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第15話「裏悪魔会談・悪辣計画2」

「では、本題に入ろうか、ユニ。……もう一度言うけど、リリンに手を出さないでね?」

「あれだけ脅されたら普通は手を出さないだろ。命、大事!」


「よしよし。それじゃ、本当の破綻戦略をお見せしよう。まず、キミらが行う情報の引き出し方についてだ」



 どうやらワルトは、本当にリリンの事を大事にしているようだな。

 ここまで念押しされると、逆に背徳感がムクムクと育ちそうになる。


 それを別名、死亡フラグと呼ぶ。タヌキ帝王を相手にする方がまだ生き残れそうだ。



「さて、キミらは敵の指導聖母を出し抜き、情報を集める。そして、その情報を僕が使って敵の正体を突き止めて大聖母・ノウィン様に報告し、チェックメイト。基本方針は変わらずこのままだ」

「おう。……目には目を。指導聖母には指導聖母をって奴だな!」


「そう。ヘタに指導聖母に手を出すとキミらじゃ返り討ちになるかもしれないからね。僕に任せておきなよ。んでだ」

「?」


「ユニはさ、『敵の前でイチャラブする』なんてふざけ作戦だけで、本当に敵をあぶり出せると思っているのかい?」

「え?そこから否定!?だったらなんでやれなんて言ったんだよッ!」


「いやいや、一定の効果はあるはずさ。でも、敵だって暗躍が得意な指導聖母。そのくらいで取り乱すなんてのは少し楽観的すぎるだろう?」



 いや、確かにその通りな気もするが、だったら最初から別の作戦を考えて欲しいんだが。

 何か他にも思惑があるんじゃないのかと、ちょっと疑わしく思えてくる。


 ……もしかして、俺の反応を見て遊んでいる?

 ちょっとカマを掛けてみるか。



「なぁワルト。いっそのことイチャラブ作戦はやめて違う作戦をやらないか?」

「ん?それは物語が破綻するからダメだよ。リリンとは予定通りイチャラブする振りをしてくれ。そうしないと本当の作戦が生きてこないんだ」


「……どういう事だ?」

「僕が指示する本当の作戦はね、『心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)』の名前を使った、誘導尋問だ」


「誘導尋問?」

「そう、キミには協力を申し出た冒険者へこう質問して欲しいんだ『心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)って知っているか?知っているなら、どんな奴なのか教えてくれ』とね」



 心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)を知っているか?

 そりゃあ、知っていますとも、えぇ……えぇ……。


 心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)は大陸中に悪名を轟かせているらしいんだし、そんな事を聞いても普通に悪評が帰ってくるだけな気がするんだが?


 あ、でも。

 よく考えたら、轟いているはずの悪名を俺は聞いたことがない。

 他の冒険者と交流が無かったので当然と言えば当然だが、どんな噂が流れているのかはちょっと気になる。


 まぁ、どちらにせよ、ワルトの作戦の全容を聞いてから判断してもよさそうだ。



「それに何の意味があるんだ?イチャラブとの繋がりも見えてこないし」

「よく考えてもごらんよ、僕ら心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)が自らの事を知っているのか?なんて聞くのは、おかしいだろう?」


「……確かに」

「でもさ、その違和感は僕らの正体を知っている者しか抱かない。もしその質問をして、相手が不審な表情をしたのならばキミらの正体を知っているという事になる」


「そうか、敵だったら俺達の正体を知っていても不思議じゃない!!」

「少なくとも、ユニ達がこの図書館に来た時点で、敵の指導聖母には『戦略破綻』と接触した事がバレているだろうね。そして特別な理由がない限り、末端の実動部隊にもこの情報は伝わっているはずさ。割と確実性の高い判定方法のはずだよ」


「なるほどな……。この質問を俺がした時点で、敵かどうかの判別も出来てなおかつ、話を聞きだすチャンスを作る訳か」

「そう、そしてこの時に生きてくるのがイチャラブ作戦だ」


「ん?それは良く分からないんだが……?」

「イチャラブを見せて付けておくのは、敵の動揺を誘いやすくして本音をポロリとこぼさせるためさ。如何に訓練した人物とはいえ、感情が昂っていればミスも起こしやすくなる。想像してごらんよ」


「想像?」

「ユニが森に狩りに出掛けて獲物を探していたら、目の前でタヌキがイチャラブしているのを目撃してしまった。キミならどうする?」



 そんなもん決まってるだろ。

 石でも投げて、妨害してやるんだよッッ!!


