第33話「トーガとシシト」
シシトは感傷に浸る心を飲み下し、眼前のトーガを見据えた。
今まさに始まろうとしている戦闘は、過去の不甲斐無い自分と決別するために、自らが画策したものだ。
森から戻ってきたトーガの機嫌が悪かったのは、どうやって実力を示そうかと考えていたシシトに取って都合の良い展開だった。
シシトはパプリにも協力をお願いしてトーガを炊き付け、案の定、戦闘を行う事となったのだ。
トーガと鋭い視線を交わしつつ、シシトは思い出す。
心の奥底で『弱い』と思い続けていた自分と決別することになった、些細なきっかけを。
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「はぁ?この森には三頭熊よりヤバい奴がいる?冗談じゃないわよ」
「間違いなくいる。ドラモドキの生命淘汰が思っていたよりも進行してしまっているから」
「あのね、三頭熊は、2年前に出没した時に犠牲者を8人も出した化物なのよ。不意に出会ってしまった冒険者6人と討伐時の犠牲者2人で計8人。アレより強い生物なんて信じられないわ」
「この森に入ってから何度か索敵を行っている。その際に三頭熊よりも戦闘力が高い生物を見かけた。アイツは積極的に人間を襲わないから放置したけど」
時は遡り、ユニクルフィンとトーガがタヌキ相手に罠を仕掛けている頃、リリンサとシシト、パプリは現状についての話し合いをしていた。
魔法を新しく教えるという話を口実に二人を呼び出したリリンサは、現在の好ましく無い状況を打破するべく、介入を始めたのだ。
「意味分かんないわ。そもそも、ずっと私達と一緒に居て、どうしてそんな事が出来るのよ?」
「魔法には、攻撃手段以外にも便利に使えるものがたくさんある。必要にかられて攻撃魔法を優先させがちだけど、こういった便利魔法を覚えておくとパーティの生存率がぐっと高くなる」
「……それは、当てつけなのかしら?三頭熊が出た時に、私が……。私がミスをして、『ピーマ』を死なせた事の」
「そんなつもりはない。けど、攻撃魔法以外の選択肢があったのなら、生存率が高まるというのは事実。あなた達に足りないもの、それは『魔導師としての有意義性』 。あなた達にしかできない事というのは、とても多い」
シシトは言葉の途中で若干の迷いを見せ、声量を下げている。
その表情は沈痛で、そして、うわべだけの強さを張りつけたものだった。
その表情に相対しているのは、平均的な表情の魔導師・リリンサ。
声までもが感情を露わにすることの少ない彼女は、訝しげな視線を向けてきているシシトに返答をすると、真っ直ぐな瞳で見つめ返した。
「魔導師とは、すなわち『魔法を使い導く者』。魔法で攻撃できればいいというものではない」
「……そうなのかもね。私の攻撃魔法じゃ、三頭熊には掠り傷も与えられなかった。前衛組は上手く立ち回っていたのに、私は全然ダメで……あげく、誘導に失敗して孤立しちゃうとか、ほんともう、笑えないわ」
「それは、あなたに限った事では無い。残念なことにそういった非力な魔導師はとても多い。攻撃魔法の代わりに逃げるための魔法を覚えておけば済んだという話もよくあること」
「……分かってるわよ。私はいつも守られているんだって。私の魔法は『役に立っている』んじゃなくて、トーガ達が上手に『利用』しているって事も。でも……!!」
シシトは視線を伏せ、発した言葉は今にも消え入りそうなものだった。
声にしてみたものの、続く言葉が出てこなかったのだ。
――でも、しょうがないじゃない。だって私は、弱いんだもの……。――
この言葉は、2年前に起こった三頭熊襲撃事件より、ずっと心の奥に潜んでいる悪感情。
自分の才能に溺れ、他者の助言も聞かず、結果的に自分の師・ピーマを失うことによって芽生えた『後悔』という名の経験は一時的にシシトのレベルを上げることに役だった。
