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第26話「談笑と実行」

「そんなわけで、心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)には近づいちゃならねぇ。……もしそうだと名乗る人物を見かけたら、視線を合わせないようにしてすぐに緊急離脱。そのまま三日くらい家に引き籠ってやり過ごすのが最善の方法だ」

「そこまでしなくちゃいけないのかよ!!」


「あぁ、そうだ。だが最善の方法をとっても、どうにもならねぇ時もある。噂じゃ、喧嘩を売った冒険者が命からがら逃げだして、三日間、宿に引き籠ったらしいんだけどよ……」

「ん?」


「この街にはもう居られないと判断して宿代の支払いをしに行ったら、見慣れない店員にこう言われたそうだ」

「……。」


「『おや、清算をするんだね?君らは随分とオプションを付けてしまったからねぇ。かなり支払いが膨らんでしまっているよ。僕ら心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)のオプションは安くないんだ』」

「なんだそれッ!もはやホラーだろッ!!」



 いつの間にか店員と入れ替わっているとか怖すぎる!!

 つーか、そこまでされるって一体その冒険者は何をしたんだよッ!!



「ソイツは一体何をしたんだ?獲物を横取りでもしたのか?」

「なんでぇ、冴えてるなユニクル。まさにその通りで、その冒険者は獲物を横取りしたんだとよ」


「獲物って言っても色々あるだろ?」

「あぁ……なんでも、無尽灰塵の奴が狙ってた獲物を横取りしたって噂だ」



 ん?リリンが狙っていた獲物を横取り?

 時と場合によるけど、野生動物程度じゃリリンは怒らなそうだけどな。


 そんなに重要な獲物だったのか?



「ちなみにどんな獲物か知ってる?」

「……ハムだ」


「…………。ハム?」

「その冒険者はな、有名店の朝食バイキングで、無尽灰塵が狙ってたハムを横取りしたらしい」



 理由がしょうもない!!

 けど、リリンが激怒するのは火を見るより明らかだッ!!

 確信を持って、その冒険者の冒険に終止符が打たれたと断言できるッ!!



「……そうか。無尽灰塵ってのは恐ろしいんだな!」

「無尽灰塵は、普段は温厚だが飯に関することになると豹変するらしい。うかうか高級店にも入れねぇな」

「ははは、そうですね。でも、私達は高級店なんて贅沢はできませんけど」


「ん?トーガもシュウクもあんまり稼げていないのか?そう言えば、バナナが高級品なんだったか?」

「はっ!冒険者ってのはな、必要経費がすげぇかかるんだよ。武器に防具、小道具に食料。俺達は高位の冒険者だからまだ余裕があるが、並みの冒険者じゃ貯金ゼロって奴も多いしな」

「その貯金も、新しい装備を買う為とかの資金ですし、なかなか一攫千金とはいかないですね」


「そうでもないだろ?森ドラゴンとか、一匹狩れば数千万エドロになるんだし」

「馬鹿言えよ。森ドラゴンなんて狩れるんなら、こんな所で冒険者なんてしてねぇよ。……いや、ちょっと待てよ。おいユニクル。お前ポイゾネの奥に入ったって言ってたよな?もしかして……」



 あ、やべ!

 トーガの奴が俺達の実力に気付き始めている。

 というか、俺は頑張って隠そうとしているのに、リリンは恐らく、そんな事を微塵も覚えていない。

 ……さっきから奥の方がやけに明るいからな!爆発音もしてるし!!


