表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユニーク英雄伝説 最強を目指す俺よりも、魔王な彼女が強すぎるッ!?  作者: 青色の鮫
第6章「宿命の戦略破綻」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

221/1330

第46話「激戦!ドラジョーカー①―開幕を知らせる咆哮―」

「ピエロォオォォォォォォォォオォン!ボッチヤダ!!ピエロオオウウウウウウウ!ヒトリサミシイ!!」



 驚愕のタヌキフィーバーから一転、事態は悪い方向に転がり初めた。

 今まで、一匹で曲芸をしていたドラジョーカーが現実に気付き、そして、悲しみの金切り声を上げているのだ。


 なんというか、うん。同情するよ、ドラジョーカー。

 気が付いたら仲間のドラゴンが一匹残らず駆逐されており、しかも目の前に居るのは明らかに強そうなタヌキ。

 悲鳴を上げるのも無理は無い。

 お前はワルトとの約束を守り、一生懸命にリリンを笑わせようとしていただけなのに、タヌキのせいで滅茶苦茶にされたもんな。


 タヌキって奴はロクでもない生物……いや、よく考えてみれば、早いか遅いかの違いしかねぇよな?

 我らが大悪魔さんも、ドラゴンを駆逐しようとしてたのは一緒だし。


 だが、ワルトもリリンも、状況は最悪のルートに進んでいると言っている。

 何が違うんだろうか?



「リリン、ワルト。ドラゴンを駆逐するのは既定路線だったんだろ?手間が省けて良かったんじゃないのか?」

「全然違うんだよ!あぁ……ユニの周りにタヌキがうろついていると聞いておきながら、なんという失態だ。ここ1年の中で一番、最悪だよ……」


「そんなにか。確かにドラジョーカーは叫びまくっているけど」

「じゃあ聞くけどさ。どうやって、怒り狂ってるアイツを説得するんだよ!?」


「え?それはホロビノがやるって話じゃ……?」



 ドラゴンを駆逐して勝利宣言をした後、ホロビノに交渉を頼む。

 そしてドラジョーカーが天龍嶽に戻れば仲間と再会。めでたしめでたし。って予定だろ?


 割と順調に進んでいる……って、あれ?ホロビノはどこに行った?



「あれ?ホロビノは?」

「……ホロビノなら居ないよ」

「うん。ちょっと心配」


「居ない?どこに行ったんだよ!」

「どこもなにも、落ちていったじゃないか」

「ホロビノはタヌキの襲撃を受けて、揉みくちゃになりながら落下していった」


「……。ホロビノォォォォォォォォォッッッッッ!!!!!!!」



 えええええええええッッッ!?

 なんて事しやがるんだよッ!このクソタヌキィィィィィィィィ!!!!!!


 お前が狙ってたのは、ドラゴンの群れだろうがッ!

 俺達のホロビノには何も関係が、ってあぁぁぁ!そう言えばホロビノはドラゴンだったぁぁぁ!!!



「え?それじゃ、ホロビノはタヌキに敵だと間違われて、攻撃されたって事か!?」

「どう見てもそうだろうね。というか、ドラゴンなんだからそっち側だと思うだろ。普通に」


「じゃあどうすんだよッ!!交渉役がいねぇんじゃ、事態が収拾しねぇだろッ!」

「しないねぇ。どうすればいいか僕にも分かんないや。あ、文句はそこのタヌキ帝王に言っておくれよ」



 本当にロクでもねぇ存在だな!このクソタヌキッッッ!!!!!

 お前のせいで、戦略破綻さんの戦略が破綻しかかってるんだけど!!


 俺はタヌキ帝王に詰め寄った。

 冷静じゃない今の俺は、タヌキ帝王がどんな存在であるかなど関係ない。

 一言文句を言ってやらなきゃ、気が済まねぇんだよッッ!!!



「おい、このクソタヌキ。てめえのせいで面倒事が増えたんだよ!!謝罪しろ謝罪!!」

「シラネ。」


「コイツ……!」



 俺はグラムを抜き放ち、タヌキに突きつけた。

 それでもタヌキは微動だにせず、あろう事か溜め息を吐きだし、口を開く。



「やめておけ。今のお前にグラムは使いこなせないだろうし、三人で攻撃してきても、脅威になりそうなのは、そこの”白いの”だけだ。まぁ、それでも、俺が余裕で勝つがな」

「……な!」


「せいぜい強くなっておくんだな。今のお前にゃ、遊んでやる価値もねぇ」



 流暢な人間の言葉で、タヌキ帝王は語った。

 タヌキの口から発せられたというよりも、直接大気を揺らしたかのような、作られた音声で。


 つーか、やっぱり喋れるじゃねぇか!

 めちゃくちゃ流暢じゃねぇか、この野郎ッ!!


