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第21話「普通の冒険者の冒険・連携戦闘」

 

「嬢ちゃんら、俺達のメンツは呼び捨てで良いぞ。一番レベルが高いのは嬢ちゃんだからな。俺達も好きに呼ばせてもらうし」

「分かった。そうさせてもらう」


「で、この際だシュウクさん。俺達も呼び捨てにしないか?もう他人行儀をしなくても良い頃合いだろ?」

「そうですね。私達も組んで1週間。私の方からもお願いします」



 互いに自己紹介を済ました後、俺とリリンは受付に行って依頼の受注を済ませてきた。


 俺達が選んだのは黄金ダケの採集。

 三頭熊の目撃情報は沼の先の岩石地帯だし、行きすがら探す事にしたのだ。


 目的もはっきりした所で、お互いの任務を確認。

 トーガは予め依頼を受けていたらしく、『アクロバットフェレット』という、いたちの仲間を探すらしい。


 ちなみに、トーガに黄金ダケの生息場所知ってます?と聞いてみた。

 割と真面目な顔で「教える訳ないだろ」と一蹴されたけど。

 まぁ、そりゃそうだな。

 生息地を知っているならこの依頼はいつでも達成できるし、もしかしたら、他の冒険者を育てる用にワザと残していた可能性もある。


 もともと、俺達の目的は金稼ぎでは無く情報の収集。

 なんとしてでも依頼を達成しなくちゃいけない訳でもないし、ゆっくり探すとしよう。


 そして、俺は密かにリリンへ「トーガ達は敵じゃなさそうだな」と耳打ちをした。

 だが、リリンの話ではまだ分からないらしい。

 初見の雰囲気で暗劇部員かどうかを見破るのはほぼ不可能だというのだ。



「リリン、そんなに暗劇部員って上手く隠れるのもんなのか?」

「もちろんそう。そもそも、暗劇部員は暗劇部員だけをしているわけではない。冒険者と暗劇部員、商人と暗劇部員、鮮魚店と暗劇部員など、組み合わせは多岐にわたる」



 前二つは良いとして、鮮魚店はなんか嫌だ。

「くくく、貴方はこの新鮮なカツオのようにピチピチ跳ねるしかないのですよ。私の策略という、まな板の上でね!」とか言われても反応に困る。


 そんな生臭い妄想をしつつ、俺達はトーガの後に続いて原生林に踏み込んでいった。


 トーガ達はさっきとは打って変わって重装備を着て準備万端な様子。

 特に前衛のトーガとシュウクはそれぞれの武器に加え、金属鎧と大きなリュックを背負っている。

 恐らくは怪我をした時用の薬や食料などが入っているのだろう。


 ……俺達?

 二人とも腰にバックを付けているだけですが、それが何か?


 トーガ達に「おい、そんな装備で大丈夫か?」と心配されたが、リリンが「何も問題ない」と言い切ったためそれ以上の追及は無かった。

 表情から察するに、たぶん、呆れてるんだと思う。


 さて、森に侵入してからある程度時間が経った。そろそろ本格的にコミュニケーションと行きますか。

 俺は先陣を切るトーガに、リリンは後ろを警戒しているシシトさんに近寄った。



「なぁトーガ。いつもはどんな感じに依頼をこなしているんだ?」

「いつも?なんだユニクル。依頼を受けた事ねぇのか?」


「依頼自体は二度しかないんだ。それまではずっとリリンと訓練をしていた」

「ん?じゃあ、どうやって飯を食ってたんだ?」


「……素晴らしきかな、ヒモ生活」

「情けねぇなぁ、おい。飼い犬じゃあるめえし」



 ……自分でも情けないとは思ってるよ!

 でもしょうがないだろ。

 訓練も無しに、リリンレベル(心無き)の依頼なんて受けた日にゃ、治療費どころか葬式代がかかるんだから。


 だが、俺はこの沸き上がる感情を口にする事は無かった。

 恐らくだが、すぐに誤解は解ける。


 ……この場にリリンが居る以上、平和なのも今の内だけだ。



「そんなわけで、俺は圧倒的に経験不足なんだよ。トーガはどう見てもベテランだろ?ここは一つ教えを請いたいと思ってな」

「そういう事なら嫌とはいわねぇが……。言っとくが俺は厳しいぜ?覚悟しろよ?」


「あぁ。もちろんだ。どんな訓練でも音を上げない自信がある」



 トーガは俺の顔を一瞥すると、「やれやれ、こりゃ楽しみだ」と肩をすくめた。

 俺がハッタリを言っていると思ってるんだろう。


 だがな、トーガ。恐らくどんな訓練が来ても耐えられると思うぞ。


 鼻先3cmの距離から雷光槍を撃ち込まれた事があるのか?

 大空高い数千mからダイビングした事はあるのか?

 ……無いだろ?なら大丈夫だ。


 俺の心の声を知る由もないトーガは、「まずは探索の基本からだな」と言いながら向き直り、話を始めた。



「ユニクルよ。探索の基本は『身を隠す』事だ。野生動物は基本的に危険。身を隠して近づいて、一撃で決めるのが常識ってもんよ。逃げる時も身を隠すのが上手けりゃ上手いほどいい」

「ん?理屈は分かるが、先制攻撃に失敗したらどうするんだ?」


「もちろん逃げる。野生動物とまともにやり合うなんざ正気じゃねぇ」



 え?そうなの?