 俺が現実から目を背けると、トーガは羨ましそうな顔で話を振ってきた。



「もしかして、……ゾンビ漁りしたのか?」

「ゾンビ漁り?なにそれ?」



 少なくとも、ゾンビには出会った記憶は無い。

 泣きじゃくるドラゴンになら出会ったことはあるけど。



「ゾンビ漁りってのは、森の中で死んでいる野生動物の死体を漁ることだ。肉や毛皮は腐っちまってるが、鱗や骨、牙なんかは残ってることがある。そういうのが運よく手に入れば一攫千金だろ?」

「なるほど、それでゾンビか」


「ですがユニクル、その行為は危険が付き纏います。それは人間が容易に出入りできない場所でしか成り立たないからです。どうしてそんな危険をおかしたのですか?借金でもあるのです?」

「借金は無いんだが、リリンが行こうって言い出してな。正直、入るまではそんな危険な場所だと思わなかった。結局リリンも動けなくなるまで消耗しちまったし、俺も疲労困憊だった。なんとか森を脱出できたのは運が良かったのかもしれないな」



 そうなんだよ。正直、そんな危険な場所だって思っていなかった。

 リリンのノリがもの凄く軽かったし。


 あ、でも、よくよく考えたら借金あったな。

 心無き白衣の天使さんにボッタくられそうになったんだっけ。

 結果的に、タヌキと狩った森ドラゴンを買取りして貰ったり、依頼達成報酬の支払いを受け取ったりでとかで、随分と懐が暖かくなったけど。


 とりあえず、適当な事を言って誤魔化そう。

 おおよその行動は間違っていないし、バレる事もないだろうしな。


 ……だからトーガにシュウク、絶対に後ろを振り向くんじゃねぇぞ。

 夕焼け空に輝く魔法陣なんか見た日にゃ、言い訳不可能だから!



「幸運だが勿体ねぇなぁ。ユニクルは森ドラゴンがタヌキに倒される所を見てたんだろ?いくら子供の森ドラゴンとはいえ、剥ぎ獲れる素材はあっただろうに」

「え?森ドラゴンがタヌキに?どういう事です?」


「あのタヌキな、子供の森ドラゴンをぶち殺したたんだってよ」

「そうなのですか……タヌキ将軍が森ドラゴンを狩るとは初めて聞きました」



 ちっ。忘れていなかったか。


 トーガはシュウクに俺がポイゾネ大森林で森ドラゴンを見たという話をしている。

 だが、話を聞く限り、トーガはタヌキが倒した森ドラゴンは子供だと思っているらしい。


 そう言えば俺は、あの森ドラゴンが子供か成体かなんて見分けがつかないな。

 うん、あの森ドラゴンは子供だったに違いない!

 ……体長15mくらいあったけど。



「しっかし、嬢ちゃんはどうしてポイゾネに入ろうなんて言いだしたんだ?たった二人で入るなんざ無理だって分かってるだろうに」

「そうですね。いささか不可解です」



 それはな、無理だって思って無いからだよ。

 ぶっちゃけリリンが本気を出せば、森ドラゴンは本当の意味で幻のドラゴンになるからだよ!!


 さて、どうやって誤魔化すか……。

 興味がありげな二人の熱い視線にうんざりしながら、俺は必死にいい訳を考える。



「これは、あんまり大きな声で言えないんだが……」

「内緒話か?」

「ほうほうそれで?」


「リリンはソロ冒険者になる前、相当に名の知れたパーティーに所属していたらしい。で、ポイゾネ大森林にも何度か入った事があるんだと」

「ポイゾネに出入りできるほどの、名の知れたパーティー?」

「確かに、そういった伝説的なパーティーは存在しますが……」


「だから、俺達の常識はリリンには通用しない。たぶん実力を見たら驚くぜ?」

「タヌキにもビビって無かったしな……」

「確かに彼女のレベルから言えば何ら不思議じゃありませんが、どうしてソロ活動をするようなったんでしょうか?」



 え?掘り下げられると困るんだけど!!


 正直、リリンの実力を隠すのはもう不可能なので暴露してしまったが、パーティー名まで聞かれると言葉に詰まる。

 もの凄く有名なリリンのパーティー名を発表したら、阿鼻叫喚になるからな。


 俺が返答できずに言葉に詰まっていると、トーガとシュウクが体を前のめりにして圧力を掛けてきた。

 明らかに興味津津である。


 男二人が近づいてくるとか暑苦しいにも程があるからやめてくれ!!

