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第37話「心無き準備」

 

「ちくしょう……。今日はなんて日だ……。これ全部、夢であってくれ……」

「なによそれ?私が傍にいてあげるって言ってるのに不満なの?」


「そうじゃねえんだがよ……お前らはドラゴンの、ランク9の化物の怖さを知らねえから気楽でいられるんだ」

「ふーん?じゃあその化け物も私が倒してあげる。その素材を売ったお金で、二人で住めるお家を……ね?」



 すっかり落ち込んでしまったトーガを放置しつつ、俺達、心無き魔人達の統括者はひっそりと会議を始めた。

 これからの作戦を立てるべく三人でたき火を囲んで、着々と準備をするワルトを眺めている。


 本来ならばもう一匹、この場に同席するべき奴がいる。

 そう、壊滅竜こと、ドラゴンのホロビノだ。


 だが、ホロビノは俺達の近くにいない。

 少し離れた場所であられもない姿を晒している。

 ……誇りとか気高さとかまるで感じない、ドラゴンにあるまじき光景だ。



「なぁ、リリン。ホロビノはどうしたんだ?あんな姿、人に見せていい奴じゃないだろ」

「ん。あれは……崇拝のポーズ。ホロビノはワルトナを恐れるあまり、ああやって従順であるという事を示しているらしい」



 ……やっぱり、ワルトのせいだったか。

 薄々そんな気はしていたけど。


 ホロビノは、今、地面に寝転んで、両手足を地面に投げだしている。

 五体投地……いや、尻尾もあるから六体投地か?


 どこで覚えてきたのか知らねぇけど、気高きドラゴンがしていいポーズじゃない!!

 カミナさんの時は泣きじゃくっていたけど、それよりも深刻な気がするんだが!?



「ワルト、ホロビノに何をしやがったんだ?あの恐れられようは異常すぎるだろ!」

「リリンがホロビノを見つけた時、ホロビノは生まれたての赤ちゃん竜でね……」


「拾って育てたって話だったけど、生まれたてだったのか」



 生まれてすぐ大悪魔に出会うとは、本当に可哀そうな奴だ。

 不幸属性というか、運命に呪われているんじゃないだろうか。



「ホロビノの近くには、それはそれはでかいドラゴンの死骸と戦いの痕跡、それと何かの生物の残骸があった。状況から、僕らはホロビノの親ドラゴンが外敵から身を守るために戦い、相撃ちになったのだと判断、僕らみんなでこの雛ドラゴンをどうするかを話し合ったんだよ」

「生まれたてじゃ、放っておいたら死んじゃうだろうしな」


「僕ら全員、ホロビノを捕まえることには賛成だった。でも、その後の内容で意見が割れたんだ」

「……。なんとなく、予想は出来る」


「『育ててペットにしよう』『晩御飯の材料にしよう』『貴重なサンプルにしよう』『売り飛ばそう』『乗り物にしよう』。それぞれの思惑があれど、叶うのは一人だけ。それはもう、話し合いは荒れに荒れたんだ」

「やっぱり予想どおりすぎる!!誰一人として保護しようとか思って無いのが、なおのこと酷いッ!」


「僕らは己の意見を掛けて戦い、そして、結果的に『育ててペットにしよう』ということになった。その時に勝ったのは誰だか分かるかい?」

「ん?『育ててペットにしよう』って言ったのはリリンだろ?だったらリリンが勝ったんじゃないのか?」


「勝ったのはレジェさ。リリンは乗り物にしようと言っていたんだからね」



 勝ったのはレジェリクエ女王……?

 じゃあ、どうしてホロビノはリリンと一緒にいるんだ?



「それはおかしいだろ?それじゃ、ホロビノはレジェリクエ女王のものになったって事だろ?」

「確かに、ホロビノはレジェのものとなった。でも、レジェの教育は過剰すぎてね、ホロビノが泣いて嫌がったんだ」


「容易に想像ができるッ!!」

「それがうるさくってね。ほら、僕はこの通りお淑やかな性格だろ?うるさいのは好きじゃないから、仕方なく、あやしてやったんだ」


「あやす?殺めるの間違いじゃないのか?」

「人聞きが悪いなぁ。ちゃんとあやしたよ、泣きじゃくる子どもと同様に、本の読み聞かせなんかをしてね」


「ドラゴンに本の読み聞かせ……?なんか意味無い気がする……」

「そうでも無かったよ。ホロビノは随分と賢くって、すぐに人の言葉を覚えてしまったからね。簡単な文字くらいなら読めるはずさ」


「で、どんな本を読み聞かせたんだ?」

「ドラゴンのおいしい食べ方」


「それ、一番しちゃいけない奴ッッ!!」



 成体のドラゴンですらそんな事をすればビビるだろうに、生まれたての雛ドラゴンにしていい奴じゃない!