しかし、レベルが4万を越えたあたりから毒のように体に広がり続けたこの『後悔』は、やがて『諦め』に変わり、『見栄』や『虚栄心』となってシシトを包み込んでしまっている。
ついには、レベルがまったく上がらなくなったシシトは、自身を蝕む毒に耐えながらも毎日を過ごすようになっていた。
そして、リリンサと出会った。
自分よりもレベルが高い純粋な魔導師と触れ合うことの無かったシシトは、脆い虚栄心のせいか、八つ当たりのような口調でしかリリンサに接する事ができない。
だが、その声はしかとリリンサに届いていた。
隠しているはずだった気持ちの吐露で、リリンサにはすべて分かってしまったのだ。
身を焦がすほどの劣等感は、リリンサに取っては慣れ親しんだものだったのだから。
「だったら覚えれば良い。あなたのバッファと魔法の速度を見る限り、筋は悪く無い。後はやる気次第」
「やる気って……そんなのがあっても、どうにもならないじゃない。私には何も残っていない。魔法を師事する師匠も、もういない。魔導書だって持ってない。どうしようもないのよ」
「この時この場に限っては、あなたの懸念は意味を成さない。なぜなら……《魔導書の閲覧》」
「……え?」
「魔法を教える師匠役も、覚えるべき魔導書も、ここには存在するのだから」
リリンサは空を仰ぎ、呪文を唱えた。
その瞬間現れたのは、空中に整列された魔導書群。
この呪文は、リリンサの所有する魔導書を象ったレプリカを出現させ、それらを手に取ることで瞬時に本物の魔導書とすり替わるという召喚補助の魔法『魔導書の閲覧』。
これ自体は何ら戦力になるようなものではなく、他者を傷つける術になりえない魔法だ。
だが、この魔法を見た誰しもが、その圧倒的な戦力差を瞬時に悟ることとなる。
それほどまでに、リリンサが召喚した131冊という数の魔導書は、力の象徴なのだ。
「これ……全部、魔導書なの……?」
「そう。あと必要なのは『やる気と根性』だけ。パプリはやりたいと言っているけれど、あなたはどうするの?」
「……ねぇ。もし、私が根性を見せて頑張ったら、トーガに必要として貰えるのかな?」
「ん。今でも、チームとしてうまく連携していると思うけど?」
「ううん。トーガが必要なのは遠距離攻撃の手段なの。私じゃ無ければいけない理由も無いし、実際、他のパーティから応援要請が掛るのもトーガだけ。私は平凡な魔術師なのよ」
「そうなの?あなたのレベルなら引く手あまただと思うけど?」
「そんなことない……。私だって本当は皆の役に立ちたい。頑張って明るいふりをしてるけど、本当は……そのうち捨てられるんじゃないかって、不安で仕方がないの……」
俯き、声を枯らしながらも絞り出した、懺悔。
シシトは恐れていたのだ。師匠、トーガの親友だった『ピーマ』を亡くしたあの瞬間を攻められる事を。
「お前のせいで」
その言葉はついに誰からも言われる事が無く、2年の年月を過ぎた。
しかし、誰からも言われないからこそ、自分で自分に千回以上も突き付けていた鋭利な言葉。
ついには声すらも出なくなったシシトは、リリンサに向けて視線を飛ばす。
……どうか、助けて下さい。と
「不安は必要ない。私は名高き『鈴令の魔導師』。あなた程度の願いなら、簡単に叶えられる」
「……助けてくれるの?」
「必要とあらば、すぐにでも」
平均的な表情と抑揚すらついてない声で返された、返答。
だが、シシトの『後悔』を解毒するには十分だった。
「……ふふ、すっごく自信があるのね。それじゃ、うちの不安定機構の支部で一番の魔導師にしてもらおうかしら」
「あ、それは無理かもしれない」
「こんだけ偉そうなことを言っておいて無理なの!?じゃあ一番は誰なのよ!」
「一番はパプリになるかも。この子は魔法の才能すごくありそう」
「……じゃあ、パプリに負けないように根性を見せなくちゃね」
「全てはあなたのやる気次第。頑張ってほしい」
そうして、二人は手を組み交わした。
シシトは、自分の過去と決別するため。
リリンサは、訓練と称し二人の素性を探るため。
