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第38話「新しき装備」

「じゃあ、君たち『ブロンズナックル』に装備品を与えよう」



 森に入って間もなく、ワルトはトーガ達に装備を与えると言い出した。


 これは、リリンが「トーガとシュウクの武器を私が壊してしまった。何か変わりになるもの持ってない?ワルトナ」と打診したためだ。

 そしてワルトは「もちろん持ってるさ。これから働いてもらうのに、装備無しはあんまりだ。協力するよ」と前向きな答え。

 その言葉にトーガとシュウクは目を見開いて喜び、武器が壊れていない魔導師組は羨ましそうに眺めている。



「さて、君らの得意武器は手甲と剣だね?」

「あぁ。俺は肘までスッポリ覆うタイプの手甲が使いやすい」

「私は、長さ70cmくらいのミドルソードがいいです!」


「ふむふむ、丁度良さそうな奴に心当たりがあるねぇ。《サモンウエポン=鉄隕石の手甲(メテオ・ガントレット)》《サモンウエポン=柳葉剣りゅうはけん》」

「こいつは……!」

「なんとも、美しい……!」



 ワルトが召喚したのは、一対の茶色いガントレットと薄く発光しているミドルソード。


 ガントレットは隕石を模したような窪みが規則的に並び、肝心の手の甲に当たる部分は分厚い装甲で覆われている。


 ミドルソードはシンプルなデザインながらも、刀身部分に、やなぎの模様があしらわれ、そこから光が漏れ出ているようだ。


 強力な武器だというのが見るからに分かる。

 そして、恐らくだが……相当に高価なものであることも。


 ……ちょっと様子見をしよう。



「このガントレットは穴から三種類の魔法が出せるんだ。炎、風、氷。これらを上手く組合わせれば、パンチを加速したり、霧を発生させて姿を眩ましたりと、なにかと便利なのさ」