 しかも、ホロビノは、リリン達の事を親だと思っていたかもしれないのに。

 という事は、あの五体投地は「食べないでください!お願いします!!」という意味だったのか。


 俺はそっと立ち上がり、ホロビノに接近。

 むんずと頭を掴み上げてって……うわっ!目が死んでるッッ!!



「ホロビノ、心配しなくても喰われたりしないぞ。ワルトに聞いたんだが、からかって遊んでいただけだってさ」

「……きゅあら?」


「実際、リリンはドラゴン肉を食べないだろ?ワルトだって、食わないさ……たぶん」

「……。」



 俺の言葉を聞いたホロビノは、ドスドスドスと地面を歩き、リリンとワルトに近寄った。

 そして、か細い声で「きゅあら……」と鳴いて、ご機嫌伺いをしている。


 なんかドラゴンっぽくない。犬っぽい。



「おや、ホロビノ。ずいぶんと大きくなったねぇ」

「きゅあ」


「そんなに警戒しなくても大丈夫さ。ほら見てごらん、この豪華な衣装を。この通り僕は衣食住に不自由していない。キミを食べるくらいなら、パンを買って食べるよ」

「きゅらら?」


「第一、食おうと言いだしたのは僕じゃなくて、メナフだ。勘違いも良い所だよ」

「きゅあらっ!?」


「僕はただ、キミに文字を教えていただけさ。料理本を使ったのはドラゴンという文字が頻繁に登場するからだし、他のドラゴン討伐伝記なんかもそういった理由からチョイスしたんだよ」

「きゅあららら!?」



 ダメだホロビノ、その大悪魔の言葉に耳を貸すんじゃない!!

 騙されてるぞッ!!

 つーか今、しれっと、ドラゴン討伐伝記も読み聞かせたって言いやがったな。

 人間の子供ならワクワクする所だろうが、ドラゴンに読み聞かせたら猟奇スプラッタだろッ!!

 雛ドラゴン相手に、容赦がなさすぎるッ!!



「僕だってキミの事を、ペットとして可愛く思ってるんだ。ほら、たまには僕に甘えてごらん?」

「きゅあららら……」



 ホロビノは恐る恐る頭を差し出すと、ワルトの胸に頭をうずめた。

 ワルトは優しく頭を撫で、一見する限りなら、慈愛をふりまく聖女がドラゴンを愛でているように見えるだろう。


 その聖女は、大悪魔だけど。

 ちなみにドラゴンも、壊滅竜とか呼ばれてる。



「ユニク、ユニク。ん。」

「どうしたリリン?腕なんか広げて」


「私もユニクの頭を撫でてもいい。いまなら三割増しに撫でてあげると約束する!」

「三割増し……《第九守護天使》。よし、いいぞ!」


「なんで防御魔法を張ったの?……ねぇ、なんで?」



 俺はリリンに頭を差し出しつつ、事態が終わるのを待つ。

 そして、若干不服な感じにリリンに撫でられ、無事、イチャラブタイムは終了。


 この際、俺の扱いがペット並みだという事には目をつぶろう。



「そろそろ真面目に話を進めようぜ。ワルト、計画はあるんだろ?」

「勿論だよ。計画は至ってシンプル。トーガ達も使って今から可能な限り森の危険生物を駆逐。特に、ドラモドキは優先的にね。そして、ドラゴンフィーバーが始まる前にドラゴンの餌になるような危険生物をさっさと根絶やしにする」


「最初っから、無慈悲な計画すぎる!」

「このままじゃどの道、ドラゴンに蹂躙されるからね。僕らがやるかドラゴンがやるかの違いでしかないんだ。で、ドラゴンがこの森に降り立つ意味を奪ったら、僕らはトーガ達と別れて、ドラゴンに打撃を与えにいく」


「なぁ、200体のドラゴン相手にそもそも勝ち目があるのかよ?」

「何体かは落すけど、僕らの目的は勝つ事じゃない。追い払うことだ。その理由はもちろんあるよ」


「理由?その方が楽ってだけだろ?」

「いや、巣立ちに失敗したドラゴンは、その地を執念深く狙うケースがあってね。ここから先は最悪のケースの想定になるんだが……」

 

「最悪のケース?」

「巣別れの補佐として、天龍嶽に住む上位竜、通称『惑星竜』と呼ばれる伝説級の化け物が出てくるかもしれない」


「なんだその、惑星竜ってのは……」

「始原の皇種を始めとする力ある皇種は”眷王種けんおうしゅ”とよばれる眷属を従えているんだ。で、ドラゴンは惑星竜。……ちなみに、『タヌキ帝王』はタヌキの”眷王種”にあたるよ」


「何だとッ!!あの星タヌキが眷王種ッ!?」

「ちなみに、ドラゴンの眷王種と戦闘になった場合、僕らは成す術も無く全滅するだろうね。……まともな戦闘が出来そうなのは、リリンの師匠達とノウィン様。それと英雄・ユルドルードだけだ」



 なるほど。その眷王種ってのは凄まじく危険な奴なんだな?

 そんな危険なタヌキに、俺は二度も遭遇しているのか。


 よく生きてたな、俺!



