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第34話「タヌキと俺」

 俺はグラムを握り締め、タヌキと相対している。


 先程の戦いは圧倒的女性陣の勝利に終わった。

 シシトはトーガの得意な近接戦闘で真正面から戦って勝利。

 パプリに関しちゃ、戦闘というより『狩り』といった方が正しいような気がしてくる酷い勝ち方だった。


 結果だけで言えば、俺達男チームは2連敗。

 だがまだ焦るような時間ではない。


 真っ赤に頬を染めながらボソボソと小言を呟いているシシトを、知ってか知らずか着々と追い詰めるトーガ。

 今まさに、シシトがトーガに落されそうになっているのだ。

 もしこれが成功すれば、戦績は一勝一敗となり、後は俺とタヌキの勝負ですべてが決まる。


 どうやら勝利の目は残されているらしい。ならば全力を尽くそう。

 タヌキに勝って、俺は対人戦闘を勝利に導……いや、待てよ?


 良く考えたら、俺の相手、人間じゃないんだが?

 未確認タヌキ物体なんだがッ!?

 これはどう考えても『対人戦闘』じゃない!

 ……しいて言うなら、妖怪討伐だッ!!



「おい、タヌキ。少し見ないうちにずいぶんスリム?になったな。……成長期か?」

「ヴィギラガ『ナユタ』サマ、アタラナチカラヴィギルギル!」



 ……うん。分からん。分からんが、コイツ、今、『ナユタ』って言わなかったか?


 ナユタって言えば……心当たりがある。

 何を隠そう、ワルトが言っていた『神が選びし伝説の神獣タヌキ』の名前が『ナユタ』。

 全世界で三番目の実力者のこのヤベェタヌキは、なんと、滅びそうになった世界を作り直せるほどの力が、あるとかないとか。意味が分からん。


 そして実はもう一つ。

 俺にとっては馴染み深い、懐かしき故郷の村の名前が『ナユタ村』なのだ。



 ……嫌な予感がする。

 ……もの凄ーーーーーく嫌な予感がする。

 もし仮に、コイツがナユタ村出身だったとしたら、俺とコイツは幼馴染設定になってしまう!

 タヌキと幼馴染とか究極に嫌だ……、が、それはまだいい。


 コイツが『神獣ナユタ』と関係性を持つ場合、その危険性は想像を絶するのだ。


 ただでさえ俺達は、始原の皇種とかいうヤバそうな連中との接点が多い。

 リリンが出会ったという、『狐』と『蛇』の皇種。

 そして、過去の俺が戦っていたという『蟲』。

 ついでにいえば、世界第二位の強さの『不可思議竜』は、ホロビノと同じ白天竜だったという謎の疑惑もある。


 ありえないほど危険な雰囲気満載なのに、タヌキの皇種『ナユタ』との関係性を持ってしまったら、取り返しのつかない事になる。


 そして、最も最悪なのが、俺の村の『ナユタ』が『神獣ナユタ』の事を指す場合だろう。

 確か俺の村の周りでは、異常なくらいタヌキ将軍が目撃されるとワルトも言っていた。

 因果関係はありそうなのだ。


 本当に、嫌な予感がする。



「なぁ、タヌキ。お前は俺の所によく来るけどさ、何が目的なんだ?」

「ヴィギラノ、ヴィーギィー!」


「目的……あるんだな……」



 タヌキ語が分からないから、正確な情報を得る事が出来ない。

 だけど、コイツは一瞬の躊躇も無く、俺の問いに答えた。

 ということは、俺の問いに対する明確な『答え』があるということで。


 ……ここで始末しておいた方が良いかもしれねぇな。



「お前とは色々あったな、タヌキ。だけどそろそろ決着をつけたいと思う」

「ヴィギル?」


「グラムのサビにしてやるってことだよッ!!」

「ヴィギルア!?」



 先手必勝。


 思えば、俺はタヌキ相手に先手を打った事がない。

 恐らくこれこそが、俺がタヌキに勝てない理由。

 狡猾なタヌキの土俵で戦っていては力の拮抗する現状、勝てる未来が見えない。


 タヌキの準備が整う前に、さっさと切り捨ててやる!!


 雑ながらも効果的であろうこの作戦を胸に秘め、鎧のバッファと瞬界加速を併用してタヌキに迫る。



「いきなり全力全開で行くぜッ!!《重力破壊刃ガルブレイドォォ!》」

「……《ヴィモンヴィギルア=海千山千ヴィギルギルギオ!》」



「なん、だとッ!?」

「ヴィーギルアァー!!」



 ごっ!!がっぎいぃぃぃん!!



