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第25話「心無き魔人達の統括者」

「奴らのチーム名は、心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)。金、命、想いを踏みにじる、邪悪なる者共。最低最悪の化身だ」



 トーガは真剣な表情で、静かに語る。

 ここには俺達しか存在せず、しいてあげるなら草木の隙間から虫の音が聞こえる程度。


 だが、その声色は明らかに警戒を含んだものだ。

 雰囲気から察するに、今から話す内容を心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)に知られる事をトーガは恐れているのだろう。


 大丈夫だ、安心しろトーガ。

 心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)のリーダーは今、タヌキに夢中で俺達の話なんか聞いちゃいない。

 心おきなく話してくれ。



「ユニクルは何も知らないという認識で良いんだよな?」

「あぁ。噂話は聞いたこと無いんだ。教えてくれ」



 うん。嘘は言っていないぞ?

 心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)の情報については、ご本人(リリン達)から聞いているけど、それは噂とは呼ばないからな。



「いいか、奴らは俺達の常識では理解できないマジモンの化物で、人間であるかどうかも疑わしい。なにせ奴らの名前が挙がる時はたいてい、新聞の一面を一週間占領する様な大事件が起こる。たとえばこんな事件があった」

「事件……?」


「カーネホン領の領主による偽造硬貨事件。この事件はカーネホン領で偽造硬貨を作り、正規の硬貨とすげ替えていたという大事件なんだが、これをやらせたのが心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)だったって噂だ。なんでも、硬貨の価値と信用を失墜させた後、一時的に物々交換を主流になるよう暗躍して、他領から仕入れた商品を使ってボロ儲けしたらしい」


「うわぁえげつない。でも、そんなやり方をしてまで金を集めた理由は何だ?」

「関係性の真偽は不明だが、その偽造硬貨問題が終息した後、消えた物が二つある。……高位魔導書と奴隷だ」


「高位魔導書と奴隷?」

「高位魔導書ってのは高価なもんでな。買おうと思ってもそうそう買えるもんじゃねぇ。この近くにもでかい図書館があるが、高位魔導書が貯蔵されている区画になんざ入場料が高くては入れないほどだ。で、そんな高価な魔導書がカーネホン領から消えてなくなったんだ」


「いや、そんな大がかりな事をすれば怪しまれるだろ?」

「高位魔導書が高価ってのは、その希少性あってのことだ。そもそも普通の本屋には売ってねぇし、有名な魔導具屋にも1冊か2冊あるかどうかって所なんだよ」


「ん?いくら希少だって言ったって本は本。書き写すなりすれば増えるだろ?」



 ここでちょっと気になる事があった。

 リリンは第九守護天使の原典書を書き写して、ロイにプレゼントしている。

 確かに時間はかかっていたが、写本はそう難しい事じゃないはずだ。



「なんだ、そんな事も知らねぇのか。魔導書を書き写すのは普通は出来ないんだぞ?」

「ん?なんでだ?」


「理由は二つある。一つは、書き写す側の紙は特殊なもので無ければならない。そこら辺の紙に書いたんじゃ途中で魔法が暴走して大惨事だ。そして書き写す人も相当な熟練魔導師じゃないといけねぇ。書き写している最中は、その魔法を発動するために必要な魔力を耐えず消費し続ける。もし、魔力量の少ない奴がそんな事をすれば、作成途中の魔導書に全て吸い取られて命を落とす。文字通りの命がけなのさ」



 ……いや、リリンはフツ―に写本してたけど。

 そう言えば写本中のリリンは絶えず何かを食っていたような気がするが、元々が元々だけに、違和感を覚えなかった。


 これはたぶん、トーガが間違ったことを言っているんじゃなくて、リリンが間違ってるんだろうな。

 うん、リリンの常識が間違っている。



「つーことで、唯でさえ少ない高位魔導書がその町から消え失せた事が明るみになったのは、全ての店が売り渡した後だった。高額な魔導書が売れた訳だから、店は大金を掴んだ訳だ。自分から言いまわるような話じゃなく、新たな魔導書を仕入れようと動き出した時にはもう、どこにも残ってませんでしたって事だな。ちなみにその町では偽造硬貨の影響が強くてな、貧困した貴族連中の先導で一般家庭の蔵に残っていた魔導書を売りに出して凌いだもんだから、そりゃあもう、スッカラカンよ」