「ということで、基本方針はドラゴンを追い払うってことになるのさ。目的地をドラゴンが定める前なら巣立ちが失敗したことにならないし」

「分かった。要はドラゴンに諦めさせればいいてことだろ?」


「そういうこと。大書院ヒストリアに近く無ければ、どこの森に行っても知ったこっちゃないからね」



 おい、ついに聖女の欠片も無い事を言いやがったぞ。


 少しぐらいはその服と同じ清らかな事を言えないもんかと思うが、今はドラゴンフィーバーをどうにかすることが優先。

 時間も限られているし、さっさと本題を進めよう。



「一応聞いておきたいんだが、俺たちが失敗した場合、その眷王種が出てくる可能性は高いのか?」

「いや、あくまでも最悪のケースって言っただろう?基本的に眷王種なんてのは皇種の側近。だから、天竜嶽から出てくることはないはず」


「じゃあなんで警戒しているんだ?」

「噴火をしたってのが気になってね。まぁ、これについては考察してもしょうがないから、一旦保留」



 可能性は高くないのか。

 まぁ、そんな人類の危機レベルの化け物がホイホイ出てこられちゃ、たまったもんじゃねぇからな。

 ……だからな、星タヌキ。

 お前は人里に来ちゃ行けねぇんだ。あっちいってろ!しっし!!


 そして、話は具体的な作戦へと変わろうとして、ずっと聞き役に徹していたリリンが口を開いた。


 なにか、気になることがあるらしい。



「失敗すれば、間違いなくその眷王種が出てくると思う」

「「リリン?」」


「だって………ワルトナはすっごく、運が悪い!悲しくなるほどに!!」

「なんだって!?」

「……。」


「ワルトナの運の無さは、レベル99999。おみくじを引いたら、白紙が出てくる事もあった!」

「……おう…………。」

「……。」


「だからたぶん、運に身を任せることになれば、凄いことになると思っ……もふぅ!」

「……。」

「饅頭でも食べてなよ、リリン」


「もっふもっふ!」

「ワルト……運が悪いのか……」

「残念ながら、割りと悪い方だと思うよ……」


「もっふもっ……ごくん!それをレジェはフラグと呼んでいた!」

「……。」

「やめてくれるかな!?泣きたくなるからさ!!」



 **********



「で、具体的には何をするんだ?」

「もう既に、森には一流の冒険者チームに入って貰っている。高級素材がうじゃうじゃいると囁いたら、簡単に言う事を聞いてくれたよ」


「ちなみに、ドラゴンフィーバーの事は言ってあるのか?」

「言う訳無いだろ。『夜明けとともにドラゴンがいっぱいやって来ます!』なんて言ったら、逃げ出すよ。普通は」


「そこら辺の常識、ちゃんと分かってるんだな。それなのに、トーガ達を連れていくって何それホント酷い」

「トーガ達は元々見どころはあったし、それゆえに表立っての元締め役なんかもやらせていた。だから、少し鍛えてやれば使いもんになるのさ。トーガとハサミは使いようってね!」



 トーガとハサミは使いよう。

 見どころがある人物に向ける言葉じゃねぇんだが。

 だが、リリンも魔導師二人は魔法の覚えが良いと言っていたし、そもそも、腕が立たなきゃランク4にはなれないだろうしな。


 だから頑張れ、トーガとシュウク。

 尻ぬぐいは任せたぞ!!



「ユニク。シシトとパプリに教える魔法の制限を撤廃して欲しい。さすがにランク9のドラゴンが200匹もいると、大規模殲滅魔法が使えないと厳しい」

「その制限はもうどうでもいいけどさ、そんな簡単にランク9の魔法が使えるようになるのか?」


「重複詠唱で呪文を唱えればいけるはず」

「重複詠唱?」

「僕が《氷終王の槍刑》を唱えた時、操り物質(影リリン達)の二人で呪文を唱えていただろう?ああいった複数人での重複詠唱は、呪文の詠唱難易度がすごく簡易になるんだ」



 あぁ。あの訓練の時か。

 確かに、陰リリンと影ワルトの二人掛りで呪文を唱えていた。

 呪文自体もリリンの雷人王の掌と比べて短かったような気がするし、有効な手立てな気がする。



「じゃあ、切り札としてランク9の魔法を教えたい。ワルトナ、何が良いと思う?」

「比較的扱いの優しい物が良いだろうね。『水害の王クラーケン・オブ・タイタニカ』か『永久の西風(アネモイ・ゼピュロス)』のどちらか」


「水害の王が良いと思う。それなら私も使えるし、訓練のサポートも出来る」

「よし、水害の王で決まりだね!」



 可愛らしい少女二人が、すっごく明るい声で言っているが、内容がトンデモナイ。


 こうして俺達の作戦会議は続き、そして、俺達は心頭滅却を終えていたトーガ達を伴って森に入った。

 まずは前哨戦、危険生物退治のお時間だ!!


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