目的こそ違えど、二人にはそれが必要な事だったのだ。
そして、二人の会話を聞いていたパプリも参加し、『本物の魔導師』になる訓練は始まったのだ。
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「ねぇ、トーガ。私ね、自分が弱いってずっと思ってたの」
「なんだよぶっきらぼうに。お前はまだガキに毛が生えた程度だろ?そりゃ弱いだろう」
「いつまでも子供扱いなのね。でも、それは今日で最後になるわ。今からあなたをボコって、泣かす!」
「そりゃあ楽しみだ。それが出来るようになるまで、あと10年は必要だろうがな!!」
おー、始まったか。
リリンが考案した対人戦のルールは、3対3の乱戦形式。特に相手を定める訳ではなく連携も有りのチーム・デスマッチだ。
だが、シシトは個人戦を選び、相手はトーガになったらしい。
そして自然と、1対1の対戦形式へと切り替わった。
トーガVSシシト
シュウクVSパプリ
そして、……俺VSタヌキ
正直、俺の相手は十中八九、タヌキになるような気がしていた。
ぶっちゃけ、運命めいたものすら感じているぞ、タヌキよ。
そんな俺の心情を知らないタヌキは、ゆっくりと屈伸とか前屈とかして未だに体をほぐしている。
……うわぁ。マジでキモイ。何この未確認生物。少なくともタヌキじゃねえよ。
俺の目の前で準備体操をしているコイツは、バッファ形態のタヌキ……のはず。
だが、もう、骨格からしてなんかおかしい。
この前までのタヌキの戦闘形態は、後ろ足で立ってはいるものの、それなりに獣っぽかった。
だが、今のコイツはどちらかと言えば人間寄り。……顔以外は。
そして際立つ、このキモさ。
そうか、お前はついにタヌキをやめたんだな。悪魔にでもなるつもりか?
「なぁ、タヌキ。お前……いや、なんでもない」
「……ヴィ、ヴィギルアノタメニ、ヴィギンギア、ヴィギルギル!」
「……何言ってるか分からねえよ」
何を言ってるか分からないけど、なんとなく、ロクな言葉じゃない……気がする。
すくなくとも、タヌキに言われて嬉しい言葉じゃない……気がする。
タヌキは未だに準備運動を続けているし、不意打ちをしようという気持ちを削がれた今、俺はトーガ達の戦いを見学することにした。
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「はっ!近づいちまえば非力だよな、魔導師って奴はよ!」
「それはどうかしら?《ウォーターボール》」
「おっと!」
迫るトーガの気迫をもろともせず、シシトは地面めがけて水を打ち出した。
試験に使うような低レベルなこの魔法では、バケツ1杯分の水がぶちまけるので精一杯。
だが、トーガは水を踏む直前でブレーキを掛け、体を仰け反らせた。
足が水に濡れるのを嫌ったのは、熟練の冒険としての経験に基づく判断。
魔導師の用意した物体に触れることは、攻撃を受ける事と同じなのだ。
トーガはステップを踏んで急旋回し、一旦距離を取る。
シュウクの掛けた『瞬界加速』効果は凄まじく、意識を向けただけで体がその方向に動き出すという不思議な感覚に驚きつつも、トーガはおおよその感覚を把握し、瞬時に使いこなす。
しかし、そのスピードと同じ速さで、シシトが水の中を駆け抜けた。
「なん!?随分と速えじゃねえか!」
「《瞬界加速》。バッファの魔法を使うのは、魔導師の領分でしょ」
「しかも詠唱破棄か。こりゃ、マジで本気でやんねえとヤバそうだ!」
シシトの以外すぎる行動に対し、トーガは右手の手甲で答えた。
トーガの打ち出した拳に対してシシトは杖を振り抜き、炸裂する音が響く。
まともにシシトの胴に打ち込まれていたら戦闘終了もあり得たトーガの一撃は、予め、防御魔法を掛けていた杖によっては阻まれ届く事は無かった。
しかし、トーガは引き下がる事は無く、シシトの杖を握りしめ不敵に笑う。