「あぁ、なるほど。……悪魔の所業だな!」


「それと同時に、裏社会の基盤の一つである奴隷商が姿を消した。それに関しちゃ、割と痛快なオチがついてるんで有名な笑い話だ」

「どういう事だ?奴隷とかが関わっている以上、笑えるような事にはならないだろ?」


「くふふ。それがそうでもないんだよ。その領主はゲス野郎でな、町に奴隷商を呼びよせ金を荒稼ぎしていたらしい。その取引に関わる金額は膨大で、裏金問題よりも大きかったんじゃないかって噂もあるほど。でも、気が付いたら、たったひとつの奴隷商以外は壊滅しちまった。奴隷商と言えど商人。売るもんが無くちゃ商売にならない。商品をすべて買い取られたとあっちゃお手上げさ」

「なんで一つだけ無事だったんだ?正直、根こそぎ奪われそうなもんだけど」


「いいや、実際一つも残らなかった。だからこそ心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)指揮のもと、最後の奴隷商『運命堂商会(うんめいどうしょうかい)』が生まれたのさ。運命堂商会が扱う奴隷は『元奴隷商』。つまり、売るもんが無くて途方に暮れた奴隷商から現金家財を全て奪い取り、最後には人生すら売り飛ばしちまったんだよ」

「なにそれひどい!」


「いいか、良く覚えておけユニク。奴隷商ってのは必ずしも悪じゃない。あくまで人間の価値を見い出し商品にしているってだけだ。だから、真っ当な奴隷商はある意味で人間を救う。選択肢を見失った人間に道を押し付けるという形でな。だが、奴隷を無下に扱う勘違い野郎も多い。そんな奴はその『運命堂商会』で真っ先に売れたんだとよ。買ったのは酷い扱いを受けた元奴隷達だってんだから皮肉だろ?」



 ……うん。重い。

 たったひとつのエピソードなのに、重すぎる!!

 一体、何人の人生を弄んでんだよッッ!!


 というか、運命堂商会ってまんまじゃねぇか!!

『うんめい、どうしようかい?』

 あぁ、はい。破滅です。



「そんなトンデモナイ事をしてやがるのか……その大悪魔達は」

「勿論、奴らの恐ろしさはこんなもんじゃ済まされねぇ。ある時は貧困した村に現れて女子供を味見して回ったとか、ある時は『生血』を求めて血がたっぷり詰まってそうな商人を襲ったとか。いがみ合う国同士を煽り、両方が疲弊した後に攻め入って漁夫の利を得るとかもしてるぞ」


「やってる事の振れ幅が広い!!けど、どれも悪辣ぅッッ!!」

「そんな事を、たったの五人で成してきた訳だ。どれだけ化け物か想像できるだろ?ユニクル」



 あぁ、勿論想像できるぞ。


 深くフードをかぶった悪辣少女が計画し、鈴のような声の理不尽少女が実行し、ゲロ鳥をこよなく愛するゴスロリ掌握女王様が後片付け。

 計画に不具合が出た場合は白衣の再生天使が軌道修正し、どうしようもなくなったら、未だどんな人か掴み切れていない殲滅さんが証拠隠滅を図る。


 あぁ、まぶたの裏にそんな光景が映る。

 なんて恐ろしい。


 というか、これ、絶対にリリンが心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)だってバレちゃいけない奴だな。

 バレようものなら、恐怖と殺意の視線で大変な事になる。


 俺はふとリリンの様子が気になり、視線を向けた。


 ……おい、何やってるんだ?リリンとタヌキ(お前ら)


 先程いた位置からさらに離れ、5mの距離を開けてタヌキとリリンが対峙している。

 ん?タヌキが大岩を担ぎ上げ、リリンに向かってブン投げた。

 リリンは魔法でその岩を破壊すると、飛び散った破片の半分をタヌキに打ち返す。


 そして同時に、岩のかけらでジャグリング。

 ……いつの間にか二人(?)で曲芸が出来るまで仲良くなってやがる。


 なんか恐ろしい事が起こっている気がするが、俺達の話の邪魔にはならないし放っておこう。



「なぁ、そんだけ詳しい内容が分かっているんだったら、個人の特定とかできるのか?注意するにしたって外見が分からなかったら注意のしようがないんだが?」

「確定的なのは、それぞれが名乗っているという肩書きだな。『無尽灰塵』『戦略破綻』『再生輪廻』『無敵殲滅』『運命掌握』の五人。その内、『運命掌握』はレジェンダリア国の女王レジェリクエだってことは有名な話だ」


