第39話「森の危険生物」
「この似せ聖女が!!今の戦闘のどこに参考になる余地があったんだよっ!!ぶっちゃけユニクルが走り出した後、何が起こったのかすらよく分からなかったんだが!!」
「おや、目で追えなかったのかい?」
「高速戦闘に慣れてないのなら仕方がない。慣れるまでは次元認識領域で補助をするのが良いと思う」
「なんだその、トライなんとかってのはよっ!?」
「次元認識領域は認識を拡張するバッファの魔法だよ。高位冒険者のパーティーなら必須クラスの魔法さ」
「パプリ、シュウクとトーガにも掛けてあげて」
「わかった、りりんおねーさま!《目に見えぬのなら、感じるがよい。五感を越えし第六の――》」
斬るべき犬が欠片も残らず木端微塵になったし、俺はリリン達の所に戻って来た。
するとどうだろうか。
トーガは、「な、なんでぇ……?なんでぇ……?」と慌てふためき、シュウクは「私達は魅いられたのです。普通に暮らせるわけないでしょう。それはそうと、2億エドロは支払って下さいね」と追い打ちを掛けている。
シュウクの方はいち早く現実を知り、自分だけがワルトに金品を巻き上げられたという事にも気が付いたらしい。
これで冷静じゃないのはトーガだけか。
……頑張れトーガ、冷静じゃないってのはな『驚くべき事』がある、つまりは常識的ってことだ。
本来は誇らしい事なんだと思うぜ。……たぶん。
さて、まずは次元認識領域をかけられて慌てているのを落ち着かせるか。
「こ、これはなんだ!?高い所から見下ろすみてえに、俺達が見える……」
「その視点は魔法の効果でそうなって見えるんだ。慣れれば素早い動きでも目で追いやすくなるし、目つぶしされても視野が塞がらないから、かなり戦略の幅が広がるぞ」
「つーことは、お前も使えるのかユニクル……」
「使えるさ。俺はリリンからバッファの魔法を一通り教えて貰ってるしな。あ、でもさっきの上位バッファはついさっき知ったから覚えていない!」
付け加えて上位バッファは使えないと言ったら、リリンが「上位バッファは、体の筋力バランスを整えてからじゃないと使用時に負担がかかりすぎる。もともと師匠に覚えさせられた魔法だけど、私は使った次の日は筋肉痛が辛くて泣いていた。今使っても平気なのは、カミナのおかげ」と補足をしてくれた。
どうやら、上位バッファには副作用があるらしい。
カミナさんなら副作用を抑えられるそうだし、後でリリンに言って覚えさせてもらおう。
「ほらほら、いつまでキミらはお喋りしてるんだい?シシト、パプリ。急速成長プログラムを受けたんなら、さっきのやり取りもそこそこ理解できただろう。トーガとシュウクに説明してやりな」
「なにっ!?お前らは見えてたってのかよ!?」
「次元認識領域は森に入る前に掛けてるわ。それでも、さっきの動きは半分くらいしか理解できなかったけど」
「足りない所は私も説明するね、おじちゃん達」
魔導師組は本当に優秀らしい。
魔法との親和性が高いというのは、たったの2時間リリンの教育を受けただけで、ここまで魔法を使いこなせるものなのか。
もし俺に魔導師の才能があったなら、今頃はランク9の魔法をバシバシ撃っていたに違いない。
……とりあえず、バッファを極めてからにしよう。上位バッファという、新しい力がある事も分かったし!