 ……おい。

 おい、なんだその腕に付けてる、滅茶苦茶カッコイイ手甲は?


 そんでもって、なに、当たり前にグラムを受け止めてくれちゃってるんだよ?

 グラムは『絶対破壊付与』を起動しているんだぞ?

 それなのに受け止めてるんじゃねえよッ!?


 俺がグラムを振りかぶった瞬間、タヌキも腕を振りかぶり、何処か聞いた事のあるような呪文をタヌキは唱え、割りと見覚えのあるような召喚光を伴って何かが召喚された。

 そして、その勢いを乗せたタヌキの拳は、着弾寸前だったグラムを空中で押し留め、発散されるはずだった運動エネルギーを俺の手に跳ね返しやがったのだ。



「……タヌキ、なにそれ?」

「ヴィーギルア!」



 俺の問いかけに対して、自慢するように腕を見せつけてくる、タヌキ。


 タヌキが装着しているのは、漆黒の手甲。

 いや、正確に現すのならば、『鋼鉄籠手ガントレット』とでも言うべきものだ。


 どうみても、野生のタヌキが持っているような代物ではない。

 だって、見るからにトーガの手甲よりも高品質。

 磨きぬかれた鋼鉄が放つ鈍い輝きは、数ミクロンの傷もすらなく、無骨ながらも洗練されたデザインは、歴戦の王者が使用していたと言われても信じられるほどに力強い。


 ……マジでどこで手に入れやがったッ!?

 つーか、ただでさえ強いタヌキにこんな凄そうなもん授けた奴、いるなら出てこいッ!ブン殴ってやるからさ!!



「お前は、ほんと何者だよ。その手甲、誰から貰ったんだ?」

「……オッサン」



 今、コイツ、間違いなく『おっさん』って言ったな!

 ……誰だよおっさんッ!?


 もしや、まさか本当に『魔獣懐柔』と呼ばれる人物が存在するのか?

 そんでもって、タヌキを使って俺にっちょっかいを掛けてきている?

 謎は深まるばかりで、一向に真実が見えてこない。だが、皇種とかが関係しているかもしれない以上、助けを求めた方が良い気がする。


 どうか助けてくれ、英雄の親父。

 もし出会う事があったら、全裸事件の事とかを問い詰めた後、助けを求めようと俺は心に決めた。



「さて、そんな夢物語は置いといて、俺は出来るだけの事をしておかないとな。タヌキ、覚悟は良いか?」

「ヴィ。」


「いいんだな?……リリン!!トーガ達を守ってくれ、本気で戦う!」

「分かった。速やかに回収して、本気の防御陣営を設置する。ユニクも気を付けて」


「あ、視野も貸してくれ、リリン!《第九識天使ケルヴィム》」



 俺はリリンと第九識天使ケルヴィムで視野の共有をした。

 360度視界が開けた今の状態ならば、タヌキの動きを目で追う事も容易く、戦闘が有利に進められる。


 そして、さわやかな夜風が吹きぬけ、月明かりが一際俺達を照らした瞬間、どちらともなく前に走り出した。



「……《飛行脚》」



 俺は飛行脚を起動。

 進路方向に並べられた透明な足場をイメージし、ついでにその足場に移動速度上昇の効果が付くように念じる。

 リリンから教わった訳ではないが、何故か出来るような気がしたのだ。


 そして、俺が空を踏んだ瞬間、爆発的な加速が体を前に押し出した。



「うお!?」

「ヴィアッ!?」



 そして再び相対する俺とタヌキ。

 タヌキの不意を突く事にも成功し、俺のグラムは真っ直ぐに狙いの場所へと突き進む。


 俺の狙いは、タヌキ・ガントレット。

 今まで散々絶望を味合わされてきたからな。

 このタヌキ・ガントレットをぶっ壊して、お前にも絶望をプレゼントしてやる!



「うおらぁ!《重力破壊刃ッ!》」



 ガッ!!キィィィィィン!



 さっきとは違う、不意を突いた本気の一振り。

 たとえどんな素材で出来ていようとも壊せるように、絶対破壊付与へ全力で魔力を注ぐ。


 そしてタヌキ・ガントレットはあえなく、爆散……していなかった。

 ほんの少しだけ表面が削れ火花が散った程度で、破壊とは程遠い。


 ……堅すぎだろッ!!

 グラムをぶつけた感触が、カミナさんの撃滅手套げきめつしゅとう並みなんだが!?



