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第12話「第二次悪魔会談・肩書き」

 俺に肩書きが付く。


 本来ならば肩書きなんて洒落たものが付くのならば、喜ばしい事の筈だ。

 なにせ、世界に名だたる偉人達は、皆、肩書きで名乗るらしい。


 もちろんリリンも肩書きをいくつか持っているようで、普段は『白蒼の竜魔導師』や『鈴令の魔導師』などと名乗り、数々の任務をこなしてきたとか。

 実にカッコいい響きだし、こういうのなら俺も欲しい。


 しかし、現実は甘くない。


 今、俺に授けられようとしている肩書きは、極悪なる悪魔デヴィルなものなのだ。

『無尽灰塵』『再生輪廻』『戦略破綻』『運命掌握』『無敵殲滅』『壊滅竜』。

 この酷い字面の末端に俺を加えようと、只今、二匹の大悪魔が楽しそうに着々と準備をしている。


 つーか、リリンもワルトもマジで楽しそうなんだけど!

 このままじゃ、名実ともに大悪魔の仲間入りしてしまう。

 ここは全力で阻止しなければッ!!



「いやーワルト。俺は特に、肩書きなんて興味なーー」

「ということで、ユニ。今日から君は『魔獣懐柔まじゅうかいじゅう・タヌクルフィン』だ!」


「ちょっと待てッッ!全てがおかしいッッッ!!」



 待て待て待て!

 なんだその肩書きは!?

 いくらなんでも、それはおかしいだろうがッ!?


 まずその、『魔獣懐柔まじゅうかいじゅう』ってのはなんなんだよ。

 俺のどこら辺に魔獣要素があるんだ?ん?

 リリンと違って俺は何も飼っていないぞ?


 だがまあ、それはいい。

 全然良くないけどまだ、いい。


 ……タヌクルフィン。

 ……タヌ、クルフィン。

 ……タヌ(キ)+(ユニ)クルフィン。


 おい!俺の名前に変なもんを混ぜ込むんじゃねぇよッ!!

 今は肩書きを決めようって話だっただろ!誰が改名までしろって言ったよ!?



「ワルト。魔獣懐柔までは百歩譲っていいとしても、タヌクルフィンはねぇだろ!」

「えーでも、ユニはやる気が無さそうだし、適当でいいだろ?」


「よくねぇよ!せっかくだし、ちゃんとしたのを付けてくれよ!!」

「おっけい。それじゃ、ちゃんとした(・・・・・・)のを名付けるとしようか」



 …………あ。


 もしかして俺、ハメられた?

 今更、肩書きなんていらないとか、言える雰囲気じゃ無くなっちゃったんだけど。


 俺は心底失敗したなと思いつつも、助けを求めるためにリリンに視線を向けた。

 リリンは、どこからか取り出した紙に『第一候補・タヌクルフィン』と書き、大きく丸まで付けていらっしゃる。


 ……くっ!味方がいねぇ!!



「くくく、さぁユニの肩書きはどんな風にしようかねぇ。一回聞くだけで忘れられないようなインパクトがある奴が良いね」

「ワルト、お手柔らかに!ここは是非、お手柔らかに頼む!!」


「おっと、名前は大事なんでね、手加減なんてできないさ。そんなわけでアンケートだ。……ユニは、世界を救いたいと思ったことはあるかい?」

「世界を救う?」


「そう、英雄の息子として生まれた力ある存在。それがキミの宿命さ。そんなキミだからこそ、救うか救わないかを選ぶことができる。素直な気持ちを教えてくれよ」



 俺の気持ち……?

 肩書きにタヌキが含まれなければ、なんでもいい……なんてのは大前提として、『世界を救う』か。


 そもそも、俺にそんな力は無いと言いたいところだが、ワルトが聞いているのは実力ではなく精神論の話だ。

 だったら俺の気持ちは決まっている。

 俺が世界の役に立つのなら、やれるだけの事はやるさ。



「そんなの当然、救いたいに決まってるだろ?そもそも、俺らの神託ってそんな感じの内容だったし」

「そう言うと思ったよ、ユニ。じゃあ第二問だ。世界を救うためにユニは大切なものを手放さなくちゃならない。それは、手を離したら二度と手に入る事の無い尊いものだ。キミが選んだのは、どっち?」



 世界を救うために、俺の大切なものを手放す?

 つまり、全てが上手くいく最高の未来ではなく、何かしらの不具合が残る選択肢しかないという事か?


 それは……



「それはな、ワルト。俺は自分の大切なものを守ると思う。俺にとって見ず知らずの世界なんてのは大した価値のないもので、そんなもんより、身近な人たちを大切にしたい」

「……おっと、思ってたのよりずっといい答えが返って来たね。背中が痒くなりそうだ!」


「コイツ!真面目に答えた俺が馬鹿だった!」



 ちくしょう!茶化されるんだったら、嘘でも何でも世界を守り通す!とか言っておけばよかったぜ。


 俺が若干の苛立ちを覚えている間にも、ワルトはニコニコとした笑顔で「世界より仲間か。そうかい、そうかい」とご機嫌な様子だ。

 ちなみにリリンは、タヌキに関する言葉と俺の名前で語呂合わせを考えているらしい。


 えー、なになに?『旨味将軍うまみしょうぐん・タヌフカイザー』?