 明らかに俺が受けてきた訓練とは別の何かなんですが。


 俺は努めて冷静にトーガに質問を投げかける。

 なんのひねりも無い、普通の質問だ。



「逃げると言っても、追ってくるスピードが速い三頭熊とかじゃ逃げ切れないだろ。どうするんだ?」

「……それは……。そうならねぇように頑張るしかない。だがもしも、どうにもならなくなったら……誰か一人が囮になって仲間を逃がす事になる」



 うわ……。なんて過酷な運命だろうか。

 森の奥深くに行けば簡単にレベル8万とかがいるのに、出会うたびに犠牲者を出すとかそれでいいのか?



「なぁちなみに、トーガ達のパーティならどのくらいの生物に勝てるんだ?」

「俺達ほどにベテランなら、連鎖猪5頭までなら安定して狩れるぞ。流石に10匹以上いたら逃げ出すけどな」


「連鎖猪5匹……?一人でじゃなくてパーティでだぞ?」

「なに夢見てやがる。もしかして一人で連鎖猪を狩れると思ってんのか?小さいウリ坊ですら難しいぞ」



 え?何それヤバイ。

 トーガの表情は真剣そのもの。

 とてもじゃないが冗談を言っている様には見えないのだ。


 え?じゃあホントに4人も居て連鎖猪5匹に勝つのがやっとなのか?