「なるほど、名前までは分からないんだな。それで、特徴とかはないのかよ?」

「ここから先は不確かな物も含まれちまってるし、人によっちゃ全然違う事を言う時もあるんだが……俺が知っているのはこんな感じだ」



 よし!個人の特定が出来ないのは良い流れだ。

 後はどんな風に噂として伝わっているかだが……。



「最初はさっきも言った『運命掌握』。コイツはレジェンダリア国の女王なんて大層な地位にやがる。んで、その地位を存分に使って侵略を繰り返しているって訳だな。いろんな所に心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)が現れたのも、侵略を有利に進めるための下見だったって話だ」

「なるほど……」


「ちなみに、レジェリクエ女王は男も女も食っちまう両性愛者(バイセクシュアル)。捕まったら最後、色んな意味でしゃぶりつくされるらしいぞ」

「しゃぶ!?……なんだってッッ!?」



 いやいや待て待て、そんな情報聞きたくなかったんだが!!

 必死の抵抗むなしく、俺の中で、魔道具越しに聞いたあの凍えるような声が再生される。


「あはぁ。ちょっとぉーいいことしなぁい?」


 うわぁ!背筋がゾクゾクするッ!!

 もし仮に誘いに乗ってベッドの上にでも誘いだされようものなら、天にのぼる……と見せかけて、地獄に突き落とされるんだろう。

 分かってるって。だって大悪魔だもん。



「そんで『再生輪廻』。コイツはとにかく不気味だ。好きなもんは人間。だが一人丸ごとじゃなくて体のパーツが好きなんだと。戦場に現れては転がってる死体を切り取りコレクションしているって噂のド変態だ」

「おう……。体のパーツを集めるって相当だな……」



 カミナさん、流石にその趣味はどうかと思うんですけど!!


 そんな事を思いかけた所で、彼女の職業が医者だった事を思い出す。

 おそらく誰かの命を救うために、交換用の臓器とかが必要だったんだろう。


 たぶんそうだ。きっとそうだ。……そうであってくれ!!



「さらに『無敵殲滅』。コイツは一人で何でも壊しちまう。気に入らない事があるとすぐに殴る蹴る。そんで全部ぶち壊すんだ」

「何その面倒な性格……」


「んで、謎の美少女魔法使いの『戦略破綻』ときて、最後に」

「ちょっと待て。え?誰が謎の美少女魔法使いだって?」


「戦略破綻だよ、戦略破綻。この子に関しちゃ、嫌々、心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)に従っているって噂もあるみたいだし、悪い感じはしないな」



 いや、悪いからッッッ!!!

 むしろ一番悪いまであるぞッ!?

 なんだよ、美少女魔導師って!!明らかに情報操作されてるじゃねぇか!!



「んで、最後『無尽灰塵』。コイツはイマイチ具体的に何をしたってのが無いんだが、一つ有名な話がある」

「有名な話?」


「もの凄い大食漢で、すっげぇデブなんだとよ。なんでも、名のある料理店に出現したら最後、全ての料理を食い尽くすまでずっと執着するんだとか。しかも、そんだけ食うもんだから、ものすごい勢いで体がでかくなっていってるんだと。酷い時なんか、たったの一年で体重が20%も増えたって話だぞ?」



 一年で20%も体重が増えたって、それはたぶん成長期だからだろッ!!


 あーでも、これはリリンには聞かせられないッ!!

 そんな事がリリンの耳に入ろうものなら、もれなく人類最高峰の魔法で焼き尽くされる。

 焼き方はもちろん、黒焦げ(ウェルダン)だ。



「はぁ。どいつもこいつもキャラが濃いな。確かにこれは関わったら命の危険がありそうだ」

「だろ?まぁ、そうそう出会うもんじゃねぇけどな」



 すまん、トーガ。

 無尽灰塵さんなら、今、お前の後ろにいるよ。

 リリンとパプリ、シシトとタヌキで別れて、なぜかドッチボールしてるよ。


 ……あ、そう言えばホロビノの話が上がらなかったな。

 壊滅竜さんの悪行は無いのか確かめてみるか。



「まぁ、確かにそうは出会わないよな。ドラゴンにでも乗って移動しているなら別だけど!」



 ……ちょっと強引過ぎたか?