「近接戦を仕掛けてくるたぁ、おもしれえじゃねえか。だが、捕まえたぞ?」
「……。」
「おしおきだ。コイツはちっと痛いからな」
「っ!《氷塊山!》」
バキィ!とトーガの手甲が軋む。
トーガが拳を打ち出した瞬間、シシトは杖から手を離し、自分の体の表面ギリギリの位置に氷の塊を出現させた。
魔法によって創られた氷の壁は易々とトーガの拳をさえぎり、一呼吸の余裕をシシトに与える。
氷越しに相対する二人の表情はどちらも同じ、狩る者の瞳。
今この瞬間だけは、二人は仲間ではなく、まぎれもない『敵同士』なのだ。
「ちったぁやるじゃねぇか。だがな。《熱伝導、起動》」
トーガの手甲から湯気が立ち上り、次第に赤味を帯びてゆく。
そして氷の壁はじゅわりと蒸発し、その光景を見ていたトーガは満足げに口を開いた。
「この手甲にはな、毒液の噴射口なんかを焼き塞ぐための発熱機能があるんだよ。あんま使わねえから知らなかっただろ?」
「知らなかったわ。こんなに長く一緒に冒険者をしてるのに、本当に知らない事ばっかり……」
「なんだ?不服そうな顔しやがって。せっかく覚えた魔法が通用しなかったんで拗ねちまったのか?」
「……そうじゃないわ。ただ……もう、私はあなたに守られるのは、嫌だなって思っただけよ!」
トーガは腕をゴキゴキと鳴らしながら、シシトに歩み寄る。
そしてシシトも、トーガめがけて歩き出した。
魔導師なら距離を取るべきという定石も捨て、過去の自分とは違うのだと行動で示す。
次第に歩み寄る速さは増していき、やがて二人は駆け寄った。
「自分の領分を勘違いしてんじゃねぇよ!シシトォ!!」
「いつまでも保護者ずらしないでよ!トーガァ!!」
二人は拳を振りかぶり、打ち抜いた。
お互いが意地とプライドを乗せた拳は、空気を切りながら互いの顔めがけ、迫る。
当たり前の結果として、腕の長いトーガの拳の方が先にシシトに届く。
そしてその拳は、トーガの張った罠。
そうとは知らないシシトはトーガの拳を全力で回避し、バランスを崩してしまった。
囮に使った腕を引きもどしシシトの頭を掴んだトーガは、勝負を決めるべく、左腕に力を込める。
「覚悟しろ!シシ……」
「《凍て尽きなさい!―氷蓮華ァァァ!!―》」
パァン……。と弾ける音が聞こえ、辺り一面が”白”に染まる。
その漂白された世界で腕を組み合った体勢で固まる、二人の冒険者。
どちらともが一向に動こうとせず、相撃ちかと傍観者だったユニクルフィンが思った瞬間、くぐもった声が発せられた。
声の主は……トーガだ。
「俺の手甲は熱くなってるって言ったはずだぞ。シシト」
「……。」
「だから、表面を凍らせちまうってのは、すげえことだ。……俺の負けだ」
「……私、勝ったの?」
トーガの手甲は凍りついていた。
これはトーガの手甲自体が攻撃を受けて凍りついたのではなく、あくまでも手甲の周囲の空気が凍りつき凝結している為だ。
第九守護天使はトーガとトーガの装備品のみを対象とし、その周りの空気などには影響を及ぼせない。
これはリリンサに教わった防御魔法さえ無視をする、必殺に繋ぐための一撃。
魔導師とは、『魔法を使い導く者』。
シシトは自らこの魔法を選び、覚えたのだ。
「足も地面と一体化して凍っちまってる。どう見てもお前の勝ちだろ。あーあ。大事に育ててたってのに、この仕打ちとはな」
「まだ、そういう事をいうの……?」
「これっきりだよ。お前はもう一流になった。これでお前宛ての応援要請も断らなくて済む」
「……え?断ってたって、応援要請が、私に来てたの?」
「馬鹿かお前。お前ほど良いアシストする魔導師は中々いねえんだよ。他の奴に預けて怪我でもされたら困るから俺が独占していたんだっつーの。それが不満だったんだろ?」
「え?えぇ、不満はあったわ。あったけど……トーガが私を独占……ね……」
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あれ?シシトが赤くなってるんだけど?