 ……俺要素が見当たらねぇぞ!?絶対にそれにはしねぇよ!!



「よし、決めた。ユニに似合うバッチリな肩書きはこれしかないね」

「……おう。いつでもツッコミを入れられるように、身構えながら聞くぜ」


「ふふ、そんなに期待しているのかい?だったら存分に期待するがいいさ。キミの肩書きは……」

「俺の肩書きは……?」


「『勇将救世ゆうしょうきゅうせい・ユニクルフィン』だ!」

「う…ん?」



 あれ?身構えていた割には、マシな感じなのが来たな。

 どれどれ、一応吟味するか。


 ……『勇将救世ゆうしょうきゅうせい』。

 普通に文字どおりの意味ならば、『勇気ある強き将が、世界を救う』という、実にカッコイイ感じの肩書きだな。

 え?こんな格好よくていいの?

 だってこの肩書き、全然悪魔っぽく無いぞ?

 むしろ、悪魔を打倒しそうな神聖さすら感じるんだけど。



「ワルト、俺が思ってたよりも良い肩書きだった。ありがとう」

「いえいえ、どういたしまして。でも、これだと普通すぎてインパクトに欠けるから、ちょっと変換し直そうか」


「ん?」

「という事で、文字を変換し直して、『有償救世・ユニクルフィン』でよろしく」


「一瞬で酷過ぎる字面になっただとッッ!?」



 おい!これじゃ、世界を救うのに金を請求するみたいじゃねぇか!

 というか、「世界を救いますよ?」とか言いながら、金銭を要求してくるってどう考えても詐欺だろ!!



「ワルト!これじゃ俺が金に汚いみたになっちゃうだろ!」

「えー良いじゃないか。だって僕らは心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)。そもそも、悪人集団として名前を売ってるのに真っ当な肩書きが付く訳ないだろ」


「ぐっ!正論だから、言い返せない……」

「他にも候補くらいはあるよ?『羞恥肉林しゅうちにくりん・ユニクルフィン』とか『忘却恋慕ぼうきゃくれんぼ・ユニクルフィン』とか」


「一応聞くが、意味は?」

「『羞恥肉林』は酒池肉林から来てるね。僕ら可愛い女の子5人組のをはべらすハーレムって意味。『忘却恋慕』はそのまま、昔の女なんか忘れましたー!って意味だよ」


「意味がエグいッッ!!」



 流石は心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)の参謀、ワルトナ・バレンシアさんだ。

 普通の人間の感性だと、ここまで酷い物は中々思いつかないと思う。


 だがな、一つ、ミスがあるぜ?

 俺の知る限り、心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)に可愛い女の子なんていない。……全員、大悪魔だ。



「ほらほらーどうする?僕としては『羞恥肉林』でもいいんだぜー?」

「ダメ、それはお断りする。ユニクは私の!!」



 おっと、ここでリリンが話しに乱入してきた。

 これは起死回生のチャンスかもしれない。


 上手く仲間に引き込んで、再考する流れに話を持って――



「じゃ、リリンはどれが良い?」

「……。タヌクルふ」

「よし!今日から俺の肩書きは『有償救世・ユニクルフィン』だ!よろしくな!」



 ………………ちくしょう。



 **********



「さて、無事にユニの肩書きも決まったし登録も出来た。これで正式に僕ら、心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)の仲間入りを果たしたってわけだ」

「……おう」


「それじゃ、仲間となった記念という意味合いもかねて、僕らの基本装備をキミにプレゼントしよう」

「……?基本装備?」



 俺の肩書きが決まり、リリンによって冒険者カードの書き換えも完了。

 誠に不本意ながら、俺は悪魔の仲間入りを果たしてしまった訳だが、どうやら悪い事ばかりでも無いらしい。


 ワルトは転移の呪文を唱え、テーブルの上に3つの魔道具を召喚した。

 一つ目は、見るからに凶悪な面構えの化物が描かれたバッチ。一応デザインがドラゴンっぽいが、もしかして、これ……ホロビノ……か?