 俺が本気でイチャラブするのを禁止されているのに、タヌキなんぞがイチャラブしていいはずがない。

 リア獣は爆発しろ!



「俺に慈悲は無い。タヌキ相手ならなおさらだ」

「そうそう、そんな風に感情を揺れ動かして、罠に掛ける訳だね。ちなみに、敵は無意識の内に情報の流失を防ぐため『知らない』っていうはずさ。僕らの悪名を知らないなんてあり得ないのにね」



 ……え?そんなに知名度が高いのかよ?

 もしかして、冒険者の常識レベルで語り継がれているとか?


 それってもし、俺達が心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)だってバレたら、大変な事になるんじゃ……?



「はは。流石に知らない人くらいいるだろ?」

「残念だが、成り立てホヤホヤの新人冒険者でもない限り、ほとんどの冒険者が知っているだろうね。なんでってそりゃ……それなりの事をしたからね。僕らは」


「何をしやがった!?全ての冒険者に警戒されるって相当だぞッ!?」

「それは……ユニにそれを話したら、自然なリアクションが取れなくなるだろ?話を聞くのを楽しみにしてると良い」



 うわぁ……すっごく気になる。

 だがリリンやカミナさんの行動から察するに、ロクでもない事になっているのは間違いない。


 ……『肉を喰らい、生血をすする』とか言われても、何ら不思議じゃねぇ。

 リリンは食欲旺盛だし、カミナさんは血とか好きそうだし。



「そんな訳で、ユニには『心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)』について調べて欲しい。もちろん、リリンには内緒でね」

「リリンに内緒にする意味は分からんでも無いが、勿論、ちゃんとした理由があるんだろ?」


「当然そうさ。リリンが居る所で心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)について聞くと、恐ろしい悲劇が生まれるかもしれないんだよ」

「……恐ろしい悲劇ね。具体的には?」


「この作戦はね、裏を返すと無関係な人は一切の躊躇なく心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)の悪評を教えてくれるという事だ。……事実を言われるのなら良いんだけれど、中には悪口みたいなものも含まれているからねぇ」

「……悪口?」


心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)、そのリーダー『無尽灰塵』は何でも喰らう大食漢。……『そびえ立つ山のようなデブ』って言われているんだ」

「……なにそれ、やばい」



 確かに、リリンは飯を良く食う。

 その体のどこに詰め込んでるんだと気になるくらいだが、実際リリンはスマートな体型をしているし、どちらかと言えば痩せ型だと思う。

 胸だってそんなに大きくな……おっとこれ以上はいけないな。考えるだけで禁忌に触れる。



「デブか……。そんな事をリリンが聞こうものなら……死人が出そうだ」

「しかも、全然関係のない一般人という酷さ。僕としても無関係の人が巻き込まれるのは避けたいからね」


「これはリリンの前じゃ話せないな……」

「ということで、キミにしかできないミッションなんだよ。やってくれるね?」



 なるほど。俺達だけで悪魔会談をしてる意味が良く分かった。


 もし、この計画をリリンが知れば、興味津津で噂話を聞きに行くだろう。

 そして、積み上がるのは死屍累々。

 噂を知る者は駆逐され、そして新たな噂が出来あがるのだ。


 ……何これ?無限ループか?



「わかった。リリンには秘密裏に事を進めるよ」

「理解が早くて助かるね。そんな君にはさらに複雑な話をしてあげよう」


「え。」



 さらに複雑な話?

 ここに来てさらに敵が増えると言うのか?


