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第24話「食事と索敵」

「あはは何よそれ!つまりトーガはタヌキが怖くなって、賄賂を送って見逃してもらったわけ!?」

「くっ笑うんじゃねぇよシシト。ただのタヌキじゃなくてボスタヌキなんだぞ?あんなの誰も勝てねーつーの!」


「はいはい、そういうことにしておきましょうね。タヌキに負けたトーガさん?」

「くっ。全然信用してないな?」


「出会ったのがドラゴンだってならともかく、タヌキはないでしょー。ランク7以上はそれ以下より強さの段階がまるで違うって私に教えたのトーガだからね?」

「でも!いたんだよ!!タヌキが!!!」


「はいはい。脳内設定お疲れさまー」

「シシト、……覚えてろよ」



 だいぶ自分のペースを取り戻してきたトーガは、高らかに笑うシシトに精一杯のいい訳をしている。

 たぶんチームのリーダーとしての威厳を取り戻したいんだと思う。がんばれ。


 あの後、暫く周囲を索敵してみたが、怪しい人影は見当たらなかった。

 せいぜいが、タヌキが潜伏しているであろう痕跡があるだけ。

 そのタヌキも今は満腹で動けないだろうし、平和そのものと言ったところだ。


 さて、外部には敵が居なさそうだし、そろそろトーガ達に探りを入れるか。


 俺はリリンへ視線を向け、目だけで合図を送る。

 リリンは一瞬きょとんとした表情になったが、すぐに何かを察し杖を構えた。


 うん、ちゃんと言葉にしなかった俺が悪かったよ。

 だから雷人王の掌(ゼウスケラノス)は唱えなくてよろしい。



「リリン、その選択肢は完全に間違いだ。何をするつもりだよ!!」

「ん。ユニクの視線が『雷人王の掌』でトーガ達の身の程を知らしめろと言っている気がした」


「……本音は?」

「パプリに最高ランクの魔法を見せて親密度を上げ……あ。」



 なるほど。油断も隙もない。

 リリンはなんとしてでも最高ランクの魔法をパプリに教えたいらしい。

 そんな事をすれば、心無き大悪魔(アンハートデヴィル)直伝の、『悪意無き小悪魔アンハートミニデーモン』が爆誕し、哀れな犠牲者が増えることになるだろう。


 話を逸らした方が良さそうだな。



「とりあえずパプリに魔法を教える件は置いといて、俺達の作戦を実行に移そうぜ?」

「あ、そうだね。私にはユニクといちゃいちゃするという大事な任務があるのを失念していた。……全力で頑張りたい」



 いや、程々にしてくれ。

 リリンの本気のいちゃいちゃって、一体どんな事をさせるのか分かったもんじゃない。

 だが恐らくこんな感じだ。



「ユニク、あーんして?ほら、あーん!!」

「……あーん」


「……《雷光槍!!》」



 うん、なんだろう。流石にここまではされないだろうと思うんだが、どうにも自分が信じられねぇ。

 まるでそんな実体験をした事があるみたいだ。



「イチャラブは程々にな。んで、俺はトーガとシュウクに探りを入れてみようと思う。リリンはシシトとパプリを探ってくれ」

「了解。ちなみに私の見た立てじゃ、シュウクが一番怪しいと思う」


「どうしてそう思うんだ?」

「レジェの王宮で見かけたような気がする」


「真っ黒じゃねぇかッッッ!!」



 なんだよ!そんな所で見かけたんなら完全に黒じゃねえかッ!!

 確認しなくても間違いないだろそれ!?



「リリン、そう思うならぶっ倒れている時に捕獲した方が良かったんじゃないか?」

「ん?レジェの王宮で見かけても、確定材料にはならない。むしろレジェの配下かも?」



 あ、そっか。

 リリンはフィートフィルシアの出来事や、レジェリクエ女王が俺達を欲しがっている事を知らない。

 確かに、レジェリクエ女王の陣営ならヘタに捕らえるのはまずい。

 相手に俺達を攻め込む大義名分を与えちまうからな。


 だが、良い情報を聞けた。

 特にシュウクには色んな意味で注意を払うとしよう。



「ともかく、慎重に行動した方が良さそうだな」

「うん、パプリは大丈夫だと思うけど、シシトが敵と言う可能性もある。私も慎重に行動しよう」


「――食事が出来ましたよーーーー!!」


「ごはん!?ユニク、すぐに行こう。シュウクの料理は絶品と言っていた!!」

「……こりゃダメそうだな。俺が真面目に働けばいいか」



 **********



「いやー、リリンさんが怪鳥鴨ミステリアスダックを一撃で撃ち落とした時には変な声が出ましたけどね。ですがおかげ様で豪華なハンバーグになりましたよ。『猪と鴨の逢い引きハンバーグ~香り高いレモンを添えて~』です」

「こ、これは!!凄く美味しそう!!!!!」


「どうぞ召し上がってくださいな。熱いので気を付けるんですよ?」

「頂きます。はふはふ……はうぁ……。ユニク、シュウクは良い人!!絶対に悪人なんかではない!!」

「一瞬で懐柔されたッ!?」



 ダメそうだとは思ったが、流石に速すぎるだろッ!!


