ?その誰かってのは、『トレイン・ド・ピエロ』の誰なんだ?」

「……ピエ?」


「ワルト達は知ってるんだってさ。お前の飼い主の事を、そして、どこに居るのかも」

「ピ、ピエロ……シッテイル?ホント?」


「嘘じゃねぇぞ。その証拠を聞かせてやるよ。『ドラピエクロ』」



『ドラピエクロ』

 ワルトが見ていた紙に書いてあったこの名前は、恐らく、コイツの本当の名前だ。


『人懐っこいドラゴンの『ドラピエクロ』の消息を探しています。心当たりがある方は、サーカス団『トレイン・ド・ピエロ』までご連絡ください』


 全長100mのドラゴンの消息を探すなんて、どうかしていると思ったが、紙に記載されていた日付は、なんと25年も前。

 肝心のイラストも、コイツと似ても似つかないくらい可愛らしい顔立ちをしていたが、同じ所が一つだけあった。


 顔に書かれたピエロメイク。特に目立つ鼻先の星マークと、左目の周りの二重丸。そして矢印。

 姿こそたくましく成長してしまったが、コイツは25年もの間、自らの顔に”絆”を描き続けていたのだ。


 そしてドラジョーカー、いや、ドラピエクロは瞳を瞬きさせると、ポツリと呟いた。



「ピエロン……シッテイル?ドコニイルカ、シッテイル?」

「あぁ、知っているらしいぞ?あいつらがな。……リリン、ワルト、そろそろぉぉぉぉぉおお!?」



 振り返った先に、見慣れない人物?が立っていた。

 そしてその人物は、陽気に踊りだしやがった。



「ずんちゃか!ずんちゃか!ずんちゃか!ずんちゃか !」

「ずんちゃか!ずんちゃか!ずんちゃか!ずんちゃか !」


「ぼ・く・ら~はピエロ~!」

「ゆ・か・い~なピエロ~!」



 お前ら、何してんのッ!?


 俺の視界の先に居るのは、奇抜な衣装を身に纏ったピエロリリンとピエロワルト。

 二人は腕を組んで足を高々と上げたり、その場でクルクル回ったりと、完全にピエロになりきっている。


 しかし、その動きはピエロの限界を超越していた。

 腕や足を振る度にフォォン!と殺傷能力マシマシな音が聞こえ、俺のシリアスムードを容赦なくぶち壊してくる。


 晴天の空に、ピエロが三匹。

 恐らく歴史上、初めての事ではないだろうか。


 ……もう、帰っていいかな?

 これ以上、お前らのペースについて行ける自信がねぇよ!!


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