 そして、たったの二言だけのその語らいは、俺に多くの情報をもたらした。


 今の俺にはグラムは使いこなせない?

 三人で戦っても、タヌキ帝王に通用するのはワルトだけ?

 そして、”今の俺”には遊んでやる価値がない。……それはつまり、過去の俺を知っているということ。


 ……お前は一体何者なんだ、タヌキ帝王。



「《次元の獣道(タヌキルート)》」

「おい、待て!!」



 タヌキ帝王は、俺が疑問を問いかける前に空間に転移陣を創造し、そこへ向かって歩み初めた。

 咄嗟に引き止めるも、タヌキ帝王は振り返りもしない。



「おい、待てよ、待ってくれ!クソタヌキッ!!」

「それが俺にものを頼む態度か?クソガキ。絶対に待ってやらん」



 ちくしょう!クソタヌキをクソタヌキと呼んで何が悪いんだよッ!!

 そうやって呼び合うのが、俺達の礼儀だろうが!!


 だがタヌキ帝王は待ってくれなかった。

 それどころか、足取りが軽やかになり、軽快なリズムで魔法陣へ一直線。

 本当にクソタヌキだ。



「一つだけ聞かせて欲しい!!貴方は何故、ユニクの近くに居るの!」



 ここでリリンが割って入って来た。

 そしてその問いは俺が一番聞きたかった内容だった。


 リリンは俺の意図を瞬時に理解し、助け船を出してくれたらしい。

 だが、相手は性格のネジ曲がったクソタヌキ。

 簡単に答えてくれるはずが……



「バナナチップスの礼だ。答えてやる」



 答えてくれるのかよ!

 食い意地張ってんなッ!クソタヌキッッッ!!!