 確かにうまそうだが……。

 リリンはとても幸せそうな平均的な表情で、黙々とハンバーグに齧り付いている。

 この絵だけ切り取ってみたら、天使の晩餐とでも言うべき微笑ましさ。


 もう既に二皿目だけど。



「シュウク、俺にも貰えるか?」

「勿論ですよ、ユニクル。料理は食べて貰らって初めて意味があるのですから」



 シュウクはにこりと笑い、皿にハンバーグを盛り付けて上からたっぷりとソースを掛けてくれた。

 差し出された皿の上には、楕円という程に肉厚なハンバーグ。

 掛けられているソースは白を基調とした濃厚そうな色合い。最上段にはハーブが添えられ、全体の彩りも鮮やかだ。


 ……まずは一口。


 ほろり、じゅわぁ。

 あれ?おかしい。

 テーブルマナーなんて知らない俺は、適当にフォークで切り分けて大きめの塊を口に放り込んだはず。

 なのにハンバーグは一瞬で姿を変え、濃厚なエキスとして体に沁み込んでしまった。


 その代わりに湧き出たのは、おいしいという感嘆。

 濃厚な塩味と鼻孔をくすぐるレモンとハーブが、ひたすらに甘い肉汁と合わさって絡みつく。


 あぁ、なるほど。

 シュウクは悪人じゃねぇな。間違いない。



「シュウク、このハンバーグすげぇ美味いんだけど!!どうしたらこんな味になるんだ?」

「新鮮すぎるお肉は旨味が少ないのですが、柔らかくてとろけますからね。丁寧に作り込んだソースと合わせると、ここでしか食せない味わい深い味になるんです」

「このバケットとも凄く合う!!ザクザクの食感とジュウシィなハンバーグがもう天下一品!」



 三皿目に突入したリリンは、バケットを輪切りにして豪快にハンバーグを挟んでいる。

 それうまそうだな。俺もやろう。……くぅう、美味い!!



「今日は一段と豪華だなシュウク。俺にもくれよ」

「私にも!」

「パプリも!」

「もちろんです。どうぞ」



 お、全員集合だな。

 俺。

 リリン。

 トーガ。

 シュウク

 シシト。

 タヌキ。

 パプリ。


 よし、6人と1匹。全員いるな……って、ちょっと待てッッ!?



「おい、てめぇ。なんでここに居やがるんだよタヌキ。なんで当たり前にハンバーグを食ってやがるッ!?」

「……ヴィギルアァーン!ヴィギルギルゥー!!」


「無視か?無視なんだな?いい度胸してやがるッ!」



 なんか、だんだんタヌキ語が分かるようになってきたぞ?

 今、コイツは恐らく、「トレビアーン!(凄く美味!)」的な事を言っているはずだ。

 仕草から見ても間違いない。

 持参した木の枝でハンバーグを切り分けてお上品に食べている。

 ……お嬢様かよッ!?