俺の決心と同時にトーガも決心したようで、背筋を正してシシト達に向き合った。
「おう。変な脚色はいらねえ。そのまま手短に頼むぞ。時間もねえし、要点以外は話を止めたりしねえ」
「うんじゃまず、ユニクルが時速300kmで走り出した所から」
「おい、待て」
「……早くない?」
「いや、適切だろ。え?ユニクルが時速300kmで走り出した?森の中なら全力で走っても30kmぐらいだろうよ。それじゃあ10倍になっちまうだろうが!」
「間違ってないわよ、次元認識領域で計測したんだし。続けてもいいかしら?」
「……続けてくれ」
「そして、敗戦犬も時速290km。その速度ですれ違う一瞬の攻防の間に、ユニクルはあの重そうな大剣で二度切り裂いたわ」
「やっぱり待ってくれ!」
「……進まないんだけど?」
「いや重要な事だ。それじゃ、ユニクルは600kmの速さで接近する獲物に狙いを定めて、600kmの速さですれ違う獲物に刃を当てて、600kmの速さで遠ざかる獲物に追撃を喰らわしたって事か?」
「そうなるわね。お互いに接触する瞬間は減速していたものの、完全に停止していた訳じゃないし」
「……化物か!!! 人間が出来る領域を越えてるじゃねえか!!」
おい、トーガ。
まさか言うに事かいて化物扱いとはな。
俺ぐらいでビビってちゃ、この後控える大悪魔には腰を抜かすぞ!!
「はいはい。驚くのには同意してあげるから。そして追撃の魔法なんだけど、私はユニクルの動きを追っていたからこっちはよく見てなかったわ。パプリ説明できる?」
「馬鹿な……。さらっと流しやがっただと……?」
「この後はパプリが話すね!ユニクルが負け犬の動きを鈍らせた後、バレンちゃんがリリンおねーさまよりも早く魔法を放ったの。氷の魔法は着弾するまでに時間がかかるからだね」
「氷の魔法……?シシトが俺の手甲を凍らせてみてえに、あの巨体を凍らせたってことか……?」
「そう、たった一回の魔法で負け犬を氷漬けにしたんだよ!この時に既にレベルは消えたから死んじゃったね。そして、リリンおねーさまの雷の魔法で木端微塵に砕いたの。ちなみに、ほとんど残らなかったのは、凍らせたからお肉の組織がボロボロになってて、雷の熱で炭化したからだよ」
「……?つまり、こっちの似せ聖女達は、何の打ち合わせも無く即興で周囲に飛散被害が出ねえように連携し、そのタイミングすらも完璧に合わせたと?」
「そういうことだね!おじちゃん」
「しまった!!こっちの聖女も化け物だったか!!」
……大悪魔さんはそんなことしてたのか。俺も知らなかった。
つーか、パプリがちょっと意味分かんないくらいに賢いんだけど。
これは……リリンの教育よりも前に、何か仕込みがあるんじゃないだろうか?
俺は、「いえーい!!」とハイタッチを交わしている大悪魔の白い方に探りを入れてみた。
「ワルト、これは俺の感なんだが、以前からパプリに何かしてるだろ?」
「おや?分かっちゃうもんかい。やっぱり意外と鋭いんだねぇ、ユニ」
「見るからにおかしい点があるからな。暴言のキレが良すぎるとか。で?何しやがった?」
「トーガに頼まれて、たまに勉強を教えていただけさ。『国語』『算数』『理科』『闇社会』。『歴史』に『非道徳』なんかも教えたねぇ。一般教養さ」
「変なのが二つも混じってやがる!!少なくとも『闇社会』と『非道徳』は一般教養じゃねぇ!!」
「一般教養だよぉ……暗劇部員になる為の」
トーガ!!お前の姪っ子、悪魔に洗脳教育されてるぞッ!!
まさか、リリンに出会う前から高度な悪魔教育を受けていたとは……。
しかも、レベルが上がってバレてしまわないように、実践を伴わない知識ばかりを覚えさせる悪辣さ。
パプリの口が悪かったのは、まさに必然だな。
もしや、リリンを『おねーさま』呼びして取り入っていたのも、計算の内……?