「すげぇ。俺が元々使ってた奴の上位互換じゃねえか……」


「んで、こっちのミドルソードは剣でありながら魔導杖と同等の効果を持つ。この剣を装備したのならば、より魔法を戦術に組み込めるはずだよ」

「で、ではこの剣は、魔法剣ということ……!?」



 トーガとシュウクは驚きつつも、さっさとワルトから武器を受け取り、装備。

 満面の笑みを新しい武器に向けている。


 良かったな。トーガにシュウク。

 その武器は間違いなく最高品質だと思うぞ。

 普通に生活してりゃ、手にすることなんて絶対に無いんだから、すごく運が良いと思うぜ。


 ……だから、頑張って料金を支払えよ。



「気に入ってもらえたようだね?」

「勿論だ。こんな良い手甲がありゃあ、連鎖猪も10匹は狩れるぜ!」

「いえ、今の状態の我々ならば、15匹は行けるのではないでしょうか!?」


「ははは、連鎖猪15匹?面白い冗談だね。その5倍は行けるだろ!」

「流石にそれは……だが、いつかは出来るようになりてぇな」

「ええ。夢は大きく見るものです!」


「……リリン。シシトとパプリなら何匹狩れる?」

「群れが消滅するまで。たとえそれが100を越える大きな群れであっても、勝利は揺るがない」



 なるほど。未だにトーガとシュウクは自分の置かれている立場が分かってないらしい。

 まるで新しいおもちゃを手に入れた子供の様にテンションを上げて笑いあっている。


 そろそろ、地獄に突き落とされるんじゃないだろうか。



「気に入って貰えたなら、僕も嬉しいね!料金は分割払いでいいよ」

「「え。」」


「やっぱり道具は使ってこそ。倉庫に仕舞っておいても、何の役にも立たないからね!」

「お、おい!この武器はくれるってぇ話じゃねえのか?」


「誰が贈与するって言ったんだい?あくまでも売買契約だよ」

「ちなみに、値段はいくらなんだ……?」


「手甲、2億4千万エドロ。ミドルソード、3億1千万エドロ。大変にお買い得となっておりまーす」

「「ぐえええええ!!」」



 やっぱり、そうなったか。

 大悪魔なワルトが無償で武器をあげるなんて絶対無いと思ったぜ。

 今は清廉無垢な聖女ぽい格好をしているけど、中身は真っ黒だし。



「トーガー!いくらなんでも高すぎるわよ!返しなさい!!」

「え、で、でもよ……これがないと俺は武器無しになっちまう」

「シュウクも!それは高すぎると、パプリは思うな!!」

「ま、魔法剣なんですよ……。魔法剣は普通のお店じゃ売ってないんですよ!」



 ここで女性陣が猛反発。

 当然の流れだろう。


 いくら必要なものであれ、莫大な借金を抱えてまで購入するのはどうかと思う。

 それに、トーガとシュウクだけが超一流装備を身に付けるというのは、明らかに嫉妬の対象になるだろうし。


 ほら、シシトとパプリの眼光が、獲物を刈る前のリリンにそっくり。

 二人の冒険はここで終わるかもしれない。



「まあまあ、落ち着きたまえよ。今すぐに料金を取り立てる訳でもないし、その装備があれば、もっと効率よくお金を稼げるはずだよ。それに、もしお金を払いたくないって言うのなら、体で……ん?」



 今、この大悪魔は体で払っても良いとか良いかけやがったな。

 止めておいた方がいいぞ。

 そんな悪魔契約を結んだ日にゃ、人生を使い潰されるからな!


 俺は、止めておけと忠告を入れようとトーガに向き合った。

 だが、忠告をする前に、ワルトから別の提案がもたらされたのだ。



「シュウク。その腰に下げているレイピアを見せてくれるかい?」

「これですか?良いですよ」


「んん!このレイピアは良いものだねえ!これと交換なら、料金は払わなくて良いよ!」

「なっ!」

「え、あ、あのですね。そのレイピアは私の家に代々伝わる家宝でして……」


「家宝?家宝っていうのは、自宅に置いておくものだろう?此処にあるという事は、その程度の管理だということじゃないのかい?」

「シュウク、すまねぇな。後で借りは返すぜ!」

「それは、父が私の旅の無事を祈って授けてくれたもので、そもそも、私の家の家宝はレジェリクエ女王陛下のものでも有るわけですし、勝手に譲る訳には……」


「大丈夫さ。実はこの剣はレジェが探してる『宝珠剣』シリーズの1本かもしれなくてね。僕が責任を持ってレジェに返しておいてあげるよ」

「こりゃあ決まりだな!」

「レジェリクエ女王陛下がお求めになられている……。そんな価値ある剣が我が家に……?」


「あったんだねぇ。でも、これでみんな幸せだ。君らも僕も、レジェも、ね」

「レジェリクエ女王も喜ぶってよ!良かったじゃないか。シュウク!」

「え、ええ。それでは宜しくお願いします」



 そう言ってシュウクは自分の腰からレイピアを取り外してワルトに渡した。

 うん。華麗に騙し取られた感が強いけど、後腐れなく装備を手に入れる事が出来たわけだし、良かったじゃねぇか。

 後は、後ろで頬を膨らませている心無き小悪魔をどうにかするだけだな!


 シシトとパプリはトーガとシュウクに詰め寄り、無言の圧力を放っている。

 その装備を使って、生き延びてほしい。



「いやー僕も儲かっちゃったなぁ」

「やっぱり、裏があるんだな……」



 そして、こっちの大悪魔さんも随分と満足げだな。

 レジェリクエ女王が欲しているって話だし、

 どう考えても裏がありそう。



「ふふ、内緒だけどね、この剣には懸賞金がかかってるんだ。10億エドロも!」

「10億!!」


「あの装備だって、追い剥ぎして手に入れたから元手ゼロだし、これは、ワルトナちゃんもラッキガールになってきたってことかな!」

「……。」



 つまり、他人から奪い取った装備が現金10億エドロになる訳だ。


 ……ホント、大悪魔してるなぁ。



 **********



「俺たっちゃ冒険、大好き野郎~」

「出てくる生物スッパスパ~」

「すごっい経験、一杯してて~」

「美味しいご飯になりました~」



 おい、なんだその奇抜な歌は。

 結局食われてるじゃねぇかッ!!