 指導聖母。

 蟲。

 あとついでにタヌキ。


 現状でも三つの勢力が俺達の周りをうろついているかもしれないんだぞ?

 これ以上は勘弁してくれよ!!


 だが、目の前に座る戦略破綻さんは許してはくれないらしい。

「実はもうひとつ、キミらを狙っている勢力に心当たりがある」と、トンデモナイ事を言い出したのだ。



「俺達、他にも狙われているのかよッ!!何にも悪い事をしてないのに!!」

「悪事をしていない、か。いやいや、それはどうだろうね。……時にユニ、この大陸の支配者って誰なのか知っているかい?」


「大陸の支配者?権力者ってことか?全く知らん」

「そうそう、権力者だ。辺境の村に住んでいた君には馴染みがないだろうけど、この大陸の支配者はブルファム王国で、その国を統べる国王『ルイ=ブルファム13世』だ」


「誰だそいつ?」

「まぁ、コイツは関係ないから忘れて良いけど、今、その覇権を奪い取ろうと破竹の勢いで勢力を伸ばしている新興国があるんだよ」


「……?」

「レジェンダリアって言うんだけどね」


「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 なんでここでレジェンダリアッ!?

 嫌な予感がするッ!!もの凄く嫌な予感がするッッ!!



「レジェンダリアは猛烈な勢いで勢力を伸ばしていて、ブルファム王国傘下の領地もどんどん奪っている。ところが先日、思いがけない事態が起こった」

「なんだろうなこの感じ。まぶたの裏に懐かしい顔が浮かんでくる……」


「ブルファム王国の最北端、フィートフィルシア領が思わぬ抵抗を見せた。第九守護天使を纏ったフィルシア騎士団がレジェの侵攻を阻み、食い止めたらしいんだ」

「やっぱりそうなるよなッ!?しかも、思いがけず善戦してるッ!!」



 ロイ、お前、やればできる子だったのか?

 悪名高いレジェリクエ女王の軍を食い止めるとか、思ってた以上にやるじゃねぇか。


 さすが俺と同じ、恐怖症候群(リリン・シンドローム)の体験者。

 最後の方は色々ぶっ飛んでたもんな。論理感とか恐怖心とか。



「ワルト、その口ぶりじゃ、フィートフィルシアの領主の息子と俺達に友好がある事も知ってるんだろ?」

「そりゃ、闇に生きる暗劇部員の指導聖母なら当然それくらい知ってるよ。ちなみに、他の指導聖母・『悪才アンジニアス』も「稼ぎ時だ」とか言って介入しに行ってるよ」


「第三勢力までッ!?ロイ、逃げてぇぇぇぇぇ!!」



 唯でさえ勝ち目のない戦いだってのに、第三勢力まで介入するとか生き残れる気がしない。

 あぁ、俺は数少ない友人を失ってしまったんだな。……黙祷。


 よし、このくらいフラグを立てておけば生き残れるだろ。頑張れ、ロイ!



「ちょっと話がズレてきたから戻すけど、話しの要はフィートフィルシア相手にレジェが本気になってしまったという事なんだ。もともと予定では圧倒的な力の差を見せつけて無条件降伏をさせるのがレジェの狙い。それが予想外にフィートフィルシアは力を付けてしまった。事態は最悪な展開に向かい出していて、血で血を洗う展開が起こるかもしれない」

「それって当然、リリンが第九守護天使の原典書をロイにあげたからだよな……?」


「勿論そうさ。第九守護天使は最強の防御魔法だと言われている。現に、一般の冒険者じゃ突破は不可能だろう。だからこそレジェは必要になるのさ。何もかもを破壊する圧倒的な力、キミやリリンの力がね」

「……。なんてこったッ!!まさかの身内まで俺達を狙っているのかよッッ!!」



 いつの日にかそうなるんじゃないかと危惧していたが、まさか本当に心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)に狙われる日が来ようとはな。