俺が予想外の伏兵の存在に気が付いたと同時に、ついにトーガも自分の置かれている状況に気が付いたようだ。
今更、うめき声を上げて呟いていらっしゃる。
「なんでい……化物ばっかりじゃねえか。これが聖女パーティーの力?格が違うなんてもんじゃねえ……」
「そう。私達はあなた達よりも隔絶した力を所持している」
「参考までに教えてくれ。さっきの犬と今日の朝の俺達とが戦ったら、どうなった?」
「同じ戦闘時間であなた達の肉片が散らばる。万に一つも勝ち目はない」
「……。容赦ねえ言葉をありがとうよ!!」
「でも、今は違う。既にシシトとパプリはこちらよりになっているから」
「それはどういうことだ?嬢ちゃん?」
「さっきシュウクがドヤ顔で使ってきてた瞬界加速を含む、魔導師の基本魔法をいくつか二人には教えてある。軽く説明しよう」
あ!リリンが無自覚に追い打ちをかけるつもりだ!!
この説明は必要な事ととはいえ、恐らくトーガの常識を完全に殺すだろう。
というか、既に虫の息だ。
今も、「そう言えば、知らねえ魔法をあいつらは使ってたな……」と半笑いで声を漏らしている。
こんな力の無い姿を見せれば、タヌキにすら優しく心配されるだろう。
「二人に新しく覚えて貰った魔法、シシトは『瞬界加速』『結晶球結界』『 氷塊山』『 氷蓮華』『凍結杭』。パプリには『飛翔脚』『確認不測』『認識空間転移』『大地の息吹』『第九守護天使』。二人が協力すれば、並大抵の事には対応できる」
「見事に知らねえ魔法ばっかりだ……。悪い、説明してくれ」
ここでシュウクも含めたブロンズナックルのメンバーは、今のそれぞれの状態を確認し合った。
シュウクが隠していたという魔法はもちろん、ワルトやリリンによって与えられた武器の機能説明まで、必要な事全てだ。
覚える事がたくさんあって大変だろうが頑張ってほしい。
ここを乗り切れば、きっと明日が楽しくなるぞ、トーガ!
あと、リリン。第九守護天使はやっぱり教えてたんだな。
もしかしてリリンはこの事態になる事を危惧していたのか?だとすると、無理に止めるのは悪い事をしたかもな。
今度からもう少し、話をじっくりしてからにしよう。
「大体こんな所だと思う。トーガ、シュウク、分からない所あった?」
「性能に関しちゃ質問はねえが、パプリの防御魔法、『第九守護天使』によって俺達は全くダメージを受けない状況だっていうのは信じられねえ。いや、嬢ちゃんの話を疑ってるわけじゃなくて、実際見ねえとなんとも……」
「わかった。実践しよう。ユニク!」
「おい、嬢ちゃん何やって――」
「《炎極殺!》」
え?
うおおおおおお!?!?
炎系はあんまり受けたこと無いから、ちょっと怖いぃぃ!!
「と、このように、魔法を受けても平気だし衝撃を与えられても問題ない」
「炎極殺は威力の低い魔法じゃねえのに、ぴんぴんしてるなぁ……色んな意味で驚いたぜ……」
「ユニクは慣れてるから大丈夫。これで疑問が無くなった?」
「無くなったぞ!……自信と尊厳とプライドと共にな!!」
「?」
トーガは明るく振る舞っちゃいるが、満身創痍だな。心が。
今も弱々しく、「信じらんねえ……信じたくねえ……」と呟いている。
大悪魔症候群が発病したようだ。……今夜が峠だ!