 この歌はトーガ達ブロンズナックルによるもの。

 色々経験して頭が壊れたんだと思うが、それにしたって陽気すぎる!


 さっきまでご機嫌斜めだったシシトとパプリも歌に加わっているのは、ションボリしてしまった二人を見たリリンが、とある提案をしたからだ。



「じゃあ、シシトとパプリには私から魔導杖を贈ろう」

「え?でも、魔導杖ってすっごく高いじゃない……」

「いいの、リリンおねーさま!」


「いい。私は自分の弟子には魔導杖をプレゼントしている。なお、プレゼントなのでお金はいらない」

「ほ、ホントに!?」

「やったぁ!大好きだよ、リリンおねーさま!」



 と、大悪魔らしくない、明らかに聖女寄りな事を言い出したのだ。

 だが、その行動を見てなぜかワルトは微笑んでいる。

 大悪魔が微笑むのだから、きっとろくでもないに違いない!!



「おい、ワルト。リリンは杖をタダであげるみたいだが、なんで笑ってるんだ?」

「『タダより高いものはない』って言ってね、あんな高級魔導杖なんかを貰った日にゃ、リリンに逆らえなくなるってもんさ」


「……まさか、馬鹿高い装備を男連中に渡したのは、この流れを作るため……?」

「考えすぎじゃあないのかい?」



 不適に笑うワルトの微笑みからは、真偽を伺う事は出来なかった。

 ただ一つ言えるのは、ブロンズナックルのメンバー全員が喜んでいるということで、魔導師の二人は、自分達も貰えると思っていなかったばかりか、信じられないほどの高性能な魔法杖を手に入れて大変にホクホク顔。


 シシトに贈られたのは、水色の水晶が三つも付いている『泡沫杖うたかたじょう―ティア』。

 水系統の魔法に限り、三つまで魔法を記憶させる事ができるらしく、記憶させた後は俺の鎧同様、魔力を流して念じるだけで魔法が使えるという優れ物だという。

 さらに、パプリに贈られたのはブラックアメジストという石の嵌めこまれた『先導杖せんどうじょう―ウィル』。

 虚無魔法と相性のいいパプリには親和性が高いらしく、バッファ系統やアンチバッファ系統の効果範囲を広げてくれるのだとか。


 これで、基本装備は整ったって事だな。

 あとはリリン達が教育しながらの実践となるはず。


 それにしても、シュウクだけ大損したけれど、いいんだろうか? 

 喜んでいるんだから、良いんだろう。

 ……たぶん。



「俺たっちゃ伝説、つくる奴~」

「どんな敵でも、恐れはしない~」

「夜の森でもズンズンすすみ~」

「美味しいご飯になりました~」



 美味しいご飯になりました~の威力が強すぎるッ!

 必ずバットエンドに持っていくパプリの手腕は見事だ!!


 はぁ。こいつら、未曾有の大災害が起こりそうって自覚がないのか?



「なあ、いくらなんでも騒ぎ過ぎだろ!」

「いや、もっと騒いでも良い。嬉しい時は楽しく歌うべき!」



 え?もっと騒いでも良い?

 何言ってるんだよリリン?