 というか、この話もリリンには聞かせられないんだけど。

 もし、この話を聞こうものなら、間違いなく戦争に巻き込まれるだろう。

 リリンの性格じゃ「戦争を止めにいく!」と言うか、しれっと「仕方がないから、ロイを攻め立てて原典書を返して貰う!」とか言いかねない。


 心無き未来が俺を持っている。丁重にお断りしたい。



「ど、どうすればいいんだ?ワルト。敵がいるこんな状態で巻きこまれたらタダじゃ済まなそうだぞ?」

「レジェは表だって行動をしていない。だから今は可能な限り接触しないようにするんだ。それと、レジェは女王である自分が『心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)の運命掌握』であると公表をしている。だから、情報収集のついでに運命掌握の噂話を集めればレジェの動きを探る事が出来るかもしれないね」


「つまりは、逃げ回ればいいって事か……?」

「そういうこと。恐らくキミらの旅の最終目的地点はレジェンダリア国だろう?ユニは可能な限り、リリンがレジェに会いに行くというのを阻止するんだ」


「……分かったぜ。ホント敵ばっかりで困ったが、ワルトの戦略を信じよう」

「ホントに敵ばっかりだね。モテモテで妬ましいなぁ」


「だったら変わってくれッ!!俺は穏やかな生活がしたいんだよ!!」



 俺達を狙う第四候補に、レジェリクエ女王の名前が挙がってしまった。

 現状、本気で捕まえに来ていないらしいが油断は禁物。


 なにせ相手はリリンを汚染した、元祖・大悪魔なのである。

 俺を討ち取るためにタヌキを率いてきても納得するレベルだ。都合よく『将軍』とか『帝王』とかいるし。



「いいかい、一度状況を整理するよ」

「あぁ、頼む」


「まずは、指導聖母対策。『イチャラブしつつ、冒険者へ心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)についての質問をして、速やかに確認。敵と判明したら友好的に接して情報を引き出し、僕に伝える』良いね?」

「イチャラブ……情報を引き出す……ワルトに伝える……覚えた」


「次にレジェ対策だ。『基本は情報収集に努めつつ、可能な限り接触を避ける』リリンに悟られない事も忘れずにね?」

「レジェリクエ女王……触れてはいけない存在……リリンにも秘密……よし、大丈夫だ」


「最後、蟲だ。この虫については分からない事が多すぎて忘れがちだけど、些細なことでも感じたらすぐに逃げ出して欲しい。これは僕からのお願いだ。頼む」

「蟲……最強……フツ―に怖いから逃げる……あぁ、これで完璧だな!!」



 ワルトに相談しに来た筈が、なぜかものすごい勢いで敵が増えた。

 だが、全ての敵に一応の対策を考える事が出来たし、逆に、不明だった敵の存在が明るみに出たと思えば悪く無い戦果だ。


 おっと、そういえばタヌキ対策を忘れていたぜ。

 そうだな……。タヌキから話しかけられることもあるし、今度は俺から話しかけて不意打ちを狙おう。

 う”ぃぎーう”ぃぎー。よし、こんなもんだろ。



「これでどうにか乗り切れそうだ。ありがとな、ワルト!」

「いやいや、僕らは仲間だろ?遠慮はいらないって」



 ……その仲間からも狙われているっぽいんですが。



「何か恩返しが出来ると良いんがだが……何かして欲しい事がないか?ワルト。俺に出来る事なら、何でもするぜ!」

「……おや?今キミ、凄い事を発言したね」


「……え?」

「僕は悪人極まる『指導聖母・悪辣ヴィシャス』で心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)『戦略破綻』だって忘れたのかい?そんな僕に向かって、”何でもする”なんて、気前が良いんだね、ユニ」


「あっ!?し、しまったぁぁぁぁぁぁ!!」



 や、やべぇ!!

 そう言えばワルトも、大悪魔だったッ!!


 今更後悔しても、もう遅い。

 くすくすと笑い声を漏らしながら、ワルトは凄く嬉しそうに微笑している。


 さっき敵が凄い勢いで増えていくと自分で言ったばかりなのに、この失態。

 せっかく対策を練ったというのに、そもそも、ここから無事に出られるのだろうか?


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