見る限り勝ったのはシシトなんだが、一体どうしたんだ?
あ、なるほど、魔導師なのに拳で訴えかけたのが恥ずかしくなったんだな?
その心は忘れない方が良いと思うぞ。
道を踏み外すと、一気に心無き小悪魔になっちまうからな!!
「もう独占はしねえが、たまには俺んとこにも顔を出せよ。シュウクが魔法を使えるのは良い誤算だったが、お前が抜けた穴は早々に埋まるもんじゃねえんだからよ」
「え。えっと。その、トーガは私が居ないと困るの?」
「困るに決まってんだろうが。お前ほど後ろに置いといて安心できる魔導師なんかいねえ。少なくとも、俺にとってはな」
「……。もう少しだけ、独占されても良いかも……」
「は?何言ってやがる?いつも俺が他の冒険者の応援に行くのを羨ましがってただろ。「私を置いて行くな―!」ってよ」
「だって、だってね、とーが……」
あ、違った。これ、イチャラブな奴だッ!!
トーガの奴、俺がイチャラブしていた時は突っかかって来たくせに、自分だってしているじゃねえか!
あーも―見てらんない。
パプリとシュウクでも見て癒されよう。
こっちも男女のペアとはいえ、年齢差からいってそういう事にはならなさそうだしな。
真っ当に戦っているはず。
「もっとだよ!もっと良い声で鳴いて欲しいんだよ!!」
「ひぃぃやめてください!!燃えてしまいますぅ!私の最後の砦が!燃えてしまいますぅぅぅぅ!!」
「リリンおねーさまを攻撃するなんて信じらんない!!燃えちゃえー!《炎極殺!!》」
「あぁ!私のパンツにっ!火がっっ!!」
いや、ツッコミどころがあり過ぎるんだけど。
まず、第九守護天使はどうした?リリンが掛けてただろうが。
だが、シュウクはほぼ全裸。
リリンが剥いた後、いそいそと服を着ていたはずだが、再びあられもない姿になっている。
もしかして、この短時間で第九守護天使を突破したっていうのか?
だが、シュウクの体は焦げていないし、正常に稼働しているっぽい。
「リリン!なんでシュウクの服だけ燃えてるんだ?」
「パプリには虚無魔法の適性があった。なのでワルトナが得意とする改変系の虚無魔法『確認不測』を教えてみた」
「……おう」
「この魔法は、魔法に干渉し効果を弱めるというもの。アンチバッファの代表ともいえる」
「で。なんで体だけ無事なんだ?」
「さっきからパプリは動き回って何度もこの魔法をシュウクに撃ち込んでいる。その結果、第九守護天使の対象範囲が狭まり、対象が肉体だけになった」
「……そんな事が出来るのか。それは便利だろうな」
「うん。特に、追い剥ぎを行う時などに重宝する」
子供になんて酷い魔法を教えてやがるッ!?
つーかシシトも魔導杖でブン殴ってたが、その杖はそういう用途で使うもんじゃないだろ!鈍器じゃねえんだぞッ!?
マジでリリンは何を教えたんだ?
シシトは魔導師だったはずだが、近接戦闘もそつなくこなす『魔法格闘家』みたいになってるし、パプリに関しちゃ完全に小悪魔と化している。
俺は頭を左右に振り、状況の確認をする。
右手側では、イチャラブオーラ全開のトーガとシシト。
左手側では、小悪魔ハンティング。
はぁ……しょうがねぇなあ。
俺は後ろを振り返った。
「おい、タヌキ。そろそろ準備は良いだろ。俺達も始めようぜ?」
「ヴィギヴィギニ、ヴィギアンヨ!」
そう言ってタヌキは、シャドウボクシングを始めた。
……。
ほんと、コイツ、タヌキに見えねぇなぁ。