「信じたくねえ。コイツらの話に嘘が無いとなると、ドラゴンが、ランク9のドラゴンが来るって事に……」
「キミが信じようと信じまいと、ドラゴンは来るからね?トーガ。それについちゃこの僕、聖女シンシアちゃんが保証するよ」
「終わった……。すまねぇ、ピーマ。今日か明日には俺はコイツらと一緒に、お前んとこにお邪魔しにいくこ……おぅいてぇ!!何すんだこの似せ聖女!!!!」
「やれやれ酷い冤罪だ。叩いたのは僕じゃない。キミの仲間さ」
「トーガ、言って無かったわね。ピーマを失ったのは私のせいだったわ。ごめん。でも今度は孤立したりしないから安心して」
「おじちゃん。ドラゴンは強くて倒すの大変だけど、パプリだって頑張るんだからね!」
「やれやれ、ドラゴンなんて一度しか見たこと無いのですがねえ。あなたに死なれると実家に送る資金が減ってしまいますし、助力は惜しみませんよ」
「……。お前ら……本当に馬鹿な奴らだ。現実を知らねえお前らも、そして、仲間を信じらんねえ俺も。……ドラゴンを見ても震え上がるんじゃねえぞ!」
お?名実ともにトーガが立ちあがったな。
どうやら、思いのほか大悪魔症候群は軽症だったらしい。
実力は無くとも、心までは弱い訳じゃないってことだな。流石だ。
「トーガ、これからどんどん不条理な目に遭うと思うが、苦しいのは最初だけだ。慣れれば何とかなるからな!」
「はっ!!経験者は語るってかぁ!!いいぜ、やってやるよ!俺は冒険者『土暮れの腕』!この腕の届く範囲はどんな奴でも好きにはさせねえ!!」
「良い心意気。それじゃあさっそく、」
「実践のお時間だねぇ!!シシト、パプリ、キミらは僕と一緒に後衛職の訓練だ。付いてきな!」
ここでワルトが魔導師組を引き連れ、一歩下がった。
この場に残されたのは俺、リリン、トーガにシュウク。
それと俺達の進路方向に、三頭熊が2匹と、破滅鹿が1匹。あと知らねえネコ科っぽい生物が1匹。コイツは敗戦犬同様、体高が2mくらいだ。
そして、どれも結構なレベルしてやがる。
熊 ―レベル71229―
熊 ―レベル53902―
破滅鹿 ―レベル88249―
怪猫? ―レベル93282―
「……。」
「……。」
「トーガ達の代わりにツッコミを入れておくか。……囲まれてるんだけどッ!!」
「囲まれてるというより、どの生物もそれぞれが私達を狙っている為に牽制し合っているという方が正しい。今はそれぞれが睨みあってバランスがとれているけど、均衡が崩れたら雪崩のように攻撃してくるから注意が必要」
『あーテステス。認識は繋がったようだね?』
「「うぉお!!」」
「ワルトの声?」
「戦闘の管制が始まった。これから先、私達は魔導師組の指示のもと戦うことになる。指示を聞いて」
『シシト、トーガとシュウクに『瞬界加速』。パプリ、全員に『第九守護天使』。トーガ、ユニと一緒に怪猫へ突撃。リリンとシュウクは待機』
「わかった《瞬界加速!》」
「行くよ!《七重奏魔法連・《第九守護天使!》》」
いきなり戦闘が始まってしまったが、こんな無茶ぶりくらいで驚いちゃいられねえ。
しかも、今回俺達はワルトの指示を受けて実行するだけという楽な仕事。
俺は未だに自体が飲み込めていないトーガを引きつれて、怪猫に突撃を仕掛けた。
「フゥゥゥウシャァァ!!」
怪猫はいち早く俺達に反応し、飛びかかろうと後ろ脚に力を込めた。
すると、その動きに合わせて地面が陥没し、あっけなくバランスを崩したのだ。どうやらワルトが何かをしたらしい。
ここで俺達が怪猫の前に到着。
間髪いれずにワルトから指示が飛ぶ。
『ユニ、グラムで浅く切りつけて視線を誘導。トーガは炎と風が一対一になるよう手甲に魔力を貯めて』
「はっ!よ!と!」
「ミギャア!フシャアアア!」
「炎と風……。こ、こうか!?」
『ユニ、前足に深く切り込んでバランスを崩せ。トーガそれでいい、決めるのはお前だ。炎槍をイメージしながら拳を撃ってごらん』
「そらぁ!今だ、トーガ!!」
「お、おう!うおおお!!!《拳の槍ぃぃ!!》」