「刻限が迫っている。因果を越えようとしたが故の代償の刻限がな。それに興味があるんだよ、俺も、……そして、ナユタ様もな」

「代償の刻限……?」

「いきなり現れて、物知り顔で語ってるんじゃないよ!この、クソタヌキ!とっととどっか行っちまえ!!」


「ワルトナ?」

「……口が悪いな。どいつもこいつも。……次に会った時に遊んでやろう。内蔵する魂(・・・・・)を呼び覚ましておけ」

「!!」

「おい、待――」



 それ以上の問答をするつもりはないとばかりに、タヌキ帝王は魔法陣に飛び乗り消えた。

 その動きは、この空間内で見せたリリンの動きよりも格段に速い。


 この瞬間、俺は悟ったのだ。

 あのクソタヌキは、俺達よりも圧倒的に格上の存在であるということを。



「ちくしょう、何なんだよあのクソタヌキ。いきなり出てきて意味深なこと喋り過ぎだろッ!!」

「これは後で吟味した方が良さそう。でも、それは後で。今やるべきではない」

「そうだね。本当にそんな事をしている場合じゃないんだ。ドラジョーカーが本気になってしまったんだから」


「ピエロン……。ドコニイル?ミツカラナイ。ミツケテホシイ……」


「来るよ、ユニク。衝撃に備えて!」

「防御は僕が張る!《多層魔法連・空盾エアロシール氷障壁アイスバリケード結晶球結界プロテクトスフィア》」


「オマエラタオセバ、ブタイモラエル……ミツケテクレル……!!《龍技演目ドラゴンアート龍道化師の宣言オープナー・オブ・クラウン》」



 そして、唐突に戦闘は始まった。


 開始の宣言はドラゴンジョーカーの咆哮。

 天を衝く巨体から放たれた魔力を帯びた声の波動は、見えるはずの無い空気の揺らぎを可視化させるほど、濃密なものだった。


 俺は衝撃に備えるため、グラムを盾がわりにして耐えようと構える。

 だがその波動は俺に届く事がなかった。

 俺の前にワルトが割り込み、魔法障壁を張っていたからだ。



「ワルト!」

「ち。この波動は、衝撃だけを与えるものじゃないね……精神汚染系か!」



 ワルトが何かに気付いた瞬間、構築していた魔法障壁が音を立てて破壊された。

 咄嗟にリリンが別の魔法障壁を張り耐え凌ごうとするも、あっという間に亀裂が走り、砕け散る。


 そして、ドラジョーカーの魔力の波動は俺達を包み込み、透過した。



「リリン!ワルト!大丈夫か!?」

「……僕は大丈夫だ。感覚的に、三人とも外傷はない。が、」


「外傷はない、が?」

「リリンが、やられた」


「なに!?」



 俺の前に立つ二人に外傷は見当たらない。

 二人ともが腕を突き出したままの恰好でドラジョーカーを見据え、第二波に備えている。


 無事な二人の姿に安堵しつつも、ワルトの言った『リリンがやられた』という言葉の意味を探る。

 その正体は、リリンのあり得ないはずの声によって、すぐに判明した。



「あはは……あは、あはははははは!ん。あははははははは!」

「リ、リリン……?」


「あはは!ごめんユニク。ドラジョーカーの魔法を受けてしまった。あははあはははは!」

「……。なにごとだよッ!?リリンが笑ってるんだけどッ!?」


「今のは精神汚染系の魔法だよ。アンチバッファを戦闘前に掛けてくるとは、いよいよ侮れなくなってきたね」

「それとリリンが笑っていることに何の関係が?」


「精神を汚染されたんだ。だからリリンは、まるでサーカスの観客席に居る時みたいに笑い続けることになる」

「あはははは!あははははは!情けなくて笑えてくる!この屈辱は100倍にして返す!」



 なんだそれッ!!ピエロだったら実力で笑わせに来いよッ!!魔法使ってんじゃねぇ―よッ!!


 リリンは声を出して笑い、腹を押さえながら「笑い過ぎてお腹が痛い!あはは!!」と唸っている。

 恐らく声を出して笑う事が少ないから、笑う為の筋肉が使い慣れてないのだろう。


 というか、危なかった。

 もしもこの魔法を戦闘開始時に使われていたら、一瞬で勝負が決まる所だった。

 リリンが爆笑することなんて絶対にないと思っていたが、魔法を使ってくるとは盲点だったぜ!



「ワルト、いきなりやべえ魔法を使われたというのは分かる。だが俺達は何で平気なんだ?」

「僕は職業柄、精神干渉には特別な耐性を得るように訓練している。ユニは……たぶん馬鹿だからだろうね」


「なんでだよッ!」

「こういうのは、普段から本音を偽ってる奴の方が効果の振れ幅が大きいんだよ。ユニは自由気ままに思ったことを口にして生きているだろ。タヌキ帝王にツッコミを入れるなんて事が出来るのは、古今東西、キミくらいなもんさ。誇っていいよ」


「くっ、褒められてる気がしねぇ!」



 ワルトの解説では、さらに状況は悪化してしまったという。

 リリンは表面上は笑っているだけだが、実際は精神を汚染され、正常な思考ではなくなってしまったというのだ。


 笑うということは気分が向上し、判断を一方づけてしまう。

 結果的に判断ミスを引き起こし、致命的な事態を招きかねない。


 ……なんて厄介な。



「今から僕はリリンの解呪に専念する。5分でなんとかするから、その間はキミらで凌いで欲しい」

「リリンも戦うのか?」


「解呪自体は、この空間内にいればどこに居ても出来る。それよりも、今から押し寄せるであろう怒濤の攻撃を凌ぎきるのは、ユニだけじゃ不可能だ」



 ワルトは口惜しそうにしながらも、黙ってリリンの解呪を初めた。

 そしてリリンは身体が淡く光り出し、湯気のようなものが空中に霧散していく。


 体の中に入った魔法を空間に流して溶かしているのだろう。

 神秘的な光景だが、ゆっくりと眺めている時間は無い。


 ドラジョーカーは、リリンが魔法に掛ったことを確認し満足げに頷いた後、腕を広げて抱えていた岩を空中に放り出した。

 その岩の表面には、全て、魔法陣が刻まれている。

 俺とリリンがその事を視認した瞬間、ドラジョーカーが再び、鳴いた。



「《巨岩を放つジャグリング・ドラゴン》」



 20個の岩が連なり、まるで一匹の生物のように空中で回る。

 莫大な質量を持つであろう巨岩をいとも簡単に操りながら、ドラジョーカーは口から火を放ち、次々に岩を着火させた。


 周囲の空気を歪めほどの熱量となった、灼熱の溶岩石。

 そして、その溶岩石は、俺達に向かって放たれたのだ。



「リリン、回避するぞ!」

「あはは!」



 俺はリリンの手を引き、何も無い空を駆け上がった。

 足元を通り過ぎて行った溶岩石の熱を感じ、ひやりとした汗が流れる。


 あんな熱量の岩を喰らったら、ひと溜まりも――


「《 超高層雷放電ガンマレイブラスト!》」


 ガァン!という爆裂音が俺の前で炸裂し、思考を停止させた。

 ……今のは、何だ?



「あはは、ユニク。気を抜いちゃダメ。これからが本番」

「今のは……?」


「光で出来たナイフだよ。あはは!ドラジョーカーが光で出来たナイフを投げて来たから迎撃した。うふふ!」

「光のナイフ……? いや、あれはナイフと呼ぶには、でかすぎるだろ……」



 天空に悠々と立つドラジョーカーは腕をクロスさせ、道化師さながらにポーズをとっている。


 その指の間には、一本が5mを越えるバカデカイサイズの光のナイフが、7本も握られていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