「リリン。あのタヌキガントレット、どう思う?」

「異常な強度だと思う。少なくとも、何重にも魔法が練り込まれている。私の星丈ールナと同じクラスの魔道具で間違いない」


「はっ!タヌキに魔道具か。似合うじゃねえか!」



 ……悪魔的な意味でな。

 俺は心の中で呟き、気持ちの整理を付ける。

 冷静になった思考で迫ってきていたタヌキを観察し、ある事に気が付いた。


 さっき俺が付けた傷が、どこにもない。


 振り抜かれた拳を視線で追いながら近くで観察するも、やはりタヌキガントレットの表面には数ミリの傷も無かった。

 もしかして、このタヌキガントレットは自動修復機能があるのか?

 なんというチート能力。

 これじゃ、カミナさん相手に使った手数でダメージを蓄積するという方法が使えない。


 まさに鬼に金棒状態。

 タヌキにガントレットを与えるという完璧なチョイスをした奴を恨みつつ、俺は思考を巡らす。



「ヴィッ!ギルギルギルギルギルァアッ!!」

「くぅ!連撃だと……」



 ここでタヌキは自分の優位を悟ったのか、連撃を仕掛けてきた。

 一発一発がリリンのバッファ状態と同等以上の威力の拳は、第九守護天使セラフィム越しであるにもかかわらず、俺の体の芯に響く。


 最初に戦った時に受けた、石での殴打とは比べ物にならない激しい攻撃。

 この短期間でレベルが2万近くも上昇しやがったコイツは確かな実力を身に付けたようだ。

 最早コイツは、タヌキというよりも、”将軍ジェネラル”という生物なのかもしれない。


 だったら、俺も本気を出すほかあるまい。

 重力流星群ガル・ミーティアで超重量弾を作り、コイツにぶつける。

 俺の持ちうる最大技で葬ってやるのだ。


 まずは距離を稼ぎ、隙を作る。俺は地面にグラムを差し入れ、土砂の重量を軽くしてタヌキへ浴びせ掛けた。



「ヴィギルア!ぺっぺ!!」



 タヌキは後退しながら、口に入った砂利を吐き出している。

 そして俺も瞬時に体を返し、タヌキに背を向けて全力の後退。


 トーガは、敵と戦う時は”逃げ”を戦術に組み込んでいた。

 接近職であるがゆえに、敵との距離を上手に管理し、有利な状況で戦う。

 新しく得た冒険者の知恵を元に、戦術を組みたててゆく。



「ヴィギルルル!!ヴィギルア!」



 タヌキは激昂し、俺に視線を向けた。

 あぁ、お前の性格じゃ、怒り狂って突撃を仕掛けてくると思ったぜ。タヌキ。


 迫るタヌキへ俺はグラムを振り抜く、……と見せかけて右手を突き出し、タヌキの顔面を掴んだ。

 そして尽かさず、鎧の機能を発動。



「《指から不意打ち、主雷撃!》」

「ヴィギルアァァァッッッ!?ヴィギルゥ!!ヴィギルギアアアアア!?」



 タヌキの視界を覆いながらの、目つぶし攻撃。


 はは、すっげぇ目に染みるだろ。俺も散々やられたぜ。タヌキ。


 悶えながら地面を転げ回るタヌキを掴み、空へ放り投げる。

 突然足場が無くなったタヌキはジタバタともがきながら自由落下を始めた。


 あと数秒もすれば、タヌキは視界を取り戻し猛烈な勢いで俺に襲いかかってくるだろう。

 だから、そうなる前に決着を付けさせてもらうぜ。


 戦闘を続けていると、自然とグラムの中に魔力を循環させることになる。

 この状態からならば、スムーズに重力流星群ガル・ミーティアを発動できるはずだ。


 一度経験した魔力過多の状態を再現するべく、待ちうる魔力を十全にグラムに注ぐ。

 やがて溢れだした圧倒的暴力は刀身へ灯り、可視化する結晶となって前方に打ち出されーー。



「うわっ!?なんだこのキモイ生物!?僕ですら見た事がないんだけど!!」



 ……うわっ!?はこっちのセリフ!!そこをどいてぇぇぇ!?!?!?



「そこをどけ、ワルトォォォッ!!」

「え?ちょっユニ!?」



「ん。危なそうなので介入する。《……唸れ、平定の願い(ハルバード)!!》」

「うおおおおッッ!?!?」

「良く分かんないけど、僕も手伝うよ!《詠唱省略・氷終王の槍刑(ハデス・バイデント)!》」



 ……カッ。ちゅどーーーーーーん。


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