怪猫は前足を負傷し、視線は完全に俺に向けられている。
俺は不慣れなトーガにさらに余裕を作ってやるために、怪猫を誘導し首筋を露わにさせた。
そこへ、怒濤の勢いで突撃をしてきたトーガの拳が突き刺さり、有爆を起こす。
着弾した首筋から炎が溢れるも、その勢いは留まらず、怪猫の皮膚を突き破った。
衝撃によって骨が砕かれ、指向性を持った炎によって首が断裂したのだ。
血管が焼き付き、たったの一滴すら血液が流れ落ちる事は無かったが、しかし、その勝利の証として、トーガの腕には怪猫の頭が確かに握られている。
「こんな太い首がもげるって……。このガントレットの殺傷能力、高過ぎだろ!!」
『ほらほら、次は破滅鹿だ!トーガは突撃して、あの角を掴んで真正面から組み合ってくれ。決して素肌を触れさせるな。投げ飛ばされそうになったら、手甲を氷7風3で起動してしのげ。ユニは隙を見てトドメだ』
「ったく!余韻にも浸れやしねぇってか!」
「ほら、いくぞ!」
現れた敵は4匹。だとすれば俺達のノルマは2匹だ。
俺達はもう一匹の獲物、破滅鹿に向かって進路を向き直し、再び突撃。
今度はトーガが先陣を切るように走り、勢いをそのままに激突。
ワルトの指示通り、角を両手で掴んだトーガは腰を低く落とし地面に張り付く。が、破滅鹿の最も得意とする攻撃手段も角だった。
たちまちトーガは掬いあげられ角に投げ飛ばされそうになる。
しかし、大地から足が離れた瞬間、ワルトの指示通り、氷と風の魔法を起動させた。
「《氷に風ぇ!!》」
その瞬間、複雑に入り組んでいた破滅鹿の角が凍りつき、一枚のバカデカイ氷の板が出来あがった。
おそらく、氷の魔法が風によって拡散し空気を巻き込みながら凍ったためだろう。そして風の煽りを受けて破滅鹿は大きく体勢を崩す。
「《重力破壊刃!!》」
俺はするりとトーガの横をすり抜けながら、バランスを崩した破滅鹿の首に刃を通す。
断裂し支えを失った首とそれを持つトーガは空中に投げだされてしまったが、くるりと軽く身を返し地上に生還。
そして、恐ろしい形相をした破滅鹿の首とにらめっこをしている。
「お前は、どんな生物もたちまち眠らせちまうっていう、伝説の鹿だよな?」
「……生首相手に、なにしてんの?」
「破滅鹿……確かこの頭の剥製は、品質が良ければ4000万は下らねえはずだ。……こりゃ、みんなで住むにゃ十分すぎる豪邸が買えそうだな」
「ん?家、みんなで住むのか?シシトとじゃなくて?」
「そりゃそうだろ?同じパーティーで寝食を一緒にする奴は多いし、シシトもそれを知ってて一緒に住みたいとか言ってやがるんだろうしな」
……たぶん違うと思うんだが。
というか、今ぼそっと、「違うのに……」って聞こえた気がする!
だがこれはブロンズナックルの問題だから俺の知るところではないので、放置。
後で燃上しても、俺には関係ないしな!!
さて、リリンとシュウクのペアはどうなった?
まあ、万に一つも負けはねえと思うが。
「こここぉ!この剣はなんという素晴らしき切れ味!?堅い三頭熊の毛皮がまるでバターのようでした!!」
「剣も良いものだけど、あなたの剣捌きもなかなか上等。もっと剣先で斬るようにするとなお良い」
やっぱり、問題無かったようだな。
さて。
「トーガ。どうにか自信が付いたか?」
「……さっきシシトやパプリにも言っただろ?魔法一つ覚えたくらいで調子に乗るんじゃねぇぞってな。だからこういう事は言いたかねえんだが……」
「少しくらい、良いと思うぜ?」
「なら、少しだけ言うぞ。お前らに会えて、本当に、最悪で最高な気分だよ!!」
トーガは、くしゃりと顔を引きつらせながら、それでも笑った。
自分の置かれている危険な状況をすべて理解した上で、これから先の未来を思い浮かべたのだろう。
だったら、その未来は用意してやらねえとな。
俺は空を見上げて訪れる暴威を想像し、気持ちを高ぶらせた。
ランク9のドラゴン200匹。それらが飛来するであろう東の空は、未だ暗いままだ。