 つーか、バナナを一房も食ってまだ入るのか。

 そしてリリン、タヌキに対抗心を燃やしてペースアップはしなくて良いぞ。



「ホントコイツは根性が座っているというか、図太いというか……」


「図太いのはユニクルも一緒でしょ!?なんでそんなに落ち着いていられるの!?れ、レベルが7万もあるのよ!?」

「おじちゃん、怖いよぉ。お家に帰ろうよぉ」

「ほほほ、ホントにいたとは驚きです。驚きのあまり、普通にハンバーグをよそってしまいました」

「……おう、お前ら。俺に謝ってくれるか?なぁ、謝れよ、おい!!」



 **********



「ね、ねぇ、ホントに触っても大丈夫なの?噛んだりしない?」

「手荒な事をしなければ大丈夫のはず」


「いいの?りりんおねーちゃん、タヌキを撫でても良いの?」

「うん、いい。……タヌキ、暴れたりしたらタダじゃおかない。そうなった場合、今度はあなたがハンバーグになる」

「ヴィ!?ヴィヴィギルアッ!!」


「これで大丈夫。思う存分撫でると良い」

「わぁい!あ、ふっかふかだぁ!」

「え?本当?……うわ、ホントにふかふかねー」



 うまい食事に、気の合う仲間。

 一匹魔獣が紛れ込むというハプニングがあったものの、その魔獣はハンバーグに夢中の為、俺達に危害が加えられる事は無かった。


 そんな訳で、みんな最初の内はタヌキを見て戦々恐々としていたが、段々と慣れてきたようだ。

 リリンがまったくタヌキを怖がらず、むしろ、負けじとハンバーグを貪り食っていたのも良かったかもしれない。


 最初にタヌキ耐性があったトーガが動きだし、次第にみんなも食事に進む。

 ほどよく食事が進んだ段階で、パプリが「タヌキ、撫でてみたい」と言いだし、リリンが「ん。ゆっくり撫でるのなら問題ない」と爆弾発言をして変な空気に。

 今ではもう、可愛いペットと戯れる少女達という絵面になった。


 言いたい事は山ほどあるが、これだけは言わせてくれ。

 ……タヌキの癖に、猫かぶってるんじゃねぇよ。



「……おい、女共がタヌキを撫でまわしてるぞ。明らかに異常な光景だと思うんだが、どう思う?俺がおかしいのか?」

「トーガ。俺が言うのもなんだけどな、リリンにもタヌキにも常識を求めるのは無理だ。ましてや組み合わさったとなりゃぁ、世界が滅んでも不思議じゃない」

「えぇ、色々と旅の長い私も始めて見る光景です。例えるなら、奇妙奇天烈きみょうきてれつですね」



 んで、俺達男組はちょっと離れた所で女子会の風景を眺めつつ、ジュースで乾杯。

 森の中という事もあって酒ではないが、シュウクが持参してきたこのブドウジュースもかなりいける。


 今は、ぐびぐびと喉をジュースで鳴らしながら、他愛のない雑談をして親睦を深めている最中。

 探りを入れるには絶好のチャンスだな。

 聞く内容はそうだな……。「最近感じた危険なこと」で行こう。

 これなら、最近の足取りが掴めるし、トーガ達の戦闘力も分かる。盗賊みたいに力ずくで言うことを聞かせられているのならボロを出すかもしれないし。



「なぁ、トーガにシュウク。ここ最近で一番危険を感じた事は何だ?雑談がてらに教えてくれよ!」

「「今だけど?」」


「……。すまん」



 うぐ!確かにそりゃそうだ!

 俺は何度もタヌキと会っているし、リリンについては言わずもがなだから忘れていたが、こんな状況になれば誰だって怖い。


 若干失敗したなと思いつつ、うまく軌道修正しなければと口を開く。

 しかし、俺の意図を察したシュウクが「恐怖とは違いますが、良いお話ならありますよ」と切り出した。



「あまり女性陣には聞かせられないお話なんですが……」

「ん?」


「この大陸の最東には楽園があるという話です」

「「楽園?」」


「その国は一人の女王が統治する国なのですが、国民が随分と特殊でして。……実はその国ではお金を払えば、どんな女性とでもイイコトが出来るそうなのです」

「なんだと!?」

「そんな国が!?」


「なんでも、その国の国民は男性も女性も全て、値段が決まっているらしいですよ。交渉がうまくいけば、どんなこともしてくれるとか」

「夢のような話だけど、どうせ裏があるんだろ?」



 俺だって興味の尽きないお年頃。

 そんな楽園があるのなら、是非一度訪れてみたい。

 それはトーガも同じなようで、俺達二人して、若干ソワソワしている。


 だが、そうやすやすと信じてはならない。

 甘い果実に寄せられて近寄ってみたら、大悪魔が陰に潜んでいましたとか笑えないからな。



「いえ、裏はなさそうなんですよ。実は……」

「「実は……?」」


「その国民全て、女王レジェリクエが所有する奴隷なんだそうです。ですから払う物さえちゃんと払えば、良い思いが出来るのです!」



 ダメだったッ!!

 影に潜むどころか、危険のド真ん中ッッ!!

 まさに『まな板の上の鯉』、『リリンの目の前に三頭熊』状態だッ!!


 俺はため息交じりに、愚痴を漏らした。



「なんだよ期待させておいて。その国ってレジェンダリアかよ……」

「え?ユニクルはご存じなんですか?」


「あぁ、噂ぐらいならな。レジェンダリアは色んな領地を襲って奪い取ってるっていうし、あまり近寄らない方が良さそうだぞ」

「へぇーそうなんですか。所詮は浪漫ってことなんですかね」


「ん?シュウクは行ったこと無いのか?」

「無いです。入国審査が厳しいもんで、中々、普通の冒険者では手が出しづらいんですよね」



 行ったことがない?

 確かリリンは見かけた気がすると言っていたよな?


 俺は悟られないように視線を上下させ、シュウクの服装をチェック。

 ふむ、どこにでもいそうな普通の冒険者だ。

 あまりに普通すぎて、印象に残りづらい。


 リリンの見間違いか、それとも……。


 深まる謎の中、沈黙を保っていたトーガが「あ、思い出したぜ!」と突然声を上げた。



「レジェリクエって言えば、噂の大悪魔じゃねぇか。新人なユニクルよ、お前は知っているのか?この大陸に住まう、外道極まる大悪魔の集団『心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)』をよ?」



 えぇ、知っていますとも。

 つーか、そこでタヌキを撫でてるよ。


 だが、俺はトーガに悟られないように、怪訝そうな顔を作り首をかしげ、嘘吹く。



「いや、知らない。なんか恐ろしげな名前だけど、一体何をしたんだ?」

「そうか、知らねぇのか。だったら話しておいた方が良いな。この大陸にはな、人の命を食い物にする正真正銘の悪魔みてぇな奴らがいやがるんだ」



 今、語られる、衝撃の噂話。

 ……逆に、ちょっと楽しみなんだけど!


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