 だがじりじりと詰め寄られ、俺が逃げ場を失った時、唐突に鈴とした声が投げかけられた。



「私の所属していたパーティー名は『聖なる天秤(ホ―リィ・スケール)』。もしかして知ってる?」

「あ、リリン!」


「タヌキとのじゃれあいにも勝利したのでこっちに来た。みんなで談話をしよう」



 ……そっか、リリンはタヌキに勝利したのか。

 俺は未だに勝てないのに。


 どーでもいい事で力の差を再確認した後、視線を周囲に切り替える。

 リリンはサクサクと草を踏みならしながら俺に接近中。

 そして、リリンの後に続くタヌキ。

 ……なんか、従えてるんだけどッ!?



「隣座ってもいい?」

「あぁ、いいぞ」


「ん、ありがと。……よいしょ」

「ヴィギルア!」



 ……俺の右側に可愛らしいかけ声と共に座るリリン。これはいい。すごく自然な流れだ。

 だがな、タヌキ。

 なんでお前は、当たり前みたいに俺の左側に座りやがった?森に帰れよ。


 というか……。

 俺の右側にはリリン(大悪魔)

 俺の左側にはタヌキ(大魔獣)


 ……挟まれたッッッ!!



「ほ、本当に嬢ちゃんは聖なる天秤(ホ―リィスケール)のメンバーだったのか!?」

「うん」


「ま、まさか……実在したというのですか!?あの聖女様が率いたと言われる伝説の……」

「ちゃんとした事実だし、私はそのパーティーで魔導師をしていた」



 へぇ、一応、心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)以外のパーティー名があるんだな。


聖なる天秤(ホーリィスケール)


 名前だけ聞けば悪辣さの無い、もの凄く真っ当なパーティー名。

 清らかな感じがするし、このパーティーなら俺も入りたい。



「じゃあ、聖女様と一緒に過ごしたってことかよ!?」

「うん、確かに私は聖女・誠愛シンシアの率いるパーティーにいた。彼女たちと過ごした時間は私にとってかけがえのない時間」


「マジかよ、すげぇ!!」



 聖女・誠愛シンシア……?誰だそれ?


 誠愛……誠実と愛……?

 誠実を裏返すと、悪辣だよな?


 なぁんだ、大悪魔さんじゃないか。ははは。


 俺が隠された真実に辿り着いている間に、隣に座っていたリリンが体を寄せてきた。

 やけに距離が近い。

 というか、肩が触れてちゃってるんだけど!


 何を考えているんだ?

 俺はリリンにしか聞こえない声量で、密談を交わす。



「他にもパーティー名があったんだな?それにしても『聖なる天秤(ホーリィスケール)』とか、全くイメージが逆なんだけど。天秤っていうと公平なイメージだし!」

「天秤とは有利な方に傾くもの。しかも、詐欺をするときに真っ先に細工をするのが天秤。神聖さが傾くのだから、意味合いは一緒なのだとワルトナが言っていた」


「なんてひどい!!」



 聖なる天秤ってそんな意味だったのかよッ!!

 前言撤回だよッ!!絶対に入りたくねぇ!!


 つーか、明らかに誰かを騙そうとする意思が感じられる。……どう考えてもお前の仕業だろ。ワルト。



「ユニク、今こそ、作戦を遂行するべき時!」

「作戦?」


「イチャラブ大作戦。……これは作戦なのだから、真面目にイチャラブしてくれないと凄く困る!」



 内心でツッコミを入れた直後、リリンから作戦遂行の申し出があった。

 あったなぁ。そんなの。


 あの後、ワルトにたっぷりと五寸釘(氷結杭)を撃ち込まれたせいで、忘れていた。

 というか、作戦する気があったんだな。

 遠目で見る限り、リリン達が居た場所の地面が抉れているような気がするんだが、実力は隠せってワルトも言ってなかったっけ?


 ……それに、俺の方の判別はもうすでに終わっている。

 トーガは、白。暗劇部員とは関係がない。


 だが……。

 シュウクは、黒だ。


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