「リリン、騒いでもいいのか?」

「これだけ騒げば、嫌でも肉食獣が寄ってくるはず。いろんな意味で都合が良い」



 つまり、トーガ達を餌にしておびき出してるってことか……。

 随分とリリンは大人しいなと思っていたが、十分に大悪魔してた。


 でも、トーガ達の歌にもそろそろ飽きてきたし、ここらで一発、現実に戻ってきて欲しいところだ。


 そして、俺の願いは叶えられ、鬱蒼と繁る森の奥から、真っ黒い巨体が姿を現した。



 ―レベル91562―



「…………。」

「…………。」

「…………。」

「……おっきいね、おじちゃん」


「リリン、なにこいつ」

敗戦犬アンダードッグ。こいつは三頭熊でも狩り殺して食べるし、割りと戦闘力は高め」

「ついでに補足しておくと、噛まれると100%破傷風になるから、遭遇後の死亡率も高めだね!」



 うん。すごく凶暴そうだ。


 赤く光る瞳。

 月夜に照る鋭い牙と爪。

 大まかな形は犬と同じものだが、体のパーツ一つ一つが異常に大きく、体高はトーガよりも高い、2m越えの化け物犬。


 俺達を見つめている瞳の奥で、狙う獲物をどれにしようか吟味しているに違いない。

 ……青いのと白いのはやめておけ。いろんな意味で、絶対に食えない!


 

「あばばばば……」

「ひぃいぃいぃ、無理です無理です!御免なさい!!」

「やるしか……ないのよね……」

「……。」



 お?やっと自分の置かれている立場が分かったみたいだな。

 トーガとシュウクの顔は蒼白となり、シシトは冷や汗をかいている。

 パプリも……って、無表情で杖を構えて臨戦態勢なんだけど!

 ちょっと成長しすぎてない?


 さて、いきなり実践させるのも酷だし、ここは手本を見せてやるか。

 俺は一歩、前に進み出た。



「ちょっこら、手本を見せてやるよ、トーガ」

「おい!何を言ってやがる!!あんな化け物、皆で協力して倒すしかねぇだろ!」


「たぶん一人で殺れると思うんだが……」

「いやいや、ここはお言葉に甘えて、僕とリリンとユニの即席パーティーで相手をしようじゃないか」

「うん。チームプレーを見せた方が、ブロンズナックルの皆も参考に出来ると思う!」



 ここで、俺と横並びの位置にワルトとリリンも進み出た。

 明らかにオーバーキルな気もするが、大悪魔を見ても逃げないコイツも悪いってことで。



「いくぞ!」

「アシストは任せて!」

「安心して突っ込みなよ、ユニ」



 相手は明らかなスピードタイプ。

 ここは瞬界加速と飛行脚を併用して最高速度で一気に詰め寄る。


 相手の犬も前傾姿勢を取った後、俺目掛けて走り出した。

 予想よりも大分速い。

 少し舐めすぎていたようだな。だが。



「速いだけじゃ、俺には勝てないんだよ!」


 

 俺はグラムの惑星重力制御を起動。

 動きに緩急をつけて翻弄し、ワザと姿勢を崩して隙を見せてやる。

 そして、敗戦犬は俺の誘いに乗った。

 俺は噛みつこうとして来た敗戦犬の口にグラムを差し込み切り裂いた後、グラムの進路を変えて脚の健も断ち、機動力も奪う。


 ほら、後一手でお終いだ。

 チームプレーとか、するまでもなかっ――



「《極寒気候フリジットクライメイト!》」

「《火山雷ヴォルカニックライトニング!》」



 えッッ!?


 突然、目の前の巨体が「パッキイイイン!!」と凍りついて、そのあと直ぐに閃光が「ズガァン!!」と降り注ぎ爆発。

 空気が一瞬で膨張し、俺の体を数m後退させた。


 そして、俺が視線を戻した先には、もう何も、毛皮の一欠片すら残っていなかった。

 

 

「…………。」

「…………。」

「…………。」

「リリンおねーさまもバレンちゃんも、あと、ユニクルも、すっごく格好いい!」

 

「今のは綺麗な連携だった!100点だと思う!」

「どうだい?僕らの完璧な連携は。感想を言いたまえよ。トーガ」


「感想か?答えてやるとも。……まっっっっったく参考になりゃしねぇ!!!!!」


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