 若干失敗したかなと思いつつも、事の成り行きに任せていると、今まで沈黙を保っていたシュウクが口を開いた。



「おや?心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)が魔獣を飼っているというお話を知っているんですか?」

「……魔獣?」


「えぇ、なんでも、心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)は強大な魔獣を使役していて、たった一匹で町を滅ぼす力が有るとか無いとか?」



 お?ちゃんとホロビノの噂も広がっているんだな。

 一番加入が遅かったというし、まだまだ知名度が足りていないらしいが、そのうちにちゃんと壊滅竜という名で呼ばれるに違いない。


 ……と思った矢先に、話が変な方向に転がり出した。



「そして、その魔獣を使役する幻の6人目。今までその存在が明るみに出た事はありませんでしたが、先日、新しい噂を耳にしました」

「……6人目?そんな奴がいるのか?」



 誰だ?その6人目って?

 リリンの仲間は5人だって言うし、ホロビノは数に入っていない。

 もしや、心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)を名乗るなんてイカレたもの好きがいるというのか?


 ……敵か?



「シュウク。そいつの事を詳しく教えてくれ」

「えぇいいですとも。その6人目は、あらゆる才能に恵まれ、生まれも育ちも超一流。伝説の武器を片手に強い生物なんて敵では無い。そんな偉人のような人物らしいです」



 そんな奴がいるのか……?

 話だけ聞いている限りじゃ、かなり厄介そうだ。

 今の俺で対応できるのか?



「そして……その魔獣使いの一番の相棒はタヌキ。やたらと強いタヌキを連れているという話です」

「たぬぅッ!?」



 ……馬鹿なッッ!!凶悪無慈悲なタヌキを使役しているだと!?


 やべぇ、勝てないかもしれない。

 タヌキが関わってくる以上、苦戦は必至だ。



「その名も……『魔獣懐柔(まじゅうかいじゅう)』。おそろしき人物です」

「なんでだよッッッ!!!!!」



 おいっちょと待ておいこら!!

 その肩書きは使うなって言っただろうがッッ!!


 というか、時系列がおかしい!

 ワルトによって『魔獣懐柔』と名付けられそうになったのは、今日の午前中の話だぞ!?

 それが何でもう噂になっているんだよ!!



「シュウク。その噂を聞いたのはいつの事だ?」

「トーガと組む前ですから、2週間くらい前ですかね」



 2週間!?

 え?なに、それじゃ2週間前から俺の肩書きが魔獣懐柔で決まっていたって事か?


 俺の脳内に、ブイサインをしたワルトがチラつく。

 ワルトのヤロウ……予め仕込みをしてやがったな。


 というか、俺の肩書きが魔獣懐柔なのも大いに問題だが、タヌキを連れているという謎設定に文句を言いたい。

 着々と外堀が埋まっていくし、気が付いたらベッドの上のタヌキが二匹に増えてましたとかマジで笑えない。


 ここは軌道修正が必要だな。



「流石にタヌキを連れているって事はねぇだろ。タヌキなんか連れてても何も徳が無いし!」

「確かに私もそう思っていたんでしたが……」


「ん?」

「あれを見てしまうと、それも有りなのかなと思ってしまいますね」



 シュウクが指差した先、そこでは信じられない光景が広がっていた。



「……ヴィギルア!」

 ズドムッ!!



「なかなかやるね、タヌキ。そりゃあ!」

 ズドォン!!



 ……。

 リリンさんがタヌキと戯れっていらっしゃる。

 具体的に言うと、リリンとタヌキが駆け回りながら、互いにボールを投げつけあっているようだ。

 なんで曖昧な言葉なのかっていうと、放たれるボールが速すぎてよく見えないから。


 どう見てもバッファの魔法全開です。

 ありがとうございました。



「シュウク。アレは異常だから気にしない方が良いぞ」

「そうでしょうか……?」



 気になくていい。

 気にしたら人生が歪むから、放置を強くオススメしたい。


皆さまの応援のおかげで、200話まで来れました!


応援ありがとうございます!!

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