 二つ目は、小型の石板。縦15cm、横5cmの光沢のある緑色が輝かしいが、使い方が分かりません。

 三つ目は、腰に付けるタイプのバックだった。容量的にあまり多くの物は入らなそうだが、こういうのはいくつあってもいい。何も付けていない方の左腰にでも付けよう。



「おや、ユニは驚くのは確定として、リリンまで驚いているのかい?」

「うん。だって、この石板『携帯電魔』だよね?私の持っている奴よりすごく小さい」


「あぁ、それはカミナが開発した新型さ。住所が分かっているリリン以外の仲間には全員配布済み。そんで、一番会う頻度が高い僕が、リリンの分も預かっているよ。ほら、これがキミのだ」



 ワルトは、懐から二代目の石板を取り出し、リリンに差し出した。

 リリンは素直に受け取り、「これ、すごく軽い。これなら、片手に持ちながら移動することも出来る。ありがと、ワルトナ」と礼を言ってから、興味津津に石板をいじくり始めた。


 横目で確認してみたが、石板に文字が浮かび上がり指で触れるとそれに反応して、表示が代わるようだ。

 ふむ、確か携帯電魔って、リリンがレジェリクエ女王と話をしていた道具だよな。


 という事は、この石板はレジェリクエ女王と繋がると言う事か

 ……なんて恐ろしい。



「それじゃ、ザックリ説明しようかね。まずこのバッチだが、お察しのとおり、心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)を示すシンボルだ」

「やっぱりそうなのかよ……」


「しかも、唯のバッチじゃないよ。こうして指でつまんでシンボルを平面に向けて、横のボタンを押す。すると……」



 バシュ!!


 ワルトがバッチを机に向けた瞬間、リリンの前にあった紙から煙が上がった。

 いきなりの事で驚きつつもその紙に目をやると、そこにはくっきりと心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)のシンボルが焼きついていた。



「こんな風に簡単に、犯行声明を残す事が出来る。是非、活用してくれたまえ」

「使い道ないけど!?つーか、普通は犯行なんて隠すもんだろうが」


「そうでもないさ。情報を与えるって事は主導権を握るって事に等しい。僕らは名乗る権利と名乗らない権利を同時に所有することになる訳だからね」



 なるほど……。

 確かに、名乗る時はルールを決めて名乗るようにして、本当に隠したい時は名乗らず知らんぷりを押し通すって事も出来るのか。


 そりゃ、便利かも……って!そもそも犯行をしたらダメだろ!!



「次にこの携帯電魔だが、カミナの改造によって小型化した以外はリリンの所有している物と同じだ。心無き魔人達の統括者(アンハートデヴィル)に連絡を取りたい時に使ってくれ」

「あぁ、これも使い道なさそうだな」


「そんな事言わずに、僕には電話を掛けてくれよ」



 誰が好き好んで、大悪魔と連絡を取りたがると言うのか。

 前回リリンが掛けた時なんて、電話の裏方で侵略会議が行われていたからな。

 知らない方が幸せな事もある。



「そんで最後だが、これは僕から純粋にプレゼント。ユニは異次元ポケット持ってないだろ?このバックは僕が作成した異次元ポケットに繋がっている。容量はあまり多く無いけどお金とか入れておくといいかも」

「え!?まじで!!そんな便利なもんくれるのか?」


「そうそう、これは僕の気持ちだよ。キミとは末永く付き合いたいからね」



 ワルトは、そう言いながらバッチと携帯電魔をバックに入れて渡してきた。


 え……ホントに良いのか?

 だってこの異次元ポケットの魔法って、実はもの凄く難しいとシフィーから聞いたことがある。


 なんでも、異次元空間に物をしまいこむまでは比較的容易にできるんだそうだが、その後、いつでも取り出せるように維持するのが相当に難しいらしい。

 だから普通は、倉庫などの床に異次元ポケットの魔法陣を書き、定期的に魔力を補充する様な形でしか運用できない。


 なのでリリンが当たり前のように異次元空間から水筒を取り出した時は、シフィーは軽く気絶しそうになっていた。

 ロイもその有用性に気が付いたらしく、必死になってこの魔法の練習をしていたが、スペアの剣が3本行方不明になった所で諦めている。


 リリンからも取得は困難と言われていたし、諦めかけていたんだがこんなバックが存在するなんてな。

 ……ワルト様、万歳!!



「これで、金銭の心配をする必要性が無くなったな。俺の稼いだお金も、持ち運べない分はリリンに預けていたし」

「よかったね、ユニク。こういう小道具が有ると無いとじゃ利便性がまるで違う」

「喜んで貰えたようでなにより。それでさ、この魔道具の練習もかねて、一つレクリエーションをしよう」


「「レクリエーション?」」



 ん?ワルトが変な事を言いだしたぞ?


 レクリエーション。

 仕事で疲れを取るための遊戯的な催しの事だ。


 ……だが、忘れてはならない。

 この提案をしてきているのは、心無き大悪魔なのだ。

 油断すると、安らかに眠る事になるかもしれない。永遠に。



「レクリエーションて言ったって何をするんだ?この部屋の中じゃ大したこと出来ないだろ?」

「そうだね。鬼ごっこがいいかな」


「……狭い!明らかに室内でやるような奴じゃねぇ!」

「だれも、この部屋だけでやるなんて言って無いよ。使う範囲はこの『大書院ヒストリア』の10~15階層。広大な面積を使った『魔導鬼ごっこ』だ」



 ……魔導鬼ごっこ?

 なんですか、その、鬼の上位互換見たいな奴は?


 俺が一人困惑している中、ランランと目を輝かせている大悪魔な二人を見る限り、ロクでもない事であるのは間違いなさそうだ。


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