 俺は困惑し、ほんの少しだけ歩調が遅くなった。

 自然と俺の前に出る形になったトーガは、ん?と声を漏らし、そして両腕を広げて俺達の進路を遮る。



「静かにしろ。噂をすれば連鎖猪のご登場だ。背後を取られると危険だから処理をしちまおう」

「……トーガ、見た感じ7匹いるけど勝てるのか?」


「恐らくだが、勝てる。だがギリギリだろうな。連携の取れないお前らが居たんじゃ失敗する可能性があるから俺達だけでやるぞ。シシト、パプリ、シュウク、準備は良いか?」

「「「おう!」」」



 トーガを筆頭とする「ブロンズナックル」の皆さんは、円陣を組み真剣に戦略を立て始めた。


 静かにかつ鋭い口調で、予め決めていたであろう行動を確認し、それぞれが自分の持ち場を定める。

 あぁ、なるほど。

 これこそが冒険者の常識ってやつなんだな。

 誰ひとりとして無駄な言葉は話さず、黙々と準備を終えてゆく。

 その動きは流麗で、ベテラン感を存分に醸し出していた。


 なお、リリンはハンカチを取り出して杖を拭いている。

 声こそ出していないが、今にでも鼻歌を歌いだしそうな平均的な微笑みだ。


 ……これはいけない。ちょっと釘を刺しておこう。



「リリン、この任務中はさ、可能な限り手加減をしようぜ」

「ん、どうして?」


「俺達の実力は出来るだけ隠した方が良いと思うんだ。敵の暗劇部員が見ていないとも限らないし」

「……分かった。けど、怪我人が出そうになったら介入する。それは了承して」


「勿論だ。命に勝る物はねえからな」



 よしよし、なんとかリリンの説得に成功。

 このままだと、ブロンズナックルが戦闘を始めた瞬間、後ろから連鎖猪を滅多刺しとかにしそうだからな。

 これで安心して見ていられる。



「……これで行く。全員、定位置についてくれ」

「「「おう!」」」



 俺とリリンが打ち合わせをしている間に、トーガも話を終えたらしい。

 それぞれが役割を理解し、戦闘陣形へ移行していく。


 前衛・トーガとシュウク。

 後衛・シシトとパプリ。


 トーガは自分の腕にはめた手甲に魔力を流し魔法陣を起動。

 緑色に輝く魔法陣がとても鮮やかだ。

 そしてシュウクはノーマルソードを抜き、正面に構える。

 静かに精神を集中し、連鎖猪を見据えた。


 そして……。



「《傷つき泣く世界。まだ見ぬ明日。これらを手に入れん為に我が盾となれ―空盾エアロシール―》」

「《その速さ脱兎のごとく。時に駿馬を越えし資格あるものよ、彼に力を与えたまえ―地翔脚(ラピッドステップ)―》」



 シシトとパプリがバッファの魔法をトーガとシュウクに掛けた。


 漏れがないように二人ともに同じ魔法を掛け終え、一呼吸。

 4人の意識が完全に同調した瞬間、トーガとシュウクが走り出す。


 その走り方一つで、卓越した技術が有ることが見て取れた。

 二人の疾走は決して速くは無い。

 だが、可能な限り身を伏せ音を消し、木々に隠れるようにして連鎖猪に近づいているのだ。


 さらにシュウクはスルリと木に登り、姿を消す。

 どうやら木上から奇襲を仕掛けるらしい。


 そして、後衛組にも変化があった。



「《爆炎とは燃えいずる感情なり、求める物は筆を染色しうる炭芥。燃えて、尽きて、終えて。―爆炎玉バーンボール―》」

「《水塊砕砕、貫け。―水針アクアニードル―》」



 シシトの杖の先には水で出来た針、パプリの杖の先には炎の球が作られている。

 二人はそれぞれ連鎖猪に狙いを定め、意識を集中。準備は万全だ。


 やがて、先陣を切るべくトーガが茂みから飛び出し、連鎖猪へ拳を放つ。



「うらぁ!!」



 ゴッ!!という鈍い音と共に戦闘が開始された。


 トーガの放った一撃は見事に連鎖猪の眉間を撃ち抜き、意識を奪う事に成功。

 その勢いのまま腰に隠していたナイフで急所を抉り、一匹目を斃した。


 だが残りの連鎖猪に気付かれたらしい。

 連鎖猪は唸り声を上げトーガへ突進。その動きを見たトーガは体を後退させ再び茂みに身を隠すが、連鎖猪は鼻をヒクつかせトーガを追った。


 狭い茂みの中での逃走劇。

 しかし4本足の連鎖猪に優位があるらしく、みるみる内にトーガに角が迫る。

 トーガはそれでも逃げ続けているが、進路が上り坂に差し掛かかった事により、スピードが目に見えて遅くなってしまった。


 まずい、刺されるッ!!

 俺はグラムを構え、走り出そうと足を踏み出す。

 しかしその瞬間、木上からシュウクが飛び降り上段切りで一閃。2匹目を地に沈めたのだ。

 それを好機にトーガは踵を返し、連鎖猪に向き直った。


 ポケットから何かを取り出し、連鎖猪へ向け全力でブン投げる。

 それは直径10cm程の球状で、隙間なく包帯で巻かれている何か。

 俺が正体を把握する前に球は連鎖猪の額にぶつかり弾け、辺り一面に墨汁を撒き散らし視界を奪う。


 その隙にシュウクが駆け寄り連鎖猪の首元を切り裂き、三匹目もクリア。



「シシト!パプリ!やれ!!」


「「……《放てぇぇ!》」」



 トーガの掛け声と共に、シシトとパプリが魔法を放つ。

 二人の魔法は真っ直ぐに連鎖猪に向かい飛んでいき、別々の目標へ見事に着弾。

 その威力によってよろめいた連鎖猪。

 尽かさずトーガが駆け寄り拳で連打。シュウクも剣で突き刺し、連鎖猪二匹の命を同時に奪う。


 後残るは2匹。

 だがここで連鎖猪は予想外の行動に出た。

 二匹が同時に『震撃クエイク』を放ったのだ。


 二つの震源から同時に発せられた横殴りの衝撃。

 二人ともバランスを崩したが、特にシュウクは大きく体を歪めてしまった。かろうじて剣を地面に刺し耐えてはいるが身動きが取れず、迫る連鎖猪に対応できていない。



「うおらぁぁ!!」



 シュウクに迫る危機にいち早く気が付いたトーガは、再びポケットから丸い何かを取り出し、シュウクの足元に投げつけた。

 狙いは正確で、寸分たがわずシュウクの足に直撃し球が爆発。

 あたり一面に黄色い煙が飛散し、連鎖猪はその煙を嫌ってか狙いをシュウクからトーガに切り替えた。


 迫る二匹の獣。

 相対するのはベテラン冒険者トーガ。


 トーガは手甲を唸らせ連鎖猪を殴りつける。だが、連載猪も負けじと角で応戦し、甲高い音が辺りに響いた。

 一瞬のこう着状態の最中、空気を切り裂き水の攻撃魔法が連鎖猪を穿つ。


 シシトが放った水の針は連鎖猪の顔面に直撃し、あえなく絶命。

 残り一匹となった連鎖猪にもパプリの魔法が届き傷を与え、最後は煙から抜け出したシュウクが剣を突き刺して、幕引きとなった。



「…………。なぁ、リリン。俺が抱いている素直な感想を言っても良いか?」

「どうぞ」


「これが普通の戦闘だとッッ!?連鎖猪程度で滅茶苦茶ギリギリじゃねぇか!!」

「ん。普通というと大体こんな感じになると思う。むしろ、連携がしっかりしている分、強い部類に入るのでは?」


「ちなみに、もしリリン一人で戦った場合はどうなったんだ?」

「雷光槍で滅多刺し」



 ……やっぱり滅多刺しかッ!!釘を刺しておいて正解だったッ!!


 さて、どうしよう。

 俺はこの後の状況を上手く切り抜けられる気がしない。


 具体的に言うと、ドヤ顔で近づいてくるトーガに対してどんな顔で出迎えれば良いのか分からない。

 ちらりと、リリンに視線を向けると、いつもの平均的な顔。


 ……ちくしょう!リリンが羨ましいぜ!!



「どうだユニクル、俺達の戦いは。カッケぇだろ?」

「…………そうだな!」



 すまん、トーガ。

 これが俺の精一杯だ。だからそのドヤ顔を向けるのは勘弁してくれ。


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